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<外伝> 椎名 賢也
椎名 賢也 85 迷宮都市 地下11階 犯人達の思惑
炊き出しの帰り、沙良が明日7パーティーに肉うどんをご馳走すると言う。
俺と旭は材料の買い出しに付き添い、ホームへ戻ったあと冷凍うどんの袋を外す作業を手伝った。
仲良くなった冒険者から、店に行っても午前中で売り切れ肉うどんが食べられないと言われていたので、子供達を支援してくれるお礼の心算なんだろう。
毎食、似たようなメニューを食べている彼らに、同情しているのかも知れないがな。
月曜日。
地下11階で午前中は薬草採取をする沙良と旭と離れ、俺は黙々とりんごを狩る。
ライトボールでりんごを枝から切り離す作業が、魔力操作の練習になって丁度いい。
狙った場所に、適度な威力と大きさを当てるのは中々難しいのだ。
少しでも範囲を誤ると、りんごの葉に当たる。
繊細な技術を要するこの作業は、きっと何かの役に立つだろう。
3時間後、安全地帯に戻ると怪我人が運ばれてきた。
あぁ、この状態は俺も手伝ったほうがいいな。
左足の開放骨折で骨が飛び出ている。
怪我をした本人には、かなりの痛みが襲っている筈だ。
まずは患部がよく見えるようズボンに解体ナイフを入れ、肩を両足で押さえ付けた。
旭が傷口を水で洗い流し、骨の整復を行う。
それからヒールを掛ければ治療完了。
沙良は治療中、思い切り痛そうな顔をして見ているだけでも辛そうだった。
疑問なんだが、骨折した場合でもポーションで治るのか?
今回のような開放骨折は一度整復する必要がありそうだが、そんな知識を異世界人が持っているとは思えない。
それとも教会にいる治癒術師や治療院の人間は、医療に関して多少の心得があるんだろうか?
今後ヒールが使えない状況になった場合に備え、ポーションの効果を試しておくべきか……。
骨折するより脱臼のほうが痛みは少ないよな。
そう思い旭の肩を何気に見つめていたら、
「賢也の顔が怖い!」
旭に引かれてしまった。
いや、お前で試そうと思ったわけじゃないぞ?
旭が治療代をリーダーから受け取り、フォレストベアに突進された話を聞く。
大きな巨体で向かってこられたら、盾を持っていても防ぎきれないよな。
鋭い爪だけじゃなく、突進にも注意が必要な魔物らしい。
まぁ、魔法で先制攻撃する俺達が突進される事はないだろう。
沙良の家でレタスをたっぷり挟んだ照り焼きチキンサンドと、アイテムBOXに入っていた熱々のフライドポテトを食べ、テントから出る。
7パーティーが揃い昼食を取っていたので、沙良が「今日の夕食は私が作りますね」と伝えていた。
聞いた冒険者が歓声を上げる。
やはり、毎日同じメニューで飽きていたんだな。
ご馳走するのは肉うどんだが、期待値が大きいようでやや心配になった。
午後から2回の攻略を終え、沙良が夕食を作り始める。
先週解体してもらったミノタウロスの肉を使用するようだ。
店ではファングボア肉を使っているので、高級バージョンの肉うどんか。
俺もミノタウロスの肉は初めて食べるので楽しみだ。
沙良に冷凍うどんの湯切りを任され、慎重な手付きで茹でたうどんを湯切りして木の器に移す。
それを受け取った沙良が、上からたっぷり味付けした肉を載せ冒険者達に配っていった。
「ダンジョン価格で、鉄貨7枚 (700円)の13倍。鉄貨91枚(9,100円)ですよ~」
妹が言った冗談を真に受け、本当に払いそうな冒険者達を見て驚いた。
ダンジョン内では食べられないから、本気だと思ったのか?
