青年の主張

かよ太

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01(完)

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..01


照明が絞られた賑やかな店内。時刻はすでに夜の11時を回っている。大学のゼミで開かれたコンパの勢いはここにきて、衰えるどころかいよいよ増していた。

「ほらほら、野崎(のざき)くんってば。まだまだいけるでしょう~?」
毎回のことで驚かされるが、このゼミでは俺たち男どもより女子の方が酒に強く、とくに俺の酒の摂取量は彼女たちに煽りに煽られてすでに限界を達していた。

目が回りかけてきたので、これはいけないと店員に手洗いの場所を聞いて奥へ逃げる。

「おっと、すまねえな」
ふらつく足取りでドアを開けると奥からでてきた男性とぶつかってしまった。

謝られてこちらも、と見上げた瞬間、……時が止まった。男性……いや、その男も面食らったのも束の間、俺をみるとにやりと人が悪そうな笑みを浮かべた。

「よう、元気だったか」
心臓が跳ね上がる衝撃が俺を襲うと、立て続けに全身がふるえだしてきた。
酒の酔いなんて醒めるほどに、水を浴びたような、そう、全身の血の気が引くとはこのことをいうのだと知る。

「おいおい、知らんぷりかよ。久しぶりに会った同級生だろ」
こいつも相当の量を呑んでいるのか、ほろ酔い顔を近づけられて、とっさに視線が合わないよう背けた。

「なあ、一志(かずし)もしかして非道い事されたいのか。あの時みたいに」
あの時みたいに。
フラッシュバックが起こりそうになるのを必死で抑え、はやくこの場を逃げようとする。

「昭之(あきゆき)、その人だあれ」
連れらしき人物が俺の前に立ちふさがり、じろじろと見てくる。
こいつが絡まれているのかと心配しているのがよくわかる不躾な視線だった。むしろこっちが絡まれているのに。

「悪いな。これから久しぶりにこいつと呑むわ」
「な……っ」
冗談じゃない。どうして勝手に決めるんだ。

「そうなの」
「ああ、中高一緒だったからな」
「……ふうん、……幹事に言っておくから」
俺たちの横を通り過ぎながら、お土産と言わんばかりにギロリと憎しみを込められて睨まれてしまう。昭之は、もてる。中学でも高校でも彼女が切れなかったことはなかった。

「お前んちどこ。泊めろよ」
「お前が泊る場所なんてない。集まりがあるならそっちを優先しろよ」
「俺が優先するものはお前が一番よく知っているはずだが」
昭之の優先順位。それは「自分が今したいこと」それが行動原理だった。俺の精一杯の強がりもすごまれて一瞬にして消えてしまった。



..02


今現在、俺は昔に過ごした町を逃げるように離れ、大学の近くのアパートを借りて一人暮らしをしていた……。

「う、やめ……い、痛……ッ」
「痛いだろうな、痛くしてるからな!」
「……っ! やめ、ろっ……あきゆきっ!」

抑えきれない声は隣の住人に聞こえているかもしれない。部屋に上がったとたん、裸に剥かれると用意もなしに突っ込まれていた。

性格の違う俺たちがどうしてこんな関係になったのかは、中学の修学旅行からだった。二泊三日の二泊目に、いきなり俺の布団に入ってきて昭之はする事を済ませていった。

何がなんだかわからなかった。話したことなんて片手でも足りるような仲だった。俺が昭之を怒らせるようなことをしたのかと思い巡らせてみても全く思い出せない。

声を上げようとしたとき「黙れ」と耳元でささやかれた瞬間、動けなくなった。その一言が怖かった。絶対に誰か起きると思っていたのに、旅の疲れのせいなのかほかの奴らは爆睡していて誰一人起きなかった。

朝になるとだるくて痛くて動かすのもつらい身体を、ほかのメンバーが心配し養護員さんの部屋までつれていってくれた。そのときに見たあいつの不気味な笑顔は今でも思い出せる。

冗談じゃない、なんで今更再会なんてしなくちゃいけないんだ!

