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九十四 右往左往に陽は落ちて
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しかしながら、ロバは『イーアー(然り)』と鳴いた。
(byニーチェ『ツァラツストラかく語りき』)
ハンベエが怒りに狂った振りの芝居を続けていた頃(もっとも、内心本当に怒っていたのかも知れない。エレナに濡れ衣を着せようという陰謀は、ハンベエならずとも憤激して、少しもおかしくない話である。)、もう一人、本当に怒り狂っていた人物がいた。
ゴロデリア王国宰相ラシャレーである。ラシャレーはルノー将軍を追い返した後も執務を続けていた。王女エレナが国王バブル六世を見舞ってくれたと云う。自分の真情を理解してくれたのだと、この嫌われ者の老宰相は気分を良くしていた。国王の衰弱ぶりには酷く心を痛めていたが、その一方で近頃すき間風の吹いていたように思われた国王と王女の間に何やら橋渡しが出来たような気がして、長年の忠節も少し報われたような気がしたのである。
辛辣で容赦の無い陰謀政治家である一方、王家への忠節には微塵も私心の無いラシャレーであった。そして、兵士達の横暴には厳しい姿勢を取っているが、ゴロデリア王国の民の繁栄を願う老人でもあった。ラシャレーには信念があった。王国の民の繁栄は王国の栄光であり、そして王家の栄光であると。宰相である自分の責務は民の繁栄を第一にし、王国王家の栄光をより強く輝かせる事であると。
だが、王女が国王を見舞い、その座を下がった瞬間から状況が一変した。『声』が出し抜けにやって来て、王宮警備隊の動きが不穏であるから直ぐ様脱出してくれと言って来た。事情の説明を求めるラシャレーに対し、『声』は『火急の場合、御容赦』とばかり強引に老宰相を執務室から運び出した。ラシャレーは無理矢理長持ちのような箱に押し込められ、行政文書と偽って運び出されたのであった。王宮警備隊がラシャレーの身柄を捕らえようと宰相の執務室に踏み込んで来たのは将にその直後。間一髪、『声』の果断な行動でラシャレーは窮地を免れたのであった。
今、ラシャレーはゲッソリナ郊外東端に位置する原っぱにいた。サイレント・キッチンの部隊員達も其処に集結していた。東にある太子ゴルゾーラの治める都市ボルマンスクに向かう街道の直ぐ側である。
「如何に王宮警備隊が襲って来ようとサイレント・キッチンたるもの対抗できなかったのか。」
ラシャレーは『声』に言った。忿懣やる方ないと憤っているようだ。
「閣下、それは無理でしたな。」
「何故じゃ。」
「人数的に勝負になりませんでした。」
「サイレント・キッチンもそれなりの人数が居るはずじゃぞ。」
「あの時、王宮内にいたサイレント・キッチンの手の者は僅かなものでしたな。」
「何?・・・・・・。」
「お忘れですかな閣下。あの時、サイレント・キッチンの大部分はルノー将軍の率いる近衛兵団を監視するために、ほとんど出払っていたですな。」
「何と・・・・・・ルノーの奴輩のせいで。」
ラシャレーは心底苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。悔しくてならない様子である。
「今からでも、王宮に攻撃をかけて取り戻す事は出来ぬか。」
ラシャレーが『声』を顧みて言った。
「無理ですな。王宮警備隊が要所を固めています。ともかく、敵の情報を集めていますので、お待ち下さい。」
「そう云えば、姫は無事か?」
「分かりませんな。しかし、まだ捕まったとは聞きませんな。」
「ワシだけでなく、姫も脱出させられなかったのか。」
「我等サイレント・キッチンの主は宰相閣下。閣下の安全を優先しましたな。」
「しかし、姫が危難に陥ったのはワシが国王陛下への見舞いを勧めた為でもある。」
「王女様は、ハンベエの部屋にいましたな。あの人物に近付くのは剣呑。気が進みませんでしたな。」
「姫はハンベエと居たのか? ではハンベエが姫を守ってくれようぞ。」
「それは分かりませんな。ハンベエと姫はバンケルクの件でしっくり行って無かったのでは。」
「むう・・・・・・しかし・・・・・・。」
「元々ハンベエは風来坊。王女を守るために命まで賭ける理由はありませんな。」
「では、ステルポイジャンに寝返ると?」
