言霊は返る

御堂どーな

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
 崩れるようにベッドに倒れ込んだ礼央に、声をかける。
「大丈夫? 乱暴にしちゃった」
「……ん、平気」
 目はうつろで、でも、確かに俺を探しているようだった。

「ここだよ」
 隣に寝転び、そっと手を握ると、ようやく焦点が合ったらしい茶色い瞳と視線を合わせた。
 不安そうに揺れている。
 俺は握った手に少し力を込めた。

「好きだよ、礼央。可愛いから好き。好きっていっぱい伝えてくれたから好き。それにね」
 ちょっと体を寄せ、額に口づける。

「俺の本性を見抜いてくれたから好きだよ。自分でも気づかなかった。責任感にとらわれて、相手の欲しそうなことを選んでたなんて。でも言われてみれば納得」

 礼央が、背中に手を回してきた。

「責任感っていうのは、昌也さんの優しさで、作り物の親切とかじゃないと思います。でも、自分のことは二の次みたいなのじゃなくて、もっと自分本位でも……オレに対しては素でいてくれたらいいのにって、思いました」

 ふいに、両親の葬儀を思い出した。
 ざんざん降りの雨の中、出棺する霊柩車を眺めながら、『悲しくならなくちゃ』と思った。
 本当は全然実感もなくて、気持ちを持て余していたのに、死んだ親のためにも、来てくれたひとたちのためにも、悲しんで泣かなくちゃと思っていたのだ。

 その日から俺は、『正しいこと』だけをしようとしてきたのかも知れない。

「礼央、好きだよ。俺のそばにいてくれますか?」
「はい、います」
「いっぱい甘えていいよ」
「じゃあ、昌也さんも、わがまま言ったり、嫌なことはちゃんと自分の言葉で拒否したりしてください」

 面食らってしまった。
 相手を傷つけないように……ではなく、自分の心に正直な言葉マイナスなことを言う勇気を持てと、多分礼央が言いたいのはそういうことだろうなと思った。

 礼央は、子犬みたいに顔をすりつけながら、ぽつぽつと言った。

「疲れちゃったら、オレにわがまま言ってくださいね。昌也さん、きっとたくさんのひとに慕われてるだろうなって思うから。期待に応えるの、大変そう」

 俺は、クスッと笑って言った。
「じゃあ、わがままで甘えちゃおうかな」
 はーっと長く息を吐きながら、許可も取らずに礼央の体を抱きしめる。
 自分本位にキスをして、好き勝手になでたり、返事も聞かずに何度も好きだと言ってみたり。

「ん……、これ、わがままなんですか?」
「そう。礼央がどうして欲しいかなんてこれっぽっちも考えないで、自分がしたいことをしてるだけ」
 礼央は、少し口をとがらせた。
「でも結局、俺がして欲しいことばっかりしてくる」
「こうされたかったの?」
「はい。体中いっぱい触って欲しかったです」
「可愛い」

 リラックスしたのか、うつらうつらし始めた礼央に、睡眠の邪魔かなと思いながら、邪魔でもいいやと開き直って、何度もキスをした。

(了)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

さよなら、永遠の友達

万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。 卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。 10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...