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獣王国ベスティア
旅立つものと帰る家
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パリィン、という音が家に響く。
食器の破片が床に散乱し、落とした犯人が回収しようとかがみこむ。
「こらー!また食器割ったにゃ!?あぁもう、素手で破片に触らない!箒持ってくるからじっとしてて」
怒りで逆立った尻尾をため息を吐きながらしなしなと下ろしながら声の主は家の外に出ていった。
そうして、箒を取って帰ってきた家主はしょうがなさそうに、愚痴を溢しながら箒で破片を掃いていく。
「獣王の生活が長過ぎて家事すら出来ないのどうにかしたほうがいいとは言ったけど……そろそろ皿が無くなるにゃ……はぁ」
「すまぬ、ネロ。出来るだけ早く出来るようになるから……」
「それより引き継ぎは良いの?ママ」
獣王をヴァガルに引き継いだアグリナはネロが暮らしていた家へと住まいを移した。
大通りから遠く、ヴァガルやネロ、ヴリトラはそのまま獣王宮に住めば良いと伝えたのだが「前の王が居座るのは良くない」とだけ言い残し去ってしまった。
元々荷物などはほぼ無く、アグリナが出ていくだけで引越しが完了したためそれほど大掛かりな作業はなかった。
「問題ない。それにヴリトラがいるのならば問題など起こりはしないだろう」
「それは、そうにゃんだけどーそんなに急いで来なくても良かったんじゃないかなーって」
箒を掃きながら椅子に座るアグリナにネロは視線を移す。
実はアグリナが獣王から退いたことによる弊害も少なからずあった。
反乱軍の暴徒化、聖獣が荒野と化した土地の利用に対する意見の波、などなど。さらに、ジークが架け橋となりギルド誘致の話すら出始めベスティアはかなり慌ただしい。
が、そんな事はどうでも良く。
ネロが言わんとしている事は別の事で。
(早く来すぎにゃ!こっちの心の準備が出来る前にふらっと来てー!もう少し時間を)
夢にまでみた母との暮らし。だが、それ故に緊張やら恥ずかしさやらが混ざり合って、素っ気ない態度になってしまうのを自覚しているネロは人見知りの猫のようにちびちびと近寄ることしかできなかった。
そんなネロにアグリナは椅子から立ち上がり、ゆっくりと抱きしめる。
尻尾も全てネロを包み優しく耳元であやすように囁く。
「私だって寂しかったんだ。獣王としてお前と接し、突き離した。それに責務も果たしてこうやってしがらみもなく抱けるなどどれほど望んだことか」
ネロはアグリナから恥ずかしさのあまり離れようとするが、それをガッチリと九つの尻尾が離さない。
「こんなに寂しがり屋だっかなぁ」と思いつつ諦めてネロもアグリナを抱きしめるのであった。
「ふぅ、堪能した。そういえば他の者達はどうした?」
顔が艶々になったアグリナはネロの家に下宿しているジーク達の姿が見当たらないことについて尋ねた。
「ジークは闘技場にゃ。エクリスと勝負するんだー!って」
◇◇◇
「ジーク、君と戦うのは二回目だね。今回は真剣勝負、僕の全力を受け止めてくれ」
「あぁ、来い!」
闘技場は熱狂に溢れ、英雄達の演舞に酔いしれる。歓声も様々、応援、闘志、野次。全てが混ざり聞き取ることすらおぼつかないほどに闘技場が一つの楽器のように震え音を発していく。
「やっぱり、強いな!」
「当然!力だけが全てじゃないさ!こんな風にねっ」
ジークもエクリスも奥の手は出さずに準備運動のように切り結ぶ。
ジークの素直な剣筋を滑らすように剣の腹で受け流しカウンターを決めるエクリス。
「なんのっ」
しかし、ジークも受け流されていることに気がつきその勢いのまま体を回転させ蹴りを入れてエクリスを下がらせる。
ジークに蹴られたエクリスは後ろに大きく吹っ飛ぶ。だが、それはジークが強く蹴ったからではなくエクリスが後ろに飛んでダメージを最小限に留めたからだ。
「さて、そろそろ本気でやろう。さぁジークもアレを出しなよ」
「そうだな、炎剣!」
ジークが剣に炎を纏わせるのと同時、エクリスも巨大な狼へと姿を変える。
だが、それだけでは無い。エクリスの持つ剣すらもが巨大化し始めた。
「さぁ、第二ラウンドだ。ジーク!」
◇◇◇
「レイラとライラも闘技場で観戦してるはずにゃ。グレイはロクスタと一緒にどこか行ったにゃ」
ネロがアグリナにそう言った瞬間、家の玄関が開き、グレイが中に入ってきた。
隣にはロクスタもいるが目の下にクマを作りかなりやつれている。
『ロクスタが倒れたから連れてきた。ネロ、手伝って?』
「全く、研究馬鹿はこれだから……こっちにゃ」
ネロはロクスタを空いているベッドに寝かせ窓を開けて空気の通りを良くした後元の場所に戻る。既に割れた食器の破片は全て取ったので箒は置いてきた。
『やっぱり一緒には来ないの?』
ジークの観戦に向かう為ネロの家から出たグレイはネロに振り返って聞く。
「うん……今はまだ色々大変そうだし」
『そっか』
そう、ジークがエクリスと戦おうとしているのも、グレイがロクスタと色々実験していたのも全てはグレイ達の旅立ちが近いから。
スタンピードの原因やその解決と経緯を報告に行かなくてはならない。
更に、グレイの心境の変化も相待って旅立ちの日程が決まったのだ。
