あなたの悪魔とわたしの天使

鈴森心桜

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私はだァれ

第十四話 六人

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「っは…!!!」

目を覚ますと、
普段と変わらない自室の天井が見えた。
もう朝を迎えたらしく、
いつも夜は月の見える窓からは、
眩しい陽光が入ってくる。
起き上がり、手のひらで自分の額を触ると、
私は酷く汗をかいていた。
直ぐに濡れタオルで顔を拭き、
夜着を脱いでいつもの服に着替える。
鏡で自分の姿を見ると、
ますます彼女そっくりに思える。
私が彼女に似ているのか、
それとも彼女が私に似ているのか。
何方なのかはまだ分からない。

「…まぁ、彼女がミファロスだと分かったのは一歩前進…か。」

今度会えた時は私のことと、
"ガブリエル"のことを聞いてみよう。
もしかしたら、
そんなに時間はとれないかもしれないけど、
あの短時間の間でとれる情報は
とっておきたい。
そんなことを考えながら
私は食堂へと向かった。



食堂へ向かう途中、
広間から何やら騒がしい音が聞こえた。
また人間共が攻めてきたのか、
それとも起きているであろうルシファーの仕業か。
二択で考えるが、
その音の正体は声のようで、複数聞こえる。
怪訝に思いながら
私は食堂へと向かっていた足を広間へ変えた。
だんだん近付く度に
大きくなる声を聞きながら、
私の足も自然と速くなった。
何故なら、広間から聞こえる声は
聞き慣れた声だったから。
私は少しだけ震える手を片方で支えながら
恐る恐る扉を開ける。

「あ、遅かったねーミカエル!」

「遅くまで起きていたのか?お前が朝寝坊するなんて珍しいな。」

「おはようミカエル。」

「バルティニュム、今日の朝刊って取ってある?」

「……あと、私の人形…何処にあるか知らない?」

「只今持って参りますガルデン様。レヴェート様、朝食の時に持っていらしたので恐らく食堂ではないでしょうか?確認して参りますね。」

広間には、死んだ筈の六人が居た。
妄想や幻などではなく、
生きた生物として其処に存在していた。
双子のお陰で耐性がついたのだろうか、
私にはそれがハッキリと分かった。
けれど、私の状況を理解する能力は
強くなったりしていない。
これはどういうけとだ。
サノンにソルベイト、
母さんとガルデン、
レヴェート、バルティニュム。
この六人は、あの日に死んだ筈だ。
私とルシファーが棺に入れて祈った。
間違える筈がない。
あれは確かに皆だった。
なのに、これは一体どういうことだろう。
まるで生き返ったみたいだ。
この世界では
死人を生き返らせるのはご法度であり、
そもそも、その類の魔法を使える人が居ない。
もし使えるとしたら、
神や天使など上昇の人達だけだろう。

(…なら、これは神の仕業なのか?それとも天使や悪魔の仕業か?)

ふとミファロスの姿が脳裏に浮かんだ。
もしかしたら、と考えたが、
直ぐに彼女の仕業ではないと思った。
彼女は夢に出てくるだけで、現実に
干渉してくるようなことは無さそうだった。
根拠なんて何処にもないが、
そう思ってしまったら選択肢から
外してしまうのが生き物と言うものだ。
何処にも腰を下ろさずに
私が入口で固まっていると、
バルティニュムが声をかけてきた。

「お嬢様、顔色が悪いように見えますが…。何か飲み物などお持ちしましょうか?」

「いや……バルティニュム。今日は何日だ?」

「え?ノウェムの季節の20日目ですけど…。」

どういうことだ。
ノウェムの季節の20日目と言えば
私やルシファーが
双子の領域に巻き込まれる前日だ。
つまり、サノンとソルベイトが
喧嘩をしていて、人間が襲ってきた日。
"昨日"はノウェムの22日目で、
私が起きる筈だった"今日"は23日目だ。
なのに、私は20日目に目を覚ました。
一体何がどうなっているのか、
私が困惑して頭を抱えると、
バルティニュムが心配してくれた。
私の背中にあるその手には、
確かに温もりがあった。
すると突然、誰かに腕を引っ張られた。

「お姉様は昨夜私の話に付き合ってくれたから疲れているの。だからまだ寝かせてあげましょう、私が部屋に連れていくわ。」

「かしこまりました。」

ルシファーだった。
バルティニュムは一礼すると、
私達から去っていく。
ルシファーはそれを最後まで見送ってから、
私を広間の外へと連れ出した。
強引に腕を引きながら
前を歩くルシファーの後ろ姿は、
見慣れている筈なのに何処か違和感がある。

生き返った六人は
自分達が死んだけとを知らない様子だった。
そもそもバルティニュムの言う通りなら、
時間が巻き戻っていることになるので
あの事件が"無かった"ことにされている
と言うことだろう。
ならばルシファーの頭の中に
あの時の記憶もないのではないか。

(…このルシファーは、一体"何方"なんだ。)

あの時のルシファーであるか否か、
今はまだそれすらも分からない。
少しでも状況を理解するまでは
下手に行動は出来ない。
怪しまれて答えを求められても、
私はその答えを言うことは出来ないからだ。

