自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第410話 迷宮都市 ガーグ老へ稽古の依頼&アイテムBOXの機能

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 ガーグ老が涙を流しながら、ぽつりとこぼした言葉を聞いて、知り合いに転生者か転移者がいたんじゃないかと思う。

 ただ、おっしゃるって事は主人格の人物に対するものよね?
 元のご主人様?
 亡くなったお孫さんでない事だけは確かだろう。

 う~、すごく気になるけど過去を聞いたりしたら失礼に当たる。
 そもそも私は、ただの客だ。

 この世界は、私が思っている以上に転生・転移した人が多くいるのかも知れないな~。
 タケルの名前も気になっているし……。

「……様、『テリヤキチキン』は美味しいですぞ! 『フライドポテト』もお酒とよく合う、太る食べ物だわ」

 ガーグ老が『ピザ』を食べながら、絶賛してくれている。
 そして、お酒も随分ずいぶんと進んでいるようだ。

 まぁ、泣きながら美味しそうに食べているので、お礼にはなっているか……。
 他9人の職人さん達の方を見ると、幸せそうに頬がゆるんでいる。

 この人達は、あまり話をしないので顔の表情から読み取るしかない。
 普段から、ガーグ老を上司として常に従ってきた感じがする。
 
 動きに迷いがないし、集団行動に慣れているんだろうな。
 今も、ガーグ老のグラスが空くと直ぐにお酒を注いでいるしね。

 提案されていた稽古を受けたい話をしておかないと。

「先日、槍術の稽古をして下さると言ってくれた件ですが、お願いしてもよいですか? 私と兄は槍を、メンバーの旭は剣を習いたいんです」

「嬉しいことだ。儂に出来る事があって良かったわ。何時でも構わんからの、遊びにくる心算つもりできなされ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、明日教会の炊き出しが終わった後にうかがいますね!」

「うむ、明日待っておるからの」

「あっ、稽古をするんだったら基礎体力も必要になりますよね? 走り込みとか、ダンジョンを一緒に周回しますか?」

「いやいや、儂らはもうじじいだでな、……ダンジョンは遠慮したいわ。それにサラ……ちゃん達は若いから基礎体力は充分にあるだろう! それ以上、鍛えん方がよい」

 そうだろうか?
 学生時代、運動部の皆はよく部活で走っていた気がするけど……。

「じゃあ、槍術の基本から教えて下さいね! 私、魔法士なので槍は習った事がないんです」

「魔法士なら当然だろう。気にする事はない、誰でも最初は知らない事から始めるものだ」

「3人一緒に、よろしくお願いします!」

 私は無料で稽古を付けてくれるというガーグ老に、頭を下げて感謝の気持ちを現した。
 本当なら、この強そうな老人達に教わるにはかなりのお金が必要だろうと思う。

 暇だからと教えてくれるそうだけど、どう見ても私より高レベルの方々だ。
 冒険者とはまた違い、対人関係のエキスパートである。

 危険が多い異世界では、何より役に立つ技術だから覚えておいた方がいい。
 私はずっと、魔法が使えなくなった時を心配していた。

 3人が同時に魔法無効の罠にかけられた時、対処する術がなかったから……。

 皆での昼食を食べ終わり、私はもう一度明日の事をお願いして工房から出た。
 本当に、優しいお爺さんだなぁ。

 よい工房を紹介してくれたカマラさんに感謝しないとね。

 用事を済ませて、ホームの自宅に戻ってくる。
 2人の朝食を準備してあったテーブルは、綺麗に片付けられていた。

 そして旭の書いたメモ書きが残されている。
 今日も2人でジムに行くそうだ。
 毎週、よく飽きないな~。

 午後からは、久し振りに2匹と一緒に遊ぼう。
 駐車場に出て名前を呼ぶとシルバーとフォレストが数分で現れる。

 異世界に移転して氷の迷路を作り上げると、それぞれの入り口からスタートだ。
 フォレストは、この遊びを一緒にした事がなかったな……。
 先輩のシルバーが遊び方を教えてくれるだろう。

 私も負けていられない、出口までの道順を行ったり来たりしながら脳内に描いていく。
 あと少しで出口が見えると思った頃には、2匹共が既にゴールして待っていた。

 ペットに負ける私って……。
 し、仕方ないわよね、走るスピードが違うんだもの!

