自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 90 迷宮都市 地下11階 ドレインの魔法&新しいクラン『希望の盾』と『白銀の剣』

 月曜日。
 ダンジョン地下11階で全てのりんごを収穫し、昼食を食べにホームへ戻る。
 今日のお弁当は天むすだった。
 それに、出汁巻き卵、タコさんウインナー、小松菜のピーナッツ和え、黄色いタクアンが入っている。
 天むすは店で売っているような小さな物じゃなく、普通サイズで海老も大きい。
 このほうが俺も食べ応えがあって嬉しいな。
 きゃらぶきの佃煮つくだにが入っていないのは、苦手な旭を気にしての事だろう。
 豆腐とえのきとネギが入った味噌汁を飲んで一息吐くと、旭が最後の天むすを食べ終えていた。
 相変わらず早食いだな。ちゃんと味わいながら食べているのか?
 まだ半分も食べていない沙良が苦笑して、旭にほうじ茶をれる。
 お茶を受け取った旭は、「お腹一杯~」と満足そうに腹をさすっていた。
 
 昼食後、再びダンジョンに戻り魔物を狩っていると、沙良がゴブリンの魔石を取っていた俺に話しかけてきた。

「お兄ちゃん。私達、ドレイン魔法を一度も使用してないよね?」

「俺達はHPが減らないから使い道がないだろ」

 先日、ポーションの効果を試すために使用したとは言えずドキリとしたが、何でもないように返事を返す。

「う~ん。そうじゃなくて魔物の使用する魔法をリーダーさんに色々聞いた時、リッチに魔法を使われたら1日寝ないと回復しないって話が出たでしょ? それって、自分のHPが減らなくても使用してくるって事じゃない?」

「ん?」

「だから私達のHPがMAXの状態でも、ドレインが使用可能じゃないかと思って……」

「…………」

 実際、その通りだった。
 内緒で使用した事に後ろめたい俺達が無言でいると、
 
「よし、使ってみよう!」

 沙良が元気よく手を上げて、やる気を見せる。
 まぁ魔物が安全に倒せるようになるので、ドレインを使うのは問題ないか。
 早速さっそく、索敵したフォレストベアに沙良がドレインを掛けていた。
 リザードマンと同じように、ドレインを使用されたフォレストベアが横倒しになる。
 昏倒しているだけなので、俺はすかさずライトボールで止めを刺した。
 
「魔物が一瞬で倒れちゃったね~。便利な魔法だからLv上げしよう!」

 ドレイン魔法の効果を見た沙良が、目をキラキラさせている。
 魔物が倒れるのが面白いのか?

「これってスリープの魔法と、どう違うんだろう? 眠ってるわけじゃないよね?」

 沙良の疑問に、何度もリザードマンで実験した俺は答えを知っているが……。
 ドレインは眠らせる魔法ではない。
 怪我をさせても魔物は起きなかったので、麻酔代わりになると思ったくらいだ。
 HPが0になると、魔物も人間も行動不能になるんだろう。
 ちなみにMPが0になった時、旭が意識を失ったと言っていた。
 死ぬわけじゃないがHPとMPは、生き物の活動と密接に関係しているようだ。

「スリープとは違う魔法だと思うぞ? ドレイン魔法だけじゃ死なないから気をつけろよ?」

「は~い!」

 俺が倒したフォレストベアをアイテムBOXに入れた沙良が、次の魔物に向かって走り出す。
 俺と旭はバレなかった事に安堵あんどして、そのあとを追った。
 
 3時間後、安全地帯へ戻ると怪我人がテント前に運ばれていた。
 旭が駆け寄り、治療の有無を確認してから手早く鎧を脱がせる。
 フォレストスネークにまれたようで、上腕の2ヶ所に大きな穴が空き大量に出血していた。
 女性冒険者は痛みに歯を食いしばり耐えていたが、治癒術師の旭に気付くとすがるような目で見つめた。早く治療してほしいのだろう。
 それを受けた旭がてきぱきと作業して傷口を治す。
 痛みが消えて腕の状態が元に戻った女性冒険者は、旭にお礼を言うと治療代を渡し立ち去っていった。
 
 7パーティーがそろった状態で夕食を囲み、沙良がせめてものデザートにとりんごをウサギの形に切って出してくれた。
 不思議な事にダンジョン産の果物は、日本で購入する果物より糖度が高く美味しい。
 何気に安全地帯で食べるデザートとしては秀逸しゅういつだった。
 
「ダンクさん。今はクランに所属していませんけど、1ヶ月分の食材はどうしてるんですか?」

 クランが解散になった事を気にしていた沙良が、ダンクさんへ声を掛ける。

「あぁ、言い忘れてたか。実は『光輪こうりんやいば』の半分を俺が引き受けて、クランリーダーになったんだ」

「ええっ!? 知りませんでした!」

 沙良が驚きの声を上げるが、それは俺も初耳だ。
 ダンクさんがクランリーダーとは……、アマンダさんのクランと違ってめられそうだな。

「サラちゃん達はクラン関係ないしな。毎週帰るから食材の心配もしないだろ」

「まぁそうですけど。じゃあ今は、地下10階のクランメンバーが運んでくれるんですか?」

「ああ、そういう事だ。野菜は、そんなにたないからな」

「ちなみにクラン名は?」

「『希望の盾』だ。覚えやすくて良い名前だろ?」

「はい、素敵な名前です!」

 2人の会話を聞きながら、新しいクランの名前を覚える。
 ダンクさんらしいクラン名だな。

「新しいクランといえば、例の6人組が王都のダンジョンから54人集めてクランを立ち上げたみたいだね。元『光輪の刃』のメンバーを勧誘してたらしいけど、誰も入らなかったようだよ」

 一旦いったん、話が落ち着いた頃、アマンダさんが口を開き情報を教えてくれた。
 おっと、それも初めて聞いた。
 
「ああ、噂になってたな。確か『白銀はくぎんつるぎ』だっけ? 王都の冒険者が大量に迷宮都市へ来たから皆驚いてたぞ」

 ダンクさんが追加情報を話してくれる。

「王都から冒険者が来るのは珍しいんですか?」

「1組や2組なら気にしないが、今回はいきなり9組だから不思議がってるよ」

「クランリーダーが地下10階を拠点にしてる限り、あたしらには関係ないさ」

 そう言ってアマンダさんは、沙良の皿からウサギリンゴをひょいっとまんで口に入れる。
 沙良が、「ああ~」と取られたのを見て恨めしそうにするが、アイテムBOXには腐る程入っているだろう? 1切れぐらい気にするな。
 俺がそんな事を思っていると、旭がさりげなく自分の分を沙良の皿に置いていた。
 食いしん坊の奴が食べ物を分けるなんて、愛の力は偉大だな……。

 それにしても、ダンクさんが元光輪の刃のクランメンバーを集めてクランを立ち上げたなら、地下12階以上を攻略していたメンバー達はどうなったんだろう?
 彼は今地下11階を攻略している。このまま俺達の攻略速度に合わせて階層を下がるたびに、クランメンバーを増やしていく心算つもりか?
 それなら最終的に地下18階まで行けば、全員が希望の盾に合流する事になるが……。
 しかし、もうひとつの新しいクラン、白銀の剣を作ったエンダの行動が読めない。
 シルバーウルフの毛皮だけが目的じゃなかったのか?
 冒険者達と夕食を共にすれば、色々な情報が聞けるのは助かるな。
 食事内容に目をつぶれば、クランに所属していない俺達も現状を知る事が出来る。
 しばらくは、堅いパンも我慢するしかないだろう。

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