実際ファングボアじゃなく、ミノタウロスの肉を使用しているから原価は上がるだろうが……。
「今日は皆さんにご馳走します! また、お店にも食べに来て下さいね~」
ちゃっかり店の宣伝をした沙良が隣に座り、「私達も食べよう」と食事を促す。
大興奮している冒険者を横目に、俺も肉うどんに箸を付けた。
おっ、予想通りミノタウロスは牛肉の味がするな。
しかも和牛のように肉質が柔らかい。
これなら焼肉や、すき焼にしてもよさそうだ。
「これ、牛肉みたいで美味しいね! もう少し食べたいなぁ~」
食べた感想を旭が沙良に伝えて、お肉の追加を強請っていた。
残っているなら俺も欲しい。
沙良は冒険者のために多く作っていたようで、「欲しい人は自分でよそって下さいね」と寸胴鍋を指す。
それを聞いた旭がさっそく立ち上がり、お肉を追加しに行く。
俺は出遅れたため、冒険者に先を越され追加出来なかった。
沙良が言った瞬間、バーゲンセールの会場もかくやという程、冒険者達が寸胴鍋の周りに集まったからな……。
この中を割り込む勇気は俺にない。ここは普段、食べられない冒険者達に譲ろう。
肉のお代わりをして満足そうな冒険者達に、沙良が子供達の話をしていた。
ダンクさんの所は30人もいるから、話を聞くだけでも大変そうだ。
そんな中、冒険者の1人が溜息を吐きながら口を開いた。
「新しく迷宮都市に来たやつらが、地下10階から地下11階へ拠点を移した冒険者を探しているらしいぞ?」
それは初耳だ。だが、理由はなんだ?
「あぁ、俺達と階層を交代したクランメンバーも聞かれたと言っていた」
また別の冒険者が顔を顰めながら言う。
するとダンクさんが、
「そう言えば、『光輪の刃』だった元メンバーにも声を掛けているようだ。なんか色々と動いているみたいだから、サラちゃん達も気を付けたほうがいい」
俺達に注意するよう忠告してくれた。
解散したクランメンバーに接触しているなら、新しいクランを立ち上げる心算か?
クランに所属してない俺達のパーティーも、声を掛けられる可能性があるな。
拠点を移した冒険者を探しているのは、また別の目的がありそうだ。
何をしようとしているか分からないが、やはり彼らとは距離を置いたほうがいいだろう。
金曜日。冒険者ギルドで換金を済ませたあと、ホームに戻って旭と居酒屋へ行く。
「お疲れ様~!」
旭が生ビールのグラスを合せて乾杯する。
「お疲れ様。旭、他領から来た冒険者だが、どうにも動きが怪しい」
「うん? 冒険者達が言ってた事?」
「あぁ、自分達のクランに勧誘するだけじゃないと思う。地下11階に拠点を移した冒険者を探しているのは、それだと説明が付かないからな。華蘭の老紳士が、傷のないシルバーウルフの皮を見た事がないと言っていただろう? あれだけ換金したのに、迷宮都市に出回ってないなら他領に売ったんだ。それを知った冒険者が、迷宮都市に来てシルバーウルフに魔物寄せを使用したと考えれば辻褄が合う」
この5日間、ずっと彼らの動向に関して推測していた結果を話した。
「それって、犯人は……」
「そうだ。エンダと名乗ってたリーダーのパーティーが、犯人で間違いない」
俺が断言すると、旭は息を呑んで肩を震わせた。
「じゃあ、冒険者を探している理由は?」
「誰が無傷の状態でシルバーウルフを倒したのか、確認するためだろう」
「それって俺達じゃん!」
「どの冒険者が狩ったのか調べるのは難しい筈だ。知っているのは解体場の人間と、華蘭の従業員だけだしな。冒険者ギルドは守秘義務があるし、店の人間も貴重な情報は渡さないと思う」
俺達に辿り着く可能性は殆どない。
安心させるためにそう言ったが、旭はどこか不安そうにそわそわしていた。
「分かった。茜ちゃんの代わりに、俺が沙良ちゃんのボディーガードを務めるよ!」
今は別の階層を拠点にしている犯人と、俺達が接する機会は地上へ帰還した時だけだ。
