自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 86 迷宮都市 地下11階 新しい魔法

 月曜日。

「お兄ちゃん大変だよ! 猫が魔法を使ってる!」

 地下11階でりんご狩りを楽しんでいると、沙良がやって来て大声を上げる。

「はぁ?」

 突然、脈絡みゃくらくもなくそんな事を言われても意味が分からない。
 大発見したかのように騒いでいる妹へ、俺が分かるように説明しろと言うと、

「さっきフォレストキャットが、冒険者にサンダーボールを使用していたのを見たの!!」

 興奮状態で話し出した。
 最初からそう言ってくれれば理解出来る。

「異世界は、どの魔物が魔法を使うか分からないな。旭、リースナーのダンジョンマスターをしていた時に何か気付いたか?」

「俺も魔法で瞬殺してるから、2人と同じ魔法しか覚えてないよ!」

 そりゃそうか……。
 俺達は子供の頃に遊んだ、ゲームに出てくる魔物の特性しか知らないからな。
 魔法が使えるかどうかは、名前で判断しているだけだった。
 異世界の魔物も同じだと思っていたのが間違いだ。
 
「サンダーボールは覚えていない魔法だな。習得可能な魔法は全て覚えておきたい。沙良、情報収集は頼んだぞ?」

 沙良は一応、俺達のパーティーリーダーを務めている。
 たまにはリーダーらしい事をしてもらおう。

「うん! リーダー達に、ご馳走ちそうして聞いてみるね~」

 新しい魔法の習得に意欲を燃やす妹は、料理という賄賂わいろを渡して話を聞き出すようだ。
 沙良は玉ねぎとミノタウロスの肉をスライスして、また肉うどんを振る舞う心算つもりらしく、俺と旭は昼食を急かされ、冷凍うどんの袋を外す作業に追われた。

 テントから出ると、まだ7パーティーが食事をしている最中だった。
 沙良がリーダー達に、「今日の夕食は私が作りますね~」と声を掛けていく。
 またご馳走してもらえると知った冒険者達が、歓声を上げ喜んでいた。
 良い気分で口が軽くなるのを願おう。

 午後から恒例となったゴブリンの魔石取りに飽きてきた頃、換金額の高い魔物にシフトチェンジする。
 旭はストレスが溜まっていたのか、フォレストベアを見るなりライトボールを撃ち頭部に大穴を空けていた。
 いつもより威力が高いのは、沙良に対する無言の抗議だろうか?
 だが、そのあとで証拠隠滅とばかりに即座にアイテムBOXへ収納している。
 小心者らしいその行動を見て苦笑した。
 本当に一瞬見えただけなので、沙良には気付かれてないと思うぞ?
 
 攻略を終えて安全地帯に戻り、沙良が料理を始める。
 今日も、お代わり出来るよう寸胴鍋一杯に作っていた。
 お腹を空かせて待っていた冒険者に配るとすごい勢いで食べだし、お代わりしにいく。
 そこに負けじと旭も参加していたが……、食いしん坊なのは相変わらずだな。
 あれか? 母親の料理が不味まず所為せいで、美味しい物は沢山食べたくなるんだろうか?
 俺は遠慮して席を立たず我慢した。
 肉うどんを食べて幸せそうな冒険者達に、沙良が子供達の話を伝えていきながら魔法の話題を振る。
 すると冒険者達が口々に話しだした。

「カーバンクルのサンダーアローには、ハイポーションが消えたよな~」

「コカトリスやバジリスクに石化されたら、毎回エクスポーションが必要だし」

「属性スライムの魔法はポーションで治るし動きも遅いから避けられるけど、リッチにドレインを使われると1日寝てHP回復しないと動けないのが厄介やっかいだったわ」

「バイコーンは2本の角でサンダーアローを撃つから、感電すると大変だったな」

「ユニコーンはアイスニードルで毎回股間を狙ってきやがるから、あわてて盾を買いに行ったよ」

「フォレストベアのアースニードルで、太ももを貫通した時は駄目かと思ったわ」

 聞きながら、どの魔物が何の魔法を使用するのか覚えていく。
 その結果、かなりの魔法を習得せず魔物を倒していた事が判明する。
 沙良が上手く聞き出してくれたおかげで、新しい魔法が習得出来そうだ。

