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六 何やら、国がきな臭い
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「そもそも、オイラは、タゴロロームの前線にいる兵隊さん達相手に裁縫道具や髭剃りなんかの小物の日用雑貨を商ってたんだけど、後手紙の代筆なんかもやったな。オイラこう見えても字が書けるんだ。兵隊さんって字が書けない人も多いから。・・・・・・」
とロキが語った話は以下のような事だった。
そうやって毎日タゴロロームの兵隊相手に小商いをしているうちに、バンケルク将軍の目に止まって、時々、バンケルク将軍の部屋に呼ばれ、食事をご馳走になったり、町への日用品の買い出しを頼まれたりしたりしていた。
そうして、一月ほど過ぎたある日、気晴らしに馬で遠出しようという話になり、バンケルク将軍の馬の後ろに乗せてもらって、二人きりで出かけた。
その遠出の時に、バンケルク将軍から、意外な話を聞かされたのである。
現在ゴロデリア王国は国王のバブル六世が六十三歳、高齢とまではいかないが、病気ガチなので後継者に争いが生じている。後継者候補は三人、長男であり太子であるゴルゾーラ、次子のエレナ、末子のフィルハンドラである。そして、それぞれを推戴する勢力がいて、内乱の兆が生じているというのである。 ゴルゾーラを推すのは宰相のラシャレーの勢力である。理由は長男であり、太子であり、かつ、年齢が三十二歳で、既にバブル六世に代わり、何度もゴロデリア防衛戦を戦った有能な将軍であるという事。至極真っ当な人選である。
だが、このラシャレーという宰相、多くの者に嫌われている人物なのだ。特に軍部から憎まれている。理由は、戦利品の国庫への納付等を厳しく言ったり、功績のある将軍のわずかな失敗を咎め立てして、報奨を削ったりしている為であり、ケチンボで陰険な人物として、軍人達に大いに嫌われていた。
取り分け、軍部のトップである大将軍ステルポイジャンは事あるごとにラシャレーと対立し、国王の後継者問題でもラシャレーの思い通りにゴルゾーラが王位についたら、益々ラシャレーの権力が増大してしまう、それでは、自分の立場が危ういという事で、末子のフィルハンドラに肩入れする事になった。
こうして、外野が長男派と末子派に別れて、派閥を造りはじめた。
で、どちらにも属さない人間も当然いるわけで、それらの人々は何となく、次子のエレナを押し立てるようになったのである。
迷惑なのは長男のゴルゾーラであろう。既に皇太子として、父の手伝いをし、順当に行けば何の問題もなく国王の地位に登れたものが、応援するラシャレーが嫌われ者のばかりに、それも安閑としたものでは無くなってきた。
しかしながら、家来が殿様を押し立てるのは、大体、その結果自分が旨い汁が吸えるからに決まっており、古往今来、洋の東西を問わない事である。誰かや何かを推奨する人間がいれば、そうする事で、当人に何がしかの利益があるんだと考えてほぼ間違いない。まして乱世、下剋上の風潮とともに、その争いは露骨であり、敵対者を暗殺しようという陰謀等の流言、風説まで飛び始めている。
遠出の時にバンケルク将軍からロキは、そういうゴロデリア王国の内情を聞かされたのである。
また、現在、王女エレナの身辺にも敵対者側のスパイが入り込んでいる情勢で、暗殺計画の情報が自分のところにも聞こえて来ている。いずれ頼み事をすることもあると思うので頼みにしている、ともバンケルク将軍は言った。
ロキの話を聞きながら、ハンベエは心の中でボヤいていた。
(えーと、国王がバブル六世で、長男がゴルゾーラで、二番目がエレナ、末子がフィルハンドラ、宰相がラシャレーで、大将軍がステルポイジャン、それにロキにバンケルクにシンバ・・・・・・俺の名前はハンベエ、登場人物多過ぎ、何人か斬っちまおうかな?・・・・・・おっと、お師匠様の御名はフデン、これだけは忘れてはならない・・・・・・っと)
遠出から、一週間後、ロキは将軍から突然王女への手紙を託されたのである。
将軍のためにゲッソリナから特別の品物を取り寄せるためという別の理由を仕立てて、ロキはタゴロロームを後にした。タゴロロームからゲッソリナへは大人でも十日の旅程だが、ロキは急ぎに急いで五日でやって来たのであった。
長い長いロキの話を聞き終えると、ハンベエは首を捻りながら、
「だが、そういう手紙だったら、ああいう届け方はどうだったのかな? バンケルク将軍からの手紙だとかなり喧伝してしまったわけだが、まずくはないのかな?」
と尋ねた。
「もちろん、こっそり渡せればいいに決まってたけど、他に方法は無かったと思うけど・・・・・・。」
「そらそうだ。」
ハンベエはニヤッと笑って、後は黙った。