「それも分かりませんな。まあ閣下、あれこれ気を煩わせず、情報が集まるのをお待ち戴きますな。その上で、手当てを施すしかありませんな。」
「しかし、ハンベエと云う若者、窮地に有る姫を見放すような、そんな若者とも思えん。」
「王女様に掛けられた嫌疑は国王陛下の毒殺となっていますな。果たして、ハンベエがそれでも王女様を庇うかは分からないところですな。意外とステルポイジャン側に付いたりする事も考えられますな。」
「馬鹿な、有り得ん。」
「何はともあれ、情報収集中ですので、お待ち戴くしかありませんな。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは不愉快そうに口を歪めて黙り込んだ。しかし、直ぐに別の尋ね事を始めた。
「そう云えば、王妃の執事の部下を調べる件、いかが致した。」
「これは、失礼しましたな。すっかり忘れておりましたな。その件なら、午前中の内に身柄を捕らえ、泥を吐かせましたな。」
「何を喋った?」
「それが何と驚く事に。王妃はかなり前から、侍医ドーゲンに命じて、国王陛下に毒を盛ってその健康を奪い、お命を縮め参らせていた事が判明しましたな。」
「何だと! そのような事が・・・・・・国王陛下の衰弱ぶり、ただ事ではないと思っておったが。しかし、その男の申している事マコトなのか?」
「それが、今となっては本当の事を喋ったのかどうか確認できない状態になっておりますな。」
「どういう事だ?」
「いや何と言いますかな、男を喋らせる為に少しばかり荒っぽい拷問を。」
「死んだのか?」
「いえ、死にはしませんな。死にはしませんが・・・・・・。」
『声』は言い淀んだ。相当気まずい顔付き・・・・・・おっと顔は頭巾で見えないんだった。気まずい様子だった。
「どうしたというのだ。」
「・・・・・・クルクルパーになってしまいましたな。」
「クルクルパー?」
「その・・・・・・精神に異常をきたしましたな・・・・・・わけの分からない歌など歌い出しまして・・・・・・。」
「わけの分からない歌?」
「一例を挙げれば、『チョウチョウ、モウチョウ、タイチョウはダッチョウ』とか『サクラ、サクラ、ヤオヤノタナニ』とか」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「一体どんな拷問にかけたのじゃ?」
「それは知らない方がよろしいかと思いますな。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは黙った。『声』も黙った。二人の間には重苦しい空気が流れた。重苦しさに耐え兼ねたのか、『声』は口実を設けてその場から去って行った。やれやれ、『声』にもそんな神経があったらしい。
それから、三時間ほどしたであろうか。ラシャレーの前に再び『声』が現れた。
「良い報せが二つほど有りますな。」
『声』は先程の重苦しい空気から受けたダメージから立ち直ったのか、いつもの抑揚の無い声で言った。
「ほう、良い報せか。国王陛下が生き返りでもしたかな?」
ラシャレーが皮肉っぽい言い方で応じる。
「流石にそれはありませんな。一つは王女様、どうやら無事に王宮を脱出したようですな。」
「そうか。ホッとしたぞ。」
「それでもう一つですな。ベルゼリット城に潜入させていたボーンがドーゲンをかっ攫って来ました。」
「おお、それは大殊勲だ。今度は変な拷問に掛けてクルクルパーにしてはならぬぞ。」
「聞き取りの方は既にある程度終わっておりますな。ドーゲンの話を纏めると今回の国王陛下毒殺の真相は次のようになりますな。元々王妃モスカ夫人と通謀していたドーゲンは何年も前から遅効性の毒を使って国王陛下のお命を少しずつ縮め参らせておりましたな。しかし、今朝連絡を取っていたフーシエの部下が攫われましたな。我々の仕業ですな。王妃は陰謀がバレたと大慌て、こうなればいっその事誰かの仕業にしてしまえ。どうせなら、憎いレーナの娘エレナの仕業にしてしまえ! となったようですな。モスカ夫人は王女様に異常な憎しみを持っているようですな。しかし、少し不審に思ったのはドーゲンが何故か王女様が国王陛下を見舞う事を知っていた事。どうして知ったのか後で確認しますな。」
「ワシが知らせたのじゃ。」
ラシャレーが苦い顔で言った。
「閣下が。」
「国王陛下の容態が心配でな。」
