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ユリエルは走った。
アリスを抱えながら走った。
腰にぶら下げている刀剣の鞘が、カチャカチャと音を立てている。
走って走って、森の中へ入って、その先にある鉱山跡を目指した。
カントランドを離れてしまうことも考えたが、思った以上に警備隊の手回しが早く、様々なところで検問やら捜索やらをしているのが目に付いたため、ここまで一気に走って逃げてきたのだった。
「ちょっと、休憩……!」
と言って、アリスを下ろすユリエル。
「大丈夫……?」
「いや~…… 最近、ここまで走ったこと無かったから……」
両手を膝につきながら、ユリエルが息も絶え絶えに言った。
「ごめんね、抱えさせて……」
「歩幅が違うから仕方ないって。それより……」
と言って、背筋を伸ばしながら深呼吸を一つして、続きを話した。
「どうやって、俺の牢屋まで来られたの?」
「なんて言えばいいのかな……」
アリスは、人差し指の横側を唇にあてながら、困った顔をしていた。
「確か、宿直室に連れていかれたよな?」
「うん、そうなんだけど……」
「見張りとか、いなかったのか?」
「警備隊長と一緒に、朝食を食べに行って…… 任されてた人も呼び出しでいなくなっちゃったの」
「なるほど…… それで鍵は?」
「ノックがしたと思ったら、誰も入ってこなくて…… 気になって扉をあけようと思ったら、鍵束の付いた鍵輪が、取っ手からぶら下がっていたの」
「誰が付けたのか、分かるかな? 怪しいヤツが近くにいたとか……」
「パッと見ただけだから、よく分からなかった……
だって、鍵がぶら下がってるんだもん。見つかったらって思っちゃって」
「それもそうか……」
「鍵を取ったはいいけど、どうやってユリエル君のところへ行こうか考えてたの。
それで、トイレに行くフリをして、留置所の管理室へ入ったら…… 見張りの人たちがみんな、倒れてて……」
「多分、机に残ってた朝食が原因だろうね」
「睡眠薬が入れられてたってこと?」
「あの時間って、当直じゃない人間は朝メシ喰いに行ってるんだよ。しかも、今日は奉納祭の前日…… 前夜祭の日だろ?」
「あっ」
意外そうな顔で、アリスが言った。
「忘れてた……」
「色々あったもんな」と、苦笑うユリエル。「まぁ、そんな感じで、いっつもこの時期は詰め所に人がいないんだよ」
「じゃあ、人がいない時間を狙って私に鍵をくれたってこと?」
「だって、あんなに都合良く火口と狼煙用の有機燃料が置いてあるわけないからさ」
「味方…… なのかな?」
「分からない。だから、今は信用しない方がいいかな」
「そうよね…… でも、誰かがあなたを陥れようとしたのは、間違いない事実でしょ?」
「色々と思うところはあるけど、確証が無いから分からない。何が狙いなのか、イマイチよく分かってないっていうか……」
「――とにかく、今は身を隠しましょう」
アリスが、ユリエルを見上げるように視線を合わせて言った。
「捕まったら、考える時間もないでしょ?