 その後は、2匹と一緒にフリスビーをして楽しんだ。
 どこに投げても、必ず取ってくれるので嬉しい。

 フリスビーをくわえて持ってくる度に、頭をでてあげると2匹も喜んで尻尾を振っている。

 本当に可愛いなぁ~。

 少し休憩しようと地面に腰を下ろすと、シルバーとフォレストが横たわり前脚でおいでおいでの仕草をしてくれていた。
 2匹の間にもたれかかり私は尻尾を布団代わりにして、うとうとしながらそのまま眠ってしまう。 

 とても幸せな夢を見ていた気がするけど、目が覚めた時には何も覚えていなかった。

 少し眠り過ぎてしまったみたいだ。
 時計を見ると17時を過ぎている。

 ホームの自宅に戻り、夕食を作っていると兄達が帰ってきた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

「沙良ちゃん、ただいま~。今日は、カレーだね~」

 時間がなかったので、簡単に出来るカレーにしたのだ。
 今日は、エビとイカの入ったシーフードカレー。

 カレーは、中に入れる材料で味を変える事が出来る。
 トッピングでも楽しめるしね。

 ツナとコーンを入れたサラダと、大皿に唐揚げを盛りテーブルの上に置いておく。
 2人が手洗いを済ませ席に着いた所で夕食だ。

「いただきます」

 食前の挨拶をして直ぐに、旭が唐揚げをカレーの上に3個乗せている。
 私は別々に食べたいので取り皿に2個取った。
   
「お兄ちゃん。今日、家具工房にテーブルの注文をしに行った時、槍と剣の稽古を正式にお願いしてきた。明日からで大丈夫みたいだよ」

「それは嬉しいな。明日、早速さっそく武器を購入しに行こう!」

「私も新しいのにしようかな~。迷宮都市の武器屋に行くのは初めてだよね~」

 普段から武器を使用しないので、迷宮都市では防具屋でワイバーンの革鎧を購入しただけだった。

 兄達の解体ナイフはリースナーの町で購入した物だし。
 しかも特注で!

 もしや今回も男のロマン武器を購入する気かしら?
 オリハルコンの槍とか剣とか……。

 偶の散財だから文句は言わないけど……。
 男の人って、そういうの好きだよね~。

「武器屋なんて異世界っぽくていいな、どんな剣にするか迷いそう!」

 旭は長い間ダンジョンマスターをしていたので、武器屋に入った事もなかったのか。
 あそこは、色々な種類の武器が置いてあるから楽しめるだろう。

「あとね、言うの忘れてたんだけど、アイテムBOXの中に生き物も入るみたい。ダンジョンの魔物で試してみたら、普通に入ったよ」

「何だと!? 沙良、それは絶対に知られるな! アイテムBOXの能力だけでも厄介やっかいなのに、生き物が入ると知られれば戦争に有利すぎる。お前も軍事利用されたくないだろう?」

 それまで、どの槍を購入しようか楽しそうにしていた兄が、いきなり表情を変え真剣な口調で注意してきた。

「分かってるよ。でも、重傷患者を時を止めた状態で運べる事は知っておいた方がいいと思って」

「確かにその方法が使えるなら、助けられる命は増えるだろうが……。旭も、充分注意しておくんだ。カルドサリ王国は他国と戦争をしていないようだが、この大陸中の国がそうとは限らないからな」

「うん、了解! 俺、生き物が入るなんて思いもしないから、試した事がなかったよ! よく気付いたね?」

「ハニーのコロニーが増えたから、拠点を変える時にどうしようかと思って実験してみたの」

 私は事前に考えていた理由を話す。
 マッピングとアイテムBOXを同時に使用する能力を調べていた事は内緒だ。

「へぇ~、ハニーのコロニーって、全部で何匹いるの?」

「今は54匹かな? ハニーをテイムしたら、コロニー全部が眷属扱いになっているみたいなんだよね~」

「それ、すごい! もしかしたら、蟻系の魔物も1匹テイムするだけで数が増えるのかも?」

「どうかな? 私が魅了出来るのは雄だけだし、女王蟻は雌だから無理そうだよ」

 旭とテイムについて話している間も、兄は何か考え事をしているのか黙り込んだまま話には参加しなかった。

 少し顔色が悪いようで、気になってしまう。
 アイテムBOXに生き物が入る話は、しない方が良かったんだろうか?

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