「そうでしたか。ともかく、王女に罪をなすりつける事に決めたドーゲンは王女が退席した後、陛下に劇薬を飲ませ、王女様が陛下に差し出したカップに細工して、王宮警備隊に訴えて出た、という事ですな。」
「今回の企てに加担した者は?」
「王妃、ガストランタ、ドーゲン、ニーバルの四人のようですな。」
「ステルポイジャンは?」
「ステルポイジャン将軍はどうも蚊帳の外だったようですな。」
「ふむ、まさかステルポイジャンがと思ったが、そういう事か。それにしても、短い時間で良く喋らせたものだな。今度は拷問が成功したわけだ。」
「それが、向こうの方が聞かれる前からペラペラと喋りましたな。その代わり、ボーンを酷く怖がっていましたな。とにかく何でも喋るからあの男を遠ざけてくれと、まるで毒蛇や蠍のような扱い。よっぽど怖い目に遇わせたようですな。」
「ボーン・・・・・・ハンベエ達と仲良しになってしまったあの男か。偶には仕事もするのじゃな。」
「中々どうして優秀な男ですな。今回は久し振りに奴らしい仕事をしましたな。しかし、王妃側には顔が割れてしまったので、そっち方面には使えなくなりましたな。」
「相手側はボーンの事をそれほどに覚えているものなのか?」
「何しろ、今回ドーゲンの確保に際して、敵の護衛兵士を十七人も始末したという事ですから、かなり強烈な印象ですな。とてもの事に忘れてくれませんな。」
「十七人・・・・・・始末・・・・・・。何とそんな男だったのか。」
ラシャレーは意外そうな顔をした。
「最初から、腕利きと申しておりましたな。それはそうと今後の方針は?」
「今しばらく様子を見るしかあるまい。そうだ、ハンベエがどうしたかは分かっておらぬか。」
「ハンベエはロキと共に王宮から去ったらしいですな。」
長い一日が終わろうとしていた。
早朝、ハンベエやエレナ達が王宮に戻ってからまだ丸一日経っていない。本当にこれがたった一日の事かと思えるほど目まぐるしい一日であった。だが、その長い長い一日も漸く終わる。
そう云えば、おまけのスパルスはどうなったのだろう。・・・・・・まことに残念な事に、この人物は『王女が国王を毒殺した』という話を聞き、身の危険を感じると直ぐに逃げ出してしまった。しかしながら運の無い事には、王宮警備隊から追っ手が掛かり、抗弁する間も無く膾のように切り刻まれて命を落としてしまった。
どうにも人間とは分からないものである。乱世であった。
(byニーチェ『ツァラツストラかく語りき』)
ハンベエが怒りに狂った振りの芝居を続けていた頃(もっとも、内心本当に怒っていたのかも知れない。エレナに濡れ衣を着せようという陰謀は、ハンベエならずとも憤激して、少しもおかしくない話である。)、もう一人、本当に怒り狂っていた人物がいた。
ゴロデリア王国宰相ラシャレーである。ラシャレーはルノー将軍を追い返した後も執務を続けていた。王女エレナが国王バブル六世を見舞ってくれたと云う。自分の真情を理解してくれたのだと、この嫌われ者の老宰相は気分を良くしていた。国王の衰弱ぶりには酷く心を痛めていたが、その一方で近頃すき間風の吹いていたように思われた国王と王女の間に何やら橋渡しが出来たような気がして、長年の忠節も少し報われたような気がしたのである。
辛辣で容赦の無い陰謀政治家である一方、王家への忠節には微塵も私心の無いラシャレーであった。そして、兵士達の横暴には厳しい姿勢を取っているが、ゴロデリア王国の民の繁栄を願う老人でもあった。ラシャレーには信念があった。王国の民の繁栄は王国の栄光であり、そして王家の栄光であると。宰相である自分の責務は民の繁栄を第一にし、王国王家の栄光をより強く輝かせる事であると。
だが、王女が国王を見舞い、その座を下がった瞬間から状況が一変した。『声』が出し抜けにやって来て、王宮警備隊の動きが不穏であるから直ぐ様脱出してくれと言って来た。事情の説明を求めるラシャレーに対し、『声』は『火急の場合、御容赦』とばかり強引に老宰相を執務室から運び出した。ラシャレーは無理矢理長持ちのような箱に押し込められ、行政文書と偽って運び出されたのであった。王宮警備隊がラシャレーの身柄を捕らえようと宰相の執務室に踏み込んで来たのは将にその直後。間一髪、『声』の果断な行動でラシャレーは窮地を免れたのであった。
今、ラシャレーはゲッソリナ郊外東端に位置する原っぱにいた。サイレント・キッチンの部隊員達も其処に集結していた。東にある太子ゴルゾーラの治める都市ボルマンスクに向かう街道の直ぐ側である。
