自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
347 / 781
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第473話 王都へ 旭の母親との再会

 唖然あぜんとしている私達を置いて、もう1人の少女が更に言葉を言い放つ。

「生きていたのね! 若い姿になっているけど、賢也君と一緒にいるから直ぐに分かったわ!」

 おや?
 兄の事も知っているという事は……。

「もしかして、お母さんですか?」

 尋ねると、少女はようやく私に気付いたようだ。

「ええそうよ。えっと……、貴方はどちら様?」

 やっぱり、旭の母親だったらしい。

「姿が変わっているので分からないと思いますが、私は沙良です」

「えっ! 沙良ちゃんなの?」

「沙良お姉ちゃん!?」

 2人とも驚いたみたいで、呆気あっけに取られている。
 ここで立ち話をするのも具合が悪い。

 サリナはリーシャが亡くなっている事に関係しているので、素直に喜べない気持ちもある。
 事情を聞く必要がありそうだしね。

「少し場所を移して、ゆっくりお話ししませんか?」

 そう提案すると2人が無言でうなずいたので、私は事前情報を与えずに問答無用でホームの自宅へ全員移動させた。

 兄達の新居ではなく私の家にしたのは、まだ結婚した事を知らないので落ち着くまでは話さない方がいいと思ったからだ。

 自宅の玄関に到着するなり、2人が同時に言葉を発する。

「日本に帰れた!」

 あ~、ぬか喜びさせてしまったみたい。

「ごめんなさい。日本じゃなくて、ここは私の能力であるホーム内なんです。詳しい事情は後で説明するので、取りえず部屋の中に入って下さい」

 そこまで広い玄関じゃないため、5人も立ったままでいると流石さすがにすし詰め状態だ。
 私から靴を脱いで部屋に入っていくと、その後に全員が続く。

 リビングのテーブル席に座ってもらっても、まだ2人は信じられないという顔をしていた。
 私は兄と旭に合図をし、手紙を出して彼女達へ渡す。

 もう何度も同じ事をしているので、読んでもらった方が説明するより理解が早い事を分かっている。
 2人は【詫び状】と日本語で書かれた封筒を目にし、はっとした表情になった。
 
 そして旭の母親から、同じように手紙を渡される。
 こちらも封筒には【詫び状】と書かれていた。

 お互いの手紙を読み合い、事情を把握していく間に私はコーヒーを淹れようと席を立つ。
 どうやら旭の母親はタケルの妹の体に転移したみたいね。

 『手紙の人』からの能力は、アイテムBOXと光魔法。
 これは、雫ちゃんの病気を治したいと思っていたからかも?
 病気は治す事が出来ないけど、怪我を治療する事は可能だ。
 
 あぁ、兄達が食べた善哉ぜんざいの味がしょっぱかった理由に納得する。
 タケルは妹が魔法学校へ行ったきり、家に戻ってこないとなげいていたと聞いていた。

 雫ちゃんと再会していたのなら、他人である家族のもとには戻らないだろうな。
 18歳で亡くなった娘と一緒にいたいと思うはずだもの。

 タケルには王子様と結婚出来ないとか、夢のような事を言っていたらしいけど……。
 まさか本気だった訳じゃないだろう。

 昼食前だったので、全員分のコーヒーと軽いクッキーを出した。
 雫ちゃんの分だけは牛乳をたっぷり入れ、カフェオレにしてある。

 旭の母親は、久し振りのコーヒーを美味しそうに飲んでいた。
 雫ちゃんはクッキーに夢中だ。

 異世界には甘味が少ないので、クッキーも食べられなかったんだね。
 そうして一息付いた頃、旭の母親が口を開いた。

「大体の事情は理解出来たわ。別人になっている人数が多いから、少しややこしい事になっていそうね」

「いや、母さんが俺より若くなっているのが信じられないよ! それに雫は、どうしてリーシャを虐めていたの?」

 旭が妹をたしなめるように少し強い口調で詰問きつもんする。
 それは私も聞きたかった事だ。

 あんなに優しかった雫ちゃんが、母親の虐待を止めず更には加担していたなんて、どうしても納得出来ない。

「実は私がサリナとして記憶が戻ったのは日本で亡くなった後、目が覚めてからなの。既にサリナは12歳になっていて、記憶自体はあるんだけど私としての行動じゃないよ。直ぐに、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だって気付いたしね」

「乙女ゲーム?」

 そこで初めて私達は、この世界が乙女ゲームの舞台である事を知った。
 ゲームの内容を簡単に説明してくれたんだけど、そもそもリーシャは亡くなる設定だったらしい。

 悪役令嬢であるサリナ(雫ちゃん)がリーシャの代わりに王子様の婚約者になり、魔法学校で主人公のアリサ(母親)に嫌がらせをして断罪される王道の話だった。

 だから、私に公爵邸を追い出された事は非常に感謝していたんだそう。
 記憶が戻った後、サリナの母親からリーシャを守ろうとしてくれていたんだって。

 雫ちゃんの記憶が戻ったのは、タイミング的に私がリーシャの体に転移して直ぐの事だったようだ。
 となると、父親が帰ってきた時に同席していたのは雫ちゃんなのかな?

