離婚したαとΩ元夫夫が復縁する話

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本編

馴れ初め編2

 修一がΩだと分かった時、陽介は心の底から歓喜した。そして企てたのだ。まず友人として今まで以上に彼に近づき、自宅で二人きりで酒を交わす中にまで関係を発展させた。そしてある日、泥酔したどさくさで体の関係に持ち込んだ。そうして既成事実を作り記憶の定かではない修一に、Ωの自分が誘惑して起きてしまったことだと誤解させ、その負い目につけ込んで少しずつ慎重に関係を深めたのだった。
 汚いやり方だとは分かっていた。しかし、こうでもしなければ絶対に今の関係にはなれなかっただろう。そう言い切れるくらい修一はいかにもなノンケで、男に対しては友人以上の興味を持っていなかった。Ωなら男同士でもセックスができる、おかしいことじゃない、そしてそれはとても気持ちがいいことなのだと根気強く体に教え、彼自身への好意を懸命に伝え続けてようやく今の恋愛関係にまで発展させることができたのだ。
 今までまるでΩらしくない外見や振る舞いをしていた修一は、快感にだけはよく見られるΩのように弱かった。それもまた実に幸運で、修一は陽介と体を重ねることを許容したのだった。そして、恋愛相手として付き合うことも。
 
『いいよ。付き合おうか』

 修一からその言質を得た時、陽介は人生で最も大きな幸運が訪れたと天にも昇る気持ちになった。修一に何度も「ありがとう! 嬉しい!」と伝え強く抱きしめる。「大袈裟だな」と彼は笑っていたが、全く大袈裟ではない。コンマ以下の可能性であったことが現実となったのだ。これを喜ばずして何を喜ぶのか。はしゃぐ陽介に修一は可笑しそうにくすくすと笑っていたことを覚えている。その顔がまた愛らしいのだと陽介は思いだした。

 だが奇跡的に交際に持ち込めたからといって油断してはならない。交際とは言葉一つで始まったように、言葉ひとつでまた終わらせることができる。油断して、修一に「俺たち、もう別れようか」と言われてしまったらそこで終わりなのだ。いくら片方が了承せずとも片方の気持ちが失われてしまえば関係はもはや成立しない。ヘテロセクシャルの修一は、いつかきっと陽介を捨てて女性の元へ行ってしまうのだろう。いずれ来るはずのその日を思うと陽介は世界が終わるような気分になる。

 陽介の見るところ修一の外見や考え、性的嗜好はΩ男性によく見られる特徴からは程遠い。実際にΩとしてのフェロモンも薄く、フィジカルも一般的なΩと違い恵まれている。一見すると全くΩ男性に見えないどころかαとも誤解される修一は、その外見を裏切らず性格まで同様だった。誰かに愛されるよりも愛したい。甘やかしたい。守りたい、頼られたい。弱いところを見せたくない。強くありたい。男らしくありたい。胸には秘めているが競争心や上昇志向が強い。そして、男としてのプライドも高い。
 修一は多くの非Ω男性と同じように、本来は女性を好む。Ωである前にまず男性であることが前提なので、こうして付き合った後でも自分が抱かれる側であることに違和感を覚えているのだ。本来挿入する側である男性としての矜持が邪魔をしているのだろう。
 しかしゲイやバイセクシャルでもないから、タチに回ろうとしたところで陽介の男の体には性的興奮を覚えない。だから陽介を抱きたいという気持ちも湧かない。
 そして修一の体は性質が薄いとはいえ間違いなくΩである。抱かれると感情とは裏腹に体は快感を得て、気持ちが良くなってしまう。そのチグハグな状況に彼は混乱しているはずだ。

