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<外伝> 椎名 賢也
椎名 賢也 92 迷宮都市 地下11階 サリナとのニアミス
2回の攻略を終えるまで、なんとか吐き気を堪えた旭は安全地帯に戻るなりテント内でぐったりと横になった。これに懲りて食べすぎには注意しろよ。
夕食の準備を始める妹を横目に、また今日も変わり映えしないメニューを思い嘆息する。
5日間もシチュー、ステーキ、堅いパンが続くのは、なんとかならないものか……。
料理が出来上がる頃、旭がテントから出てきた。
少し顔色が戻ったようで、食事が取れるくらい回復した事にほっとする。
温かいシチューを口にしてはいるが、いつもより食べる量が少ない。
沙良も旭の体調を気遣い、ステーキを半分にしていた。
「ダンクさん、毎食同じメニューで飽きませんか?」
ダンジョンでの食事内容に不満があるのか、沙良がダンクさんに質問する。
「ダンジョン攻略中は、店があるわけじゃないから諦らめてるよ」
「そっか……。じゃあ安全地帯に、お店を出したら儲かりますね」
「いや、ダンジョンで店なんか出せないだろ。食材は、どうすんだ?」
「忘れてました。お店を出すにもクランがないと難しいか……」
「そういうこった。我慢してパンとシチューを飲んどけよ。最近は、リンゴが食べられる分ましだけどな」
「あ~、私のウサギリンゴが~」
ダンクさんにウサギリンゴを盗られた沙良が悲鳴を上げ、急いで新しいりんごを切り出すが、切った端から皆に食べられるので追加で5個分も切る羽目になっていた。
冒険者達も好きで同じ料理を食べているのではなく、食材や調味料が限られたダンジョン内での食事は仕方ないと思っているようだ。
料理担当者も本職の料理人ではないため、他の調理方法を知らないんだろう。
しかし、ダンジョン産のりんごは冒険者に大人気だな。売れば、一財産になりそうだ。
異世界のお金は、受け取ってもホーム内で使用出来ないから俺にはあまり意味がないが……。
5日後の金曜日。
冒険者ギルドで換金を済ませ、ホームに帰り、旭と居酒屋へ行く。
「お疲れ様~!」
生ビールを一気飲みして喉を潤すと、
「今週も無事に終わって良かったね~」
旭がニコニコしながら感想を言う。
「エンダがクランを結成したと聞き注意していたが、問題は起きなかったな」
「攻略階層が違うから、接触する機会もないしね! もう大丈夫なんじゃない?」
彼らは地下10階を攻略しているため、安全地帯で一緒になる事はない。
それに、シルバーウルフの皮狙いなら地下11階には降りてこないだろう。
このまま、何の接点もなく過ごせるといいんだが……。
「いや、引き続き注意しておこう。何かあってからじゃ遅い」
「分かった。あっ、たこ焼きを追加してもいい?」
「先に注文した料理を全部食べてからにしろ」
喉元過ぎればなんとやらで、旭は先日食べ過ぎた事をすっかり忘れているようだ。
明日が休日とはいえ、あまり飲み過ぎ食べ過ぎは体に悪い。
今ある料理が残っているのに注文しようとする旭を牽制し、俺は2杯目の生ビールをお代わりした。
日曜日。
教会の炊き出し後、子供達にりんごを配り見送る。
ホームに戻ろうとしたところで、沙良が不意に立ち止まった。
その先に視線を向けると、見知らぬ冒険者パーティーが歩いていた。
その中の1人は俺達とそう変わらない年齢の女性で、赤い髪でオレンジ色の瞳をしている。
ややキツイ感じがするが、綺麗な顔立ちだな。
