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二十三 分かれ道(その四)
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話し終えたハンベエは金貨を十枚取り出して、ノートルダに渡そうとした。が、ノートルダは大きく手を振って、
「いらんいらん、金ならある。」
と言って、懐から、持ち重りしそうな皮袋を取り出して見せた。中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
「フデン将軍にお別れの時にいただいたものじゃ、一銭だって使っちゃおらん。ところで、あんた、名は?」
「俺の名はハンベエ。」
「ハンベエ・・・・・・フナジマ広場百人斬りのハンベエか?」
「いかにも。実際斬ったのは三十七人だがね。」
「そうかあんたが・・・・・・なるほど・・・・・・なるほど。」
「老人、今日はいい話を聞かせてくれてありがとう。そのガストランタって奴には、いずれ天罰が降るだろうから、安心してくれ。今日はこれで帰るが、又フデン将軍の話を聞かせてくれ。」
ハンベエはそう言うと立ち上がって歩き出そうとしたが、ふと、思い出したように振り返って言った。
「そうそう、老人。色々と好き嫌いはあるんだろうが、風呂はやっぱりいいもんだよ。」
宿屋に帰ったハンベエは、『ヨシミツ』を抜いて、しばし眺めた。
(これは、ガストランタって奴を斬れという天の声なんだろうな。だが明後日には、ロキの供でタゴロロームに出立しなければならない。・・・・・・まあ、そのうち、機会があるだろう。)
すぐさま、ガストランタを捜し出し、師のフデンの受けた仕打ちに対する落とし前をつけたい気持ちをハンベエはぐっと押さえた。いや、というより、ガストランタを斬り捨てる時は、慌てなくとも必ずやって来る、そういう確信のようなものがハンベエの胸に湧いていた。
(慌てる必要は無い。)
ハンベエは静かに『ヨシミツ』を鞘に収めた。
ベッドに横たわって、浅い眠りを取ってる内にかなりの時間が過ぎたとみえ、ロキが快活そうな足音を立てて帰って来た。
「順調順調、予定どおり明後日の朝に出発できるよ。」
部屋に入って来るなりロキが言った。いかにも楽しそうである。
「ハンベエ、馬車を手配したよ。借り物だけど。」
「馬車、良くそんなものが借りられたな。」
「へへへ、そこがこのオイラの才覚だよお。実は、ゲッソリナからタゴロロームに運ぶ軍馬が三頭ばかりあったんだけど、道中物騒だろう。馬を運ぶ役目を仰せつかったゴロデリアの下っぱ兵士と取引したんだよお。タゴロロームに連れてく馬を道中の間だけ馬車用に使わせてくれれば、腕利きの用心棒が同行するよおって。」
「三頭だけ馬を運ぶというのも、中途半端で妙な話だな。」
「さあ、その辺の事情はオイラにとって興味ないところだよ。とにかく、馬を運ぶ命令を受けた馬係の兵士はたったの一人。あの物騒なゲッソゴロロ街道を馬三頭一人で運んで行けって命令だから、無理な注文だよお。ある種のいじめかも。心細がっていた兵士にハンベエの名前を出したらイチコロだったよお。」
「そんな情報どこから仕入れてくるんだ。」
「何となくだよお。オイラ、王宮滞在中にも女官や兵士の人達に焼き芋やら、ビスケットやら売って回って商売してたから、たまたまそういう情報が耳に入ったってわけ。あれ、オイラが王宮で商売してたの知らなかったけ?・・・・・・そう言えば、ハンベエ、イザベラと戦った後、病気になって大変だったもんね。」
「ふむ。」
ハンベエは苦い顔をした。不覚というべきなのであろう。自分自身まだまだ未熟と感じさせられた経験であった。その反面、そのおかげで更に強くなれたとも感じているが、一つ間違えばオダブツだった事に違いはない。運が良かったのだ。
「荷馬車の方は丁度不要になったのが王宮に有って、只で手に入ったし、いう事なしさ。」
「ほう、どんな才覚だ。」
「へへん、そっちは王女様のツテだよん。とかくこの世は義理人情、持ちつ持たれつってわけさ。何と言ってもコネが大事だね。」
