4 / 79
4
しおりを挟む陽が落ちつつあった頃、エリカたちを乗せた馬車は、ベリンガールの首都ベネノアに到着していた。実に半日以上は掛かった。
馬車は都市部から少し外れた郊外にある、貴族街へと入っていく。
その貴族街の中でも一際、大きな建物群が並ぶ一角があった。そこの大きな正門をくぐった馬車が、敷地内にある建物の一つに止まる。迎賓館だ。
「なんだか」とエリカ。窓を覗《のぞ》き込んでいた。「随分《ずいぶん》と警備の方々がおられますのね。物々しいですわ」
「アルメリア王女がおられますからね。バーラント様が警備を強化したのです」
エリカは、その物々しい光景に違和感を覚えた。
「さっ、到着しました」
そう言うなり、使者の男性は馬車の扉をあけ、外へ出た。
「足下にご注意を」
彼の手を取って、導かれるように外へ出たエリカが、
「ありがとうございます。楽しい一時でしたわ」
「こちらこそ。また、お話をしていただけたら光栄です」
「ええ。またの機会に、ぜひ」
と言って、両者共に別れを告げる。
エリカは、待機していた女中の一人に荷物を預け、別の女中と一緒に建物の中へ入った。入ってすぐの中央階段をのぼって、女中が、右に折れた突き当たりにある両扉をノックする。もちろん扉の両側には、警備員がそびえるように立っていた。
「アルメリア様」
返事が無い。
「侍女のエリカ様がお見えです」
『――どうぞ』
弱々しい声音であった。
エリカが心配そうな顔で女中を見やる。が、女中は状況を知らされていないようで、「扉を開けぬようにと命じられております故、ここで失礼を致します」と言って、深々とお辞儀をした。
「ご苦労様です」
そう言って、女中が下がったのを見送ってから両扉をあけた。
あけてすぐに、エリカはアルメリアを見つけた。彼女は背を向け、ベッドの際に座っていた。その長く黒い髪の先端が、ベッドへ無造作に流れている。
「アルメリア」
――返事が無い。その代わりに首がうなだれ、両肩が震えていた。
ここで始めて、エリカは手紙の内容を意味ではなく、実感として理解をした。エリカの予感は的中していたのだ。
彼女は近付いて、アルメリアの隣に腰掛けて、うつむく彼女の両手を包むようにそっと手を差し出して言った。
「もう大丈夫だから」
それで、アルメリアがうなずいた。
「何があったの?」
涙をいっぱいに溜めたアルメリアが、エリカを見ながらなんとか言った。
「婚約が…… 破棄されます……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる