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 陽が落ちつつあった頃、エリカたちを乗せた馬車は、ベリンガールの首都ベネノアに到着していた。実に半日以上は掛かった。

 馬車は都市部から少し外れた郊外にある、貴族街へと入っていく。
 その貴族街の中でも一際ひときわ、大きな建物群が並ぶ一角があった。そこの大きな正門をくぐった馬車が、敷地内にある建物の一つに止まる。迎賓館げいひんかんだ。

「なんだか」とエリカ。窓を覗《のぞ》き込んでいた。「随分《ずいぶん》と警備の方々がおられますのね。物々しいですわ」

「アルメリア王女がおられますからね。バーラント様が警備を強化したのです」

 エリカは、その物々しい光景に違和感を覚えた。

「さっ、到着しました」

 そう言うなり、使者の男性は馬車の扉をあけ、外へ出た。

「足下にご注意を」

 彼の手を取って、導かれるように外へ出たエリカが、

「ありがとうございます。楽しい一時ひとときでしたわ」
「こちらこそ。また、お話をしていただけたら光栄です」
「ええ。またの機会に、ぜひ」

 と言って、両者共に別れを告げる。


 エリカは、待機していた女中の一人に荷物を預け、別の女中と一緒に建物の中へ入った。入ってすぐの中央階段をのぼって、女中が、右に折れた突き当たりにある両扉をノックする。もちろん扉の両側には、警備員がそびえるように立っていた。

「アルメリア様」

 返事が無い。

侍女じじょのエリカ様がお見えです」

『――どうぞ』

 弱々しい声音であった。

 エリカが心配そうな顔で女中を見やる。が、女中は状況を知らされていないようで、「扉を開けぬようにと命じられておりますゆえ、ここで失礼を致します」と言って、深々とお辞儀をした。

「ご苦労様です」

 そう言って、女中が下がったのを見送ってから両扉をあけた。
 あけてすぐに、エリカはアルメリアを見つけた。彼女は背を向け、ベッドのきわに座っていた。その長く黒い髪の先端が、ベッドへ無造作に流れている。

「アルメリア」

 ――返事が無い。その代わりに首がうなだれ、両肩が震えていた。

 ここで始めて、エリカは手紙の内容を意味ではなく、実感として理解をした。エリカの予感は的中していたのだ。
 彼女は近付いて、アルメリアの隣に腰掛けて、うつむく彼女の両手を包むようにそっと手を差し出して言った。

「もう大丈夫だから」

 それで、アルメリアがうなずいた。

「何があったの?」

 涙をいっぱいに溜めたアルメリアが、エリカを見ながらなんとか言った。

「婚約が…… 破棄されます……」
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