離婚したαとΩ元夫夫が復縁する話

文字の大きさ
27 / 78
ヤンデレルート

ヤンデレ編1 ※受け視点


 ーー幸せな夢を見ていた。

 つまらない誤解が解けて、愛するものと結ばれるとても幸せな夢。

  夢の中で陽介は俺が思いもしない誤解をしていた。俺が女性と結婚して子供もいるのに、それを隠して陽介と不倫をした挙げ句、セフレ扱いをしていたというのだ。
 その後の話し合いでようやく誤解は解け無事プロポーズを成功させた。
 どこか現実感があって、はっきりと記憶に残る夢だった。



 俺は目を覚ました。感触からすると、どうやらベッドの上らしい。重い瞼をなんとか持ち上げると視界は霞んでいる。

 ベッドに横になった記憶はないが、いつ眠ってしまったのだろうか。
 それにしても頭と体が重い。胃のあたりもムカムカとする。いつの間にか飲み過ぎたのか? ……しかし酒を飲んだ記憶はない。

 寝起きの頭で訝しみながらようやく焦点を合わせる。すると、こちらに背を向けけてベッドの端に腰掛けている陽介の背中が目に入った。

 ーー陽介。

 そう声をかけたつもりだったがくぐもった音が出るだけでうまく言葉にならなかった。口を塞がれていたからだ。どうやらテープのようなもので口元を覆われているらしい。

 それを剥がすために手を持ち上げようとしたが届かない。
 なぜなら腕もガムテープのようなものでぐるぐると後ろ手に拘束されているようで、びくともしなかったからだ。

 ーーいったい、どうなっている?

 俺は混乱した。とりあえず目の前にいる陽介に助けを求めようと、うまく動かせない体をよじらせ身を起こそうと試みる。すると俺の動きに気がついたのか陽介が振り返った。

「ああ、気がついた?」

 スマートフォンを手にした陽介が落ち着いた様子でこちらを振り返り俺に話しかける。

 俺が縛られているのになぜそんなに落ち着いているんだ。
 俺は視線で陽介に助けを求める。

「気分はどう? 気持ち悪くない?」

 こちらの体調を気にかけているがそれどころではない。先に腕の拘束を解いてほしい。

 二人でいるときに押し込み強盗にでも巻き込まれたのか?

 異常な状況に陽介の身が心配になったが、見たところ陽介は危害を加えられた様子はない。俺のように拘束もされてはいないようで、とりあえず安心した。

 それにしてもなぜこんな状況に? 混乱しながらも言葉にならない声で、助けてくれと必死で訴える。

「大丈夫そうだね」

 大丈夫なものか。お前は無事なのか。一体何があった?

 聞きたいことがたくさんあるのに話せないのがもどかしい。陽介はこちらの意図を汲んでくれない。なぜこの異常な状況から助けてくれないのか?

「お腹は痛くない? 思いっきり当てちゃったから。……ああ、少し火傷になってる。ごめんね」

 俺の着ているセーターを捲くり脇腹をみた陽介が言った。
 言われてみたら確かに脇腹のあたりがヒリヒリと痛む。

 ーー当てた? 何を? 陽介が俺に……?

 そう考えたところで思い出した。今日は俺の家で陽介と一緒に食事をする約束だった。

 そして俺は、陽介にプロポーズを計画していた。かつての結婚記念日に陽介が俺のために作ってくれた手料理を再現して、今の気持ちとこれまでの謝罪を伝える。それを陽介が受け入れてくれたのならば彼のサイズに直した、かつて自分が着けていた結婚指輪をプロポーズの言葉とともに渡すつもりだった。

 気障すぎるかとも思ったが陽介なら喜んでくれそうな気がした。

 陽介との約束は夕方の時間だったから午前中に指輪のサイズ直しが終わったと連絡のあった店に品物を取りに行き、その帰りに久しぶりに会った幼馴染と昼食をとった。

 帰宅した後、陽介から予定の時間より遅れると連絡があって俺は料理の下ごしらえをして待っていた。

 しばらくすると陽介がやって来たので部屋に招き入れ、中へ案内しようと背を向けた……ところから記憶が曖昧だった。背後からバチバチというスパーク音のような音がしたような気がする。何かと思って振り返ろうとした瞬間、脇腹の熱さと全身が硬直するような激痛に襲われたのだ。

 突然の衝撃に思わず前のめりになって倒れ込んだところで、首筋に針を刺されたような鋭い痛みが走った。

 ……その後の記憶は全くない。

 部屋に陽介を入れたとき彼は一人だったように思う。では陽介が俺をこうしたということか?

「料理、美味しかったよ。わざわざ作ってくれたんだね、ありがとう。冷めちゃうと悪いから先に頂いたよ」

 状況にそぐわずまるで世間話でもするかのような口調で、陽介は未だ混乱する俺に話しかける。その口元は笑みの形は作っているが目は笑っていないように見えた。

 彼の意図が全くわからない。その表情に空恐ろしいものを感じながらも俺は陽介に訴えかける。

 悪戯にしてはたちが悪すぎる、早く拘束を外してくれないか。

 度を越した悪ふざけに俺は視線に怒りを込めて陽介を睨んだ。

「恐い顔しないでよ。怒ってるの? ……でも修一が悪いんだよ」

 ーー俺が悪い? まさか俺はまた、陽介を傷つけるようなことをしてしまったのか?

 かつての結婚生活を思い出す。

 陽介は仕事ばかりでほとんど家にいない俺を良く思っていなかった。せっかく結婚したのに寂しい、もっと家にいてくれと。

 俺に気を使って直接的には言わなかったが、湾曲的に別の言葉や態度で表し、その気持ちは十分に伝わっていた。

 特にその傾向が顕著だったのは出世を競う同期や先輩、後輩らの中からなんとか頭ひとつ抜け出て、案件を取り仕切る実質的なリーダーを任されたばかりの頃だった。

 やり遂げる自信はあった。弁護士として実績を残す大きなチャンスだったが同時に、それがコケれば事務所で俺は終わりだった。出世の目は消える。何度もチャンスを貰えるほどトップ事務所の出世レースは甘くない。俺程度の能力の人間など後から次々と湧いてくるのだ。

 寂しい思いをさせていることはわかっていたが、その時はどうしても仕事の手を抜きたくなかった。全力でやり遂げたかったのだ。

 その頃の俺は上昇志向や承認欲求に取り憑かれていた。

 俺は『Ω』だ。

 知能もフィジカルもαやβに劣るとされ、優れているのは繁殖能力だけ。社会的にも弱者とされ、周期的に起こる動物のような発情期には両者を惑わす。αと番えばその関係に一生を左右され、抗うことはできない。

 昔から俺は自分がそんな『Ω』であることを認めたくなかった。それに当然、周りの人間にもそれを認めさせたくなかった。だから必死で勉強して、体を鍛えて、いい大学に入って資格を取り、業界トップ事務所の就職試験をくぐり抜けて馬車馬のように働いた。

 法曹業界は良くも悪くもそれなりの教育を受けたエリート集団だ。モラルやコンプライアンスに反するような差別的な言動はしない。だがわかるのだ。彼らは意識的にしろ無意識的にしろ『Ω』は弱者で、庇護するべき存在で、αやβより劣るものであると位置付けている。特にバース性がαの者はその傾向が顕著だ。

 その選民思想を覆してやりたかった。少なくとも俺は他のΩとは違う、お前らと変わらない、普通の男なんだと認めさせてやりたかった。

 そうして陽介との時間を犠牲にして、結果彼を傷つけた。

感想 8

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。