自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第386話 ガーグ老 3 存在を秘匿された御方&地下8階でのダンジョン内警護 

 御子が移転魔法で姿を消された後、儂らはこれ以上この場所に居ても意味がないと判断し定宿に帰る事にする。
 そして長年共に生きた影衆の皆に、御子が存在を秘匿ひとくされた御方であると伝え、これを生涯口にする事を固く禁じた。

 秘密を守り抜くためには、それを知る人数が少なければ少ない程良い。
 儂らは『迷彩』を用いてお傍に居たから知り得た事実だが、御子はその能力をちゃんと隠しておいでだった。

 周囲に人が居ない事を確認して移転していたからだ。
 その能力を知られる事の危険性を充分に理解していると判断して良いだろう。

 儂はしばし考え、手に念話用の魔道具を握り締める。

 これは本国に居る、息子が持っている物と直接つながる魔道具だ。
 魔力の消費量が半端なく多いが、その分手紙とは違い直ぐに連絡を取れる優れものでもある。

『儂だ、お主に話さねばならん事が出来た』

『父上、お久し振りでございます。声を聞く限りご健勝の様子。して話とは何でありましょう?』

『うむ、お主も息災のようで何よりだ。王からカルドサリ王国で行方不明になっていた、ヒルダ様の御子が見付かった事は聞いておるな?』

『はい、伺っております』

『その御子は、存在を秘匿ひとくされた御方であった』

『なんと、それは本当ですか!? ここしばらくはご誕生の気配がないと王がなげいていた御方ではないですか!』
 
『あぁ、本当のことだ。秘匿された御方を護衛するのは、当主率いる50名の『万象ばんしょう』が担うのが習わし。これは国家を揺るがす大問題だ。この事を王に伝え、急ぎカルドサリ王国に向かえ』

『了解致しました。50名の『万象』と伴に大陸を渡ります。ただ、なにせ別大陸の事ですからそちらに到着するのはどんなに早くても数か月は掛かります。それまで王女様の護衛は父上にお任せしてもよろしいですか?』

『既に引退した身の上だが、老体に鞭打って他の者と一緒に御子の護衛をするで任せるがよい』

『影衆の中で修羅の渾名あだなを持つ方が、御冗談をおっしゃる。他の誰よりも堅固な守りになりましょう。では、私はこれから王に伝えに行って参ります』

『しかと頼んだ』

 ここで念話の魔道具を手放す。
 相変わらず、魔力消費が激しい魔道具だな。

 事前に用意したハイエーテルを飲み干し、魔力の補充をすると体からだるさが消えた。

 次はマケイラ家が集めた御子に関する情報収集だ。
 儂は今までに分かった事実を教えてほしい事と今後御子の情報を探る必要はない旨を書いた手紙を、当主であるガリア宛に『ポチ』へ託す事にする。

 摩天楼まてんろうのダンジョンがある都市まで、2週間という所か……。
 1ヶ月後には、今までの御子の動きが分かるだろうて。

 翌週月曜日。
 カマラから聞いた通り、御子は冒険者ギルド前から乗合馬車に乗りダンジョン攻略を開始した。

 儂らも当然、御子の身辺をお守りするべく『迷彩』を使用してダンジョン内に付いていく。
 
 が……。
 速いっ!!

 引退したとは言え、我らは影衆である。
 そんじょそこらの者には身体能力の差で負ける事はないと思っていた。

 それなのに御子達3人は、まるで風を切るかのようにダンジョン内を駆け抜けるではないか!
 しかも道中の魔物を狩りながらだ!

 少年2人が魔物の眉間にライトボールを撃ち、確実に仕留めている。
 この2人は優秀な魔法士であったようだ。
 
 これは少々儂らも気合いを入れねば、見失う事になろう。

 移転系の能力を使用して移動している訳でもないのに、影衆だった儂らは何度も置いていかれそうになった。

 これは老体に鞭打つどころの騒ぎではないわ!
 御子達の身体能力は、一体どうなっておるのだ!

 息も絶え絶えに後を付いていく儂らを後目に、ようやく御子が安全地帯で休憩したのは何と地下8階であった。

 やれやれ、これはちとしんどい護衛になりそうだな。
 今ここに居る影衆の中で、最年長の儂は1,100歳を超えている。

 本来ならとっくに役目を終えて、棺桶かんおけに片足を突っ込んでいる頃だろう。
 儂より若い800歳の皆の様子を見て取ると、肩で息をしておる。

 ダンジョンの地下1階から地下8階まで、一度も休憩せずに駆け続けるとはとんだ誤算だった。

 しかもたった1時間でとは……。
 何の修行かと思ったわっ!

 過酷な鍛錬を課す影衆でも、ここまで無茶な走りを強要した事はない。
 このように非常識な速さで走り続けるのは、かえって疲労が蓄積し効率が悪いのだ。

 1週間毎にダンジョンを潜られると聞いていたが、これを毎週付いていくのは中々難儀な事よな。

 しかしこの地下8階は、アンデッドだらけでなんとも居心地が悪い場所だ。
 臭いも相当ひどい。

 エルフの国にもダンジョンはあるが、不思議とアンデッドが出る階層はなかった。
 そのため、臭いに耐性のない儂は辟易へきえきしていた。

 御子はゾンビやグールが近くに居ると知ると、立ち止まって討伐を2人の少年に任せる様子。
 そこで儂は、とんでもないものを見る事になる。

 少年2人が、ホーリーで魔物を浄化し本体を消し去ってしまうではないか!?

 御子は床に落ちた魔石を拾いながら、次々と攻略を続ける。
 
 浄化の魔法は人族の国では教会の司祭クラスが使用するものだ。
 それでも、普通は魔物を消し去ったりはしない。

 この御二方は……。
 もしや高名な治癒術師であられるのか?

 そして魔力量は底が知れない程多い。
 これだけ多くのアンデッドを浄化し続ける事が出来るなど、無尽蔵むじんぞうにあるのではないかと疑ってしまう。

 浄化の魔法は治癒の魔法とは違い、消費量が多いと聞いていたが……。
 どんなご縁があって、行動を共にしておられるのだろう?

 そして一週間後。
 ダンジョン攻略は何事もなく終了し、御子は地上に帰還された。

 儂らは再び地獄のような速さで駆け抜ける御子の後を、必死に付いていくのが精一杯で護衛どころではない。

 この階層で、御子は魔石や魔物の装具を拾っていただけだった。
 何やら楽しそうに歌を歌っていらしたが、なんとも自由な冒険者活動をしてなさる。

 冒険者ギルドに寄って、1週間分の討伐を換金される時は笑顔一杯になり嬉しそうであった。
 その際、道中で狩ったファングボアを5体も引き取られていたが、何に使うのだろうか?

 冒険者ギルドから御子の後を付いていくと肉屋に入る。
 そこで、今回引き取ったファングボアの肉を3体分卸されたようだ。

 その後、御子が買い取った店に行き従業員と言葉を交わしていた。
 ここの従業員は住み込みで雇った者達だそうだ。
 まだ幼い子供を連れ路上生活をしていた母子に職をお与えになったのか……。

 ヒルダ様も王族にしては女官や侍女たちに大変お優しい方であったが、御子は大層慈悲深い性格をしているのだな。

 ただ、ダンジョン内での警護は思った以上に老体には応えるのぅ。
 早く息子と代わりたいものだ。

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