「ここだったよな、おまえの一番イイ処は……!」
「んん……、……っ、っ、んんっ!」

床に俯せにされて後ろから攻め立てられていた。太股に、つ……と何かが伝う気配がする。おそらく血だ。
俺たちの通っていた学校は中高一貫だった。この理解のできない行為は高校に入っても続いた。誰にも言えず、いっそ誰かに見られてバレてしまえば楽なのにと何度思ったかわからなかった。

こいつだって、いつもそう意地悪く言っていた……「見られたらどうする」と。

「俺は、卒業のときに連絡先を教えろと言ったよな」
確かに言われた。俺は逃げることしか考えていなくて、こっちの大学にいくと決めていた。一生会うつもりはなかったのだ。

「痛い! ぐ……んんっ」
「探したんだぞ」
パンッと俺のケツをいらだたしげに叩く。

「いっ、やめ……ッ! あ痛っあきゆきっ!」
「聞いてるのかよ、このド淫乱」
「うう……は、もう……イヤだ……イヤなんだよ!」
「少しはしおらしくなったかと思ったが、変わってねえな」
「あっ、いっ……」
乳首を抓るために覆いかぶさり、より一層昭之が深く中に入ってきた。全身が粟だって、理性を吹き飛ばす。

「あー…、だめだっていってるだろっ、もう……っ、ああっあっああん……いいっ、」
「いいぜ、堕ちろよ。中に出してやる」
「あっ、ん、はやくしろっ、……っ、そこ突けよっ、…あ、いく……ああっく、んん……っ!」
これでもかと身体を揺すぶられて、昔の暗い記憶が痛みと快感で解放されていく。

「うっ、ん……あ、いくっ、」
「ほらいけよっ」
「いい……っいいよっ、あ、ああ……っあああっ!」
おまえの事なんて忘れたかったのに……。

「おい、まだだぜ?」
肩で息をする俺に、にやりと笑う。
初めての頃のような酷い抱き方をされても、どうしようもない感情を振り払うことができなかった。



..03


とっかえひっかえとはいえ、彼女がきちんといたあいつとの関係は、正真正銘のセフレだった。
いや、……友達でもない。
あれはあいつの大人になっていく遊びでしかなかった。そう、遊びに使われる道具が俺だったのだ。

あの再会から一週間。
あの日、俺はそのまま眠りについた昭之をおいて痛む身体を叱咤しながら家を飛び出した。朝焼けが目に沁みるころ、まだ居るだろうかと怯えながら部屋に戻るとそこには誰もいなかった。

あいつとの接点なんて同じ学校のクラスメイトだっただけだ。あいつの学校以外の生活なんて何一つ知らなかったし、知りたくもなかった。そして、それはあいつも同じだった。あいつも俺のことは何も知らない。聞かれてもいないし、俺は何も言わなかった。だから、自然消滅という言葉が一番しっくりくるのだろうと。

(俺はそう思っていたから、あいつもそうなのかと思っていた)

群れない孤高の獣を思わせるような、自由奔放な昭之を羨ましいとさえ思っていた時期もあった。しかし、そんなのはすぐさま消えた。あいつに対してそんな好感なんて絶対にもてることなど出来ないと。

……むしろ、利用だ。
最後に誰かを部屋にあげたのはいつだっただろうか。
大学も最終生になり、ゼミの教授以外とは誰とも接点がなくなった、そんな空虚な日々。

カラスが上空を群れて羽ばたいていった。
卒論の参考資料をバッグにひっさげて帰る。木々がざわめいて肌寒い風が吹き抜ける。

「遅えーよ」
玄関で昭之が煙草をくゆらせていた。

「何しに来たんだ」
「遊びに?」
なにが遊びに?だ。ふざけるのももう、たくさんだ。

「帰れよ」
立ち上がった昭之を押し退けて部屋に入ろうとする。

「寒かったんだぜ。入れろよ、かずし」
「別に俺じゃなくたって、この間の娘だって」
「俺は、探したと言っただろうが」
離れて思い出さない日など幾日もあったのに。会ってしまえば、こうなることがわかっていたのだろうか。

あの時、何も告げずに別れたのは。
互いを必要以上に知ろうとしなかったのは、それだけだったからだ。お互いを背負うなんてそんなの重すぎるから。ただ、感情に流されていればよかったから。

「俺にはおまえが必要だ」
今まで一言も言ったことのない昭之のセリフを聞き流しながら、俺はヤツを無言で家の中に招き入れていた。








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