ロキは自慢気に言ったが、言い方がひどく幼くて嫌味な感じがしない。憎めない奴だ。ハンベエも苦笑するばかりだ。
「そう言えば、昨日ベルゼリット城近くで、斬り捨てられた兵士の死体が十何人も出たって聞いたけど・・・・・・。」
「ベルゼリット城っていうのはあの近くなのか。」
「やっぱりハンベエなんだあ。」
「まあな。ベルガン一派の残党らしい。」
「ところで、ロキ、ガストランタって奴を知ってるか?」
「ガストランタ・・・・・・ん?、どこかで聞いた名前だよお。・・・・・・あ、そうだ、ステルポイジャンの右腕と呼ばれてる将軍だよお。そういえば、フデン将軍の一番弟子だと言われてたんだ。どうして、今まで、思い出さなかったんだろう。ハンベエのお師匠さんもフデンって人だったんだよね。そうすると、ハンベエはガストランタとユカリがある事になるね。」
「奴は偽者だ。」
「ニセモノ?」
ハンベエは昨日ガストランタに出会ってからノートルダに話を聞いた事までをロキに話した。
「へえー、悪い奴なんだね、ガストランタって。でもこうして、ハンベエに出会っちゃうなんて、これこそテンモウカイカイソニシテモラサズってやつだね。・・・・・・あっ、そうだ、これでハンベエのお師匠さんがフデン将軍だって事がはっきりしたねえ。」
「そうだな。しかし、お師匠様はなぜそういう話をなさらなかったのかな?」
「どうでも良かったんじゃない。」
「どうでも良かった?」
「過ぎた昔の栄光を引きずって自慢話で世を過ごすような老人じゃなかったって事さ。うーん、ますますフデン将軍の株が上がる逸話だねえ。それはそうと、ハンベエはガストランタをぶった斬っちゃうんでしょう?」
「まあな。」
「出発は明後日だから明日一日しかないよお。」
「そんなに慌てて斬りに行かないよ。」
「ええ?、いきなりバッサリやっちゃうんじゃないのお?」
「相手はゴロデリア王国の将軍だぜ。いきなりバッサリはマズイだろう。」
「あらあら、ハンベエらしくないセリフだよお。ガストランタは悪い奴と決まったわけだから、後先考えずに斬りに行くのかと思ったよお。」
「いや、いずれ斬る。しかし、慌てない事にしたのさ。機会はいくらでもあるしな。とりあえず、ロキの商売優先で行くよ。」
「何かハンベエちょっと変わったような気がするよお。でも、オイラの事考えてくれてありがとうだよお。明後日の出発がどうなるか、ちょっと心配だった。」
「何、気にするな。予感があるだけだ。いずれ俺はガストランタを斬る。それも戦場で斬る事になりそうだ。」
「それって、ステルポイジャン達と戦うって事?」
「そういう事になるな。近い内にこの国では内乱が起こる気がして来た。」
「そういう話ならオイラも聞いてるよ。・・・・・・王女様大丈夫かなあ、心配だなあ。」
ロキは眉を八の字にして、肩をすくめてみせた。
出発の日が来た。ロキとハンベエはタゴロロームに向かう町の出口で馬車に積み込んだ荷の点検をしていた。荷はガッチリ固定するようにと固く括り止められている。馬車はニ頭立てで、運送を命じられた兵士が御者を勤める事となっていた。残りの一頭はハンベエかロキが手綱を引いて連れて行く事になりそうだ。その兵士、名はパーレルという。ハンベエより一つ年下のウラナリでいかにも気が弱そうな若者だ。兵士には分不相応な立派な装飾の剣を帯びている。
「これが噂のハンベエだよお。ハンベエがいれば百人力、いやいや、千人力。向かうところ敵無し。天上天下怖いもの無し。大船に乗ったつもりですっかり安心していいよお。あ、ハンベエ、この兵隊さんはパーレルっていうんだ。」
「パーレルです。あなたがハンベエさんですか。よろしくお願いします。」
パーレルはペコリと頭を下げて言った。兵士にしては妙に育ちの良さそうな、場違いな雰囲気を持っている。
「ハンベエです。こちらこそよろしくお願いします。」
ハンベエも相手に合わせて、この男にしては丁寧な言葉遣いで言った。
「ハンベエについては、今さら説明不要だよね。近頃めっきり有名人だからねえ。パーレルは、下っぱ兵士だけど実は名門バトリスク一族の出だよ。実は貴族なんだ。」
