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とある父娘の血縁関係が怪しい件について
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母と子の血縁関係は分娩の事実に基づき明らかである。母は自分の身体の一部であった子の事を、自分の子ではないのではないのではと疑う事はおよそ無い。
一方、父親は我が子が本当に我が子なのか、実際のところ確信が持てないと言うのが本当のところではないであろうか。特に娘からは、一時期理不尽なほどに嫌悪の対象とされる事も珍しくないと聞く。血液型の不適合で親子関係が有り得ない事が判明する事が偶に有るが、大半DNA鑑定でもしない限り父と子の血縁関係などあやふやなものである。
そんな時、父親は我が子をどんな思いで見守れば良いのか。
その一
父は昔気質の寿司職人だった。寿司職人意外に実入りが良く、私はお金の苦労をした事は無い。まあ、有難い事なのだろう。
私は父と似ている所が全くない。
父は背が高くがっしりとした偉丈夫であるが、私は小柄な体付きだ。これは単に私が女に生まれたせいだろうか。
父は一重瞼であるが、私は二重瞼だ。父の鼻は大きい団子鼻であるが、私は肉の薄い若干鷲鼻気味の鼻である。父の髪の毛は量も多く、剛毛と言うのか針金にも負けない硬い髪の毛をしていた。私の髪の毛は細く柔らかい。これも私が女に生まれた為なのだろうか。
とにかく、父と私は顔も体付きも全く似た所が無く、人は私の事を母親似だと良く言った。
その二
物心つく前に父と母が物凄い喧嘩をしていたという記憶が有る。
どういう理由で喧嘩になったのかは思い出せない。だが、その時父は母の事をこの上もなく罵酷い言葉を浴びせて罵っていた。又、食器やその他の家財を打ち壊していたようにも思う。父は温厚な人柄で、暴力を振るう事など無い人だった。私はその記憶が本当に有った事なのかそれとも何かの記憶違いなのか良く分からない。しかし、それはどうしても払拭出来ないものだった。
私が十歳になる前に父は私と一緒にはお風呂に入ってくれなくなった。私は父の事が好きだったので、一緒に入りたいとねだった事も有った。しかし、父にはお前も自分でちゃんと身体を洗える歳のはずだから一人で入りなさいといつも断られた。
又これもその頃の記憶なのだが、ある日見知らぬおじさんに声を掛けられた事が有った。
家の玄関で、丁度私は塾からの帰りで家の前に着いた所だった。
「君は小野寺さんのお子さんかい。」
夕方の事で、そのおじさんは酒を飲んでいたらしく、子供心にも酒臭いと思った事を覚えている。
「そうです。」
と私が答えた。私の名は小野寺典子である。すると、何故かおじさんは妙な替え歌を歌い出した。
この子誰の子気になる子
似たとこの無い子ですから
似たとこの無い
大人になるでしょう
明らかに酔っ払っていて、私は歌詞の意味は分からないまでも、酷く不愉快な思いをした。
「枝野さん、娘に変な歌を聴かせないで下さい。」
いつの間にか玄関に父が立っていた。言葉遣いは丁寧であったが、父は恐ろしい目でおじさんを睨み付けていた。後にも先にも父のあんなおそろしい顔を見たのは初めてである。
おじさんはたじろいで、挨拶もせずにヨロヨロと去って行った。
後で知った事だがその人は父と結婚する前に母が勤めていた会社の社長で、母はその人の秘書をしていたらしい。
その三
中学も三年になると私も思春期の流行病、いわゆる反抗期で父に逆らってばかりいた。父はあまり私のやる事に口出しをする事は無かった。ただ、私が悪い仲間と連んでお酒やシンナーに手を出した時には黙っていなかった。私を仲間から引き剥がすように連れ帰った。
その頃の事である。私が自分の血液型がB型、父がA型、母がO型だと知ったのは。おかしいなとは思ったが、反抗期で親の事より自分の諸々の不安憤懣で手一杯だったので、気にも止めなかった。
思い起こすと、父は何かしら私をよく褒めてくれた。料理を作った時も美味しいと言って食べてくれたし、テストで良い点を取った時なども『頑張ったな』と褒めてくれた。
私の下着を父の下着と一緒に洗わないでと言った時なども苦笑いするだけであった。
ひいき目でなく、本当に温厚で優しい父だった。
その四
