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食べたいものをなんでも、と言われたので、学生さんの懐事情を考えて、安いファミレスにした。
本人もまだ完全に元気になったわけじゃないだろうし、ギトギトした居酒屋メニューよりはいいだろう。
「大槻礼央って言います。品川大の3年です」
「和久井昌也です。26。広告代理店で働いてます」
「広告……」
ぽつっとつぶやいて、じっとこちらを見ている。
「大槻くん、品大だなんて、頭良いんだね」
「いえ、そんなことないです」
伏し目がちに、ふるふると首を横に振る。
「学部は?」
「政経です」
「へえ。将来有望な人材だなあ。うちにインターンに来てほしいくらいだよ、とか言って。あはは」
軽く談笑しているうちに、食事がそろった。
普段は家で自炊か、同僚や友達と居酒屋なので、ファミレス飯なんて久しぶりだ。
目の前の物静かな大槻くんは、ハンバーグを目の前に、ほんの少しうれしそうに見えた。
「ハンバーグ好きなの?」
「はい。それに、誰かとご飯とかも滅多にないんで……ちょっとテンション上がっちゃってて、すいません」
全然テンション高くは見えないけれど、本人なりによろこんでいるなら、素直におごられて良かったなと思った。
食事をしながらけっこうお互いの話をした。
大槻くんは茨城出身で、大学進学を機に東京へ来たらしい。
あまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃなくて、表情が顔に出ないタイプだから、誤解も受けやすく悩んでいる、と。
「別に、愛想よくしてる人間がえらいってわけでもないし、ありのままでいい気がするよ。みんなが見てないって思ってても、神様はちゃんと見てるから……って、おっと」
思わず口が滑った。
この手の話は他人にすると、スピリチュアルだ何だと笑われたりするので、あまりしないことにしている。
それに、自分の心のなかで思っていればいいことなので、わざわざ説教くさく言うことでもない。
でも大槻くんは、大きな瞳をぱっと開いて、俺の顔をじっと見ていた。
「神様は、見てる?」
「ん? うん、そう。誰も見てないことでも、まじめにやってれば、神様は空からいつも見てるよねっていう……何言ってるんだって感じだよね? あはは、ごめん、忘れて」
顔の前でぱたぱたと手を振ったら、大槻くんが、ちょっと笑った。
「……いや、たぶん、見てたんですよ。だから、名前も知らないあなたをあてもなく待ち伏せして、ちゃんとお礼が言えた」
控えめだけど、無垢な笑顔。もっと笑っていればいいのにと思った。
「大槻くん、笑った顔、とってもいいよ。せっかくイケメンなんだからさ。無理して笑えとは言わないけど、じっとしてるなんてもったいない」
何の気はなしに言ったら、彼は、目をまんまるくして固まっていた。
「あの……和久井さんって、いつもそんな感じで明るいんですか? 親切だったり」
「んー? まあ、愛想がいいとはよく言われるかなあ。親切かっていうのは……性格が親切な人間っていうよりは、困ってる人が目に入ったときに、見て見ぬ振りしてあとで自分が後悔してくよくよするのが嫌だなっていう、自己満な部分が多いかも」
正直に言ってみたら、彼は、まじめな顔でこくこくとうなずいた。
「オレ、助けてくれたのが和久井さんで、本当よかったです」
「うれしいこと言ってくれるんだね」
「いや……本当にそう思ってるんで」
そう言って頬を赤らめる。本当に、普段他人と関わっていないんだろうなと思った。
「あの、無理を承知でお願いがあるんですけど」
「ん? 何?」
「よければ、うち来ませんか。もっと話したい……です」
顔を見れば分かる。めちゃくちゃ緊張して言ったに違いない。
ここはためらいなく乗ったほうがいいかなと思った。
「うん、いいよ。学生さんと話すなんて、滅多にないし。いい機会だから」
