358 / 781
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第484話 旭 樹 9 お役目を果たし日本へ帰還
風竜である『風太』は、国の緊急事態にしか使用されない。
テイムされた竜の中でも、その速度は段違いに早く伝令に使用される事を想定されている竜だからだ。
事態を重くみた王妃が速度を重視してきた所をみると、今回の件は相当腹に据えかねているんだろう。
こりゃかなり、響は絞られそうな予感がする。
ひとり娘が他国に嫁ぎ、妊娠した直後に毒見役が倒れたのだ。
犯人など、考えるまでもない。
そもそも父親である王は第一王妃がいる時点で結婚に大反対していたから、こうなる事を予想していたんだろう。
一夫一婦制のエルフ国に、そういった懸念事項は存在しない。
妻が増えれば問題も多くなるのは当然だ。
誰であろうと、自分を優先してほしい気持ちはあるしな……。
ハーレムなんて悪夢そのものだろう。
あれは男の夢物語だ。
実際の所は妻や両親へのご機嫌伺いで、心労が祟り早死しそうな気がする。
俺には、妻の結花と息子の尚人がいればいい。
2人は日本で元気にしているだろうか……。
暫くして、王妃と女官長が部屋から出てきた。
女官長の顔が安堵したものに変わっているので、毒の治療は成功したんだろう。
「お母様、女官の容態はどうですか?」
「問題ないわ。解毒は済ませて、皮膚の状態も元に戻っているわよ」
「ありがとうございます! 心配していたので安心しました」
「あら、大丈夫だと言ったでしょ? それより、貴女の夫に会わせてくれないかしら?」
おっと早速、母親から面会の希望が出たようだ。
「既にお母様の来訪を伝えましたので、それ程待たずにやってくると思います」
「ならここで待たせてもらうわね」
そう言いながら、王妃は俺の部屋で一番豪華な椅子に座る。
響、どうやら母親はかなり怒っているみたいだぞ?
響の事を待つ間、女官長が香り高い紅茶を俺達に淹れてくれたが、王妃は口を付ける事もしなかった。
これは毒を警戒しての事じゃなさそうだ。
母親の態度に不穏なものを感じ、響が叩かれないか心配になってしまう。
10分後――。
響の訪れが知らされた。
王妃の方を見ると、目が爛々としているような?
怖っ!
まるで巣に掛かった獲物を待ち構えているみたいだな……。
そんな事を思っていると、カルドサリ国王である響が女官長と共に部屋に入ってきた。
「王妃様。お初にお目に掛かります、カルドサリ国王のロッセル・カーランドと申します。この度は急な来訪にて、お迎えの準備も整わず申し訳ありません」
王妃は挨拶をする響の事をじっと見つめながら口を開く。
「突然きたのは私の方だから非礼に値しないわ。それより、貴方Lvが50とか舐めてるの? 人族は寿命が短いのでしょう? それじゃ、娘と釣り合わないじゃない」
「……はい?」
第一王妃が毒を盛った事に関し言及されると思っていた響が、王妃から予想外の言葉をかけられ、何を言われたのか分からずに一瞬ぽかんとした表情になる。
あぁ、そういえば母親は人物鑑定が出来るんだったな。
響のステータスを見たんだろう。
「あぁそれと、また娘が危険に晒されると困るから、国内の不穏分子は排除させてもらったわ」
当然のように言われた言葉に、響の顔が一瞬で引き締まる。
「それは一体、どういう事でしょうか?」
「忘れた訳じゃないでしょ? うちの息子達が交換条件に出したエルフが、この国にいる事を……」
確か諜報を担うマケイラ家の当主が、カルドサリ王国にいるんだったな。
昨日俺から連絡をもらった時点で情報を調べあげ、武を担うハーレイ家の当主にも指示を出したのか……。
王妃が用意周到過ぎる。
これって思い切り内政干渉だよな?