冒険者ギルドで換金する時と教会の炊き出し以外はホーム内に居るので、そうそう会わないとは思うが……。
「期待しておく」
どこか頼りない旭の言葉に返事をする。
この世界に妹の茜がいれば心強かったなと考えた事は内緒だ。
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お気に入り登録をして下さった方、いいねやエールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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俺と旭は材料の買い出しに付き添い、ホームへ戻ったあと冷凍うどんの袋を外す作業を手伝った。
仲良くなった冒険者から、店に行っても午前中で売り切れ肉うどんが食べられないと言われていたので、子供達を支援してくれるお礼の心算なんだろう。
毎食、似たようなメニューを食べている彼らに、同情しているのかも知れないがな。
月曜日。
地下11階で午前中は薬草採取をする沙良と旭と離れ、俺は黙々とりんごを狩る。
ライトボールでりんごを枝から切り離す作業が、魔力操作の練習になって丁度いい。
狙った場所に、適度な威力と大きさを当てるのは中々難しいのだ。
少しでも範囲を誤ると、りんごの葉に当たる。
繊細な技術を要するこの作業は、きっと何かの役に立つだろう。
3時間後、安全地帯に戻ると怪我人が運ばれてきた。
あぁ、この状態は俺も手伝ったほうがいいな。
左足の開放骨折で骨が飛び出ている。
怪我をした本人には、かなりの痛みが襲っている筈だ。
まずは患部がよく見えるようズボンに解体ナイフを入れ、肩を両足で押さえ付けた。
旭が傷口を水で洗い流し、骨の整復を行う。
それからヒールを掛ければ治療完了。
沙良は治療中、思い切り痛そうな顔をして見ているだけでも辛そうだった。
疑問なんだが、骨折した場合でもポーションで治るのか?
今回のような開放骨折は一度整復する必要がありそうだが、そんな知識を異世界人が持っているとは思えない。
それとも教会にいる治癒術師や治療院の人間は、医療に関して多少の心得があるんだろうか?
今後ヒールが使えない状況になった場合に備え、ポーションの効果を試しておくべきか……。
骨折するより脱臼のほうが痛みは少ないよな。
そう思い旭の肩を何気に見つめていたら、
「賢也の顔が怖い!」
旭に引かれてしまった。
いや、お前で試そうと思ったわけじゃないぞ?
旭が治療代をリーダーから受け取り、フォレストベアに突進された話を聞く。
大きな巨体で向かってこられたら、盾を持っていても防ぎきれないよな。
鋭い爪だけじゃなく、突進にも注意が必要な魔物らしい。
まぁ、魔法で先制攻撃する俺達が突進される事はないだろう。
沙良の家でレタスをたっぷり挟んだ照り焼きチキンサンドと、アイテムBOXに入っていた熱々のフライドポテトを食べ、テントから出る。
7パーティーが揃い昼食を取っていたので、沙良が「今日の夕食は私が作りますね」と伝えていた。
聞いた冒険者が歓声を上げる。
やはり、毎日同じメニューで飽きていたんだな。
ご馳走するのは肉うどんだが、期待値が大きいようでやや心配になった。
午後から2回の攻略を終え、沙良が夕食を作り始める。
先週解体してもらったミノタウロスの肉を使用するようだ。
店ではファングボア肉を使っているので、高級バージョンの肉うどんか。
俺もミノタウロスの肉は初めて食べるので楽しみだ。
沙良に冷凍うどんの湯切りを任され、慎重な手付きで茹でたうどんを湯切りして木の器に移す。
それを受け取った沙良が、上からたっぷり味付けした肉を載せ冒険者達に配っていった。
「ダンジョン価格で、鉄貨7枚 (700円)の13倍。鉄貨91枚(9,100円)ですよ~」
妹が言った冗談を真に受け、本当に払いそうな冒険者達を見て驚いた。
ダンジョン内では食べられないから、本気だと思ったのか?