走っていくグレイの背中を米粒になるくらいまで見届けたネロは家の中へと戻っていった。
食器の破片が床に散乱し、落とした犯人が回収しようとかがみこむ。
「こらー!また食器割ったにゃ!?あぁもう、素手で破片に触らない!箒持ってくるからじっとしてて」
怒りで逆立った尻尾をため息を吐きながらしなしなと下ろしながら声の主は家の外に出ていった。
そうして、箒を取って帰ってきた家主はしょうがなさそうに、愚痴を溢しながら箒で破片を掃いていく。
「獣王の生活が長過ぎて家事すら出来ないのどうにかしたほうがいいとは言ったけど……そろそろ皿が無くなるにゃ……はぁ」
「すまぬ、ネロ。出来るだけ早く出来るようになるから……」
「それより引き継ぎは良いの?ママ」
獣王をヴァガルに引き継いだアグリナはネロが暮らしていた家へと住まいを移した。
大通りから遠く、ヴァガルやネロ、ヴリトラはそのまま獣王宮に住めば良いと伝えたのだが「前の王が居座るのは良くない」とだけ言い残し去ってしまった。
元々荷物などはほぼ無く、アグリナが出ていくだけで引越しが完了したためそれほど大掛かりな作業はなかった。
「問題ない。それにヴリトラがいるのならば問題など起こりはしないだろう」
「それは、そうにゃんだけどーそんなに急いで来なくても良かったんじゃないかなーって」
箒を掃きながら椅子に座るアグリナにネロは視線を移す。
実はアグリナが獣王から退いたことによる弊害も少なからずあった。
反乱軍の暴徒化、聖獣が荒野と化した土地の利用に対する意見の波、などなど。さらに、ジークが架け橋となりギルド誘致の話すら出始めベスティアはかなり慌ただしい。
が、そんな事はどうでも良く。
ネロが言わんとしている事は別の事で。
(早く来すぎにゃ!こっちの心の準備が出来る前にふらっと来てー!もう少し時間を)
夢にまでみた母との暮らし。だが、それ故に緊張やら恥ずかしさやらが混ざり合って、素っ気ない態度になってしまうのを自覚しているネロは人見知りの猫のようにちびちびと近寄ることしかできなかった。
そんなネロにアグリナは椅子から立ち上がり、ゆっくりと抱きしめる。
尻尾も全てネロを包み優しく耳元であやすように囁く。
「私だって寂しかったんだ。獣王としてお前と接し、突き離した。それに責務も果たしてこうやってしがらみもなく抱けるなどどれほど望んだことか」
ネロはアグリナから恥ずかしさのあまり離れようとするが、それをガッチリと九つの尻尾が離さない。
「こんなに寂しがり屋だっかなぁ」と思いつつ諦めてネロもアグリナを抱きしめるのであった。
「ふぅ、堪能した。そういえば他の者達はどうした?」
顔が艶々になったアグリナはネロの家に下宿しているジーク達の姿が見当たらないことについて尋ねた。
「ジークは闘技場にゃ。エクリスと勝負するんだー!って」
◇◇◇
「ジーク、君と戦うのは二回目だね。今回は真剣勝負、僕の全力を受け止めてくれ」
「あぁ、来い!」
闘技場は熱狂に溢れ、英雄達の演舞に酔いしれる。歓声も様々、応援、闘志、野次。全てが混ざり聞き取ることすらおぼつかないほどに闘技場が一つの楽器のように震え音を発していく。
「やっぱり、強いな!」
「当然!力だけが全てじゃないさ!こんな風にねっ」
ジークもエクリスも奥の手は出さずに準備運動のように切り結ぶ。
ジークの素直な剣筋を滑らすように剣の腹で受け流しカウンターを決めるエクリス。
「なんのっ」
しかし、ジークも受け流されていることに気がつきその勢いのまま体を回転させ蹴りを入れてエクリスを下がらせる。
ジークに蹴られたエクリスは後ろに大きく吹っ飛ぶ。だが、それはジークが強く蹴ったからではなくエクリスが後ろに飛んでダメージを最小限に留めたからだ。
「さて、そろそろ本気でやろう。さぁジークもアレを出しなよ」
「そうだな、炎剣!」
ジークが剣に炎を纏わせるのと同時、エクリスも巨大な狼へと姿を変える。
だが、それだけでは無い。エクリスの持つ剣すらもが巨大化し始めた。
「さぁ、第二ラウンドだ。ジーク!」
◇◇◇
「レイラとライラも闘技場で観戦してるはずにゃ。グレイはロクスタと一緒にどこか行ったにゃ」
ネロがアグリナにそう言った瞬間、家の玄関が開き、グレイが中に入ってきた。
隣にはロクスタもいるが目の下にクマを作りかなりやつれている。
『ロクスタが倒れたから連れてきた。ネロ、手伝って?』
「全く、研究馬鹿はこれだから……こっちにゃ」
ネロはロクスタを空いているベッドに寝かせ窓を開けて空気の通りを良くした後元の場所に戻る。既に割れた食器の破片は全て取ったので箒は置いてきた。
『やっぱり一緒には来ないの?』
ジークの観戦に向かう為ネロの家から出たグレイはネロに振り返って聞く。
「うん……今はまだ色々大変そうだし」
『そっか』
そう、ジークがエクリスと戦おうとしているのも、グレイがロクスタと色々実験していたのも全てはグレイ達の旅立ちが近いから。
スタンピードの原因やその解決と経緯を報告に行かなくてはならない。
更に、グレイの心境の変化も相待って旅立ちの日程が決まったのだ。
走っていくグレイの背中を米粒になるくらいまで見届けたネロは家の中へと戻っていった。
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