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しおりを挟む翌日の朝方、大人に戻ったアリスが、議事堂から出て大聖堂へと向かった。
警備兵が何人か付いていて、町中を歩いて行く聖女の姿を一目見ようと、いつの間にか人だかりができていた。
――物珍しい生き物が歩いているような感覚なのだろう。
アリスは特段、表情を変えずに、大聖堂へと続く道を警備兵と共に歩いた。
しばらく歩いて、大聖堂の敷地内に入って、扉を開いて一人だけ中に入る。
入ったらすぐに、ハロルドが小走りして、アリスへと近付いた。
「アリス様、少々お話が……」
「どうかしましたか?」
「折り入ってお話が…… 王冠の呪いのことで……」
アリスの表情が曇った。
「まじないが、どうかしましたか?」
「ここではちょっと…… 準備室の方に来てください」
「分かりました。部屋へ王冠を置いてから、こちらに戻りますので」
彼女はハロルドと一緒に、大聖堂の袖廊から外へ出て、すぐ側にあった翼廊へと向かい、翼廊内にある礼拝準備室の一つへと入った。
「何かあったのですか?」
アリスが扉を閉めるなり言った。
「実は、折り入ってお尋ねしたいことが」
ハロルドが振り返りながら言った。だから、アリスの心拍数があがった。
「王冠の呪いですが、あれ以降は使用していませんよね?」
「それはどういう意味で尋ねているのです?」
「そのままの意味です。――使っていないのですね?」
「もちろんです」
――当然、嘘である。
ハロルドは鋭い男で、ちょっとした油断が命取りとなる。
ここからは一部の隙も見せられない…… アリスはそう思っていた。
「本当に?」
ハロルドが念を押すように訊く。
「随分と疑われているようですね?」
「ええ。申し訳ありませんが、アリス様が現状に相当な不満を抱かれているのは、傍目から見ても分かります。
――息抜きに、子供の姿で外出なさっておられるのでは、と疑うのは当然かと」
「あり得ません。呪いをその身に受けてまで……」
「それなら良いのですがね」
「まるで私が子供になっていたような口振りですね?」
「いえ……
これは重大なことなので、気分を害されると重々承知の上で、念を押して尋ねたのです。
あれ以降、子供になっていないのなら、特に問題は無いのかもしれませんが……」
「気になります。どういう問題があったのか教えてください。
――奉納祭のとき、アレをかぶるのは私なのですから」
「そうですね……」ハロルドが横目になった。「確かにその通りです」
「何があったのです?」
「実は、呪いは永続する可能性があるらしいのです」
「永続……?」
「一生、子供のままになるというものです」
アリスが固唾をのんだ。
「おそらく、アリス様がうまいこと解呪なされたから子供から元に戻れたのでしょうが……
もし何度か使用なされたと言うのなら、話は別です」
「別、ですか?」
「ひょっとすると、あれは魔導具と呼ばれる物かもしれません。
――失礼ですが、魔導具の存在については知っておられますか?」
「ええ、人並みには……
しかし、あの王冠が魔導具であるというのは初耳です」
「そのはずです。
アレは国宝の一つであり、バルバラントに住む人間で、なおかつ聖職者でなければ触れることができない秘宝です。
そうなれば当然、研究目的で触られることもない……」
「で、でも、魔導具は異世界から来た、選ばれし人間にしか操れないという代物……
私は孤児であっても、出生はロンデロントですよ? 記録も残っています」
「だが、バルバランターレンの血を受け継いでいらっしゃる……」
「家系図でギリギリ、さかのぼれる程度の遠縁です。はっきり言えば赤の他人で……!」
「隔世遺伝かもしれませんね」
「か、かくせい…… なんですか?」
「簡単に言えば、先祖返りという現象でして、要は何世代も前の先祖が持っていた性質が、突然、子孫に表れるというものです」
「わ、私は本家筋でもなんでもありませんよ?
分家も分家で、むしろ、ただの一般家庭で……」
「先祖返りの対象は、基本的に本家や分家を問いません。ランダム・アソートメントと組み替えが起こることで……」
と言って、ハロルドは口を一度閉じてから、話をまた続けた。
「その辺りは本題とは無関係なので、割愛します。
とにかく血筋があるなら、発現する可能性はゼロじゃないというのが結論です。
魔導具なら、未知数な部分も多いのでなおさらでしょう」
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