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15. 10月13日 ホームズ家のドローイングルーム(居間)

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 十月も半ばになったある日のこと。それは朝食の時間だった。兄さんに書斎に来るように言われた。

 固いパンとスープと豆。ベーコンが出ないことはもう慣れた。いつものように薄い紅茶でお腹を満たす。義姉に恒例と化した小言を言われたけど、わたしは適当に相づちを打つと、書斎へ向かった。

「もう、アリー!」
義姉が後ろから声をかけてくるが、聞かなかったことにした。義姉のお小言より、今は大事なことがある。


 「兄さん、アリーよ。入っていい?」
開いたままの書斎のドア越しに呼びかけた。

「もちろんだ。どうぞ入って」
兄さんはわたしを中に招き入れた。
「アリーに報告がある。ここのところずっと外に出ていたから、時間が取れなかった。悪かったね」と言って、机にある資料をわたしに手渡した。

「これは?」と質問しながら、ぱらぱらと資料をめくる。

「最新の帳簿だよ。見ての通り、ひとまずホームズ商会は倒産することなく、今月も続いている」

わたしは心の底からほっとした。
「うまくいったのね」

「ああ。だが報告はそれだけじゃない。これも見てごらん」

わたしは新たに手渡された資料を見た。新たに受注を受けた取引先のリストだ。わたしは顔を上げて、兄さんを見た。

「アリーにもらったリストを見て、新たな取引先を開拓したんだよ。原料の販売も交渉しているところで、このままいけばうまく決まりそうだ」

「ああ、兄さん」
その先に続く言葉が出てこない。代わりに、わたしは天井から見下ろしている絵画の天使に「ありがと!」と、目線を送った。

「アリーにちょっとしたお礼を用意したんだ。君の知恵と行動力が私たちを救ってくれた。感謝してもしきれないよ」

「感謝ならいつでも受け入れるわよ」と、茶化したわたしは驚いて言葉を失った。
兄さんがすっと一枚のカードを差し出した。デザイナーブランド《EP》のものだった。

「お礼にドレスを、と思ってね。ここのお店で用意してもらえるから」

「もったいないわ。ドレスならいくつか持ってるもの」

「父さんと私は、君にどうしてもお礼をしたいんだよ。ここはアリーのリストにあった店だよ。オリジナルの魔法キャンドルの大口の受注を受けたんだ。だからドレスの一着でも買わなきゃね」

「まあ、ありがとう」
わたしはそう言うのがやっとだった。

わたしの提案がうまく通って、見つけてきたお店から大きな注文が入って、それにドレスまで!

「残念だがヘンリーは帰ってこないだろう。だからアリーの魅力を最大限引き出すドレスで、自分でいいと思う人を探してきなさい」

「そろそろ考えないといけない時期ね」
魔法のドレスで、自由に羽ばたいていければいいのに。
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