幸い、この先に古い廃坑の入り口があったはず。色んな場所に繋がってるから、逃げるのにも都合がいいでしょ?」
「そうだけど…… 大丈夫か?」
「何が?」
「奉納祭って、明日なんだぜ?」
「もういいの」
「でも……」
「いいから行きましょ。奉納祭なんかより、あなたが死刑にならない方が大事だもん」
そう言って、アリスがユリエルの手を握った。
「絶対に、無実を立証してみせる……!」
ユリエルは思わず口角をあげた。
「どうしたの?」
「あ、いや…… なんか、昔の姐さんらしくなったなって」
「――姐さんはやめてよ」
「あぁ…… ごめん、そうだった」
ユリエルが頭をかいた。
すると、アリスがユリエルのあいた方の手を引っ張って、歩き出す。
「じきにこの辺りにも捜索隊が来るはずです、さっさと廃坑へ逃げましょう!」
「ああ!」
二人はそのまま、足早に森の中を歩いていった。
アリスを抱えながら走った。
腰にぶら下げている刀剣の鞘が、カチャカチャと音を立てている。
走って走って、森の中へ入って、その先にある鉱山跡を目指した。
カントランドを離れてしまうことも考えたが、思った以上に警備隊の手回しが早く、様々なところで検問やら捜索やらをしているのが目に付いたため、ここまで一気に走って逃げてきたのだった。
「ちょっと、休憩……!」
と言って、アリスを下ろすユリエル。
「大丈夫……?」
「いや~…… 最近、ここまで走ったこと無かったから……」
両手を膝につきながら、ユリエルが息も絶え絶えに言った。
「ごめんね、抱えさせて……」
「歩幅が違うから仕方ないって。それより……」
と言って、背筋を伸ばしながら深呼吸を一つして、続きを話した。
「どうやって、俺の牢屋まで来られたの?」
「なんて言えばいいのかな……」
アリスは、人差し指の横側を唇にあてながら、困った顔をしていた。
「確か、宿直室に連れていかれたよな?」
「うん、そうなんだけど……」
「見張りとか、いなかったのか?」
「警備隊長と一緒に、朝食を食べに行って…… 任されてた人も呼び出しでいなくなっちゃったの」
「なるほど…… それで鍵は?」
「ノックがしたと思ったら、誰も入ってこなくて…… 気になって扉をあけようと思ったら、鍵束の付いた鍵輪が、取っ手からぶら下がっていたの」
「誰が付けたのか、分かるかな? 怪しいヤツが近くにいたとか……」
「パッと見ただけだから、よく分からなかった……
だって、鍵がぶら下がってるんだもん。見つかったらって思っちゃって」
「それもそうか……」
「鍵を取ったはいいけど、どうやってユリエル君のところへ行こうか考えてたの。
それで、トイレに行くフリをして、留置所の管理室へ入ったら…… 見張りの人たちがみんな、倒れてて……」
「多分、机に残ってた朝食が原因だろうね」
「睡眠薬が入れられてたってこと?」
「あの時間って、当直じゃない人間は朝メシ喰いに行ってるんだよ。しかも、今日は奉納祭の前日…… 前夜祭の日だろ?」
「あっ」
意外そうな顔で、アリスが言った。
「忘れてた……」
「色々あったもんな」と、苦笑うユリエル。「まぁ、そんな感じで、いっつもこの時期は詰め所に人がいないんだよ」
「じゃあ、人がいない時間を狙って私に鍵をくれたってこと?」
「だって、あんなに都合良く火口と狼煙用の有機燃料が置いてあるわけないからさ」
「味方…… なのかな?」
「分からない。だから、今は信用しない方がいいかな」
「そうよね…… でも、誰かがあなたを陥れようとしたのは、間違いない事実でしょ?」
「色々と思うところはあるけど、確証が無いから分からない。何が狙いなのか、イマイチよく分かってないっていうか……」
「――とにかく、今は身を隠しましょう」
アリスが、ユリエルを見上げるように視線を合わせて言った。
「捕まったら、考える時間もないでしょ?
幸い、この先に古い廃坑の入り口があったはず。色んな場所に繋がってるから、逃げるのにも都合がいいでしょ?」
「そうだけど…… 大丈夫か?」
「何が?」
「奉納祭って、明日なんだぜ?」
「もういいの」
「でも……」
「いいから行きましょ。奉納祭なんかより、あなたが死刑にならない方が大事だもん」
そう言って、アリスがユリエルの手を握った。
「絶対に、無実を立証してみせる……!」
ユリエルは思わず口角をあげた。
「どうしたの?」
「あ、いや…… なんか、昔の姐さんらしくなったなって」
「――姐さんはやめてよ」
「あぁ…… ごめん、そうだった」
ユリエルが頭をかいた。
すると、アリスがユリエルのあいた方の手を引っ張って、歩き出す。
「じきにこの辺りにも捜索隊が来るはずです、さっさと廃坑へ逃げましょう!」
「ああ!」
二人はそのまま、足早に森の中を歩いていった。
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