何となく目に留まり見続けていると、女性と視線が合いそうになる。
彼女がこちらを見た瞬間、沙良がホームに移転した。
部屋に入るまで、沙良は無言のまま険しい表情をしていた。
先程、会った女性に何か関係があるのか? 様子がおかしい事を訝しんでいると、
「お兄ちゃん。今、そこでサリナを見かけた」
サリナ? 聞き覚えのない名前に首を傾げる。
「あ~、公爵令嬢だったリーシャの義妹だよ。私が虐待された事を公爵に話したあと、継母と一緒に家を追い出されたんだけど……。まさか、冒険者をしてるとは思わなかった。多分、王都から来たエンダさんのクランメンバーだよ」
そういえば、召喚されて直ぐ沙良がリーシャの家庭環境を教えてくれたな。
憑依したリーシャの体は、継母に虐待されて服を脱いだら痣だらけだったらしい。
まともな食事や服も与えられず、小屋に監禁されていたと聞いた。
そしてリーシャ本人は、飢えと寒さで亡くなったのではないかと沙良が言っていたのを思い出す。
サリナは、その継母の連れ子だ。
「彼女は、お前に気付いたのか?」
「多分、気付いてないと思う。私もサリナが冒険者をしているとは考えなかったから……。向こうも、公爵令嬢が冒険者をするとは想像してないんじゃないかな? ただ父親は、まだリーシャを探してるだろうから行方不明になったのは知ってるかも」
「追い出されたんじゃ公爵とは縁が切れてる筈だ。リーシャを恨んでそうな感じか?」
リーシャに憑依した沙良に復讐心を抱いているなら、警戒したほうがいい。
「リーシャの部屋や服を、平気で自分の物にするような子だから性格悪いと思う。普通は母親の再婚相手の家に子供がいたら遠慮するでしょ? 母親がリーシャを虐待している姿を笑いながら見てたし。事実が分かって追い出されるのは当然だと思うけど……どうかな?」
「沙良ちゃん。名前もリーシャからサラに変えてるし、迷宮都市には知り合いも多いから注意してれば問題ないよ」
不安そうな様子の沙良に、旭が優しく声を掛ける。
それでもまだ妹は思うところがあるのか、そわそわと視線を泳がせていた。
サリナと過ごした時間は少ないだろうに、それほど気にする何かがあったのか?
「赤い髪をした、オレンジ色の瞳の子には気を付けてね」
沙良は最後にそれだけ言って口を閉ざした。
その特徴を聞いて、さっき見かけた女性に思い当たる。
彼女がサリナか……。
見た目は確かに気の強そうな感じがしたが、公爵家を追い出され冒険者になった割には擦れたところがなかった。
貴族として育った女性なら、もっとこう傲慢さが滲み出てもよさそうなものだが……。
着ていた服も古着だったし、庶民が板に付いていた。
本当に妹が会ったサリナと同一人物なんだろうか?
夕食を食べ終え自分達の部屋に戻った俺と旭は、沙良から聞いた内容を反芻していた。
「何か話を聞くと、サリナは絵に描いたような悪役令嬢だね~。昔、雫がやっていた乙女ゲームに出てきそう」
「雫ちゃんは、乙女ゲームをしていたのか? どんな内容なんだ?」
旭がサリナは乙女ゲームに出てくる悪役令嬢に似ていると言うので、内容が気になり尋ねてみる。
「う~ん、俺もよく覚えてないんだけど……。確か学園もので、悪役令嬢は主人公が好きになる男性との間を邪魔するんだよ。最後は悪事がバレて塔に一生監禁される話だった」
「それのどこが面白いんだ?」
「えっと、攻略対象の男性が全員イケメンでハイスペックなんだよ! 誰と結ばれるかでエンディングが変わるから、雫は全員攻略してみせると言って楽しんでたよ?」
全員攻略したら、ハーレム状態じゃないか!
