言霊は返る

御堂どーな

文字の大きさ
2 / 6

2

しおりを挟む
 食べたいものをなんでも、と言われたので、学生さんの懐事情を考えて、安いファミレスにした。
 本人もまだ完全に元気になったわけじゃないだろうし、ギトギトした居酒屋メニューよりはいいだろう。

大槻礼央おおつきれおって言います。品川大の3年です」
和久井昌也わくいまさやです。26。広告代理店で働いてます」
「広告……」
 ぽつっとつぶやいて、じっとこちらを見ている。

「大槻くん、品大だなんて、頭良いんだね」
「いえ、そんなことないです」
 伏し目がちに、ふるふると首を横に振る。
「学部は?」
「政経です」
「へえ。将来有望な人材だなあ。うちにインターンに来てほしいくらいだよ、とか言って。あはは」

 軽く談笑しているうちに、食事がそろった。
 普段は家で自炊か、同僚や友達と居酒屋なので、ファミレス飯なんて久しぶりだ。
 目の前の物静かな大槻くんは、ハンバーグを目の前に、ほんの少しうれしそうに見えた。

「ハンバーグ好きなの?」
「はい。それに、誰かとご飯とかも滅多にないんで……ちょっとテンション上がっちゃってて、すいません」
 全然テンション高くは見えないけれど、本人なりによろこんでいるなら、素直におごられて良かったなと思った。



 食事をしながらけっこうお互いの話をした。
 大槻くんは茨城出身で、大学進学を機に東京へ来たらしい。
 あまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃなくて、表情が顔に出ないタイプだから、誤解も受けやすく悩んでいる、と。

「別に、愛想よくしてる人間がえらいってわけでもないし、ありのままでいい気がするよ。みんなが見てないって思ってても、神様はちゃんと見てるから……って、おっと」

 思わず口が滑った。
 この手の話は他人にすると、スピリチュアルだ何だと笑われたりするので、あまりしないことにしている。
 それに、自分の心のなかで思っていればいいことなので、わざわざ説教くさく言うことでもない。

 でも大槻くんは、大きな瞳をぱっと開いて、俺の顔をじっと見ていた。
「神様は、見てる?」

「ん? うん、そう。誰も見てないことでも、まじめにやってれば、神様は空からいつも見てるよねっていう……何言ってるんだって感じだよね? あはは、ごめん、忘れて」

 顔の前でぱたぱたと手を振ったら、大槻くんが、ちょっと笑った。
「……いや、たぶん、見てたんですよ。だから、名前も知らないあなたをあてもなく待ち伏せして、ちゃんとお礼が言えた」
 控えめだけど、無垢な笑顔。もっと笑っていればいいのにと思った。

「大槻くん、笑った顔、とってもいいよ。せっかくイケメンなんだからさ。無理して笑えとは言わないけど、じっとしてるなんてもったいない」
 何の気はなしに言ったら、彼は、目をまんまるくして固まっていた。

「あの……和久井さんって、いつもそんな感じで明るいんですか? 親切だったり」

「んー? まあ、愛想がいいとはよく言われるかなあ。親切かっていうのは……性格が親切な人間っていうよりは、困ってる人が目に入ったときに、見て見ぬ振りしてあとで自分が後悔してくよくよするのが嫌だなっていう、自己満な部分が多いかも」

 正直に言ってみたら、彼は、まじめな顔でこくこくとうなずいた。
「オレ、助けてくれたのが和久井さんで、本当よかったです」
「うれしいこと言ってくれるんだね」
「いや……本当にそう思ってるんで」
 そう言って頬を赤らめる。本当に、普段他人と関わっていないんだろうなと思った。

「あの、無理を承知でお願いがあるんですけど」
「ん? 何?」
「よければ、うち来ませんか。もっと話したい……です」
 顔を見れば分かる。めちゃくちゃ緊張して言ったに違いない。
 ここはためらいなく乗ったほうがいいかなと思った。
「うん、いいよ。学生さんと話すなんて、滅多にないし。いい機会だから」

 大槻くんは、ぱっと表情を明るくして、ぺこっと頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

さよなら、永遠の友達

万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。 卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。 10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...