自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第870話 シュウゲン 53 香耶乃さんの消息&事後報告

 冷え切った雰囲気ふんいきでの食事を済ませてから、かなでと2人で焼いたスルメをつまみに日本酒で飲みなおす。
 
「怒ると小夜も怖かったが、美佐子みさこも負けておらんな。お前の妻はどうだ?」

 食事時の態度から妹の所業しょぎょうに気付いた奏が、軽くうなずき首をすくめてみせた。

「俺のところは、まぁそれ程でもない。そもそも俺は入り婿むこだし、あまり勝手な事は出来ないからな。娘のアリサが冒険者じゃなければ、お目付け役として自由になれなかっただろう。日本にいた時の妻のほうが怖かったよ」

香耶乃かやのさんがか? 彼女は控えめな優しい女性だったであろう?」

 奏の嫁であった香耶乃さんは、楚々そそとしたタイプで夫の三歩後ろを歩くような感じであったが……。

「いつもは大人しいけど、怒る時はよく一喝いっかつされたんだ。それが怖くてなぁ~」

 奏は遠い過去を思い出すように、しみじみと語り酒をあおる。
 夫婦間の事は当事者しか知らぬであろう。

「それでお前、この世界で香耶乃さんを探してみたのか?」

 儂が小夜をずっと探していたように、息子も嫁との再会を望んでいたと思い聞いてみる。

「いや……、転生した時点であきらめた。俺が死んだ時、まだ香耶乃は生きていたし、子供の頃から前世の記憶があったから、もう縁は切れたと思ってな。ただ……」

「なんだ? 今頃になって会いたくなったのか?」

「いや、こうして父さんや母さん、それに妹の家族と会えたなら、香耶乃もこの世界にいるんじゃないかと……。だけど娘のアリサに前世の記憶があり、夫と2人の子供がいると知って複雑な気分なんだよ。この世界で俺も結婚して、息子と娘がいるしなぁ。香耶乃と再会しても、気まずい思いをしそうで……」

「もしや香耶乃さんの心当たりがあるのか?」

「……ある。だが、確かめる勇気がない。父さんは、母さんの性別が変わってなくて幸いだよ」

 んんん? それは、香耶乃さんが男性になっておるという意味か?
 
「儂の知っている人物じゃなかろうな?」

 勢い尋ねたところで、ひびき君が娘に背中をぐいぐい押されながら階段を降りてきた。
 その両手には枕を抱えている。
 聞かなくとも、部屋を追い出されたと見当が付く。
 見ないフリをしようかと思ったが、美佐子に声を掛けられてしまった。

「お父さん、あまり遅くまでお酒を飲むのは体に悪いわよ。早く寝て下さいな。貴方はしばらくリビングで寝てちょうだいね。あっ、客用布団は2組しかないの。これからも必要だし、自分で買ったほうがいいと思うわ。じゃあ、おやすみなさい」

「あっ、美佐子……」

 背を向けた娘に追いすがるよう手を伸ばした響君だったが、さっさと階段を上がっていく美佐子を引き留める事は出来ず、項垂うなだれていた。
 娘は鬼だな……。いくら小夜さよでも、儂を部屋から追い出すような真似はせんかったが……。

「いや……、お恥ずかしいところを見せてしまいました。私はソファーで寝ますから、気にせず続けて下さい」

 苦笑にがわらいしながら響君はそう言うが、このまま酒を飲むわけにもいかず自然とお開きになった。
 まだ寒い時期なのに、布団も毛布もなくて大丈夫か?
 そう思っていたら、響君がどこからともなくマジック寝袋を取り出した。
 ううん? いやいや、確か響君にはアイテムBOXの能力がないはずだが……。

「今、どこから取り出したのかの?」

 気になり聞いてみると、

「あぁ、樹が腕輪をマジックバッグにしてくれたんですよ」

 そう言い、腕に着いている腕輪を見せてくれる。
 なんとっ! バッグじゃなくても空間魔法を付与出来るとは驚きだ!!
 しかも、そのほうが持ち歩かずに済む分、便利ではないか!

