自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 99 迷宮都市 地下12階 ホーム内の移動手段&二種類の果物

 食事を済ませてテントに入ろうとしたところ、沙良がケリーさんに引き留められ話し掛けられる。
 俺と旭は2人が会話を終えるまでテント内で待ち、ホームに戻った。
 
「ケリーさん達、地下11階でまた『白銀はくぎんつるぎ』に接触されて嫌になったから、地下12階へ拠点移したんだって。私達も気を付けるよう注意してくれたよ」

 沙良が椅子に座るなり口を開き、先程ケリーさんと話していた内容を口にする。
 地下11階で接触されたとは穏やかじゃないな。
 彼らは地下10階を拠点にしているはずだが……。
 地下10階に居る冒険者に相手にされず、地下11階まで移動したのか?
 シルバーウルフの皮を、まだあきらめてないらしい。

「なんか動きが怪しいな、その王都から来た連中」

 俺は内心を隠し、沙良の言葉に返事をする。

「うん。サリナ(連れ子)も気になるし、『白銀の剣』とは関わらないでおこう」

「そうだね、沙良ちゃんは特にバレないよう注意が必要だよ」

 旭は一瞬俺に視線を向け、沙良の言葉に同意した。

「ほんと嫌な感じ、私は楽しくダンジョンを攻略していたいのに~」

 妹は、妙な動きをする『白銀の剣』にプリプリ怒っているようだ。
 でも、このまま俺達の後を追って地下12階に来られたら困るんだよな。
 階層を移動するのは簡単な事じゃないから、彼らがそうしないといいんだが……。

 金曜日。
 心配していた『白銀の剣』は地下12階に顔を見せず、何事もなく攻略を終え冒険者ギルドで換金した。
 その後、製麺店に寄ってリーダーのバスクさんから報告を受ける。
 沙良に、うどん作りを学んでから2週間。2人1組の作業にも慣れ、効率もアップしたという。
 冒険者だった頃、料理担当をしていた人が毎日料理を作ってくれるので、テーブル席に座り落ち着いて食事が出来ると喜んでいた。
 店用に常備したポーションを使用した従業員もおらず、順調のようだ。
 沙良は時々うなずきながら、バスクさんの話を熱心に聞いていた。
 マジックバッグに材料を入れ替え、店を後にする。

 ホームに戻り、俺と旭は居酒屋へ向かった。
 電子メニューで生ビールと幾つかの料理を選択し、ジョッキを合わせ乾杯すると、

「お疲れさま~。『白銀の剣』が地下12階まで来たらどうしようと思ってたけど、来なかったね」

 旭が生ビールに口も付けず、心配事を話し出す。

「彼らが率いるクランメンバーの人数じゃ、地下12階までフォローするのは難しいんだろう」

 配送担当者がいなければ、食材に困って攻略を続けられない。
 それに階層を下りるたび、強くなっていく魔物を狩る腕がなければ無理だ。

「でも、地下11階までは来たんだよね?」

「多分、ケリーさん達に話を聞きに来ただけだと思うが……。楽観視はしないほうがいい。地下12階に現れた時を考えておこう。やはり、相手にしないのが一番だ。声を掛けられても無視するよう、沙良に言う必要があるな」