「バトリスク一族?」
「ハンベエは知らないだろうけど、バトリスクと言えば武門の名門、現在の当主はルノーと言って近衛兵団隊長だよ。」
「王宮警備隊長はステルポイジャンと聞いていたが・・・・・・」
「王宮警備隊は王宮警備隊、近衛兵団は近衛兵団だよ。近衛兵団は王宮にはいないよ。」
「いや、僕はルノー将軍とは遠縁に当たるだけで、それに僕は一族の落ちこぼれで・・・・・・剣も苦手なんです。」
パーレルは俯き気味にボソボソと言った。
「まあいい、ロキ、ハンベエ、パーレルの三人が旅の仲間というわけだ。」
バトリスク一族の話に余り触れられたくなさそうなパーレルの雰囲気を察してハンベエが結んだ。
そこへ、これ又ニ頭立ての馬車がやってきた。馬車から、降りて来たのは王女エレナだった。馬車の周りに最初に出会った時にいた二人の武人も警護に加わっている。
「間に合いました。良かった。」
エレナは馬車から降りるなり、ロキに歩み寄って言った。
それから、胸元からニ通の封書を出して、一通をロキに渡しながら、
「バンケルク将軍への手紙よ。よろしくお願いするわね、ロキさん。」
と言った。ロキは押し戴くように両手で受け取り、
「間違いなくお届けします。」
と答えた。
「他にも旅の手助けになるようにお金等をあげたいところなんだけど、ラシャレー宰相に又皮肉を言われると厭なのでやめておきます。あら、これはこっちの話。」
エレナはいたずらっぽく笑った。次にハンベエに向かい、
「ハンベエさん、向こうに着いたら、バンケルク将軍のところで働いて見ませんか?紹介状を書いておきました。それとも、余計な事かしら?」
ハンベエは何も言わず、黙ってエレナ王女から封書を受け取った。
ハンベエの無愛想な態度にエレナはやれやれっという表情をしたが、特に何も言わず、再びロキの方に行って耳打ちをした。
「パーレルは兵隊に向かないのに、親の言い付けで兵士をやらされている可哀相な人よ。今回の任務だって、部隊の上の方の人のテイのいい厄介払いみたい。気遣ってあげてね。」
「知り合いなのお?」
ロキは少し驚いたようにエレナを見つめた。
「ちょっとね。」
エレナは再びいたずらっぽく笑った。
こうして、一行はタゴロロームに向かった。
「いらんいらん、金ならある。」
と言って、懐から、持ち重りしそうな皮袋を取り出して見せた。中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
「フデン将軍にお別れの時にいただいたものじゃ、一銭だって使っちゃおらん。ところで、あんた、名は?」
「俺の名はハンベエ。」
「ハンベエ・・・・・・フナジマ広場百人斬りのハンベエか?」
「いかにも。実際斬ったのは三十七人だがね。」
「そうかあんたが・・・・・・なるほど・・・・・・なるほど。」
「老人、今日はいい話を聞かせてくれてありがとう。そのガストランタって奴には、いずれ天罰が降るだろうから、安心してくれ。今日はこれで帰るが、又フデン将軍の話を聞かせてくれ。」
ハンベエはそう言うと立ち上がって歩き出そうとしたが、ふと、思い出したように振り返って言った。
「そうそう、老人。色々と好き嫌いはあるんだろうが、風呂はやっぱりいいもんだよ。」
宿屋に帰ったハンベエは、『ヨシミツ』を抜いて、しばし眺めた。
(これは、ガストランタって奴を斬れという天の声なんだろうな。だが明後日には、ロキの供でタゴロロームに出立しなければならない。・・・・・・まあ、そのうち、機会があるだろう。)
すぐさま、ガストランタを捜し出し、師のフデンの受けた仕打ちに対する落とし前をつけたい気持ちをハンベエはぐっと押さえた。いや、というより、ガストランタを斬り捨てる時は、慌てなくとも必ずやって来る、そういう確信のようなものがハンベエの胸に湧いていた。
(慌てる必要は無い。)
ハンベエは静かに『ヨシミツ』を鞘に収めた。
ベッドに横たわって、浅い眠りを取ってる内にかなりの時間が過ぎたとみえ、ロキが快活そうな足音を立てて帰って来た。
「順調順調、予定どおり明後日の朝に出発できるよ。」
部屋に入って来るなりロキが言った。いかにも楽しそうである。