「如何に王宮警備隊が襲って来ようとサイレント・キッチンたるもの対抗できなかったのか。」
ラシャレーは『声』に言った。忿懣やる方ないと憤っているようだ。
「閣下、それは無理でしたな。」
「何故じゃ。」
「人数的に勝負になりませんでした。」
「サイレント・キッチンもそれなりの人数が居るはずじゃぞ。」
「あの時、王宮内にいたサイレント・キッチンの手の者は僅かなものでしたな。」
「何?・・・・・・。」
「お忘れですかな閣下。あの時、サイレント・キッチンの大部分はルノー将軍の率いる近衛兵団を監視するために、ほとんど出払っていたですな。」
「何と・・・・・・ルノーの奴輩のせいで。」
ラシャレーは心底苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。悔しくてならない様子である。
「今からでも、王宮に攻撃をかけて取り戻す事は出来ぬか。」
ラシャレーが『声』を顧みて言った。
「無理ですな。王宮警備隊が要所を固めています。ともかく、敵の情報を集めていますので、お待ち下さい。」
「そう云えば、姫は無事か?」
「分かりませんな。しかし、まだ捕まったとは聞きませんな。」
「ワシだけでなく、姫も脱出させられなかったのか。」
「我等サイレント・キッチンの主は宰相閣下。閣下の安全を優先しましたな。」
「しかし、姫が危難に陥ったのはワシが国王陛下への見舞いを勧めた為でもある。」
「王女様は、ハンベエの部屋にいましたな。あの人物に近付くのは剣呑。気が進みませんでしたな。」
「姫はハンベエと居たのか? ではハンベエが姫を守ってくれようぞ。」
「それは分かりませんな。ハンベエと姫はバンケルクの件でしっくり行って無かったのでは。」
「むう・・・・・・しかし・・・・・・。」
「元々ハンベエは風来坊。王女を守るために命まで賭ける理由はありませんな。」
「では、ステルポイジャンに寝返ると?」
「それも分かりませんな。まあ閣下、あれこれ気を煩わせず、情報が集まるのをお待ち戴きますな。その上で、手当てを施すしかありませんな。」
「しかし、ハンベエと云う若者、窮地に有る姫を見放すような、そんな若者とも思えん。」
「王女様に掛けられた嫌疑は国王陛下の毒殺となっていますな。果たして、ハンベエがそれでも王女様を庇うかは分からないところですな。意外とステルポイジャン側に付いたりする事も考えられますな。」
「馬鹿な、有り得ん。」
「何はともあれ、情報収集中ですので、お待ち戴くしかありませんな。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは不愉快そうに口を歪めて黙り込んだ。しかし、直ぐに別の尋ね事を始めた。
「そう云えば、王妃の執事の部下を調べる件、いかが致した。」
「これは、失礼しましたな。すっかり忘れておりましたな。その件なら、午前中の内に身柄を捕らえ、泥を吐かせましたな。」
「何を喋った?」
「それが何と驚く事に。王妃はかなり前から、侍医ドーゲンに命じて、国王陛下に毒を盛ってその健康を奪い、お命を縮め参らせていた事が判明しましたな。」
「何だと! そのような事が・・・・・・国王陛下の衰弱ぶり、ただ事ではないと思っておったが。しかし、その男の申している事マコトなのか?」
「それが、今となっては本当の事を喋ったのかどうか確認できない状態になっておりますな。」
「どういう事だ?」
「いや何と言いますかな、男を喋らせる為に少しばかり荒っぽい拷問を。」
「死んだのか?」
「いえ、死にはしませんな。死にはしませんが・・・・・・。」
『声』は言い淀んだ。相当気まずい顔付き・・・・・・おっと顔は頭巾で見えないんだった。気まずい様子だった。
「どうしたというのだ。」
「・・・・・・クルクルパーになってしまいましたな。」
「クルクルパー?」
「その・・・・・・精神に異常をきたしましたな・・・・・・わけの分からない歌など歌い出しまして・・・・・・。」
「わけの分からない歌?」
「一例を挙げれば、『チョウチョウ、モウチョウ、タイチョウはダッチョウ』とか『サクラ、サクラ、ヤオヤノタナニ』とか」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「一体どんな拷問にかけたのじゃ?」
