婚約破棄された貧乏令嬢は、今日こそモテたい!

ともり

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44. 1月11日 まだまだパーティー

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 ヘンリーはわたしの手を取り、ダンスフロアへといざなう。
 
「アリー、何がどうなってるの?」
 
「わたしが聞きたいくらいよ。あのセレナーデって、一体何者なの?」
 
ヘンリーとわたしは曲に合わせてステップを踏む。
 
「聞いた話では、最近になって社交界に顔を出すようになったらしい。彼女のことは、誰も詳しくは知らないんだ」
 
「テッドと名乗る主催者がこのパーティーは彼女のためだと言っていたわ」
 
「ああ、彼はセレナーデに夢中なんだよ。それで、あの二人を連れてアリーはどうしたの?」
ヘンリーは片方の眉を上げた。
 
「わたしが友達とパーティーにいたら、おかしいかしら?ヘンリーこそ、パーティーは遠慮したいと、昨日言ったばかりじゃない」
 
「前から行くと約束していたんだ。それにしても、今夜のアリーはクールビューティーだね」
ヘンリーの顔がやわらかく変化した。
 
「あら、お嫌い?カミラに借りたのよ」
 
「新鮮でいいね。一緒に踊っただけでも、パーティーに出た意味はあったみたいだ」
 
ごまかされたような気もするが、うっかり頬が緩んでしまう。
「このパーティーにわたしを招待したのはセレナーデなのよ」
 
ヘンリーは目を丸くした。
「知り合いだったの?昨日そんなそぶりはなかったけど」
 
「そんなわけないでしょう?そもそも彼女の名前を知ったのも、このパーティーに来てからよ。今朝、ペニーパークを散歩していたら、彼女に会ったのよ。ヘンリーも来るからいらっしゃいと、言われたの」
 
「セレナーデは一体何を考えているんだろう」
ヘンリーは顔をしかめた。
 
「わからないわ。それにしてもあなたは唯一、この会場でセレナーデに鼻の下を伸ばしていない人だわ。さっきまであなたのことを疑ってたの」
 
「だから言っただろう?僕はアリーだけだって。これで信じてくれた?」
 
「ええ、そうね。ヘンリーってよっぽどわたしのことが好きなのね」
わたしは朗らかに告げた。
 
 
 曲が終わると、ヘンリーとわたしは、ヒューバート王子たちが座っている場所へと戻った。
 
 どうやって持ち運んだのか、室内に噴水が設えてある。その前で、セレナーデは楽しそうに笑っていたかと思うと、優雅な仕草で噴水の淵の上に登り、くるくるとステップを踏んでいる。その姿に会場中が目を奪われている。
 
「彼女、女神みたいね」
わたしは苦々と口にした。
 
「水辺ではしゃぐ人魚みたいだと思ったけどな」
王子はつぶやいた。
 
ルーシーが抗議する。
「もし彼女が人魚だったら、この会場中の紳士は食い殺されてますよ。美しいだけではなく、残忍さが人魚の特性ですからね」
 
「恐ろしいわ」
カミラはぶるぶると震えるそぶりをみせて、絶好の機会とばかりに、王子に擦り寄る。
 
「天真爛漫な美しさは、人魚のようだと例えたつもりだったんだよ。君は人魚に会ったことがあるかい?」
王子はヘンリーに向かって尋ねた。
 
「一度会ったことがあります。人魚のうろこを見つけて、その先を船で進んだら、人魚の入り江がありました。かなり獰猛なやつらですよ」
 
「それは男の人魚だけだと聞いたがな」
 
「王子、正確にはマーマンですわよ」
カミラが訂正する。こういうとき黙っていられない性質なのだ。
 
「男のマーマンより女のマーメイドの方が実際には残忍だと聞いたことがあるわ。クラーク卿、どうなのかしら?」
ルーシーが聞く。
 
「危ない経験をしたの?」
わたしは心配になって尋ねた。
 
 
 ヘンリーは、人魚の入り江で女の人魚に襲われそうになりながらも、なんとか逃げたことを白状した。
 
「船乗りを餌にするんだよ。普通、マーメイドは餌を誘惑して、用済みになってから食べると言われているのは、みんな知っていると思う。あのときは、何匹もの人魚が一斉に牙を見せながら、いきなり襲ってきたんだ」
 
ヘンリーはそのときの恐怖体験を思い出したのだろう。ぶるっと震えた。
 
「そのとき操縦室の窓についた人魚のうろこが博物館に展示されているよ」
 
「ああ、あのうろこね」
それぞれ頷いた。みんな王立博物館の展示を観にいったようだ。
 
「それに、人魚のことなら、殿下の方がお詳しいのでは?」
ヘンリーはヒューバート王子に同意を求めた。
 
「海開きのシーズンはじめに、騎士団と共に王国の周りを船で一周するんだ。海の平和を願う儀式だってことは、みんな知ってるだろう?だけどまあ、それだけではないんだよね。
人魚や危険な魔法海洋生物が人間のエリアに近寄らないように、実はモンスター除けの魔法を散布しているんだ」
 
「そんな事情があったなんて」
カミラが王子に賞賛の眼差しを向けている。
 
「まあ国家秘密というわけではないのだけど、そういう裏事情があるんだよ」
ポーカーフェイスを保とうとしているが、王子の顔はにやけている。
 
わたしは小声でルーシーに言う。
「この話は雑誌に載せちゃだめよ?」
 
「わかっているわよ」
ルーシーは非常に悔しそうな顔をしている。
 
 
 「きゃあ」という悲鳴が、会場に響いた。驚いて声の方を振り返ると、セレナーデが噴水に突き落とされて、びしゃびしゃに濡れていた。
 
突き落とした令嬢は、「まあ、手が滑ってしまったわ。ごめんなさい。大丈夫かしら?」と、わざとらしく甘ったるい声でセレナーデに話しかけている。
王子がさっと席を立ち、その場を収めに行った。めずらしいことだ。セレナーデを狙っているのは間違いない。ルーシーとカミラは興味津々といった様子で、噴水を見つめている。
 
ヘンリーとわたしは、同時にため息をついた。ヘンリーはそっとわたしの手を握る。
 
「ごめんね、アリー。殿下を一人で行かせるわけにもいかないから、一緒に様子を見てくるよ」
 
「気をつけてね」
わたしはささやき返した。
 
 
 ヒューバート王子がセレナーデに手を伸ばし、立たせてやると、セレナーデは王子ではなくヘンリーにしがみつき、「着替えたいわ」と言った。
 
さっきまでセレナーデと一緒にいた主催者のテッドが飛んできた。
「なんてことだ。さあ、部屋まで案内しよう」
 
仕方なしに、ヘンリーはセレナーデをエスコートして、会場を出て行った。
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