3-days love story.

田丸哲二

文字の大きさ
18 / 29
第一章・イースター(復活祭)

地獄の使者

しおりを挟む
 数十分前[19:00]に教会の鐘が鳴り、金髪の天使は空から路地裏を歩く若者が教会裏の垣根を越えて裏口から侵入し、パトロール中のパトカーがメイン通りを通り過ぎるのを偵察し、教会の屋根に舞い降りて十字架の横に立ち、マリアと賢士が教会へ現れるのを待った。

『メインキャストは揃った』

 警察は昨日のカフェの事故で目撃された不審者を警戒し、青葉台と藤が丘付近をパトカーで巡回していたが、時の流れは殺戮者の味方をしている。

 ヤンキースのキャップにグレーのパーカーを着た若者は教会の薄暗い通路から小部屋に入り、背中のリュックを棚に置き、時限爆弾にコードを接続して時刻を設定し、無差別テロの準備を始めた。

 藤倉秀太はマリアがカフェで死んだショックで、腐った神を信じる偽善者たちを地獄に堕として自分も死ぬつもりだった。

 マリアのストーカーになり、老夫婦を脅かして事故を引き起こす原因を作ったが、全ての責任はマリアとの恋を引き裂いた神父と宗教にあると転嫁した。

 メイン通りを裸足で走って来たマリアが教会の門の前で立ち止まり、身を整えて参列者と一緒に教会へ入り、賢士は離れていたが着実にこっちへ迫っている。

『時間通りですね』

 天使は左腕のクラシックウォッチ・ブレゲを覗き見て微笑み、屋根の上から沈み込むように建物の中へ消えた。
 
 マリアは玄関ホールの扉が開き、聖堂から聴こえるオルガン演奏と賛美歌に心を震わせ、参列者をすり抜けて身廊を進み、歌っている東南アジア系の子供達を眺めてステージへ上がる。

『美しいハーモニーが私を天国へと誘う』

 祭壇の前に献花台があり、マリアはひつぎの前に立って丁寧に頭を下げ、大勢の参列者が祈りを捧げ、白い花をお供えするのに感謝を述べた。

『忙し中、ありがとうございます』

 壇上では神父が聖書を朗読して神に祈りを捧げ、藤倉秀太は聖堂脇の司祭館に忍び込み、リュックからナイフを取り出して扉の小窓から聖堂を覗き込む。

 その一部始終を金髪の天使は天窓のステンドグラスの下の柱の梁に立って見下ろし、賢士の登場が僅かに遅れていると不安になり、『急がないと救えませんよ』と呟くと、扉が開いて聖堂に光が差し込んだ。

「マリア」

 賢士は出入り口からステージを見上げてマリアの名を呼び、両手に持った靴を掲げて前へ突き進み、マリアも『ケンジ』と呟いて視線を向けたが、参列者と神父は賢士を止めようとした。

「君、神聖な場所ですよ」
「静かにしなさい」
「そこに上がってはいけません」
「忘れ物を届けに来たんだ」

 賢士は席を飛び越えてステージへ駆け上がり、マリアに近寄り両手の靴を見せて微笑みかける。

『こ、困ります。さよならと言いましたよね』
「でも、僕は別れを告げてない』

 小窓から覗く藤倉秀太も喪服を着た者が一人芝居を始めたと驚き、壇上の神父が聖書を閉じてその男に近寄るのを静観した。

「何ですか君は?祭壇から降りなさい」
「神父さま、三分の猶予をください」
『お父様、許してあげて。この人は私の友だち。いえ、それ以上の存在なのです』

 賢士は神父がマリアの父と知り、丁寧に礼をしてマリアに向き直り、ヒザマズいて騎士のように靴を差し出す。

「マリアさんに靴を履かせたら去ります。神聖な場所でお嬢様が裸足ではいけません」

 神父は賢士の真摯な態度と言動に戸惑い、十字架の首飾りに触れて天を仰ぐと、天井に微かな発光を感じて神かと驚嘆したが、すぐに現実へ引き戻す者が神父の背後から登場し、首にナイフを突き付けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...