自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 119 迷宮都市 地下12階 ダンクさんの両親 3

「サラちゃんみたいな子が息子のお嫁さんに欲しいわ~。年齢が違いすぎて残念よ」

 ダンジョン産の桃を食べながら、満面の笑みを浮かべてルイスさんが言った言葉を聞いて、思わず咳き込みそうになった。
 ダンクさんは良い人だと思うが、妹の結婚相手として考えている人物は他に居るため話を進めてもらっては困る。

「そりゃないだろ、俺達より年上の息子なんか間違ってもすすめるんじゃねぇ。サラちゃんには、もっと若いきのいい連中が沢山いる」

 幸い、妻の言動に夫のジョンさんが反対してくれて助かった。

「分かってるわ! 私も、おじさんになった息子を紹介しようと思ってないわよ。私の中で、あの子はまだ20歳だから慣れないの。本当ならちょうどお似合いの年頃だから、ちょっと思うくらい良いでしょ!」

 夫にたしなめられたルイスさんが、ねた様子で顔をふくらませていた。
 旭の方をうかがうと、そわそわと落ち着きがない態度で沙良の反応を気にしている。
 はぁ~、ここで「沙良ちゃんは俺の結婚相手です!」くらい言えないものか……。
 ヘタレの旭に自己主張出来ないのは分かっているが、先が思いやられるな。

「ははっ、妹にまだ結婚は10年早いですよ」

 仕方なく俺が二人に対して牽制けんせいするような言葉を掛けると、

「沙良ちゃんは、まだ子供だからね~」

 旭が乗っかり、結婚の意志はない事を伝える。消極的にだが否定はしたいようだ。
 だが話を聞いた沙良が、実年齢を知っている俺達に納得いかないような顔を向けた。
 いいから、ここは黙って大人しくしていろ。

「違いねぇ~、こんな可愛い娘がいたら俺も嫁に出したくないわ」

「そうね、いつまでも手元に置いておきたくなるわ。心配しないで大丈夫よ、お兄さん」

 2人からそう言ってもらえたので、結婚話はなくなった。
 まぁ、沙良も本当にダンクさんを薦められたら断るだろうが……。
 その後、こんなに早くダンジョンの攻略を再開するのは、メンバー4人が憔悴しょうすいしているのを見かねての判断だと教えてくれた。

「ダンジョンの攻略中は、考えてる暇なんてないから半年後には気分も落ち着くだろう?」

 ジョンさんが悪戯いたずらっぽく笑って見せる。
 確かに、魔物を相手に考えている場合じゃない。一瞬の隙が怪我や命に関わるのが冒険者稼業だ。
 半年間もダンジョンに潜り続けていれば、この先の人生に対して建設的な考えも思い浮かぶだろう。
 
「息子が年上になっても、やはり自分達は親だからな。地下19階を攻略する姿を見せる事で、後を追ってほしいんだ」

 最後にジョンさんが言った言葉には、息子への愛情があふれていた。
 息子からクランリーダーの座を奪った理由が、親の背中を見せる事だったとは……。
 ダンクさんのご両親は、思った以上に前向きだった。
 そしてメンバーの事を本当に心配しているのだと分かる。
 ダンクさんの家を辞去する前に、沙良がダンジョンで採取したみかんを渡し、玄関まで見送ってくれる二人に手を振り別れた。 
 自宅へ戻ってから旭が脱力するように大きな息を吐き、

「沙良ちゃんが、お嫁に行っちゃうんじゃないかと思って心配した~」

 今更な意見を言う。
 
「お前が立候補すれば良かったじゃないか」

「そんなの出来るわけないよ! 他人事だと思って、簡単に言わないで!」

 旭の性格上、無理な事は重々承知している。ただ、見ていて歯がゆいのは確かだ。  
 
「まっ、頑張れ」

 俺は慰めのようなはげみの言葉を掛け、先に風呂へ入った。

 土曜日。
 沙良が奏屋かなでやに果物を卸しに行った後、旭とジムへ向かった。
 Lvがある異世界でHPが上がった所為せいか、体力や筋力が上がっているのが如実にょじつに分かる。
 100Kgのベンチプレスを、軽々と何度も上げられるようになるとは驚きだ。
 トップスピードでランニングマシンを1時間走っても疲れないしな。
 若返っただけじゃ、こうはならないだろう。
 旭はローイングマシンで船をぐような動きを楽々こなしている。
 沙良をデートに誘い、ボートに乗せてやれば男前の姿を見せられるんじゃないか?
 筋力が上がっても筋肉質の体になるわけじゃないから、マッチョにはなれないけどな。

 あれで相当筋肉好きの妹は、父の影響を受けているのかも知れない。
 俺達が子供の頃、父の体格は普通だったのに、ある日突然きたえ出したのだ。
 何の心境の変化があったのか分からないが、見る見るうちにムキムキになっていく姿は少し怖かった事を覚えている。
 沙良は片手を曲げた父の腕につかまり、よく遊んでいた。
 銀行員なのに、スーツがはちきれそうなほど筋肉を付けた父は何を目指していたんだろう?