「ルシファー?私、別に寝不足なわけじゃっ…」

「分かってる。あれはただのその場しのぎの嘘に過ぎないわ。」

廊下を歩く最中、
背中に向かって声をかけると、
意外にも声はすんなり返ってきた。
振り返ったルシファーは
まるで何かに怯えるように
優しく私の頬に手を当てた。

「如何したのお姉様。寝不足ではないのだろうけれど、バルティニュムの言う通り、顔色が悪いわ。」

「……別に。ただ、目覚めが悪かっただけだよ。」

じっと見てくるルシファーの
視線から逃れるように
私は目を逸らしながら答えた。
視線が痛い。
何もかも見透かしてしまうような
鋭い視線に私は黙ることしか出来ない。

「………私のこと、疑っているのね。」

「…え。」

突然の発言に、言葉が出なかった。
随分と小さなか細い声だったが、
私の耳は確かに拾った。
ルシファーは私に向けていた鋭い視線を
下にズラすと、目を閉じ黙った。
そして直ぐにフッと笑いを零す。

「試すようなことをしてごめんなさいお姉様。私も不安だったの。でも大丈夫みたい。…私はちゃんと、貴女と生き残ったルシファーよ。」

彼女はそう告げた。
先刻から色々なことがありすぎて
もう頭はパンクしそうだが、
何とか隙間を作ろうと落ち着かせる。
目の前に居るルシファーは
私にあの時間を共有したルシファーだと
告げたが、それが事実であるとは限らない。
もしかしたらこの世界も、
今目の前に立っているルシファーも、
誰かの作った瞞しである可能性は
いくらでもあるのだから。

「……本当に、あの時のルシファーなのか。」

「えぇ。双子魔女と闘って、貴女とバーロンの井戸へ行ったルシファーよ。」

彼女は少しだけ悲しそうな表情をした。
信じても良いのかもしれない。
もし事実だとしたら、
私は妹を信じられない酷い姉だ。
反して、嘘であったら
私はもう誰も信じることが出来ないだろう。
けれど目の前に答えが出されたら
それを信じて疑わないのが生き物の性だ。
ルシファーの目線に立ってみれば、
唯一の姉が自分を信じてくれないことは、
とても悲しく寂しいだろう。
私だったら、
辛くて胸が張り裂けそうになる。
此処で私がルシファーを信じなければ、
彼女はそんな思いをすることになる。
もし、目の前のルシファーが、
ルシファーじゃなくても、
私はその手を取ってしまう。
これは、妹を持つ姉の弱みだ。

「一体、何が起こっているんだ。何か心当たりはあるか?」

「何も。起きたらこうなっていたわ。」

まるで双子の領域での会話と同じだ。
また私達は自分達にも分からないことに
巻き込まれてしまっているのだ。
同じように状況を整理して理解し、
この謎を解くしかないだろう。

「初めはミファロスの仕業かとも思ったが、彼女は現実に干渉してくるような事はしない。不思議とそう思うんだ。」

「…"ミファロス"?それって…。」

「夢でまた会ったんだ。私の夢に現れる彼女は確かにミファロスだった。自分でそう名乗ったよ。」

「…そうだったの。あ、私も夢にあの人が出てきたのよ。ほら、双子の領域で会ったって言ったじゃない?」

そう言えばそんなことを
言っていたかもしれない。
クチナシの部屋で見たと言っていた気がする。
そんなに昔の記憶では無い筈なのに、
何故か場面場面としか覚えていない。
何とか記憶を掘り出して思い出す。

「彼女の名前は"ルシフィア"と言うんですって。改めて見たら本当に私とそっくりだったわ。」

ルシファーの言う
"ルシフィア"と言う女性は、
屹度ミファロスが私に視せたあの映像で、
彼女の隣に居たあの女性で間違いないだろう。
少しずつだが、
私達は真実に近付いてきている。
この調子で行けば、もうあと少しかもしれない。

「ルシ…」

私はルシファーの名前を呼ぼうとした。
そう。呼ぼうとしたのだ。
でもそれは叶わなかった。
左胸に伝う異物感。
白くなる視界。
口から流れ出る何かの液体。
全身に広がる強い痛み。
視線を下に下げれば、
鋭く尖った水晶のようなものが
私の胸に突き刺さっていた。
其処から赤い液体が流れ、私の服を染めていく。
ルシファーは目を見開き顔を青くしていた。
後ろを見やれば割れた窓。
成程。
窓の外から私の胸を狙ったわけだ。
誰の仕業か知らないが、タイミングが悪すぎる。
やっと真実へ近付けたと思ったのに、
それを知ることさえ許さないのか。

人間は、私達有能力者のことを
化け物だなんだと言うが、
同じ生き物には変わりないのだ。
内臓はあるし、食事も睡眠もする。
心臓が弱点なのは同じだ。

嗚呼、死ぬ。

直感でそう思った。
ちっとも怖くないのは何故だろう。
頭の中でよくこんなに冷静に
考える事が出来るな、と自分を嘲笑いたくなる。
だが口を開けば出てくるのは赤い液体だけ。
ルシファーが何かを言っているように
見えたが、もう応える気力もない。
霞む視界の中、
彼女はその大きな瞳から涙を流していた。
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