実際ファングボアじゃなく、ミノタウロスの肉を使用しているから原価は上がるだろうが……。
「今日は皆さんにご馳走します! また、お店にも食べに来て下さいね~」
ちゃっかり店の宣伝をした沙良が隣に座り、「私達も食べよう」と食事を促す。
大興奮している冒険者を横目に、俺も肉うどんに箸を付けた。
おっ、予想通りミノタウロスは牛肉の味がするな。
しかも和牛のように肉質が柔らかい。
これなら焼肉や、すき焼にしてもよさそうだ。
「これ、牛肉みたいで美味しいね! もう少し食べたいなぁ~」
食べた感想を旭が沙良に伝えて、お肉の追加を強請っていた。
残っているなら俺も欲しい。
沙良は冒険者のために多く作っていたようで、「欲しい人は自分でよそって下さいね」と寸胴鍋を指す。
それを聞いた旭がさっそく立ち上がり、お肉を追加しに行く。
俺は出遅れたため、冒険者に先を越され追加出来なかった。
沙良が言った瞬間、バーゲンセールの会場もかくやという程、冒険者達が寸胴鍋の周りに集まったからな……。
この中を割り込む勇気は俺にない。ここは普段、食べられない冒険者達に譲ろう。
肉のお代わりをして満足そうな冒険者達に、沙良が子供達の話をしていた。
ダンクさんの所は30人もいるから、話を聞くだけでも大変そうだ。
そんな中、冒険者の1人が溜息を吐きながら口を開いた。
「新しく迷宮都市に来たやつらが、地下10階から地下11階へ拠点を移した冒険者を探しているらしいぞ?」
それは初耳だ。だが、理由はなんだ?
「あぁ、俺達と階層を交代したクランメンバーも聞かれたと言っていた」
また別の冒険者が顔を顰めながら言う。
するとダンクさんが、
「そう言えば、『光輪の刃』だった元メンバーにも声を掛けているようだ。なんか色々と動いているみたいだから、サラちゃん達も気を付けたほうがいい」
俺達に注意するよう忠告してくれた。
解散したクランメンバーに接触しているなら、新しいクランを立ち上げる心算か?
クランに所属してない俺達のパーティーも、声を掛けられる可能性があるな。
拠点を移した冒険者を探しているのは、また別の目的がありそうだ。
何をしようとしているか分からないが、やはり彼らとは距離を置いたほうがいいだろう。
金曜日。冒険者ギルドで換金を済ませたあと、ホームに戻って旭と居酒屋へ行く。
「お疲れ様~!」
旭が生ビールのグラスを合せて乾杯する。
「お疲れ様。旭、他領から来た冒険者だが、どうにも動きが怪しい」
「うん? 冒険者達が言ってた事?」
「あぁ、自分達のクランに勧誘するだけじゃないと思う。地下11階に拠点を移した冒険者を探しているのは、それだと説明が付かないからな。華蘭の老紳士が、傷のないシルバーウルフの皮を見た事がないと言っていただろう? あれだけ換金したのに、迷宮都市に出回ってないなら他領に売ったんだ。それを知った冒険者が、迷宮都市に来てシルバーウルフに魔物寄せを使用したと考えれば辻褄が合う」
この5日間、ずっと彼らの動向に関して推測していた結果を話した。
「それって、犯人は……」
「そうだ。エンダと名乗ってたリーダーのパーティーが、犯人で間違いない」
俺が断言すると、旭は息を呑んで肩を震わせた。
「じゃあ、冒険者を探している理由は?」
「誰が無傷の状態でシルバーウルフを倒したのか、確認するためだろう」
「それって俺達じゃん!」
「どの冒険者が狩ったのか調べるのは難しい筈だ。知っているのは解体場の人間と、華蘭の従業員だけだしな。冒険者ギルドは守秘義務があるし、店の人間も貴重な情報は渡さないと思う」
俺達に辿り着く可能性は殆どない。
安心させるためにそう言ったが、旭はどこか不安そうにそわそわしていた。
「分かった。茜ちゃんの代わりに、俺が沙良ちゃんのボディーガードを務めるよ!」
今は別の階層を拠点にしている犯人と、俺達が接する機会は地上へ帰還した時だけだ。
冒険者ギルドで換金する時と教会の炊き出し以外はホーム内に居るので、そうそう会わないとは思うが……。
「期待しておく」
どこか頼りない旭の言葉に返事をする。
この世界に妹の茜がいれば心強かったなと考えた事は内緒だ。
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◇小説家になろうでも同時連載中です◇