3-days love story.

田丸哲二

文字の大きさ
20 / 29
第一章・イースター(復活祭)

十字架キッス

しおりを挟む
 教会の扉と窓から炎と噴煙が湧き上がり、聖堂内の視界は閉ざされて、球体のシールドの周辺に献花台の白い花、蝋燭、十字架、破片物が灰色の煙の渦に浮いて緩やかに流れている。

 賢士とマリアは折り重なって床に倒れ込み、下のマリアが仰向けで両手を広げ、上の賢士はうつ伏せで両手を合わせて握り合い、二人の唇が密着して上から見ると綺麗に十字架の形になっていた。

『偶然とはいえ、素晴らしい』

 天窓のステンドグラスから射す淡い光が時空のゾーンに重なる二人を照らし、天使は天井の柱の梁から身を乗り出して感嘆の声を上げ、賢士と唇を密着した状態のマリアも上を見て唖然とした。

『天使だ……』

 賢士の顔が少し斜めって僅かに視界が開け、体をずらしてもっと見ようと試みるが、賢士は気絶した状態でマリアも身動きができない。

『これって、十字架キッス?』

 マリアは賢士とのファーストキスがこれかと呆れ、目を動かして周辺を見渡し、灰色の壁に包まれた異次元に入ったのかと思った。

『騒音も風圧もシャットアウトされている。なんなのよ?』と目をパチクリさせて上に視線を戻すと、天井の天使と目が合い頭の中に声が聴こえた。

『見事に復活の試練を乗り越えたな?』
『これは……なんなのですか?』
『時の壁に守られているのさ』

 マリアも声に出して喋ってはないが、心の声が天使に伝わっていると感じた。幽霊なので天使が見えて話せても不思議ではないが、状況的に全てが信じ難い。

『貴方は天使ですよね?』
『そう呼ばれているが、人間は美化し過ぎているからな。とにかく君らは賞賛に値する成果を出した。天使しか入れない時のゾーンにいる』
『教会にいた人々は無事なのですか?それにケンジは大丈夫なの?』
『時は止まっている。気にするな』

 マリアは天使の返答で、父も合唱団の子供達も参列者も助かり、賢士はこの恥ずかしい状態を知らないと捉え、これが最初で最後かもしれないと、唇に神経を集中させてキスの甘い感触を味わった。

 この時、金髪の天使が『人間は美化し過ぎている』と言ったように、聖堂内が惨状になっている事をマリアは想像すらしてない。

 爆発の瞬間に時は止まったが、灰色の煙の下には吹き飛ばされて血を流す人々がいて、子供達と外へ逃げた者は助かったが、神父はステージ近くに倒れ込み、祭壇と棺はバラバラに破壊され、床に横たわる聖母子像へ千切れた藤倉の手が伸びていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...