 私が覚えた違和感の正体は、18歳の雫ちゃんの態度が12歳の少女に見えなかった事が原因かも知れない。
 雫ちゃんがリーシャを虐めていた訳じゃないと知り安堵あんどした。

 旭は突然、妹から乙女ゲームの悪役令嬢で母親が主人公だと言われ混乱しているようだけど……。
 私は悪役令嬢物の小説も、しっかり読んでいたので理解が早い。

 もうこうなると、ストーリー通りに進む事もないだろうなぁ。
 乙女ゲームの件は、そんなに気にする必要はなさそうだ。

 私が家から追い出してしまった事で、雫ちゃんが独りになってしまったけど本当の母親と会えたのなら、それも間違いではなかったと思う。

 最初からすれ違い続けた私達が、再会するまでに8年。
 その長い空白の時間は、これから埋めていけばいい。

 雫ちゃんも、今はとても健康な体になり母親と2人で王都のダンジョンを攻略していると言う。
 ならば私達と一緒に冒険者をすれば、旭も家族と一緒に過ごせるだろう。

 ただ、2人の姿を見慣れるには少し時間が掛かりそうだ。
 兄は別人になった私を、毎回複雑な思いで見ていたのかも?

「あの……沙良ちゃん。非常にずうずうしいお願いで悪いんだけど、お風呂に入らせてもらえないかしら?」

 旭の母親が恥ずかしそうに言った言葉に、そういえば旭から召喚して直ぐ同じ事をお願いされたと思い出す。

「はい、じゃあ準備してきますね」

「ありがとう! お風呂に入るなんて何年振りかしら。とても嬉しいわ」

「お母さん、一緒に入ろう? 背中、流してあげるね!」

 と雫ちゃんも喜んでいる。
 このマンションの浴槽は、私のアパートの物よりかなり広いので女性なら2人で入る事も可能だ。

 アイテムBOXから、2人のサイズに合う下着と洋服を脱衣場に準備してお湯を入れる。
 155cmの私と違い、2人は175cmくらいありそうだ。
 
 日本にいた時は、そんなに背が高くなかったはずなのに……。
 同じ異世界人である私の体は、どうして伸びないの?

 お風呂に入っている間に昼食を作ろうとリクエストを聞いたら、雫ちゃんからオムライスセットを希望された。

 これは双子達が大好きな物だ。
 オムライスにハンバークとエビフライが付いた、所謂いわゆるお子様セット。
 
 家に遊びにきた時、よく作ってあげていたから覚えていたんだろう。
 ここには食材も調味料もあるから、母親の手作り料理の方が良いんじゃないかと思ったけど……。

 料理が苦手な事を思い出し、賢明にもそう口にするのは思い止まった。

 兄は高校3年生だった1年間。
 旭の家庭教師を毎日していたので、夕食がとても辛かったとこぼしていたしね。
 夜食を作るという旭の母親に、そこまでしてもらうのは悪いから妹にお願いすると言ったそうだ。

 アイテムBOXには、作り置きしたハンバーグもエビフライも入っていたのでオムライスを作るだけでいい。

 ご飯も炊いた物が沢山あるので、炊く時間も必要ないしね。
 でも、久し振りのお風呂に時間がかかるかな?

 そんな事を思いながら、私はオムライスを作り始める。
 旭の様子をちらりと見てみると、まだ事実を受け入れがたいのか放心状態だ。

 大丈夫、姿は変わっても家族だからね。
 兄のように、ちゃんと慣れると思うよ。
 私の場合、年齢差は同じだけど……。

 お風呂から上がった2人の台詞が、

「沙良ちゃん、チート過ぎる!」

 だった事には笑ってしまった。

 どうやら私が貸した異世界転生・転移物の小説は役に立っていたらしい。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
感想 2,669

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 2024年5月 書籍一巻発売 2025年7月 書籍二巻発売 2025年10月 コミカライズ連載開始

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろうでも同時連載中です◇