大槻くんは、ぱっと表情を明るくして、ぺこっと頭を下げた。
本人もまだ完全に元気になったわけじゃないだろうし、ギトギトした居酒屋メニューよりはいいだろう。
「大槻礼央って言います。品川大の3年です」
「和久井昌也です。26。広告代理店で働いてます」
「広告……」
ぽつっとつぶやいて、じっとこちらを見ている。
「大槻くん、品大だなんて、頭良いんだね」
「いえ、そんなことないです」
伏し目がちに、ふるふると首を横に振る。
「学部は?」
「政経です」
「へえ。将来有望な人材だなあ。うちにインターンに来てほしいくらいだよ、とか言って。あはは」
軽く談笑しているうちに、食事がそろった。
普段は家で自炊か、同僚や友達と居酒屋なので、ファミレス飯なんて久しぶりだ。
目の前の物静かな大槻くんは、ハンバーグを目の前に、ほんの少しうれしそうに見えた。
「ハンバーグ好きなの?」
「はい。それに、誰かとご飯とかも滅多にないんで……ちょっとテンション上がっちゃってて、すいません」
全然テンション高くは見えないけれど、本人なりによろこんでいるなら、素直におごられて良かったなと思った。
食事をしながらけっこうお互いの話をした。
大槻くんは茨城出身で、大学進学を機に東京へ来たらしい。
あまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃなくて、表情が顔に出ないタイプだから、誤解も受けやすく悩んでいる、と。
「別に、愛想よくしてる人間がえらいってわけでもないし、ありのままでいい気がするよ。みんなが見てないって思ってても、神様はちゃんと見てるから……って、おっと」
思わず口が滑った。
この手の話は他人にすると、スピリチュアルだ何だと笑われたりするので、あまりしないことにしている。
それに、自分の心のなかで思っていればいいことなので、わざわざ説教くさく言うことでもない。
でも大槻くんは、大きな瞳をぱっと開いて、俺の顔をじっと見ていた。
「神様は、見てる?」
「ん? うん、そう。誰も見てないことでも、まじめにやってれば、神様は空からいつも見てるよねっていう……何言ってるんだって感じだよね? あはは、ごめん、忘れて」
顔の前でぱたぱたと手を振ったら、大槻くんが、ちょっと笑った。
「……いや、たぶん、見てたんですよ。だから、名前も知らないあなたをあてもなく待ち伏せして、ちゃんとお礼が言えた」
控えめだけど、無垢な笑顔。もっと笑っていればいいのにと思った。
「大槻くん、笑った顔、とってもいいよ。せっかくイケメンなんだからさ。無理して笑えとは言わないけど、じっとしてるなんてもったいない」
何の気はなしに言ったら、彼は、目をまんまるくして固まっていた。
「あの……和久井さんって、いつもそんな感じで明るいんですか? 親切だったり」
「んー? まあ、愛想がいいとはよく言われるかなあ。親切かっていうのは……性格が親切な人間っていうよりは、困ってる人が目に入ったときに、見て見ぬ振りしてあとで自分が後悔してくよくよするのが嫌だなっていう、自己満な部分が多いかも」
正直に言ってみたら、彼は、まじめな顔でこくこくとうなずいた。
「オレ、助けてくれたのが和久井さんで、本当よかったです」
「うれしいこと言ってくれるんだね」
「いや……本当にそう思ってるんで」
そう言って頬を赤らめる。本当に、普段他人と関わっていないんだろうなと思った。
「あの、無理を承知でお願いがあるんですけど」
「ん? 何?」
「よければ、うち来ませんか。もっと話したい……です」
顔を見れば分かる。めちゃくちゃ緊張して言ったに違いない。
ここはためらいなく乗ったほうがいいかなと思った。
「うん、いいよ。学生さんと話すなんて、滅多にないし。いい機会だから」
大槻くんは、ぱっと表情を明るくして、ぺこっと頭を下げた。
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