理由に思い当たった響の顔が、苦虫を噛み潰したような表情になる。
今回は後手に回ってしまったが、手をこまねいてばかりでもなかったんだろう。
それなりに動いていたにも拘らず、他国の王妃から既に排除済みだと言われれば良い気分はしない。
これに諸手を挙げて喜ぶようじゃ、王としては失格だ。
「ガーグ老」
「はい、王妃様ここに」
名を呼ばれたガーグ老が、『迷彩』を解いて姿を現した。
「これから、カーランド国王をLv100まで上げてきて頂戴。王宮も大分風通しが良くなっただろうから、暫く国王不在でも問題ない筈よ」
「はっ、畏まりました!」
「それは、幾ら何でも無理です!」
ガーグ老の返答に続き、響が王妃の提案に反対する。
「娘の命を危険に晒した事を、これで不問にすると言ってるのよ。精々、頑張って早くLvを上げる事ね。私は貴方がLv100になるまで残ります。自己申告に意味がない事は理解出来るでしょう? 国政に関しては何も心配いらないわ」
以上とばかりに王妃は言い切り、響を鋭く睨みつけた。
妻の母親にそう言われては、為す術もない。
自分の責任を重々感じている響は、それ以上意見する事なく肩を落としガーグ老に連れて行かれた。
これは……。
両頬を叩かれた方が、ましだったんじゃないだろうか?
その後、数か月――。
王宮内で響の姿を見る事はなく、俺は親友がいない王宮にいても退屈だったから、宮を出て王宮近くにある森へ引き籠る事にした。
森の中でなら世界樹の精霊王が結界を張ってくれるだろう。
俺自身ではなく、女官達にまた被害が出るのは絶対に避けたい。
第一王子を擁護する派閥も母親の手に依り殆ど粛清されているが、その数はゼロではないからな。
これでもし俺の産んだ子供が王子であったなら、何をされるか分からない。
お役目を果たして日本に帰る心算でいる俺には、子供に害が及ぶ事がないよう万全な状態で出産に臨む事が重要だ。
森で過ごすようになってから、お腹がどんどん大きくなる。
それと共に、俺の恐怖心も増していった。
男の俺に、ちゃんと子供を産む事が出来るんだろうか?
体は女性なので大丈夫だと思うが不安で堪らない。
響はLv上げの合間を縫っては、森へと顔を出しにきた。
会う度に、げっそりしているのはガーグ老達が無茶な攻略をさせている所為かも?
俺も身重の身じゃなければ、一緒にダンジョン攻略をしたい所だ。
エルフの国では冒険者になれず、ダンジョンに入る事は出来なかったからなぁ。
C級冒険者以上じゃないと、ダンジョンに入る事は不可能だった。
これは冒険者ギルドが定めた規定なので、王族であろうと例外は認められない。
カルドサリ王国でなら、お忍びで冒険者登録をしダンジョンを攻略出来ると思っていたのに……。
出産後、体が軽くなったら冒険者登録する心算でいる。
女官長を始め10人の女官達に赤子の世話を任せれば、数時間くらいは時間が取れるだろう。
子供が育つまで何年も掛かるから、子育ての傍ら響と一緒にダンジョン攻略をするのも悪くない。
母親は第二王妃の宮でマケイラ家の諜報員を動員し、カルドサリ王国の国政に関与していた。
もう乗っ取りに近いんじゃないか?
産み月に近くなると、母親が腹の子を見て女の子だと教えてくれた。
それを聞いた響は大喜びし、まだ生まれてもいないのに名前を考え出す。
俺は体が重くて、それどころじゃない。
妊婦がこんなにしんどいとは……。
そうして、とうとう出産の日を迎える事になった。
破水から数時間。
陣痛の痛みに耐えていたが初産であるためか、かなり難産であるようだ。
なかなか赤子が産まれない事を、周囲の皆が心配している。
響も様子を見に何度もきたが、お前はお呼びじゃね~。
ひっひっふ~とか、隣で言われても怒りが増すだけだ!
段々体力も落ち、こりゃ駄目かも知れないとガーグ老を呼び寄せる。
今まで可愛がってきた白梟である『ポチ』と『タマ』の権限を移譲した。
テイムされた魔物は主人である俺が死ぬと、MPを確保する事が出来ず共に亡くなってしまうからだ。
それは可哀想だろう?
まぁ、ガーグ老もいい歳だから余り長く生きられないかもしれないが……。
それでも今、俺と一緒に死ぬよりはいい筈だよな。
人生最大の苦痛に耐え、なんとか無事出産を終えた。
もう鼻からスイカどころの騒ぎじゃない。
出産を経験した事のない人間には、その苦労が絶対理解出来ないだろう。
男は出産の痛みに耐えられないとよく聞くが、本当にその通りだった。
赤子の産声を聞き、ほっとした俺の意識がどんどん薄れていく……。
曾婆ちゃん、死ぬ事はないって嘘じゃね~か!
