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第20話 血に染まる決意
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戦場に走る冷気は、凍り付くような緊張を孕んでいた。セレナ・ノクティアは迷うことなく六冊の魔導書を宙に浮かべ、銀髪をなびかせながら冷徹に呟く。
「虚無詠唱」
異界から引き寄せられた虚無の魔力が奔流となり、エリシアの腹部を直撃した。
――ドシュウッ!
「っ……あああああっ!」
衝撃でエリシアの体は宙を舞い、無惨にも地面に叩きつけられる。鮮血が迸り、大地を赤に染めていく。石畳に滴る血は止めどなく流れ、戦場全体に生々しい鉄臭さを撒き散らした。
「死んだわね」
感情の欠片もない冷酷な声。背後でダグラもまた、口角を吊り上げていた。そこには同胞が殺されることを待ち望むような、歪んだ愉悦の笑み。
だが――。
「……まだ、終わって……ない……」
血まみれの体を引きずるように、エリシアは立ち上がった。黄金の髪は血で濡れ、蒼の瞳にはなお強靭な光が宿っている。その姿に、セレナの瞳がわずかに揺らぐ。
「ほう……面白い。なら、他の系統も試してみましょう」
セレナの周囲を回る魔導書が一斉に輝き、炎・氷・雷・風・闇・重力が次々と姿を現す。無慈悲な学者のように、セレナはそれらをエリシアへと叩き込んだ。
――ゴウッ! バキィィン! ズシィン!
怒涛の魔術が襲いかかり、剣で必死に受け止めるエリシアの姿は、すでに満身創痍だった。呼吸は荒く、膝は震え、肩で息をしながらも、なお一歩も退かない。
「どうしたの? その程度で私を止められるとでも?」
セレナの声は嘲弄に満ち、彼女の指先から次々と異なる属性の魔力が放たれる。防戦一方のエリシアは押し流されながらも、決して剣を手放さなかった。
孤独な戦場でただ一人、血に塗れながら立ち続けるその姿は、観客も味方もいないからこそ際立っていた。誰も見ていない絶望の渦中で、それでも倒れぬ意志。その光は、自分自身の心を支える最後の灯火だった。
「……私は……負けない……!」
その叫びは自らを奮い立たせると同時に、静まり返った戦場に轟いた。
――その刹那。
虚無の奔流をかわしたエリシアの剣が、鋭い閃光となってセレナの意表を突いた。白刃が彼女の頬をかすめ、赤い滴が地に落ちる。
「……っ!」
セレナの瞳に冷たい理性が揺らぎ、わずかに焦りが走った。一歩間違えれば、身体ごと真っ二つにされていた――その事実が重くのしかかる。
「クク……油断したな、セレナ」
背後でダグラが嘲笑する。その声はセレナの誇りを刺し、胸の奥に不快な棘を残した。セレナはわずかに眉をひそめたが、上司を前に言い返すことはせず、ただ無言で怒りを飲み込んだ。
六冊の魔導書が激しく脈動し、魔力の奔流が一段と凶暴さを増す。余裕の表情は消え去り、冷徹な学者の顔に激情が宿った。
「実験は終わり。今度こそ消し飛ばしてあげる!」
放たれた一撃に、エリシアの体は吹き飛ばされ、うつ伏せのまま地面に沈む。荒い息を漏らすことすらできず、血に濡れた大地に倒れ込んでいた。
セレナはゆっくりと歩み寄り、エリシアの細い身体を足先で仰向けに転がす。銀色の髪が揺れ、冷酷な微笑みを浮かべながら腰のナイフを抜き放った。
刃先がエリシアの首元へと突きつけられる。
「この首……ずっと欲しかったのよ。魔王オルギウス様も、きっとお喜びになるでしょうね」
その言葉は氷のように冷たく、首筋に押し当てられた刃は、エリシアの命が風前の灯火であることを残酷に告げていた。
――しかし、その瞬間。
鋭い斬撃がセレナの背中に走った。鮮血が飛び散り、セレナは呻き声を上げてよろめく。致命傷こそ避けたものの、背中に深い切り傷が刻まれていた。
「……誰だ!」
振り返ったセレナの視線の先には、剣を構えたレオンが立っていた。その瞳は怒りに燃え、エリシアを守るために迷いなく刃を振るったのだ。
「エリシアを……誰にも殺させはしない!」
レオンの背後には、彼の仲間たちが次々と駆けつける。さらに、カリナが姿を現し、その後には逃げ去ったはずのセラフィーナたちも合流していた。
絶望的だった戦場に、再び希望の光が差し込もうとしていた。
「虚無詠唱」
異界から引き寄せられた虚無の魔力が奔流となり、エリシアの腹部を直撃した。
――ドシュウッ!