 翌日。地下11階のフォレストキャットからサンダーボール、フォレストベアからアースニードルの魔法を受け、新しい魔法を覚えた。
 1週間後。地下4階のリザードマンからウォーターアロー、地下5階のストーンゴーレムからアースアロー、地下6階のグリーンタートルからウィンドアロー、地下9階のユニコーンからアイスニードル、地下10階のシルバーウルフからアイスボール、アウラウネから魅惑みわくを習得する。
 アウラウネの魅惑は異性しか効果がないようで、魔法を受けてふらふらと近付いていった俺と旭とは違い、沙良には効かず何ともなかったようだ。
 ナイトメア(男性体)の魅了みりょう関しては異性を判別しているのか、同性には攻撃しないようで沙良だけが覚えた。
 魅惑と魅了の違いが今一よく分からんな……。

 冒険者から情報を得て9種類も魔法を習得した沙良は、自分にしか見えないステータス画面を開きニヤニヤと笑っていた。
 魔法をコンプリートしたい気持ちは分かるが、誰かに見られたら怪しい人物だと思われそうだ。
 旭のほうを見ると、こちらはニコニコしてそんな沙良を見つめていた。
 兄の俺が言うのもなんだが、今の状態の妹が可愛いと思える旭は相当変わっている。
 これも、れた欲目か……。
 しかし、新たに習得した魔法を全てLv10まで上げるのは大変そうだ。
 それに魅惑魔法は使い道がない。
 人間相手にも効果があるなら、口を割らせる時に利用出来るか?
 まぁ、今のところは攻撃手段を優先させよう。

 夕食をいつもテント内で食べるのは不自然に思われるため、沙良が安全地帯で食べようと言う。
 確かに、テント内で食事をしている冒険者達はいない。
 それは6人パーティーを組んでいるので、テント内が狭いからだろう。
 俺達は3人だからテントの外に出て食べる必要はないが、情報にうとい分、冒険者とはなるべく行動を共にしたほうがいいか……。
 前回みたいに、魔物の使う魔法を教えてもらえる時もあるかも知れん。
 冒険者の食事内容には目をつぶり、沙良の提案にうなずいておいた。
 
 今日はアマンダさんのパーティーと夕食を食べるそうだ。
 料理担当のケンさんに、沙良が乾物屋で購入した胡椒こしょう(銀貨10枚・10万円)を渡し、ステーキに振りかけてほしいとお願いしていた。
 塩だけじゃなく、胡椒があればステーキも美味しいだろう。
 スープは沙良がコンソメを少し入れて作っているから大丈夫。
 問題は、あの堅いパンだな……。

「おっ、今日は胡椒が掛かってるのかい?」

 ステーキを食べたアマンダさんが、驚いたような声を上げる。

「サラちゃんがくれたんです。スープも美味しいですよね!」

 それにケンさんが答え、スープの味をめた。

「迷宮都市じゃ胡椒は数が少ないから、中々手に入らないんだよ。王都には、もっと多く流通してるんだろうけどさ。しかしサラちゃんは小さいのに料理が上手い! いい嫁になりそうだ」

「私はお兄ちゃんより、強い人じゃないと結婚しませんよ~」

 アマンダさんの言葉を受け、沙良が嬉しい事を言ってくれる。
 うんうん、相手は俺より強いやつじゃないとな~。

「そうか、なら俺のしかばねを越えていけ!」

「いや、俺の屍も越えていけ!」

 俺が言った台詞に旭が追従する。

「俺らの屍を越えてみせろ~!」

 近くで話を聞いていた7パーティーの冒険者達が大合唱した。
 ははっ、妹の婚期は遠のくばかりだな。
 冒険者達の声を聞いた沙良は、げんなりした顔でスープを飲んでいる。
 それにしても、異世界のパンは食べづらい。
 旭は両頬をふくらませ、まるでハムスターのようにパンにかじりついていたが……。
 冒険者と食事を一緒にする度に、このパンが出てくるのか?
 沙良、早く主食を何とかしてくれ!

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