自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第880話 シュウゲン 63 ベヒモスの討伐&蘇った記憶

 つい先程までガーグ老の工房の庭に居たというのに、今儂が立っている場所は見渡す限り何もない平原のような所だった。
 沙良が使用するホームのような能力で、別世界にある魔界へと一瞬にして移動したらしい。
 黒竜の能力に驚きつつ、やはり時空魔法を操る認識で間違いない事に気付いた。
 もう一度、確かめるように沙良を抱き上げたままの黒竜へ視線を向け、じっくりとながめる。
 長命種の実際の年齢は分からぬが、人化した姿は60代後半というところかの。
 彼の姿を見続けていると、奇妙な既視感に襲われた。
 次いで軽い眩暈めまいが起きてバランスを崩しそうになり、よろめく。
 突然何だ? 儂は頭を振り払うようにして、体勢を整える。

「ここは、魔界の中心地点じゃ。ちい姫は、何処どこへ行きたいのかの?」

「S級ダンジョンに行きたいです!」

 黒竜と沙良の遣り取りをどこか遠くで聞きながら、儂は眩暈をこらえていた。
 
「今からS級ダンジョンへ向かうのか!?」

 沙良の言葉を聞き、ルシファーが声を上げる。

「ルシファーは家に帰ってもいいよ」

「姫! 私も少しは強くなったので、お伴致します!」

 S級ダンジョンに向かうヒルダちゃんを心配してルシファーが同行を願うが、

「あ~、申し訳ないけど足手まといだから遠慮して下さいな」

 その希望はヒルダちゃんにすげなく断られた。
 沙良のマッピング能力を見せるわけにはいかず、一緒に来られるのは困るから仕方ない。
 実力不足だと言われたルシファーは目に見えて落ち込み、地面に座り込んで「の」の字を書き始めてしまう。
 全く、情けない男じゃの。ヒルダちゃんにそんな姿を見せても、同情などしてもらえんぞ?
 あわれみを買うより、もっと強くなって必要な人材だと思わせるほうが先だろうに……。
 
「魔族の若造、そう落ち込むでない。ありえんほど最強のメンバーがそろっているから、S級ダンジョンなぞ鼻歌をしながら攻略するであろう。ちい姫は、目当ての魔物がおるのか?」

「はい、ベヒモスが欲しいんです!」

「ベヒモスとな? 南の大魔王がペットにしておったが……、相変わらず趣味が変わっておる」

 沙良はルシファーの様子に頓着とんちゃくせず、黒竜へ目的を告げると急かすように腕を引っ張った。
 そんな孫娘の態度に苦笑して、

「では移動しよう」

 黒竜が言った途端とたん、再び景色が変わる。
 戦力外だと言われたルシファーは、あの場に置き去りにされたようで姿が見えない。
 目前には、ダンジョンの入口が大きく開いていた。
 このS級ダンジョンにベヒモスがいるのか……。

「ベヒモスはダンジョンの地下99階層におる。儂は待っておるから、行ってきなされ」
   
 黒竜は腕に抱いたままだった沙良を降ろさず、何故なぜかセイに預けて見送るよう手を振った。
 小さな子供のような扱いをされた沙良は、セイから地面に降ろされ目をまたたかせている。
 それをあかねも不思議そうに見ていたが、両親であるひびき君とヒルダちゃんは動じる様子もない。
 まさかセイにも、2人と同じように異世界で生きた記憶があるのだろうか?
 今は人族だが、前世の種族は違っていたかも知れんな。
 それなら、あの突撃槍を軽々と振り回す腕力も納得出来る。
 黒竜がセイの事を知っていたとすれば、ちい姫と呼ばれていた沙良の近くにいた者の可能性が高い。

「じゃあ、早速さっそくダンジョンに入ろう!」

 儂が思いをめぐらせている間に、沙良はマッピングで次々と階層を移動していった。
 数分後、地下99階に到着したのか沙良が立ち止まり、周辺を探る様子を見せる。

「この階層には安全地帯がないみたい。皆、結界魔法を張ってね」

「サラ……ちゃん。S級ダンジョンは安全地帯がないのが普通ですぞ」

 S級ダンジョンに初めてきた沙良にガーグ老が常識を教えると、孫娘は目を丸くして、

「知りませんでした。ベヒモスを発見するまで、周囲の警戒をよろしくお願いします」

 儂らに警戒を頼んだ。
 マッピングで階層内を調べる時は無防備になるため、当然儂らが魔物を倒す事になろう。

「少し魔物を狩ってくる!」

「あっ、俺も!」

 そう思っていたが、Lvを上げる事に貪欲どんよくな茜とヒルダちゃんは、この機会を逃したくないとばかりに駆け出してしまった。
 その2人の後を、あわててガーグ老と響君が追いかけていく。
 沙良のそばに残ったのは、儂、セイ、ゼンの3人だけとなる。
 まぁ、このメンバーならどんな魔物が現れても心配ないじゃろう。
 儂はダンジョンに入ってから、段々と強くなる眩暈と戦いながら腕を組み目をつぶった。
 その瞬間、誰かの記憶が奔流ほんりゅうのように脳内を駆け巡る。
 それは竜族だった男が光竜を愛したために卵がかえらず、巫女姫を探しに時空を超える内容だった。
 竜族だけあって長命なその男の記憶量は半端なく多い!

 割れるような頭の痛みで涙がこぼれ落ちそうになる頃、ようやく全ての記憶が戻った。
 風竜王だった自分を思い出し、現在の姿に愕然がくぜんとする。
 知り合いの黒竜に願い転生した先は地球の日本で、人間として生きたあと再び戻ってきたがドワーフに転生し、風竜王の我がドワーフ王になっておるとはお笑い草じゃ。
 いくら記憶を失くしていたからとはいえ、自前の竜気で育てた風槍を忘れ、鍛冶魔法まで習得するとはなげかわしい。
 体内に感じる力強い風槍の存在を感じて目を開く。
 あぁ、確かに巫女姫を見付け元の世界に戻ってきたぞ! 
 孫娘になっているとは予想外だが、一度日本人として関係性を持つ事が必要だったのだろう。
 そして沙良は卵を発見し、見事に孵化ふかして見せた。
 魔力を与えられない我の代わりにシーリーを育ててくれておる。まさに奇跡のような存在だ。
 ずっと願っていた我らの子供が誕生した事に胸を熱くしていると、ふと別れねばならなかった愛しいつがいを思い出す。
 
 属性違いで皆に結婚を反対された、光竜王のシャーリーン……。
 成人の儀式で初めて会った時から運命を共にしたいと願った者は、現在どうしているだろう?
 我が孵らぬ卵を引き取り巫女姫を探しに行った時は、まだ誰とも番っていなかったはずだ。
 2人の子供であるシーリーを見せたら、頭の固い長老達は考え直してくれるかも知れん。
 そこまで考え、日本で妻だった小夜の事が気になりだした。
 おっと、これは大問題が発生しておるようだ。
 シャーリーン以外に心かれる者が居るとは……、どちらにも顔向け出来ん。
 さて、この問題をどうするべきか……。

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