「っ……あああああっ!」
衝撃でエリシアの体は宙を舞い、無惨にも地面に叩きつけられる。鮮血が迸り、大地を赤に染めていく。石畳に滴る血は止めどなく流れ、戦場全体に生々しい鉄臭さを撒き散らした。
「死んだわね」
感情の欠片もない冷酷な声。背後でダグラもまた、口角を吊り上げていた。そこには同胞が殺されることを待ち望むような、歪んだ愉悦の笑み。
だが――。
「……まだ、終わって……ない……」
血まみれの体を引きずるように、エリシアは立ち上がった。黄金の髪は血で濡れ、蒼の瞳にはなお強靭な光が宿っている。その姿に、セレナの瞳がわずかに揺らぐ。
「ほう……面白い。なら、他の系統も試してみましょう」
セレナの周囲を回る魔導書が一斉に輝き、炎・氷・雷・風・闇・重力が次々と姿を現す。無慈悲な学者のように、セレナはそれらをエリシアへと叩き込んだ。
――ゴウッ! バキィィン! ズシィン!
怒涛の魔術が襲いかかり、剣で必死に受け止めるエリシアの姿は、すでに満身創痍だった。呼吸は荒く、膝は震え、肩で息をしながらも、なお一歩も退かない。
「どうしたの? その程度で私を止められるとでも?」
セレナの声は嘲弄に満ち、彼女の指先から次々と異なる属性の魔力が放たれる。防戦一方のエリシアは押し流されながらも、決して剣を手放さなかった。
孤独な戦場でただ一人、血に塗れながら立ち続けるその姿は、観客も味方もいないからこそ際立っていた。誰も見ていない絶望の渦中で、それでも倒れぬ意志。その光は、自分自身の心を支える最後の灯火だった。
「……私は……負けない……!」
その叫びは自らを奮い立たせると同時に、静まり返った戦場に轟いた。
――その刹那。
虚無の奔流をかわしたエリシアの剣が、鋭い閃光となってセレナの意表を突いた。白刃が彼女の頬をかすめ、赤い滴が地に落ちる。
「……っ!」
セレナの瞳に冷たい理性が揺らぎ、わずかに焦りが走った。一歩間違えれば、身体ごと真っ二つにされていた――その事実が重くのしかかる。
「クク……油断したな、セレナ」
背後でダグラが嘲笑する。その声はセレナの誇りを刺し、胸の奥に不快な棘を残した。セレナはわずかに眉をひそめたが、上司を前に言い返すことはせず、ただ無言で怒りを飲み込んだ。
六冊の魔導書が激しく脈動し、魔力の奔流が一段と凶暴さを増す。余裕の表情は消え去り、冷徹な学者の顔に激情が宿った。
「実験は終わり。今度こそ消し飛ばしてあげる!」
放たれた一撃に、エリシアの体は吹き飛ばされ、うつ伏せのまま地面に沈む。荒い息を漏らすことすらできず、血に濡れた大地に倒れ込んでいた。
セレナはゆっくりと歩み寄り、エリシアの細い身体を足先で仰向けに転がす。銀色の髪が揺れ、冷酷な微笑みを浮かべながら腰のナイフを抜き放った。
刃先がエリシアの首元へと突きつけられる。
「この首……ずっと欲しかったのよ。魔王オルギウス様も、きっとお喜びになるでしょうね」
その言葉は氷のように冷たく、首筋に押し当てられた刃は、エリシアの命が風前の灯火であることを残酷に告げていた。
――しかし、その瞬間。
鋭い斬撃がセレナの背中に走った。鮮血が飛び散り、セレナは呻き声を上げてよろめく。致命傷こそ避けたものの、背中に深い切り傷が刻まれていた。
「……誰だ!」
振り返ったセレナの視線の先には、剣を構えたレオンが立っていた。その瞳は怒りに燃え、エリシアを守るために迷いなく刃を振るったのだ。
「エリシアを……誰にも殺させはしない!」
レオンの背後には、彼の仲間たちが次々と駆けつける。さらに、カリナが姿を現し、その後には逃げ去ったはずのセラフィーナたちも合流していた。
絶望的だった戦場に、再び希望の光が差し込もうとしていた。
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