「儂も欲しいのう……」

 つい口からこぼれた言葉に、

いつきに用意させます」

 響君が律義りちぎに答えてくれた。

「いやぁ~、何か催促したようで悪いが頼んでおいてくれ」

「俺の分もよろしく頼む」

 見ていた奏が便乗し、強請ねだっておった。

「分かりました。2人分だと伝えておきます」

 異世界のマジックバッグは冒険者必須アイテムだが、中に入る容量が多いほど値段が高い。
 しかし高額な商品になればなるほど、マジックバッグのサイズが大きくなるのが問題だった。それが腕輪になるなら身軽に移動可能だ。
 Lv50なら50㎥入るな。
 だが樹君ではなく、ヒルダちゃんのLvはもっと高いかも知れん。
 儂は良い物が手に入りそうだとほくそ笑む。
 響君が寝るのを邪魔しないよう儂と奏は客間に移動後、就寝した。

 翌日、土曜日。
 沙良達と一緒にしずくちゃんがやってきた。
 昨日は実家じゃなく、沙良の家に泊まったのか……。
 結花ゆかさんのピーマン料理? を食べずに済んで正解じゃったな。
 その結花さんの隣には、顔に手形のあとを残したヒルダちゃんが所在なくたたずんでいた。
 こちらは、なんとまあ派手にやられたようだ。
 結花さんは気性が激しい女子おなごのようじゃわい。
 この分だと体中があざだらけになっておらんか心配だが……。
 ただ、一晩経って気は済んだのか、結花さんからはピリピリした気配を感じない。
 響君は昨夜部屋から追い出され、今日も朝食には彼だけがピーマン料理を食べさせられておったがな。
 収穫したピーマンの量を考えれば、まだまだ続くであろう。
 肉体的苦痛はないが、精神的苦痛が大きそうではある。
 美佐子からの地味に響く攻撃に、いつまで耐えられるかのう……。
 娘は穏やかな性格だと思っていたが、母親となり強くなったのだな。
 そんな事をつらつらと考えておる間に、響君が不在にしていた間の報告を始めた。

「まずは、皆に迷惑を掛けた事を謝罪する。申し訳なかった。結婚式のあと、ケスラーの民と南大陸に行き、怪我人を治療してアシュカナ帝国の王宮に乗り込んだが、帝王は不在で影武者がいた。人質にされていた妹さんは無事に救出されたから、成果がなかったわけじゃない。帝王がいなかったのは残念でならないが、逃げたと知った時はもう何処どこに隠れたのか分からず、あとを追えなかったんだ」

 思っていた通り、最初に怪我をしたケスラーの民を治療して戦力を増やしたらしい。
 3人共、光魔法のヒールが使用出来るが、習得したばかりでLvは低い。
 精々せいぜい、数十人が動けるようになっただけであろう。
 それでも少数精鋭せいえいの部隊であったに違いない。
 その人数で直接王宮に乗り込んだか……。
 無事に帰ってこれたなら、アシュカナ帝国の王宮警備は大した事がなかったのだろう。
 話を聞いていた美佐子のまゆがピクリと上がる。
 皆の前で責められては可哀想かわいそうだと、

「全員無事に帰ってきたから、よかろう。次は儂も一緒に連れていけ」
 
 儂はそう言って、話を締めくくった。
 すると沙良が空気を読み、話題を変える。

「今日の夕方、あかねの旦那さんを召喚するね」

「まぁ、じゃあ早崎さんの好きな物を沢山作っておきましょ!」

 娘婿に会えると聞き、美佐子が途端とたんに張り切り出した。
 ほお、孫娘の婿は早崎というのか。儂も初めて会うから、どんな男か楽しみだな。
 響君、良かったの。
 夕食はピーマン料理じゃないようだぞ? 昼食は知らんが……。 
 話を終え、帰ろうとするヒルダちゃんを見て引き留めるために声を掛ける。

「ヒルダちゃん、ちょっといいかの」

「えっ? あっ、はい」

 その手を取り、儂はヒルダちゃんを2階に連れていった。
 皆の前で、お礼をするのは恥ずかしかろう?
 気を利かせた心算つもりじゃったが、何故なぜか響君まで付いてきた。
 普段、儂が寝ている客室に入ると早速さっそくお礼を請求する。

「儂との約束を覚えておるか? ヒルダちゃんは、樹君に転生したのだろう?」
 
 儂の言葉にヒルダちゃんは肩を揺らして反応を見せた。

「ええっと、樹からヒルダに転生したんです。その響と一緒に……」

 はて? 順番が逆だと?

「もうお気づきだと思いますが、私もこの世界で生きた前世があります」

 その後、響君の口から語られたのは到底信じられない内容だった。

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