「それは知らない方がよろしいかと思いますな。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ラシャレーは黙った。『声』も黙った。二人の間には重苦しい空気が流れた。重苦しさに耐え兼ねたのか、『声』は口実を設けてその場から去って行った。やれやれ、『声』にもそんな神経があったらしい。
それから、三時間ほどしたであろうか。ラシャレーの前に再び『声』が現れた。
「良い報せが二つほど有りますな。」
『声』は先程の重苦しい空気から受けたダメージから立ち直ったのか、いつもの抑揚の無い声で言った。
「ほう、良い報せか。国王陛下が生き返りでもしたかな?」
ラシャレーが皮肉っぽい言い方で応じる。
「流石にそれはありませんな。一つは王女様、どうやら無事に王宮を脱出したようですな。」
「そうか。ホッとしたぞ。」
「それでもう一つですな。ベルゼリット城に潜入させていたボーンがドーゲンをかっ攫って来ました。」
「おお、それは大殊勲だ。今度は変な拷問に掛けてクルクルパーにしてはならぬぞ。」
「聞き取りの方は既にある程度終わっておりますな。ドーゲンの話を纏めると今回の国王陛下毒殺の真相は次のようになりますな。元々王妃モスカ夫人と通謀していたドーゲンは何年も前から遅効性の毒を使って国王陛下のお命を少しずつ縮め参らせておりましたな。しかし、今朝連絡を取っていたフーシエの部下が攫われましたな。我々の仕業ですな。王妃は陰謀がバレたと大慌て、こうなればいっその事誰かの仕業にしてしまえ。どうせなら、憎いレーナの娘エレナの仕業にしてしまえ! となったようですな。モスカ夫人は王女様に異常な憎しみを持っているようですな。しかし、少し不審に思ったのはドーゲンが何故か王女様が国王陛下を見舞う事を知っていた事。どうして知ったのか後で確認しますな。」
「ワシが知らせたのじゃ。」
ラシャレーが苦い顔で言った。
「閣下が。」
「国王陛下の容態が心配でな。」
「そうでしたか。ともかく、王女に罪をなすりつける事に決めたドーゲンは王女が退席した後、陛下に劇薬を飲ませ、王女様が陛下に差し出したカップに細工して、王宮警備隊に訴えて出た、という事ですな。」
「今回の企てに加担した者は?」
「王妃、ガストランタ、ドーゲン、ニーバルの四人のようですな。」
「ステルポイジャンは?」
「ステルポイジャン将軍はどうも蚊帳の外だったようですな。」
「ふむ、まさかステルポイジャンがと思ったが、そういう事か。それにしても、短い時間で良く喋らせたものだな。今度は拷問が成功したわけだ。」
「それが、向こうの方が聞かれる前からペラペラと喋りましたな。その代わり、ボーンを酷く怖がっていましたな。とにかく何でも喋るからあの男を遠ざけてくれと、まるで毒蛇や蠍のような扱い。よっぽど怖い目に遇わせたようですな。」
「ボーン・・・・・・ハンベエ達と仲良しになってしまったあの男か。偶には仕事もするのじゃな。」
「中々どうして優秀な男ですな。今回は久し振りに奴らしい仕事をしましたな。しかし、王妃側には顔が割れてしまったので、そっち方面には使えなくなりましたな。」
「相手側はボーンの事をそれほどに覚えているものなのか?」
「何しろ、今回ドーゲンの確保に際して、敵の護衛兵士を十七人も始末したという事ですから、かなり強烈な印象ですな。とてもの事に忘れてくれませんな。」
「十七人・・・・・・始末・・・・・・。何とそんな男だったのか。」
ラシャレーは意外そうな顔をした。
「最初から、腕利きと申しておりましたな。それはそうと今後の方針は?」
「今しばらく様子を見るしかあるまい。そうだ、ハンベエがどうしたかは分かっておらぬか。」
「ハンベエはロキと共に王宮から去ったらしいですな。」
長い一日が終わろうとしていた。
早朝、ハンベエやエレナ達が王宮に戻ってからまだ丸一日経っていない。本当にこれがたった一日の事かと思えるほど目まぐるしい一日であった。だが、その長い長い一日も漸く終わる。
そう云えば、おまけのスパルスはどうなったのだろう。・・・・・・まことに残念な事に、この人物は『王女が国王を毒殺した』という話を聞き、身の危険を感じると直ぐに逃げ出してしまった。しかしながら運の無い事には、王宮警備隊から追っ手が掛かり、抗弁する間も無く膾のように切り刻まれて命を落としてしまった。
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