「沙良ちゃんが、お人好しを発揮しないよう注意しないとね!」

「嫌っているようだから、それは無いと思うぞ? それより、沙良の見た目をあなどって怒らせないか心配だ」

「あ~、それはまずいね……」

 臨戦態勢になった時の妹を思い出したのか、旭が遠い目をする。
 俺も、もしそうなったら止められないなと溜息を吐いた。

 日曜日。
 教会の炊き出しに来た肉うどん店の母親達に、沙良が手打ちうどんに変えてから問題はないかたずねていた。
 
「うどんの状態は乾麺の時よりいいですね。お客さんにも好評ですよ」

 乾麺より手打ちうどんのほうが腰もあり、食感がいい。
 100食から135食に増やした手間も、沙良が心配するほどないそうだ。

「給料を増やしてもらった分、しっかり働きます」

 そう嬉しそうに言う姿を見て、ようやく沙良が安心したように笑う。

「あまり無理をせず、子供達との時間を大切にして下さいね」

 店の営業時間中は、子供達だけで店舗の2階にいるのを心配した沙良がそう言うと、

「ありがとうございます。子供達も友達がいるので、楽しく遊んでいますよ」

 母親の一人が、感謝するように頭を下げた。
 沙良が経営する店は勤務時間が普通より短いため、母親達も助かっているだろう。

 食べ終わった子供達にみかんを配り、見送ったあとホームへ帰る。
 中力粉の入れ替えをするためにアパートの空き室に移動して、床にビニールシートを敷いた。
 アイテムBOXから中力粉を取り出す沙良を見て疑問が湧く。

「いつ買いに行ったんだ?」

 製粉所は、車の運転の出来ない沙良が自転車で行ける距離じゃない。
 購入する時は、いつも俺が車を出していた。
 すると、妹がキョロキョロと視線を彷徨さまよわせ目を合わせようとしない。怪しいな……。

「沙良? 正直に答えたほうが身のためだ」

 隠し事が苦手な沙良の態度にあきれながら低い声を出すと、

「そっ、それがね~、ホーム内もマッピングで移動出来ないか試してみたら行けたんだよ。だから、私一人で買い物に行けるようになったの! べっ、便利だよね~」

 あぁ、それは盲点だったな。
 ホーム内で魔法を使用する事はないから、使えないと思っていた。

「それはすごく便利だな。旭とよく通っていた店なんだが、家から遠くて行けなかったんだ。金曜日の夜に連れて行ってくれ」

「分かりました……」

 沙良がホーム内をマッピングで移動可能なら、酒を飲んだ後の帰りを気にせずに済む。
 今までは歩ける距離にある店しか入れなかったが、これからは好きな店に行けるな。
 妹は俺にタクシー代わりにさせられると思い、黙っていたんだろう。
 まっ、俺と一緒に購入した覚えのない中力粉を出した時点で、おかしいとバレてるんだが……。
 下手に隠そうとしても直ぐに気付かれるぞ?
 これくらいなら可愛いもんだし、今回は目をつぶろう。
 
 月曜日。
 ダンジョン地下12階でみかんを採取し、昼食を食べにホームへ戻る。
 やけに機嫌の良い沙良にお弁当を渡されふたを開けると、ハンバーグ、ポテトサラダ、ナポリタン、法蓮草ほうれんそう胡麻和ごまあえが見えた。
 ハンバーグを半分に切ると、中にはチーズが入っている。今日も美味しそうな弁当だ。
 はしを付けようとしたところ、沙良が待ってましたとばかりに口を開く。

「聞いて聞いて~。薬草採取をしている時に桃を見付けたんだよ~。みかんと違って1本の木しか生ってないんだけど、2種類の果物があるとは思わなかった」

「桃があるの!? 俺も探してみるね!」

 話を聞いた旭が飛びつき、桃を探してみると言う。
 俺は1本だけ生っている部分に興味が湧き、目を輝かせた。
 今日の分は沙良が全て収穫しただろうから、明日俺も探してみよう。
 マグカップに入れられたコーンスープを飲み干し、メインのハンバーグに口を付ける。
 熱いままアイテムBOXに収納しているので、あふれる肉汁が食欲をそそった。
 このとろけたチーズにからめて食べるのが最高なんだよな。
 俺は大満足で食事を終え、桃が出てくるのを期待していたが、デザートは無かった。
 沙良よ、いつ食べさせてくれるんだ?

 テントから安全地帯に出ると、タイミング良く怪我人が運ばれてきた。
 ケリーさんのメンバーだったので、旭が表情を変え瞬時に治療をほどこす。
 仲の良い冒険者達には、少しでも痛い思いをさせたくないからな。
 それに恩を売っておけば役に立つ情報も貰える。
 ケリーさんからお礼を言われ、旭が治療代を受け取ったあと、2回目の攻略をしに安全地帯を出た。

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