デリヘル頼んだら会社の後輩(根暗)が来た

御堂どーな

文字の大きさ
16 / 42
4章 オレだけにしてくれ

4-4

しおりを挟む

 とりあえず乾杯。ビールグラスをコツンと当て、一気に3分の1を飲む。

「…………ぷは。正月の朝からビール。最高」
「いい飲みっぷりですね」
「あー、そういうの言えばいいんだよ。飲み会で」
「……大勢のお酒の席は、俺にはレベル高すぎます」

 しょんぼりした子犬みたいな顔で、ちまちまとジョッキに口をつけている。

「オレが言うのもなんだけど、お前、よく就職できたな。ウチ、倍率200倍だぞ?」
「まぐれです。親戚が祭りになりました」
「へええ? そりゃ、親御さん喜ぶだろうけどさ。でも正直、オレが採用担当だったら落とすわ。最初の面接誰だった?」
朝倉あさくらさんですね」

 あー、総務のアラサー女だ。
 美人だが、研修のときめちゃくちゃしごかれて、出社拒否したくなった。
 ……というのはさすがに言えないので、口には出さない。

「でもまあ、結果的に朝倉さんは大当たりを引いたわけだな。篠山は、コミュ力は壊滅的だけど、仕事は速いし正確だし。頼りにしてる」
「うれしいです」

 照れをごまかすようにビールに口をつけるのが可愛くて、絶望した。
 そんなことが口から出かかるのを、ビールをあおって言葉ごと飲み込む。

「安西さんは、どう思いますか。その、後輩が、こういう私生活送ってるの」
「んー? まあ、会社バレしたときのリスクが一番心配かな。社会的に死ぬぞ」
「いつかはバレますかね?」
「デリヘルではないけど、副業が確定申告でバレて爆死した奴が、何人かいる」

 丸っこい瞳が、大きく開かれる。

「給料手渡しなんですけど、それでもまずいですか?」
「はああ? いやそれ、バレるバレない以前の問題じゃね? その店、ヤバいだろ。経営めちゃくちゃなんじゃねえの?」

「ダミー会社を作っているらしいので、お金の流れに不審な点は生まれないし、キャストに行政から調査が入ることはないと説明を受けて、一応納得してます」

「いやいやいや。それはヤバいって。摘発されたら従業員モロとも一発アウト。てかそんな経営の仕方、絶対カタギじゃねえぞ」

 話を逸らしたつもりが、完全に説教に変わる。

「副業の申告漏れは、身を滅ぼすぞ。税務署にバレたら追徴課税がエグいし、かといってまじめに確定申告したら、会社にバレる。手渡しならオッケーって問題じゃない。もったいねえ。せっかく200倍の就職戦線くぐり抜けて、ウチに入ったのに」

 まくしたて、ビールを一気にあおる。
 空になったグラスをドンッと置くと、篠山は神妙な顔つきで、机に目線を落としていた。

「……楽しく働けて、いいと思ったんですけど」
「なんでそんなにデリヘルにこだわるんだ? 金に困ってとかじゃなくて、ただセックスが好きなだけで仕事してるんなら、恋人とか作ればいいだろ」

 勢いで言ってしまった。
 しかし篠山はその意味には気づかないようで、困ったように首をかしげながら言った。

「それは、……ただセックスするのと、付き合うのは、踏む手順が違いすぎる、といいますか……」

 なんとも返答に困る切り返し。
 答えあぐねていたところで、食べものが届いた。
 篠山が、慣れた手つきでサラダを取り分けながら、ぼそぼそとつぶやく。

「これは、付き合ったことない人間の理想ですけど……もし恋人ができたら、すぐ同棲したいし、毎日エッチしたいです。すごい甘やかしたいし甘えたいし、でも、そんなの好きな人に言うとか、無理で」
「え……? まじ?」

 思わず固まった。
 いや? それは、オレの理想の具眼化では?
 オレもすぐ同棲したいし毎日したいしすごいイチャイチャしたい。
 けど、ゲイバーで話したときに、『それは重すぎる』『その理想は捨てないと、一生彼氏できないよ』等々散々言われ、そういうもんかと思っていた。

「……って、会社の先輩相手に何言ってるんですかね。すみません」

 篠山は苦笑いしながら、取り分けた皿のひとつをこちらに寄せる。
 ついでに渡されたフォークを受け取りながら、オレも微妙な笑いで返した。

「いや……びっくりした。すげー分かる。オレもそう。イチャイチャしたいの、こじらせすぎてて」
「えっ? そうなんですか? なんか、意外です」

 ちょっとうれしそうに目を丸くする篠山の顔を眺めながら、重大なことに気づいた。
 さっきこいつ、何て言った?

 ――でも、そんなの好きな人に言うとか、無理で。

 やたらヘルシーな和食御膳と、チーズハンバーグが運ばれてきた。
 そこからどんな風に話したのかは、よく覚えていない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城
BL
マジメな元体育会系Subの旗手元気(はたて・げんき、二十代公務員)は、プチ社畜。 日曜日、夕方近くに起き出して、その日初めての食事を買いに出たところで、いきなり「おすわり」の声。 身体が勝手に反応して思わずその場でKneelする旗手だったが、なんと。そのcommandは、よその家のイヌに対してのモノだった。 犬の飼い主は、美少年な中学生。旗手は成り行きで、少年から「ごほうび」のささみジャーキーまで貰ってしまう始末。 え、ちょっと待って。オレってこれからどうなっちゃうの?! な物語。 本を読まない図書館職員と本が大好きな中学生男子。勘違いな出会いとそれからの話。 完結後の投稿です。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...