自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 98 迷宮都市 地下12階 製麺店開店準備 2&7パーティ集結 バーベキュー

 約束事の話を一気に聞かされた従業員達は放心状態にあったが、その様子を気にせず沙良は彼らを裏庭へ連れて行き、今まで着ていた服の洗濯をさせた。
 これから毎日服を着替えて洗濯する事に慣れるまで時間は掛かるだろうが、必要な物はこちらで準備してある。石鹸も数多く渡したから、ケチらずに使ってほしい。
 しかし、着た切りすずめだった従業員達の服は今にも破れそうだ。
 沙良が力強く洗濯している様を見て、ハラハラしているのが分かる。
 洗濯した服をしぼったあと、しわにならないよう伸ばして干すよう注意していた。

 再び店内に戻り給料の銀貨5枚(5万円)を先渡しすると、彼らは一斉に頭を下げ感謝しながら受け取った。
 沙良が4つの業務用寸胴鍋で湯をかしても問題ない事を伝え、ファイアースライムの魔石を大量に渡し、ひげり方を念入りに教える。
 製麺店の従業員は直接客を相手にする必要はないが、無精ぶしょう髭を伸ばしたままだと清潔感に欠けるだろう。
 ステンレス製の爪切りを渡し、手と足の指の爪を切るように言っていたが、それは異世界にない物じゃないか? 案の定、渡された皆の顔がぽかんとした表情になっている。
 俺は小さく嘆息たんそくし、爪の切り方を見本として見せた。
 まぁ売るわけじゃなく、従業員だけが使う分には問題ないか……。
 
「各部屋に、布団、着替え、エプロン、生活用品を置いておきました。2人部屋には手の不自由な人と足の不自由な人がペアになって、1階の部屋は一番年長者の方が使用して下さいね。包丁を使う作業があるから、店用の備品としてポーションを常備します。明日は朝9時に集合ですから、手を石鹸で洗って頭に手拭てぬぐいを被り、エプロンをした状態でいて下さい」

 最後に沙良がそう伝え、店を出た。
 ホームに戻ると、購入した中力粉を異世界の小麦粉を入れる袋に入れ替える。
 その後、沙良は打ち粉用の片栗粉を大壺に移し替え、うどんの作り方を看板に書き記していた。
 
 翌日、月曜日。
 今週は製麺店の従業員にうどんの作り方を指導するため、ダンジョンの攻略を中止する。
 朝9時に製麺店へ入ると、10人全員がそろい待っていた。
 沙良の言い付け通りに、無精髭が剃られていたので皆少しだけ若く見える。
 頭に手拭いを被り、エプロンもちゃんと着けていた。
 身嗜みだしなみを整えた皆は、昨日とは別人のような姿で清潔感にあふれている。
 これなら製麺作業をしても問題なさそうだ。
 俺がそう思っている間に、沙良はしっかり両手の爪が切られているか確認していた。
 中には深爪になり痛そうな人もいたが、爪切りを初めて使用したため加減が分からなかったのだろう。
 沙良は昨日書いた看板を店内に設置し、うどん作りに必要な道具を次々とテーブルの上に並べて、

「皆さん、おはようございます。これから私がうどんを作っていきますので、足の不自由な人達はよく見える位置に移動して下さい」

 うどん作りを開始した。
 俺もなんとなく知っているが、ねる作業は足の不自由な人、足で踏む作業は手の不自由な人、麺を切る作業は足が不自由な人と役割分担を決めたようだ。
 こうして見ると、思った以上に手間も時間も掛かるんだな。
 沙良が見本を見せ、その後に従業員達が同じ作業をする。
 麺を切った時は、包丁の使い方に慣れていないのが丸分かりなくらい不揃いになっていたが……。

「1週間で店に出せる状態にして下さい」

 沙良に言われた従業員達は、自分達の打ったうどんを見て悲壮ひそうな顔をしていた。
 何事も経験だ。何回も繰り返している内に上達するだろう。
 初めて打ったうどんを使った肉うどんを食べた皆は苦笑していたが、以前料理担当をしていた人に教えてもらえば何とかなるか?
 初日は不安を覚えた彼らの手付きも日を追うごとに変化していき、6日後には店で出せる状態になった。
 生活が掛かっている分、真剣に取り組んだおかげだな。