襲撃してきた五人は何者かと考える。明らかに手紙に関係しているだろう事は疑いようもない。王女エレナの手の者でない事は襲撃者がロキを生け捕りにしようとした事から明らかだ。恐らく手紙の内容が知りたかったのだろう。
とすれば、ゴルゾーラ派か、フィルハンドラ派という事になる。
「現在、王宮にいるのはゴルゾーラ派、フィルハンドラ派、どっちなんだい?」
ハンベエがロキに尋ねる。
「どっちも王宮にいるよ。宰相のラシャレーは当然、王宮に詰めて政務を執ってるし、大将軍のステルポイジャンは王宮警護の任に着いてる。ステルポイジャンの王宮警護は地方での反乱を恐れるラシャレーの策謀だとも言われてるけど、ステルポイジャンとしても、ラシャレーに王様の側近くでハカリゴトをめぐらされるのを防ぐために、王宮警護の任に着いてるとも言われてる・・・・・・お互いポケットから何かスリ取られないように、手を掴み合ってるって感じだね。・・・・・・でも、皇太子のゴルゾーラは東方にある都市ボルマンスクの守備軍団長の任に着いてるし、末子のフィルハンドラは南方守備軍の軍団長をしていて、ゲッソリナにはいない。もっとも、フィルハンドラは十五歳なのでお飾りだろうけどね。軍歴を付けようというステルポイジャンの差し金さ。」
「十五歳か。ふうん、そういえば、ロキは幾つなんだ。」
「オイラ・・・・・・オイラは十二だけど。」
「十二か、お前中々大した奴だな。」
「え?、誉められてるのかなあ?、ハンベエは何歳なの?」
「おれは二十歳だ。」
「ハンベエ、これから、どうする?」
「どうする?・・・・・・って、とりあえず、襲って来た奴らの黒幕を突き止めて、襲わないようにしなければならないだろうな。」
「退治しちゃうの?」
「ふふ、退治か。ちょっと敵がでか過ぎるかもな。」
「ええ、でも王女様に味方して、力を合わせればいいんじゃないの?」
「うん? ロキはやはり王女派か?」
「ハンベエは王女様の敵なの?、オイラは断然王女様派だね。だって、あんな綺麗な人を初めて見たよお。きっと女神の生まれ変わりだよ。ハンベエも王女様の味方だよね。」
「今のところ、王女は敵ではないが・・・・・・俺は、そうだな、ロキ派という事にしておこう。ところで、敵の狙いは、今のところ、ロキ、お前だよ。・・・・・・まっ、俺が守ってやるから安心しろ。」
「うん、頼りにしてるよハンベエ。」
(感触では、王位継承で優位に立っているのはゴルゾーラだ。劣勢のフィルハンドラが、第三勢力にそれほど警戒する余裕はないはず・・・・・・むしろ、フィルハンドラとエレナの提携を恐れるゴルゾーラ派がエレナの動きに警戒するはずだ。とすると、宰相のラシャレーの手先だった疑いが濃厚だな。)
ロキの話から、ハンベエはこう考えた。
とロキが語った話は以下のような事だった。
そうやって毎日タゴロロームの兵隊相手に小商いをしているうちに、バンケルク将軍の目に止まって、時々、バンケルク将軍の部屋に呼ばれ、食事をご馳走になったり、町への日用品の買い出しを頼まれたりしたりしていた。
そうして、一月ほど過ぎたある日、気晴らしに馬で遠出しようという話になり、バンケルク将軍の馬の後ろに乗せてもらって、二人きりで出かけた。
その遠出の時に、バンケルク将軍から、意外な話を聞かされたのである。
現在ゴロデリア王国は国王のバブル六世が六十三歳、高齢とまではいかないが、病気ガチなので後継者に争いが生じている。後継者候補は三人、長男であり太子であるゴルゾーラ、次子のエレナ、末子のフィルハンドラである。そして、それぞれを推戴する勢力がいて、内乱の兆が生じているというのである。 ゴルゾーラを推すのは宰相のラシャレーの勢力である。理由は長男であり、太子であり、かつ、年齢が三十二歳で、既にバブル六世に代わり、何度もゴロデリア防衛戦を戦った有能な将軍であるという事。至極真っ当な人選である。
だが、このラシャレーという宰相、多くの者に嫌われている人物なのだ。特に軍部から憎まれている。理由は、戦利品の国庫への納付等を厳しく言ったり、功績のある将軍のわずかな失敗を咎め立てして、報奨を削ったりしている為であり、ケチンボで陰険な人物として、軍人達に大いに嫌われていた。
取り分け、軍部のトップである大将軍ステルポイジャンは事あるごとにラシャレーと対立し、国王の後継者問題でもラシャレーの思い通りにゴルゾーラが王位についたら、益々ラシャレーの権力が増大してしまう、それでは、自分の立場が危ういという事で、末子のフィルハンドラに肩入れする事になった。
こうして、外野が長男派と末子派に別れて、派閥を造りはじめた。
で、どちらにも属さない人間も当然いるわけで、それらの人々は何となく、次子のエレナを押し立てるようになったのである。
迷惑なのは長男のゴルゾーラであろう。既に皇太子として、父の手伝いをし、順当に行けば何の問題もなく国王の地位に登れたものが、応援するラシャレーが嫌われ者のばかりに、それも安閑としたものでは無くなってきた。