「ハンベエ、馬車を手配したよ。借り物だけど。」
「馬車、良くそんなものが借りられたな。」
「へへへ、そこがこのオイラの才覚だよお。実は、ゲッソリナからタゴロロームに運ぶ軍馬が三頭ばかりあったんだけど、道中物騒だろう。馬を運ぶ役目を仰せつかったゴロデリアの下っぱ兵士と取引したんだよお。タゴロロームに連れてく馬を道中の間だけ馬車用に使わせてくれれば、腕利きの用心棒が同行するよおって。」
「三頭だけ馬を運ぶというのも、中途半端で妙な話だな。」
「さあ、その辺の事情はオイラにとって興味ないところだよ。とにかく、馬を運ぶ命令を受けた馬係の兵士はたったの一人。あの物騒なゲッソゴロロ街道を馬三頭一人で運んで行けって命令だから、無理な注文だよお。ある種のいじめかも。心細がっていた兵士にハンベエの名前を出したらイチコロだったよお。」
「そんな情報どこから仕入れてくるんだ。」
「何となくだよお。オイラ、王宮滞在中にも女官や兵士の人達に焼き芋やら、ビスケットやら売って回って商売してたから、たまたまそういう情報が耳に入ったってわけ。あれ、オイラが王宮で商売してたの知らなかったけ?・・・・・・そう言えば、ハンベエ、イザベラと戦った後、病気になって大変だったもんね。」
「ふむ。」
ハンベエは苦い顔をした。不覚というべきなのであろう。自分自身まだまだ未熟と感じさせられた経験であった。その反面、そのおかげで更に強くなれたとも感じているが、一つ間違えばオダブツだった事に違いはない。運が良かったのだ。
「荷馬車の方は丁度不要になったのが王宮に有って、只で手に入ったし、いう事なしさ。」
「ほう、どんな才覚だ。」
「へへん、そっちは王女様のツテだよん。とかくこの世は義理人情、持ちつ持たれつってわけさ。何と言ってもコネが大事だね。」
ロキは自慢気に言ったが、言い方がひどく幼くて嫌味な感じがしない。憎めない奴だ。ハンベエも苦笑するばかりだ。
「そう言えば、昨日ベルゼリット城近くで、斬り捨てられた兵士の死体が十何人も出たって聞いたけど・・・・・・。」
「ベルゼリット城っていうのはあの近くなのか。」
「やっぱりハンベエなんだあ。」
「まあな。ベルガン一派の残党らしい。」
「ところで、ロキ、ガストランタって奴を知ってるか?」
「ガストランタ・・・・・・ん?、どこかで聞いた名前だよお。・・・・・・あ、そうだ、ステルポイジャンの右腕と呼ばれてる将軍だよお。そういえば、フデン将軍の一番弟子だと言われてたんだ。どうして、今まで、思い出さなかったんだろう。ハンベエのお師匠さんもフデンって人だったんだよね。そうすると、ハンベエはガストランタとユカリがある事になるね。」
「奴は偽者だ。」
「ニセモノ?」
ハンベエは昨日ガストランタに出会ってからノートルダに話を聞いた事までをロキに話した。
「へえー、悪い奴なんだね、ガストランタって。でもこうして、ハンベエに出会っちゃうなんて、これこそテンモウカイカイソニシテモラサズってやつだね。・・・・・・あっ、そうだ、これでハンベエのお師匠さんがフデン将軍だって事がはっきりしたねえ。」
「そうだな。しかし、お師匠様はなぜそういう話をなさらなかったのかな?」
「どうでも良かったんじゃない。」
「どうでも良かった?」
「過ぎた昔の栄光を引きずって自慢話で世を過ごすような老人じゃなかったって事さ。うーん、ますますフデン将軍の株が上がる逸話だねえ。それはそうと、ハンベエはガストランタをぶった斬っちゃうんでしょう?」
「まあな。」
「出発は明後日だから明日一日しかないよお。」
「そんなに慌てて斬りに行かないよ。」
「ええ?、いきなりバッサリやっちゃうんじゃないのお?」
「相手はゴロデリア王国の将軍だぜ。いきなりバッサリはマズイだろう。」
「あらあら、ハンベエらしくないセリフだよお。ガストランタは悪い奴と決まったわけだから、後先考えずに斬りに行くのかと思ったよお。」
「いや、いずれ斬る。しかし、慌てない事にしたのさ。機会はいくらでもあるしな。とりあえず、ロキの商売優先で行くよ。」
