離婚したαとΩ元夫夫が復縁する話

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ヤンデレルート

2−10


「お前の旦那、迎えに来てるぞ」

「……ああ」

 午後8時過ぎ、外回りから戻った室賀がちょうどアシスタントと話を終えオフィスに戻ろうとしていた修一に声をかけた。
 その歓迎できない知らせの内容に、思わず暗い声が出てしまった。

 ーーもう迎えはいらないと言っておいたのに。

 室賀の言葉を聞いて胃のあたりがツキンと痛んだが、感じないふりをした。
 昨日の受診で中足骨の骨折は完治し、もう受診の必要はないと言われていた。また痛みが出るようなら受診してください、とだけ担当医から言われていた。
 だからこれからの通勤、帰宅は今まで通り一人で大丈夫だと陽介に伝えた。
 にも関わらず陽介は送り迎えは苦ではないから続けたいと主張していたが修一はそれをキッパリと断ったはずだった。

 お互いもう少し自由な時間があっていい。最近はあまりにも一緒の時間を過ごしすぎた。夫婦があまり一緒にいすぎると愛情が冷めやすくなるらしいぞと、ほとんど冗談で陽介を脅すと彼はそれを真に受けて顔を強張らせてしまった。
 そんな様子に修一は慌てて「冗談だよ、冗談」と声を掛けると彼はようやく安堵した様子を見せた。言った直後、思っていた以上に悲痛な顔をされたので、陽介に悪いことをしたなと反省する。
 それでも送り迎え自体は不要だと彼の提案を押し切って、これからは一人で通うつもりで家を出た。
 それなのに、もうすぐ帰宅時間だと思ったらこれだ。

「……ビルの前にお前の車が駐めてあったから、旦那がいるんだろうと思って挨拶したらすごい目で睨まれたぞ。……俺、何かしたか?」

 その言い方のニュアンスからして、すごい目とは悪い意味なのだろうが、気を使ったのか室賀はそうは言わなかった。

「そんなことはないと思うが……。気のせいじゃないのか」

「あれが気のせい? 違うと思うが……」

 修一の大切な友人に対して陽介はいったいどんな態度を取ったのだろうか。室賀に対し失礼な態度を取ったのなら彼に申し訳なく思う。

「……悪い。気が立ってたのかもしれない。たまに、そういうこともあるから」

「たまに、ねぇ」

 ふぅん、とどこか疑わしげな様子で室賀が返事をする。

 ーーまったく。陽介のやつは何をやっているんだ。

 顔を見たら問い正して、文句の一つでも言ってやろうかと思う。
 そろそろ今日の仕事も片付く。
 退勤の準備をしていると、それに気がついた室賀が「俺も一緒に出るよ」と声をかけてきたので、途中まで帰途を共にすることにした。

「お前も乗っていくか? よかったら送っていくけど」

「うーん、やめとくわ。今日は気持ちだけ受け取っておくから、また今度頼む」

 降るエレベーターの中で室賀にそう提案したが断られてしまった。やはり、先ほどの件で陽介にいい感情を抱いていないのだろう。
 陽介のことは愛している。だから彼が悪感情を抱かれるのは嫌だったが、陽介が失礼な態度をとったせいならば仕方がない。
 そういう意味を込めて、陽介の態度を言外に詫びた。

「そうか……悪いな」

「いいって」

 それを察した室賀が気にするなというように返事を返してくれる。器の大きい友人で助かった。



 二人が事務所の入っているビルから出ると、それに気がついた陽介が車から降りて修一を迎えた。修一の隣に立つ室賀が陽介に向かって「どうも」と会釈する。

「おかえり。修一」

「ただいま。……迎えはいらないって言っておいただろう」

「そうだけど、やっぱりまだ心配で」

 ごめんね? と陽介はあまり反省していなさそうな調子で言った。
 
 ーーこれは、俺の言うことを聞く気がないな。

 いつもの、陽介が自分の主張を押し通すパターンにそっくりで修一は呆れた。

「来ちゃったんだから今日はもういいでしょ? ほら、乗って」

 修一に乗車を促し、陽介は運転席側に回り込もうと踏み出した。

 ……陽介は、修一の隣に室賀が立っていることに気がついているだろうか。
 互いに面識はあるのだ。先ほど室賀は睨まれたと言っていたし、それに修一と陽介の会話で室賀の話題が上ったこともある。
 だから、修一の隣にいるのが修一の大切な友人で、経営する事務所の共同経営者だということに気がついていないはずがない。
 だがまるで室賀を無視したような態度に腹が立った。