しかしながら、家来が殿様を押し立てるのは、大体、その結果自分が旨い汁が吸えるからに決まっており、古往今来、洋の東西を問わない事である。誰かや何かを推奨する人間がいれば、そうする事で、当人に何がしかの利益があるんだと考えてほぼ間違いない。まして乱世、下剋上の風潮とともに、その争いは露骨であり、敵対者を暗殺しようという陰謀等の流言、風説まで飛び始めている。
遠出の時にバンケルク将軍からロキは、そういうゴロデリア王国の内情を聞かされたのである。
また、現在、王女エレナの身辺にも敵対者側のスパイが入り込んでいる情勢で、暗殺計画の情報が自分のところにも聞こえて来ている。いずれ頼み事をすることもあると思うので頼みにしている、ともバンケルク将軍は言った。
ロキの話を聞きながら、ハンベエは心の中でボヤいていた。
(えーと、国王がバブル六世で、長男がゴルゾーラで、二番目がエレナ、末子がフィルハンドラ、宰相がラシャレーで、大将軍がステルポイジャン、それにロキにバンケルクにシンバ・・・・・・俺の名前はハンベエ、登場人物多過ぎ、何人か斬っちまおうかな?・・・・・・おっと、お師匠様の御名はフデン、これだけは忘れてはならない・・・・・・っと)
遠出から、一週間後、ロキは将軍から突然王女への手紙を託されたのである。
将軍のためにゲッソリナから特別の品物を取り寄せるためという別の理由を仕立てて、ロキはタゴロロームを後にした。タゴロロームからゲッソリナへは大人でも十日の旅程だが、ロキは急ぎに急いで五日でやって来たのであった。
長い長いロキの話を聞き終えると、ハンベエは首を捻りながら、
「だが、そういう手紙だったら、ああいう届け方はどうだったのかな? バンケルク将軍からの手紙だとかなり喧伝してしまったわけだが、まずくはないのかな?」
と尋ねた。
「もちろん、こっそり渡せればいいに決まってたけど、他に方法は無かったと思うけど・・・・・・。」
「そらそうだ。」
ハンベエはニヤッと笑って、後は黙った。
襲撃してきた五人は何者かと考える。明らかに手紙に関係しているだろう事は疑いようもない。王女エレナの手の者でない事は襲撃者がロキを生け捕りにしようとした事から明らかだ。恐らく手紙の内容が知りたかったのだろう。
とすれば、ゴルゾーラ派か、フィルハンドラ派という事になる。
「現在、王宮にいるのはゴルゾーラ派、フィルハンドラ派、どっちなんだい?」
ハンベエがロキに尋ねる。
「どっちも王宮にいるよ。宰相のラシャレーは当然、王宮に詰めて政務を執ってるし、大将軍のステルポイジャンは王宮警護の任に着いてる。ステルポイジャンの王宮警護は地方での反乱を恐れるラシャレーの策謀だとも言われてるけど、ステルポイジャンとしても、ラシャレーに王様の側近くでハカリゴトをめぐらされるのを防ぐために、王宮警護の任に着いてるとも言われてる・・・・・・お互いポケットから何かスリ取られないように、手を掴み合ってるって感じだね。・・・・・・でも、皇太子のゴルゾーラは東方にある都市ボルマンスクの守備軍団長の任に着いてるし、末子のフィルハンドラは南方守備軍の軍団長をしていて、ゲッソリナにはいない。もっとも、フィルハンドラは十五歳なのでお飾りだろうけどね。軍歴を付けようというステルポイジャンの差し金さ。」
「十五歳か。ふうん、そういえば、ロキは幾つなんだ。」
「オイラ・・・・・・オイラは十二だけど。」
「十二か、お前中々大した奴だな。」
「え?、誉められてるのかなあ?、ハンベエは何歳なの?」
「おれは二十歳だ。」
「ハンベエ、これから、どうする?」
「どうする?・・・・・・って、とりあえず、襲って来た奴らの黒幕を突き止めて、襲わないようにしなければならないだろうな。」
「退治しちゃうの?」
「ふふ、退治か。ちょっと敵がでか過ぎるかもな。」
「ええ、でも王女様に味方して、力を合わせればいいんじゃないの?」
「うん? ロキはやはり王女派か?」
「ハンベエは王女様の敵なの?、オイラは断然王女様派だね。だって、あんな綺麗な人を初めて見たよお。きっと女神の生まれ変わりだよ。ハンベエも王女様の味方だよね。」
「今のところ、王女は敵ではないが・・・・・・俺は、そうだな、ロキ派という事にしておこう。ところで、敵の狙いは、今のところ、ロキ、お前だよ。・・・・・・まっ、俺が守ってやるから安心しろ。」
「うん、頼りにしてるよハンベエ。」
(感触では、王位継承で優位に立っているのはゴルゾーラだ。劣勢のフィルハンドラが、第三勢力にそれほど警戒する余裕はないはず・・・・・・むしろ、フィルハンドラとエレナの提携を恐れるゴルゾーラ派がエレナの動きに警戒するはずだ。とすると、宰相のラシャレーの手先だった疑いが濃厚だな。)
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