 ジムを出てから昼を食べる店を探していると旭が寿司が食べたいと言うので、行きつけの店に向かう。
 握りが10貫と刺身、天麩羅、茶碗蒸し、味噌汁がセットのランチに、追加で足りない寿司を幾つか注文して、即座に出てきた料理に舌鼓したつづみを打つ。
 寿司を頬張りながら、

「やっぱり、この店の寿司は美味しいね。店主が居ないから、視線を気にせず食べられるし!」

 この店の店主はヤクザのような強面こわもてをしているから、旭は苦手だったようだ。
 俺は数回通ううちに慣れたが、話しかけられない旭に変わり、いつも注文は俺がしていた。
 小鉢に盛られた新鮮なアオリイカの甘さを味わい、熱々の海老天にはしを伸ばす。
 出汁の味がしっかり利いた茶碗蒸しには、小海老や貝柱の他に銀杏やゆり根が入っている。
 どれを食べても文句なしの美味うまさだ。

 食事を済ませ家に戻ると、まだ沙良が異世界から戻っていない。
 今日もまたシルバーと遊んでいるんだろう。
 テイムした従魔が可愛いのは分かるが、たまには俺達にも貸してくれたらいいのに……。
 独り占めするとは心の狭い妹だ。
 沙良が戻ってくる夕方まで、旭と俺は自室で過ごし部屋を片付けた。

 夕食に呼ばれて沙良の家を訪れると、ぶり大根、鶏団子、法蓮草ほうれんそうの卵とじ、豆腐ステーキ、茄子なすの味噌汁が用意されていた。

「いただきます」

 手を合わせてから、茄子の味噌汁に口を付ける。珍しく白味噌らしい。  
 普段は赤味噌が多いから少し意外だな。
 味がよく染みた大根は、鰤と交互に食べると箸が進む。
 甘辛く味付けされた鳥団子も、一度素揚げしたのか外がカリッとして食感がいい。
 食事中、沙良がシルバーに『鶴の恩返し』を聞かせてあげたと言っていたが、何の為にそんな話をしたのか謎だ。
 そもそも従魔に話の内容が理解出来るのか?
 そう突っ込みたい気持ちを抑え、沙良がシルバーと何をしていたか笑顔で話を聞く。
 ここで機嫌を損ねると、妹は俺達が居ない時の話をしなくなるだろう。
 彼女は何をしでかすか分からない。1人で居る時の事を自分から話してくれるなら、知っておいたほうがいいからな。

「……沙良ちゃん、明日2人で遊びに行かない?」

 そんな事を思っていると、突然旭が沙良を誘う台詞を口に出す。
 大方、結婚話が出てあせってるんだろう。

「俺は読みたい本があるから2人で行ってこい」  
 
 せっかく旭が勇気を出してデートに誘ってるんだ。ここは親友として一肌脱いでやろう。
 
「どこで遊ぶの?」

「ドライブとか、どうかな?」

 旭よ……、狭い範囲しか移動出来ないホーム内でドライブデートはないだろう。
 案の定、言われた沙良がきょとんとしているじゃないか。

「行きたい所があれば送るけど?」
 
 わざわざ車で移動しなくても、ホーム内は全てマッピングで移動出来る。
 ドライブする必要を感じない沙良は、旭の提案をすげなくスルーしていた。
 そしてOKをもらえなかった旭はへこみ、二の句が継げないでいる。
 結局、旭の代わりに俺が映画でも見に行ってこいと言ってやった。
 
 日曜日。
 教会の炊き出しを終えたあと、2人は映画を見に出かけた。
 旭には軍資金を渡し、妹に金を出させるような真似はするなと忠告しておいたが……。
 戻ってきた旭から話を聞くと、映画代も昼食代も「お兄ちゃんのお金でしょ?」と言われ、沙良が払ったそうだ。
 元々、俺の金は沙良のものだし出所は一緒だが……、男心を解さない妹に呆れて頭が痛くなる。

「日本円が欲しい」

 ぶつぶつつぶやく旭を見て、マンションをホームに設定出来たら金を貸してやろうと密かに誓った。

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