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前編
しおりを挟む「君とは暮らしていけない。確かに高貴な身分と賢さを併せ持つ君はとても素晴らしい。そして何より美しさも持っているが……君と暮らしていると息が詰まるんだ。家に帰ってもずっと緊張してしまい、ろくにゆっくりすることもできない。だから離婚して欲しいんだ」
夫はそう言いながらわざとらしく肩をすくめて掌を上に向け「やれやれ」と言っていた。
親同士が決めた結婚をしてから3年の月日が流れたが、どうにもこの人を馬鹿にするような態度を取る癖は治らなかった。私が教育して治るものでもないけれど、せめて今後生きていくためにもその癖は治せばよかったのに。
私は夫と向かい合うようにビロードのソファに座りながら、ゆっくりと紅茶を飲んだ。覚悟が決まっていると心は穏やかな海のように揺らめくことすらない。一年前の私は夫が許せなくて泣いて怒って、今が人生のどん底だと思い悔しくて悔しくて歯を食いしばっていた。でも復讐してやると決めたあの日からずっとこの日を待っていたんだ。
へらへらとする夫の顔を見れば情を思い出して、
「おい、まさか離婚したくないとごねるんじゃないよな? 今更君に泣きつかれたところで僕も困るんだよね」
「いいえ、その離婚の申し出お受けいたしますわ」
「本当か!」
私がにっこりしながら離婚申し出を素直に受け取ると夫はもう子供のようにはしゃいでいた。馬鹿な人、こんなにはしゃいでいたら誰だっておかしいって気づくでしょ。
「そういえば裁判所と教会、どちらを先に済ませるのかしら?」
「は? 何を言っているんだ。教会で誓いの文書を神の炎で消し去るんだから裁判所は行かなくていいだろ」
「あら? 浮気をしていることを黙って神前に行こうとしていたの? 駄目じゃない。ちゃんと罪を告白して償わないと」
わかりやすいぐらい夫は額から脂汗を滲ませている。今はもう冬で先ほどまでパチパチと音を鳴らす燃え上がる暖炉に手を当てながら暖をとっていた人だとは思えないわ。なんでこうわかりやすい人なのかしら。
「なな何を言ってるんだ!」
「子爵令嬢と浮気していたじゃない。しかも彼女には夫がいるのよね、呆れ返ったわよ私」
「フンッ……何を言っているかと思えば与太話をしているだけか。彼女は僕と幼馴染で小さい頃から過ごしてきた……まぁ妹みたいなものだ。確かに頻繁に会っているかもしれないが、それだけで浮気だと思うのか?」
「そう、そう言い切るの? 子爵令嬢は公爵様とご婚約されたの知っているわよね? これが何を言っているかわからないほどあなた馬鹿じゃないでしょ?」
「何言っているかわからないな! 僕たちはただ昔話をしていただけだよ。全く君がそうやって疑うから彼女も辛い思いをしているんだ。恥を知れ恥を! とにかく離婚の準備をしろよ、お前に財産は渡さないからな」
勢いよく立つと夫はモノに当たり散らしながら、最後には勢いよくドアを閉めた。
「ごめんよライラ待っていたか?」
「ダン! あぁダン、会いたかったわ。あの怖ーい奥様はお屋敷にまだいらっしゃるの?」
「あぁ、とりあえずこっちの別邸には僕の使用人しかいないからバレるはずないから安心をしなさい。あぁ可愛いライラ、君と結ばれたかったよ」
「ダン私もよ。でもこうやって逢瀬ができることで私たち繋がれるから幸せよね。あぁダンとの子供が欲しいな。公爵様とはうまくやってみせるから、私たちの子供アイツの金で育てさせましょう」
「だがライラがあんな男に抱かれるなんて僕耐えられないよ」
「大丈夫よ体を触らせるの一回だけにするし、その一回さえ乗り越えられれば私の体も心も全てダンのものだよ。あの伯爵家のミナとダンが婚約した時は胸が張り裂けそうになったけど、やっと結ばれるね私たちすごく嬉しい!」
「僕もだよライラ。何とか離婚の手続きでアイツが全て悪いということにできたらもっといいんだけどな、あいつ浮気を疑っているんだよ君と僕の」
「浮気じゃなくて本気だもん!」
「ははっそうだね、僕も本気だよライラ。でも今後離婚が成立するまではアイツも何かしらしてくるかも知れないから気をつけるんだよ。しばらく会えなくなる分思いっきり今日は愛し合おうな」
「はーい!」
はぁ別邸のアイツの寝室に穴開けておいて良かったわ。
おかげで全部丸聞こえ、この人たちアイツの使用人の前に私伯爵家の使用人だってことを忘れているのかしら。確かに金で黙らせることもできる人もいるでしょうけど、さらに高い金を出されたらそういう人ってすぐ喋っちゃうのよね。金で得た信頼は簡単に金で買えちゃうのよ。
何でこんな離婚の話をした当日から夜中出ていけるのかしら。バレるでしょ普通、というか別邸だからバレないって発想がおかしいのよ。こんな深夜に出ていく貴族なんてだいたい怪しいところに行っているのが定説でしょ。
「なーにが気をつけろよなの。何でアイツら最後にお楽しみだけしようとするのかしら……だから浮気もすぐバレるのよね。バレるかバレないかの駆け引き楽しむのは賢い人間にしかできないっての。あ、公爵様お聞きになられます? あ、子爵様もどうぞ。まぁそこにいても聞こえるほどの大声ですけどね彼らは」
小声で私がボソボソと言った時、公爵様は怒りで顔を真っ赤にさせ震えていた。子爵様は呆然としており、御夫人は床に座り込んで嗚咽を漏らしていた。ライラの嬌声が聞こえるたびに3人の顔色や態度が変わって行くのは、自分としては少し罪悪感は感じた。でも旦那様があの時素直に浮気を認めて謝罪すればこのようなことにはならなかったのだ。
「あの部屋に入ってもいいのか」
「どうぞ公爵様のご自由に」
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