自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 93 迷宮都市 地下11階 最後の攻略週

 月曜日。
 今週で地下11階の攻略は最後になる。
 沙良は地下12階の情報をアマンダさんから熱心に聞き、楽しみにしているようだ。
 薬草採取をしながら、りんご狩りをしている俺に話しかけてくる。

「お兄ちゃん。地下12階でも果物の生る木があるかなぁ~。森のダンジョンが続くなら、きのこ類が採れるといいね! 私は松茸が食べたい!!」

 松茸か……炭火で焼いたものもいいが、土瓶蒸しと日本酒は合うんだよな。

「松茸はアカマツがないと無理だろう。椎茸くらいなら生えているかも知れないぞ?」

「ダンジョンに常識を求めても意味ないよ! りんごが生っている木が、りんごの木とは限らないでしょ? 実際、葉っぱの形が違ってたしね。だから、松茸が生えてる可能性もあると思う」

 そう言い切り高揚こうようしている妹の顔を見れば、あまり否定するのも悪いか……。
 ここはファンタジーな世界だしな。
 アカマツがなくても、松茸がある可能性は捨てきれない。
 俺は舞茸まいたけ天麩羅てんぷらが食べたいなと思っていると、

「やっぱり、味なら本しめじが一番だよ~」

 旭が会話に参加して通を気取る。
 まぁ『香り松茸、味しめじ』とも言うしな。
 しかし、本しめじなんて何処どこで食べたんだ?
 スーパーには置いてないだろうに……。

「食べた事がないんだけど、トリュフはどんな味がするの?」

 旭が本しめじなんて言葉を出すから、沙良が興味を示し聞いてきた。

「味自体はほとんどない。あれは香りを楽しむものだ」

 俺がそう言うと、

「う~ん、鉛筆をかじった時に似てるかな?」

 旭が身もふたもない回答をする。
 木の香りがすると言ってくれよ……。
 だが子供の頃、誰もが一度は鉛筆をかじった事があるだろう。
 沙良も、その記憶を思い出したのか、

「鉛筆……? あまり美味しくなさそうだけど、1回くらいは食べてみたいかも?」

 そう言ってトリュフの話題を終わらせる。
 その後、きのこ類の談義に花を咲かせた俺達の昼食には、沙良が食べたくなったと言って、お弁当の他にえのきベーコン巻きが追加された。
 そこは松茸の土瓶蒸しじゃないのか……。
 
 昼食後の攻略は今週が最後という事もあり、沙良が換金額の高いフォレストスネークを優先的に狩ったおかげでゴブリンの魔石取りから解放された俺達は、ほっとして顔を見合わせた。
 これで当分の間、ゴブリンのあの醜悪しゅうあくな顔を見ずに済む。
 夢にまで出てきたという旭も安心して眠れるだろう。

 安全地帯に戻った沙良が夕食を作り終えるのを待つ間、手持ち無沙汰ぶさたで周囲の冒険者達の様子をながめると、どのパーティーも料理担当者が同じメニューを作っていた。
 完成した料理を沙良が運んでくるのを旭が手伝い、席に着く。
 ステーキの横に、ちょこんと置かれた小皿には生姜しょうが醤油が入っていた。
 塩味に飽きた妹が、匂いでバレないよう苦心した結果か?
 俺もいい加減、塩胡椒だけのステーキにあぐんでいたので、ありがたい。
 
「私達、今週で地下11階の攻略は終了します。来週から地下12階へ拠点を移すので、よろしくお願いしますね」

 食事の最中、沙良が冒険者達に拠点を移動する報告をした。

「俺達も12階に行く」

「私達も勿論もちろん12階へ行くよ」

 すると話を聞いたダンクさんとアマンダさんが、一緒に付いてくると言う。
 2人はクランリーダーなので、即断し決めたらしい。
 その場にいた5人のリーダーは、考え込むような顔をして押し黙った。
 階層を移動するとなると、荷物を運ぶ上下階のリーダーに話を付ける必要がある。
 それに、強くなる魔物に対処可能かどうか考慮しなければならない。
 メンバー達の安全と引き換えにするには、階層を移動するメリットが上回る事が重要だ。
 それを決めるのは本人達なので、俺達は何も言えない。
 どうするのか来週になったら分かるだろう。

 金曜日。
 冒険者ギルドで換金を済ませたあと、沙良が露店を見て回りたいと言う。
 どうやら、ダンジョンでの食事改善を本格的に考えているようだ。
 野菜が売っている店で立ち止まり、店主と何やら話し込んでいる。
 この世界にない野菜は料理に使用出来ないため、使える野菜を吟味ぎんみしているらしい。
 今迄、スープの材料として野菜を入れていたが、野菜を主食にした料理を考えているのか?
 炭水化物の多さでいえば、じゃが芋くらいしかないが……。
 堅いパンの代わりに、でたじゃが芋を出す心算つもりなんだろうか?

 ホームに戻り居酒屋へ向かう俺と旭に、沙良が「来週は期待してね!」と言い、張り切って自転車に乗り何処かへ出掛けていく。
 それを見た旭は、店に入った瞬間口を開いた。

「沙良ちゃん、何をするのかな?」

「露店で野菜を見ていたからな。ダンジョンでの料理を改善したいんだろう」

「ああっ! そうだったんだ~。また、肉うどんを冒険者達に食べさせるのかと思ってたよ~」

 見ていただけで何も買わなかったのにか?
 観察力のない旭に頭を痛めながら、先に生ビールと枝豆を注文する。
 生ビールに口を付け、

「地下12階には、何の果物が生る木があるんだろう? 桃だといいなぁ~」

 旭が自分の食べたい果物の名前を口に出し、想像したのか笑顔になっていた。

「どうせならマンゴーが生っていると俺もやる気が出る」

賢也けんやはマンゴーが好きだもんね。しかも日本産のほう! 黄色い物じゃ駄目なの?」

「赤いマンゴーは甘くて美味うまい」

 お互いの好みを把握しているから、旭に言われても言葉少なに返事をする。

「そうだけど、桃も美味しいよ?」

「あるといいな」

「うん、あったら全部俺達のものにしよう!」

 どうせ、ダンジョン内で果物を採る冒険者はいないだろう。
 換金対象にはなってないし、魔物を狩るほうが効率がいい。
 
「沙良ちゃんが、来週何を作ってくれるか楽しみだなぁ~」

 旭はそう言って、にへらと笑い、電子メニューに手を伸ばし料理を注文していた。
 しめじと鶏肉のオイルスター炒めを頼んだのは、先日の会話を覚えていたからか……。
 居酒屋には松茸料理がなくて残念だ。
 昔、旭とよく行った小料理屋にはあったんだが……。
 沙良のマッピング範囲が増えたら絶対、食べに行こう。

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