雫ちゃんは乙女ゲームにどっぷり嵌っていたらしい。
「そもそも学園ものなら、冒険者をしている時点で悪役令嬢じゃないだろう」
「そうなんだけど……、何かあの顔に見覚えがあるような……」
旭もサリナの顔を視認していたのか、首を捻っている。
「沙良は会いたくなさそうだからな。俺達も気をつけておこう。家出した公爵令嬢の存在がバレるのは拙い」
「そうだね。家に連れ戻されたら大変だもん。俺もサリナには注意するよ!」
それから亡くなった雫ちゃんの話を懐かしそうに話す旭を見ながら、僅かに痛んだ胸の想いに蓋をして眠りに就いた。
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料理が出来上がる頃、旭がテントから出てきた。
少し顔色が戻ったようで、食事が取れるくらい回復した事にほっとする。
温かいシチューを口にしてはいるが、いつもより食べる量が少ない。
沙良も旭の体調を気遣い、ステーキを半分にしていた。
「ダンクさん、毎食同じメニューで飽きませんか?」
ダンジョンでの食事内容に不満があるのか、沙良がダンクさんに質問する。
「ダンジョン攻略中は、店があるわけじゃないから諦らめてるよ」
「そっか……。じゃあ安全地帯に、お店を出したら儲かりますね」
「いや、ダンジョンで店なんか出せないだろ。食材は、どうすんだ?」
「忘れてました。お店を出すにもクランがないと難しいか……」
「そういうこった。我慢してパンとシチューを飲んどけよ。最近は、リンゴが食べられる分ましだけどな」
「あ~、私のウサギリンゴが~」
ダンクさんにウサギリンゴを盗られた沙良が悲鳴を上げ、急いで新しいりんごを切り出すが、切った端から皆に食べられるので追加で5個分も切る羽目になっていた。
冒険者達も好きで同じ料理を食べているのではなく、食材や調味料が限られたダンジョン内での食事は仕方ないと思っているようだ。
料理担当者も本職の料理人ではないため、他の調理方法を知らないんだろう。
しかし、ダンジョン産のりんごは冒険者に大人気だな。売れば、一財産になりそうだ。
異世界のお金は、受け取ってもホーム内で使用出来ないから俺にはあまり意味がないが……。
5日後の金曜日。
冒険者ギルドで換金を済ませ、ホームに帰り、旭と居酒屋へ行く。
「お疲れ様~!」
生ビールを一気飲みして喉を潤すと、
「今週も無事に終わって良かったね~」
旭がニコニコしながら感想を言う。
「エンダがクランを結成したと聞き注意していたが、問題は起きなかったな」
「攻略階層が違うから、接触する機会もないしね! もう大丈夫なんじゃない?」
彼らは地下10階を攻略しているため、安全地帯で一緒になる事はない。
それに、シルバーウルフの皮狙いなら地下11階には降りてこないだろう。
このまま、何の接点もなく過ごせるといいんだが……。
「いや、引き続き注意しておこう。何かあってからじゃ遅い」
「分かった。あっ、たこ焼きを追加してもいい?」
「先に注文した料理を全部食べてからにしろ」
喉元過ぎればなんとやらで、旭は先日食べ過ぎた事をすっかり忘れているようだ。
明日が休日とはいえ、あまり飲み過ぎ食べ過ぎは体に悪い。
今ある料理が残っているのに注文しようとする旭を牽制し、俺は2杯目の生ビールをお代わりした。
日曜日。
教会の炊き出し後、子供達にりんごを配り見送る。
ホームに戻ろうとしたところで、沙良が不意に立ち止まった。
その先に視線を向けると、見知らぬ冒険者パーティーが歩いていた。
その中の1人は俺達とそう変わらない年齢の女性で、赤い髪でオレンジ色の瞳をしている。
ややキツイ感じがするが、綺麗な顔立ちだな。
何となく目に留まり見続けていると、女性と視線が合いそうになる。
彼女がこちらを見た瞬間、沙良がホームに移転した。
部屋に入るまで、沙良は無言のまま険しい表情をしていた。
先程、会った女性に何か関係があるのか? 様子がおかしい事を訝しんでいると、
「お兄ちゃん。今、そこでサリナを見かけた」