「何かハンベエちょっと変わったような気がするよお。でも、オイラの事考えてくれてありがとうだよお。明後日の出発がどうなるか、ちょっと心配だった。」
「何、気にするな。予感があるだけだ。いずれ俺はガストランタを斬る。それも戦場で斬る事になりそうだ。」
「それって、ステルポイジャン達と戦うって事?」
「そういう事になるな。近い内にこの国では内乱が起こる気がして来た。」
「そういう話ならオイラも聞いてるよ。・・・・・・王女様大丈夫かなあ、心配だなあ。」
ロキは眉を八の字にして、肩をすくめてみせた。
出発の日が来た。ロキとハンベエはタゴロロームに向かう町の出口で馬車に積み込んだ荷の点検をしていた。荷はガッチリ固定するようにと固く括り止められている。馬車はニ頭立てで、運送を命じられた兵士が御者を勤める事となっていた。残りの一頭はハンベエかロキが手綱を引いて連れて行く事になりそうだ。その兵士、名はパーレルという。ハンベエより一つ年下のウラナリでいかにも気が弱そうな若者だ。兵士には分不相応な立派な装飾の剣を帯びている。
「これが噂のハンベエだよお。ハンベエがいれば百人力、いやいや、千人力。向かうところ敵無し。天上天下怖いもの無し。大船に乗ったつもりですっかり安心していいよお。あ、ハンベエ、この兵隊さんはパーレルっていうんだ。」
「パーレルです。あなたがハンベエさんですか。よろしくお願いします。」
パーレルはペコリと頭を下げて言った。兵士にしては妙に育ちの良さそうな、場違いな雰囲気を持っている。
「ハンベエです。こちらこそよろしくお願いします。」
ハンベエも相手に合わせて、この男にしては丁寧な言葉遣いで言った。
「ハンベエについては、今さら説明不要だよね。近頃めっきり有名人だからねえ。パーレルは、下っぱ兵士だけど実は名門バトリスク一族の出だよ。実は貴族なんだ。」
「バトリスク一族?」
「ハンベエは知らないだろうけど、バトリスクと言えば武門の名門、現在の当主はルノーと言って近衛兵団隊長だよ。」
「王宮警備隊長はステルポイジャンと聞いていたが・・・・・・」
「王宮警備隊は王宮警備隊、近衛兵団は近衛兵団だよ。近衛兵団は王宮にはいないよ。」
「いや、僕はルノー将軍とは遠縁に当たるだけで、それに僕は一族の落ちこぼれで・・・・・・剣も苦手なんです。」
パーレルは俯き気味にボソボソと言った。
「まあいい、ロキ、ハンベエ、パーレルの三人が旅の仲間というわけだ。」
バトリスク一族の話に余り触れられたくなさそうなパーレルの雰囲気を察してハンベエが結んだ。
そこへ、これ又ニ頭立ての馬車がやってきた。馬車から、降りて来たのは王女エレナだった。馬車の周りに最初に出会った時にいた二人の武人も警護に加わっている。
「間に合いました。良かった。」
エレナは馬車から降りるなり、ロキに歩み寄って言った。
それから、胸元からニ通の封書を出して、一通をロキに渡しながら、
「バンケルク将軍への手紙よ。よろしくお願いするわね、ロキさん。」
と言った。ロキは押し戴くように両手で受け取り、
「間違いなくお届けします。」
と答えた。
「他にも旅の手助けになるようにお金等をあげたいところなんだけど、ラシャレー宰相に又皮肉を言われると厭なのでやめておきます。あら、これはこっちの話。」
エレナはいたずらっぽく笑った。次にハンベエに向かい、
「ハンベエさん、向こうに着いたら、バンケルク将軍のところで働いて見ませんか?紹介状を書いておきました。それとも、余計な事かしら?」
ハンベエは何も言わず、黙ってエレナ王女から封書を受け取った。
ハンベエの無愛想な態度にエレナはやれやれっという表情をしたが、特に何も言わず、再びロキの方に行って耳打ちをした。
「パーレルは兵隊に向かないのに、親の言い付けで兵士をやらされている可哀相な人よ。今回の任務だって、部隊の上の方の人のテイのいい厄介払いみたい。気遣ってあげてね。」
「知り合いなのお?」
ロキは少し驚いたようにエレナを見つめた。
「ちょっとね。」
エレナは再びいたずらっぽく笑った。
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