あなたの悪魔とわたしの天使

鈴森心桜

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私はだァれ

第四話 ハールートとマールート

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クスクス…クスクス…





笑い声が聞こえた。
二重の笑い声だった。
私は眠っているのか、視界は真っ暗だった。
頬にあたるこの感触は綿か何かだろうか。
とてもふわふわしていて
柔らかく、心地好かった。
このまま身を預けて眠り続けたかったが、
意識はそれを許さなかった。
だんだんと目が開いていき、
ボヤける視界に目をもう一度瞑る。
それを何度も繰り返して、
漸く意識がはっきりとする。
目の前には予想通りふわふわした
白い綿毛のようなものが広がっていた。
私は重たい体をしぶしぶ起き上げ、
辺りを見回したが、周りは白、白、白。
白しかない空間だった。
まるで唯一色のある私が異質のような。

ふと、その白に手を伸ばした。
すると白は触れることが出来た。
つまり此処には壁があると言うことだ。
横にズレていき、ずっと触っていれば
私の体は一周回っていた。
それにより、私は頭の中で整理がついた。

これは、繭だ。

私は、繭の中に閉じ込められている。
思えば私は此処に居る前、
ソルベイトと共に自室で談笑して
彼の心音を子守唄に眠りについた。
そして夢の中でまたあの天使が出てきた。

「…!…"ガブリエル"…。」

あの天使は確かにそう言った。
"ガブリエル"なんて名前、私は聞いたことが無い。
男だろうか、女だろうか。
それすらもわからない。
あの天使にとって、
"ガブリエル"はどんな存在なのだろう。
喉が痛むまで泣いて、喚いて、
「守れなかった」と悔やんで。
それにあの赤い双眼。

自分が何処かに
閉じ込められている状態だと言うのに
気になるのはあの夢のことだけ。
不謹慎と思われるかもしれないが、
何故かその事しか考えられない。





クスクス…クスクス…





また笑い声が聞こえた。
先程と変わらず二重の笑い声。
相違点と言えば、
すぐ近くで聞こえたことだった。
声は女性、または少女のものだった。
甲高い声が段々と声量を荒らげて
耳が痛くなる程響き始める。
不愉快な声に私が自身の耳を塞ごうと
手を伸ばしたところ、
ピシッと何かにヒビが入ったような、
声とは違う音が聞こえた。

すると、繭が崩れた。
その光景はまるで花開くよう。
花の中から生まれたような光景だった。

「"おやおや、繭の花から一番目のお嬢さんが生まれたようだ"。」

「"酷く繊細で可憐な彼女は、この状況にとても驚いているようだ"。」

先刻まで笑っていた声が、言葉を紡ぎ始めた。
声の主を探すと同時に辺りを見回してみるが、
特徴的なものが何も無い、真っ暗な空間だった。
唯一私が居る繭が白く色付いているだけ。
これでは状況判断も出来ないと考え、
私は繭から出ようとした。

「…!?」

しかし繭は痛いくらい私を締め付け、
まるで接着剤でも塗られたかのように
身動きが取れなかった。
何とか抜け出そうと体を動かすが、
動けば動く程飲み込まれていく。
まるで蜘蛛の巣だ。
蜘蛛の粘着な糸が、
獲物を逃がすまいとする光景そのもの。
繭に飲まれれば飲まれる程、
体が締め付けられ苦しい。

「可哀想な小夜啼鳥。囀る声は何処に置いてきた。」

「独りぼっちの小夜啼鳥。羽ばたく翼は何処に置いてきた。」

また声が聞こえた。
今度は囁き歌だった。
歌に出てくる"小夜啼鳥"は屹度私のことだろう。
生憎私は囀る声も、
羽ばたく翼も持ち合わせてはいない。
そんな考えを浮かべながら
苦しみに耐えていると、何かの気配を感じた。
バッと下に下がりかけていた顔を上げ、
気配の感じる場所を見ると其処は真っ暗闇。
けれど間違いなく誰かが居る。
私は目を凝らして其処を睨んだ。

すると、スポットライトがあてられたように
突然其処だけ光に照らされた。
そしてお辞儀をした姿勢で立つ少女。
私が怪訝そうに睨んでいると、
その横にまたしても光がパッと当てられた。
其処にも少女が同じように
お辞儀をした姿勢で立っている。

「僕はハールート。」

「僕はマールート。」

"ハールート"と"マールート"。
そう名乗った彼女達は顔を上げた。
美しいマリンブルーとゴールドの髪に
ワインレッドとヴァイオレットの瞳。
双子だろうか。
その姿はまるで生ける人形のようだった。
彼女達はお互い手を握りながら私に近付いてくる。
その度に彼女達を照らす光も一緒についてくる。
そして、私の目の前で止まったことによって
自然と私も光に照らされた。

「なかなか起きないから、退屈だったわ。退屈は魔女の一番の敵なのよ?」

「だから早く遊びましょう。僕達を退屈にさせないで頂戴。」

「………魔女だと?」

私が言葉を発したのと同時に、
先程まで真っ暗だった一面が光に照らされた。
それにより、辺りが視界に映る。
私達が居たのは一つの部屋だった。
アーガイル柄の入った床に
沢山のマネキンが山のように置かれている。
少し離れたところには扉のようなものがある。
まるで、要らなくなった玩具を
捨て置いたような箱の中。
その中心に私は捕われていたようだ。

「そう、僕達は魔女。高潔な純粋の魔女よ。」

「僕達、君と遊びたかったの。だからみんな此処へ連れてきちゃった。」

魔女には初めて会った。
妖桜館には多種多様なモノが居るが、
"魔女"は居なかった。
魔法を創り出せる私もルシファーも、
"魔女ではない"。
私が今居る場所は
屹度、彼女達の領域テリトリー
魔女は自分の領域を持つことが出来ると
何処かの文書で読んだことがある。
此処は私が居た空間とはまた別の空間。

「…冗談じゃない。なら、他のみんなは何処へやった?」

「隠シちャっタ♪」

「…隠した場所は、流石に教えないか。生憎、私は今探し物に夢中でね、お前達と遊んでいる暇はないんだ。」

私は顔を下に向ける。
そして静かに体に力を込める。

「……だから、隠した私の館の住人、全員返してもらうよ。」

全身に力を込めることで、
体に張り付いた繭を消し去った。
繭を破壊されるとは思っていなかったのか、
双子は驚き、目を見張った。
私は呆然としている双子から
距離をとるべく扉の方へと走る。
双子も直ぐに捕まえようと杖を振るが、
それよりも私の反応の方が早かった。
目に力を込め、
捨て置かれたマネキン達を凝視する。
目の奥が熱くなるのと同時に
マネキン達はひとりでに動きだし、
カタカタと震えながら双子の方へ向かう。
私が仕向けたことだ。
少しばかりマネキンに魔法を流した。
それにより一時的にアレらは
私の操り人形となった。
双子が襲いかかってくるマネキン達を
相手にしている間に、私は扉へと向かう。

「何よコイツら!邪魔しないでよ!!」

「あぁ、折角手に入れた小夜啼鳥がっ!」

後方から何かを叫ぶ声が聞こえるが、
私はお構い無しに
チョコレートのような板柄の扉を開ける。
扉を開けたその先には沢山の植物が
生い茂っている空間があった。
だがそれは、決して美しいとは言えない植物園。
私が足を踏み入れた途端、
植物達はこちらを向き鋭い牙を持つ口を広げてくる。


「……これは、案外時間がかかりそうだな。」
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