サリナ? 聞き覚えのない名前に首を傾げる。
「あ~、公爵令嬢だったリーシャの義妹だよ。私が虐待された事を公爵に話したあと、継母と一緒に家を追い出されたんだけど……。まさか、冒険者をしてるとは思わなかった。多分、王都から来たエンダさんのクランメンバーだよ」
そういえば、召喚されて直ぐ沙良がリーシャの家庭環境を教えてくれたな。
憑依したリーシャの体は、継母に虐待されて服を脱いだら痣だらけだったらしい。
まともな食事や服も与えられず、小屋に監禁されていたと聞いた。
そしてリーシャ本人は、飢えと寒さで亡くなったのではないかと沙良が言っていたのを思い出す。
サリナは、その継母の連れ子だ。
「彼女は、お前に気付いたのか?」
「多分、気付いてないと思う。私もサリナが冒険者をしているとは考えなかったから……。向こうも、公爵令嬢が冒険者をするとは想像してないんじゃないかな? ただ父親は、まだリーシャを探してるだろうから行方不明になったのは知ってるかも」
「追い出されたんじゃ公爵とは縁が切れてる筈だ。リーシャを恨んでそうな感じか?」
リーシャに憑依した沙良に復讐心を抱いているなら、警戒したほうがいい。
「リーシャの部屋や服を、平気で自分の物にするような子だから性格悪いと思う。普通は母親の再婚相手の家に子供がいたら遠慮するでしょ? 母親がリーシャを虐待している姿を笑いながら見てたし。事実が分かって追い出されるのは当然だと思うけど……どうかな?」
「沙良ちゃん。名前もリーシャからサラに変えてるし、迷宮都市には知り合いも多いから注意してれば問題ないよ」
不安そうな様子の沙良に、旭が優しく声を掛ける。
それでもまだ妹は思うところがあるのか、そわそわと視線を泳がせていた。
サリナと過ごした時間は少ないだろうに、それほど気にする何かがあったのか?
「赤い髪をした、オレンジ色の瞳の子には気を付けてね」
沙良は最後にそれだけ言って口を閉ざした。
その特徴を聞いて、さっき見かけた女性に思い当たる。
彼女がサリナか……。
見た目は確かに気の強そうな感じがしたが、公爵家を追い出され冒険者になった割には擦れたところがなかった。
貴族として育った女性なら、もっとこう傲慢さが滲み出てもよさそうなものだが……。
着ていた服も古着だったし、庶民が板に付いていた。
本当に妹が会ったサリナと同一人物なんだろうか?
夕食を食べ終え自分達の部屋に戻った俺と旭は、沙良から聞いた内容を反芻していた。
「何か話を聞くと、サリナは絵に描いたような悪役令嬢だね~。昔、雫がやっていた乙女ゲームに出てきそう」
「雫ちゃんは、乙女ゲームをしていたのか? どんな内容なんだ?」
旭がサリナは乙女ゲームに出てくる悪役令嬢に似ていると言うので、内容が気になり尋ねてみる。
「う~ん、俺もよく覚えてないんだけど……。確か学園もので、悪役令嬢は主人公が好きになる男性との間を邪魔するんだよ。最後は悪事がバレて塔に一生監禁される話だった」
「それのどこが面白いんだ?」
「えっと、攻略対象の男性が全員イケメンでハイスペックなんだよ! 誰と結ばれるかでエンディングが変わるから、雫は全員攻略してみせると言って楽しんでたよ?」
全員攻略したら、ハーレム状態じゃないか!
雫ちゃんは乙女ゲームにどっぷり嵌っていたらしい。
「そもそも学園ものなら、冒険者をしている時点で悪役令嬢じゃないだろう」
「そうなんだけど……、何かあの顔に見覚えがあるような……」
旭もサリナの顔を視認していたのか、首を捻っている。
「沙良は会いたくなさそうだからな。俺達も気をつけておこう。家出した公爵令嬢の存在がバレるのは拙い」
「そうだね。家に連れ戻されたら大変だもん。俺もサリナには注意するよ!」
それから亡くなった雫ちゃんの話を懐かしそうに話す旭を見ながら、僅かに痛んだ胸の想いに蓋をして眠りに就いた。
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◇小説家になろうでも同時連載中です◇