私もやがて社会人となり、何人かの男性と付き合いもした。そのうちに結婚しようかなと思う人も出来て、家に連れて行き両親に会わせた。父とは思春期の頃から妙な距離が出来て、あまりお父さんと声を掛ける事も無くなっていた。
私の彼は風采の上がらない、あまり容貌も良くない男だった。でも気が合って、どちらからとも無く結婚を意識する仲になっていた。
母は私の彼の見栄えが気に入らなかったのか、彼のいない所に私を引っ張って行き、
「何処が良いの? あんなパッとしない男。見た目もイマイチだし、出世しそうもないし。あなたみたいな美人ならもっと良い男選び放題でしょ。」
と文句を言った。私は彼とは気が合うのとだけ答えた。
「娘の何処を気に言ってくれたのかね。」
と父は私の彼に尋ねた。
「典子さんが時々僕に作ってくれた料理が美味しくて・・・・・・。」
と彼は不得要領に答えた。父は黙って深く肯いた。
その後、父と彼の話を盗み聞きすると、父は、
「良く私の娘を選んでくれました。末永く大切にして下さい。」
と頭を下げていた。彼は恐縮しまくった様子でドギマギしながら父より深く頭を下げていた。
その五
私と彼は結婚した。しかし、父と母はそれを待っていたかのように別居し、その後離婚した。
夫が偶々父と出会った時に何となくその話となり、
「君に娘の事を末永くと頼みながら、自分達がこのような事となって真に済まない。しかし、私にはどうしてもアレを許せない事が有ったのだ。」
とだけ父は言ったそうだ。
その事を聞き、私はどうしても押さえきれない気持になって父を訪ねた。
そして年来の疑問を父にぶつけた。
「お父さん、私はお父さんの本当の子供なの?」
父は私の問いに驚く様子も見せなかった。まるで来るべきものが来たかという態度だった。
「さあな。血液型とかも良く知らんし、DNA鑑定もしてないからな。・・・・・・けどな、お前がお父さんと呼んでくれる限りは、私はお前の父だよ。」
父は昂然と言った。話を続ければ、異論は許さんと言いそうであった。
私は父の迫力に押されて、それ以上その問いを続ける事が出来ず、
「じゃあ、又。」
と父の下を辞した。
帰り道、本当に馬鹿な事を聞いたと思った。父の胸の内を思うと涙が溢れて止まらなかった。
父よ、何がどう有ろうと私はあなたの娘です。あなたの娘で良かった。
これからは、もっと頻繁にお父さんと呼ぼう。そう、思った。
一方、父親は我が子が本当に我が子なのか、実際のところ確信が持てないと言うのが本当のところではないであろうか。特に娘からは、一時期理不尽なほどに嫌悪の対象とされる事も珍しくないと聞く。血液型の不適合で親子関係が有り得ない事が判明する事が偶に有るが、大半DNA鑑定でもしない限り父と子の血縁関係などあやふやなものである。
そんな時、父親は我が子をどんな思いで見守れば良いのか。
その一
父は昔気質の寿司職人だった。寿司職人意外に実入りが良く、私はお金の苦労をした事は無い。まあ、有難い事なのだろう。
私は父と似ている所が全くない。
父は背が高くがっしりとした偉丈夫であるが、私は小柄な体付きだ。これは単に私が女に生まれたせいだろうか。
父は一重瞼であるが、私は二重瞼だ。父の鼻は大きい団子鼻であるが、私は肉の薄い若干鷲鼻気味の鼻である。父の髪の毛は量も多く、剛毛と言うのか針金にも負けない硬い髪の毛をしていた。私の髪の毛は細く柔らかい。これも私が女に生まれた為なのだろうか。
とにかく、父と私は顔も体付きも全く似た所が無く、人は私の事を母親似だと良く言った。
その二
物心つく前に父と母が物凄い喧嘩をしていたという記憶が有る。
どういう理由で喧嘩になったのかは思い出せない。だが、その時父は母の事をこの上もなく罵酷い言葉を浴びせて罵っていた。又、食器やその他の家財を打ち壊していたようにも思う。父は温厚な人柄で、暴力を振るう事など無い人だった。私はその記憶が本当に有った事なのかそれとも何かの記憶違いなのか良く分からない。しかし、それはどうしても払拭出来ないものだった。
私が十歳になる前に父は私と一緒にはお風呂に入ってくれなくなった。私は父の事が好きだったので、一緒に入りたいとねだった事も有った。しかし、父にはお前も自分でちゃんと身体を洗える歳のはずだから一人で入りなさいといつも断られた。
又これもその頃の記憶なのだが、ある日見知らぬおじさんに声を掛けられた事が有った。