 そうして月曜日から製麺する量は135食に決定した。
 製麺店の従業員を肉うどん店に連れて行き、母親達との顔合わせを済ませる。
 毎週教会の炊き出しに並んでいた皆は顔見知りらしいが、無精髭を剃った所為せいで気付いてもらえなかった人もいたようでショックを受けていた。
 沙良が1階に住んでいる最年長のバスクさんをリーダーに指名して製麺店を任せると、

「月曜日から、よろしくお願いしますね」

「頑張ります!」

 期待を受けた従業員一同が胸を張って答える。
 その声は力強く、なによりも自分達の仕事に誇りを持っているように見えた。
 1週間前、自信がなさそうだった姿とは違って頼もしい。
 妹が大人達の支援を始めたのは、無駄にならずに済みそうで安心する。
 彼らが、この先も努力をおこたらず優秀な麺職人になる事を願って、家に帰った。

 月曜日。
 1週間振りに、ダンジョン地下12階の攻略を開始する。
 午前中、みかん狩りと薬草採取に分かれた俺達は、午後から魔物を倒し安全地帯に戻ると地下11階に移動した5パーティーが集まっていた。
 これでまた、7パーティーが揃ったな。
 顔見知りの冒険者が増えたので、沙良が嬉しそうだ。

 夕食のメニューを何にするのかと思ったら、沙良が突然バーベキュー台を取り出し、ネギとハイオーク肉を串に刺して、玉ねぎ、人参、じゃが芋、マジックキノコを切りながら、俺には火起こしを任せる。
 そして塩、胡椒こしょうをした食材を網の上にせ、炭火焼きにしていく。
 当然、見た事もない調理方法に興味を覚えた7パーティーのリーダー達が集まってきた。

「良かったら、ステーキ肉を網の上で焼いて下さい」

 沙良の言葉を聞いた各パーティーの料理担当者が、我先にと食材を持参して焼き出した。
 
「お肉が美味しい~! マジックキノコもジューシーになって、焼くとこんなに違うのね」

「ネギも甘くていいな!」

「私はニンニクを丸ごと焼いたのが気に入ったよ!」

 バーベキュー台で焼いた物は好評のようで、冒険者達がその味に驚きながら舌鼓したつづみを打っている。
 今回は新しい料理ではなく、調理方法を変えたのか……。
 ダンジョン内の食事改善を頑張っているようで、俺は妹に素直に感心した。
 沙良がこっそり焼肉のタレを入れた皿をくれたので、俺と旭は馴染みのある味に顔をほころばせ追加で牛肉を頼む。すると、ミノタウロス肉が出てきた。どちらも牛肉の味だから構わない。
 きっと沙良は、ダンジョンで狩れる魔物肉を優先的に消費したいんだろう。
 冒険者達がバーベキューの味に満足している様子を見ていた沙良は、7パーティーに1台ずつバーベキュー台をプレゼントしていた。
 
「いや~、地下12階に拠点を移して良かったよ。このバーベキューは、最高だ!」

「明日来る地下11階のメンバーに、炭の購入を伝えないとな」

「サラちゃんも、このバーベキュー台? ありがとう! 代わりに欲しい物があるか分からんが、あれば言ってくれよ」

「じゃあ何か考えておきますね」
 
 バーベキュー台を貰ったパーティーリーダー達から口々にお礼を言われた沙良は、少し恥ずかしそうに笑って返事をする。
 バーベキュー台は、アパートの住民が持っていた物だろう。
 アイテムBOXに365台以上は入っていそうだ。
 だが、バーベキュー台を冒険者達に渡したのは大きい。これでステーキより肉が格段に美味しくなった。
 妹の事だから、その内に焼肉のタレも秘伝だと言って堂々と使いそうだしな。
 俺はその時を楽しみにして、こんがりと焼けたミノタウロスの肉を頬張ほうばった。

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