 解剖生理学的な観点からいうと、Ω男性の腸管粘膜の構造は非Ω男性とは少し違う。通常の腸管粘膜は刺激や摩擦に弱くセックスの用途には向かない。Ωではないゲイやバイの男性はそこを使ってセックスをすることもあるが無理をすると怪我や出血、場合によっては腸管穿孔の危険がある。無茶なプレイをして病院に運ばれてくる者も実は少なくないのだ。それくらい、本来の腸管は繊細にできている。
 だがΩ男性は腸管で妊娠、出産を行うのでその組織は柔軟かつ耐久性に優れる。そして繁殖活動、つまりセックスを円滑に行うために、性的な興奮を覚えるとその組織からは分泌液が出る。排泄器官であると同時に生殖器官でもあるからだ。だから修一が陽介に抱かれることは不自然なことでもない。挿入されて快感を得るということは繁殖のための極めて自然な反応である。

 本人は否定的に捉えていても、陽介は修一がΩであることを心から幸運に思っていた。
 いくら本人が望まなくとも、どんなに性質が薄くてもやはり彼はΩなのだ。そうでなければゲイでもバイセクシャルでもない修一が陽介とセックス、交際を許容をすることなどあり得ない。彼の限りなく薄いとはいえΩの性質が、体を重ねるたびに一時的に分泌されるΩのホルモンが彼本来の性的嗜好を捻じ曲げてくれている。そのことが陽介のことを恋愛的に、性的に好きだと修一の脳に誤作動を起こさせているからだ。
 修一がΩであること、こうして付き合えたことは奇跡なのだ。だから陽介は修一のことを自分から絶対に手放すつもりはなかった。
 それ故、そのせっかくの誤作動に水を差すような、正気に戻させて現実に直面させるような今回のような行いは極力したくはなかった。だが修一は試してみないと気が済まないらしい。陽介と修一がセックスをするには今の形が最も自然なのにも関わらずだ。……本人がそれを受け入れるかは別としての話だが。



「……入れるとか入れないとかじゃなくて、ただ抜き合うっていうのはだめなのか? そういうやり方もあるって聞いたんだが」

 誰だ? 修一に余計な情報を教えたのは。内心そう思ったが陽介は表情には出さない。
 それどころか真逆の、哀れみを誘うような声と表情で修一に聞き返した。

「修は、俺に抱かれるのが嫌なの? もしかして俺に触られるのが嫌……?」

「い、嫌ってほどではないけど……」

 案の定、陽介のその様子に修一は困惑し、譲歩しそうな気配を見せる。
 最近気がついたのだが、彼は陽介のこの態度に弱いらしい。恋人の願いを聞いてやりたい、甘やかしてやりたいというある意味悪癖とも言える彼のチョロ……素晴らしい性格に陽介は助けられることがしばしばだった。だがあまり頻発すると効果が弱まるので、今日のようなここぞというときに使うようにしていた。

「じゃあ今のままで良いじゃないか。俺は修に入れたい。抱きたい。修も俺も気持ちいい。それの何が駄目なの?」

 αの性質なのか本来の性癖なのかは分からないが、陽介は修一を抱きたいと思ったことはあるが抱かれたいと、挿入されたいと思ったことはない。修一に挿入しておいて何ではあるが、正直なところかなり拒否感が強かった。それは修一に限らず過去に付き合っていた相手にも同じで、陽介は誰に対しても一度もそう思ったことはない。中には尻を触ろうとしてきた者もいたが、あまりの嫌悪感に直ぐその場で帰ってしまった程だった。しかし愛する修一のためならばその覚悟も決めねばならない。
 だが陽介はもう少しばかり抵抗を試みる。

「だって、おかしいだろう。俺が、その、い……、入れられる側とか」

「……? 何で? 別に何にもおかしくないけど……」

 おかしいどころかごく自然なことだ。その上極めて興奮を覚えるし、甚だ可愛く思っている。それを言うと彼は怒るので陽介は胸の内に留めた。

「いやいやいや、おかしいだろう! 俺は普通の、平凡な性癖の男だぞ? それがいつの間にか入れられる側になった挙句、気もち……何でもない」

「気持ちよくなってお尻でイっちゃうことがおかしいって?」

「陽介、黙ってくれ」

「ごめんなさい」

 最中はあんなに快楽に流されやすいくせに素面の修一はそれを素直に認めようとしない、そんなところも陽介は好きだった。

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