家の玄関で、丁度私は塾からの帰りで家の前に着いた所だった。
「君は小野寺さんのお子さんかい。」
夕方の事で、そのおじさんは酒を飲んでいたらしく、子供心にも酒臭いと思った事を覚えている。
「そうです。」
と私が答えた。私の名は小野寺典子である。すると、何故かおじさんは妙な替え歌を歌い出した。
この子誰の子気になる子
似たとこの無い子ですから
似たとこの無い
大人になるでしょう
明らかに酔っ払っていて、私は歌詞の意味は分からないまでも、酷く不愉快な思いをした。
「枝野さん、娘に変な歌を聴かせないで下さい。」
いつの間にか玄関に父が立っていた。言葉遣いは丁寧であったが、父は恐ろしい目でおじさんを睨み付けていた。後にも先にも父のあんなおそろしい顔を見たのは初めてである。
おじさんはたじろいで、挨拶もせずにヨロヨロと去って行った。
後で知った事だがその人は父と結婚する前に母が勤めていた会社の社長で、母はその人の秘書をしていたらしい。
その三
中学も三年になると私も思春期の流行病、いわゆる反抗期で父に逆らってばかりいた。父はあまり私のやる事に口出しをする事は無かった。ただ、私が悪い仲間と連んでお酒やシンナーに手を出した時には黙っていなかった。私を仲間から引き剥がすように連れ帰った。
その頃の事である。私が自分の血液型がB型、父がA型、母がO型だと知ったのは。おかしいなとは思ったが、反抗期で親の事より自分の諸々の不安憤懣で手一杯だったので、気にも止めなかった。
思い起こすと、父は何かしら私をよく褒めてくれた。料理を作った時も美味しいと言って食べてくれたし、テストで良い点を取った時なども『頑張ったな』と褒めてくれた。
私の下着を父の下着と一緒に洗わないでと言った時なども苦笑いするだけであった。
ひいき目でなく、本当に温厚で優しい父だった。
その四
私もやがて社会人となり、何人かの男性と付き合いもした。そのうちに結婚しようかなと思う人も出来て、家に連れて行き両親に会わせた。父とは思春期の頃から妙な距離が出来て、あまりお父さんと声を掛ける事も無くなっていた。
私の彼は風采の上がらない、あまり容貌も良くない男だった。でも気が合って、どちらからとも無く結婚を意識する仲になっていた。
母は私の彼の見栄えが気に入らなかったのか、彼のいない所に私を引っ張って行き、
「何処が良いの? あんなパッとしない男。見た目もイマイチだし、出世しそうもないし。あなたみたいな美人ならもっと良い男選び放題でしょ。」
と文句を言った。私は彼とは気が合うのとだけ答えた。
「娘の何処を気に言ってくれたのかね。」
と父は私の彼に尋ねた。
「典子さんが時々僕に作ってくれた料理が美味しくて・・・・・・。」
と彼は不得要領に答えた。父は黙って深く肯いた。
その後、父と彼の話を盗み聞きすると、父は、
「良く私の娘を選んでくれました。末永く大切にして下さい。」
と頭を下げていた。彼は恐縮しまくった様子でドギマギしながら父より深く頭を下げていた。
その五
私と彼は結婚した。しかし、父と母はそれを待っていたかのように別居し、その後離婚した。
夫が偶々父と出会った時に何となくその話となり、
「君に娘の事を末永くと頼みながら、自分達がこのような事となって真に済まない。しかし、私にはどうしてもアレを許せない事が有ったのだ。」
とだけ父は言ったそうだ。
その事を聞き、私はどうしても押さえきれない気持になって父を訪ねた。
そして年来の疑問を父にぶつけた。
「お父さん、私はお父さんの本当の子供なの?」
父は私の問いに驚く様子も見せなかった。まるで来るべきものが来たかという態度だった。
「さあな。血液型とかも良く知らんし、DNA鑑定もしてないからな。・・・・・・けどな、お前がお父さんと呼んでくれる限りは、私はお前の父だよ。」
父は昂然と言った。話を続ければ、異論は許さんと言いそうであった。
私は父の迫力に押されて、それ以上その問いを続ける事が出来ず、
「じゃあ、又。」
と父の下を辞した。
帰り道、本当に馬鹿な事を聞いたと思った。父の胸の内を思うと涙が溢れて止まらなかった。
父よ、何がどう有ろうと私はあなたの娘です。あなたの娘で良かった。
これからは、もっと頻繁にお父さんと呼ぼう。そう、思った。
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