「陽介、友人の室賀だ。知っているだろう? 大学からの付き合いだって、パーティーで紹介したよな」

「……ああ。オトモダチで、共同経営者の室賀さんでしょ? ……知ってるよ」

 お友達、の言い方が含みがあるように聞こえて少し気になったが今はそんなことはどうでもよかった。

「そう、大切な友人なんだ。だからちゃんと挨拶してくれ」

 『大切な』と形容することで、最近とくに嫉妬深い陽介が不快に思うことは想像に難くないことだったが修一はあえてそう言った。

 陽介の機嫌を損ねることに怯えて、敬愛する友人をぞんざいに扱うなど到底許容出来ない。
 それに、そんな関係は健全ではない。そんなものは対等な関係とは言えない。
 夫夫が対等な関係でなくなったらその関係は、いつかきっと崩壊すると修一はかねてから思っている。だからここは毅然とした態度で言わねばならないのだ。
 ……たとえそのことで、二人が帰宅した後に陽介から修一に、セックスの名を借りた報復ともいえるような行為が待っていたとしても。

 修一はぞんざいに扱われているのが室賀だから、こういう態度をとるわけではない。たとえ二人の立場が逆で、ぞんざいに扱われようとされるのが陽介でも、間違いなく同じ態度をとる。向ける感情は違えど、二人とも大切なパートナーだからだ。
 そのことを陽介は汲んでくれるだろうか。
 ここ最近の彼は少し直情的だから誤解してしまうかもしれない。
 陽介だってかけがえのない大切な、愛する人なのだと後で補足しておかなければと修一は思った。

「大切な友人、ね。修一はそう思ってても、室賀さんは違うんじゃない?」

「……どういう意味だ?」

 室賀が修一を友人と思っていないとはどういうことだと、その疑問をそのまま口にした。
 10年も長く付き合ってきて、こうして一緒に仕事もしている二人が友人でなくて何だというのか。
 そんな疑問を抱く修一を無視して、陽介はここにきてようやく室賀に視線をやり話しかける。

「どうも、室賀さん。あなたとは以前にもお会いしましたね」

「……そうですね」

 どこか挑発的に挨拶をする陽介に、室賀は表情を硬らせて返事をした。いつも飄々としていて悠然と構えている彼が珍しい表情をしている。

「たしかその時にあなたは、私にこう言ったはずだ」

『君は、パートナーを信用していないのか?』
『いくら夫ととはいえ、個人の健全な交友関係にまで首を突っ込むべきではないんじゃないか』

 室賀がそう言ったと、陽介は主張する。
 室賀は昔から、陽介が修一のスマートフォンを見たり、飲み会の帰りに迎えに来たり、頻繁に居場所を連絡させたりということを良く思っていなかった。「いくら旦那だからって、そこまでいいようにされる必要はないんじゃないか?」と修一に一度だけ、苦言を呈してさえいた。しかしまさか直接陽介に言っていたとは。
 別にそのことを不快に感じたわけではない。ただそれは本当なのかと思わず室賀を見たが、室賀は緊張した面持ちで陽介を見つめたままだ。

「彼を知っているかって? もちろん知ってるよ。何なら俺はこいつのことを、修一以上に理解してるんじゃないかな。だってこいつは、あのパーティーに来ていた修一の友だちの中で最も腰抜けで、姑息な、負け犬野郎だからね。……ねぇ修一、このオトモダチの正体を教えてあげる。こいつは、修一のことが好きだよ。嫌われるのが怖くて今まで手を出さなかったんだろう。友人の立場に甘んじて、俺が踏み出して修一と結ばれるのを、負け犬らしくただ指を咥えて見てただけの腰抜け野郎だ」
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