最後にそんな事を思いながら目を閉じる。
響が名付けたティーナの顔を一度くらい見ておきたかったな……。
ヒルダ・エスカレードとして、長かった300年の人生はそこで終わりを迎えた。
そして再び意識が浮上し目を開けると驚いた事に、そこは響の部屋で俺達は300年前と全く同じ姿勢で将棋を指していた。
部屋にあるカレンダーに目をやると日付も同じ。
まるで、とても長い白昼夢を見ていたようだ。
それは響も同じだったのか、顔に驚愕の表情が現れている。
俺と同様、カルドサリ国王としての記憶も残っているらしい。
俺は一番気になっていた事を響に尋ねる。
「ティーナは無事に育ったか?」
「……すまない。あの子は、神隠しに遭い育てる事が出来なかった」
「そうか……」
申し訳なさそうに言う響の事を非難する気にはなれなかった。
きっと俺の産んだ子は、【存在を秘匿された御方】だろう。
じゃなければ、お役目として巫女の曾婆ちゃんから宣託を受ける理由がない。
神隠しに遭ったというならば、世界樹の精霊王が保護しているのか……。
あのどこか浮世離れした精霊王に、子育てが出来るのか非常に心配だ。
他の精霊王達も見守ってくれると信じよう。
俺達は、この件について沈黙を守る事に決めた。
お互い妻には一生話せない秘密になる。
たとえ2人の間に子供が出来たと話をしても、信じないだろうけど……。
ちなみに俺が亡くなった後、響は人間として寿命を全うし180歳まで生きたらしい。
王妃に無理やりLv100まで上げさせられていたからなぁ。
それは奇しくも、俺が120歳で記憶が戻った後生きた180年と同じだった。
その日300年振りに再会した家族の顔を見て、俺は涙する事になる。
結花も尚人も泣き出した俺を不思議そうに見ていたが、構わない。
2人を抱き寄せ、幸せを噛み締めた。
その夜、久々である夫婦の行為に熱が入った事は言うまでもなく……。
やっぱり自分は男の方が良いと、再確認したのも事実だった。
あれは響が下手すぎたのか?
その後、椎名家と同じ歳の子供が出来たのも、まぁ偶然だったとしておこう。
-------------------------------------
お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
-------------------------------------
テイムされた竜の中でも、その速度は段違いに早く伝令に使用される事を想定されている竜だからだ。
事態を重くみた王妃が速度を重視してきた所をみると、今回の件は相当腹に据えかねているんだろう。
こりゃかなり、響は絞られそうな予感がする。
ひとり娘が他国に嫁ぎ、妊娠した直後に毒見役が倒れたのだ。
犯人など、考えるまでもない。
そもそも父親である王は第一王妃がいる時点で結婚に大反対していたから、こうなる事を予想していたんだろう。
一夫一婦制のエルフ国に、そういった懸念事項は存在しない。
妻が増えれば問題も多くなるのは当然だ。
誰であろうと、自分を優先してほしい気持ちはあるしな……。
ハーレムなんて悪夢そのものだろう。
あれは男の夢物語だ。
実際の所は妻や両親へのご機嫌伺いで、心労が祟り早死しそうな気がする。
俺には、妻の結花と息子の尚人がいればいい。
2人は日本で元気にしているだろうか……。
暫くして、王妃と女官長が部屋から出てきた。
女官長の顔が安堵したものに変わっているので、毒の治療は成功したんだろう。
「お母様、女官の容態はどうですか?」
「問題ないわ。解毒は済ませて、皮膚の状態も元に戻っているわよ」
「ありがとうございます! 心配していたので安心しました」
「あら、大丈夫だと言ったでしょ? それより、貴女の夫に会わせてくれないかしら?」
おっと早速、母親から面会の希望が出たようだ。
「既にお母様の来訪を伝えましたので、それ程待たずにやってくると思います」
「ならここで待たせてもらうわね」
そう言いながら、王妃は俺の部屋で一番豪華な椅子に座る。
響、どうやら母親はかなり怒っているみたいだぞ?
響の事を待つ間、女官長が香り高い紅茶を俺達に淹れてくれたが、王妃は口を付ける事もしなかった。
これは毒を警戒しての事じゃなさそうだ。
母親の態度に不穏なものを感じ、響が叩かれないか心配になってしまう。
10分後――。
響の訪れが知らされた。
王妃の方を見ると、目が爛々としているような?
怖っ!
まるで巣に掛かった獲物を待ち構えているみたいだな……。
そんな事を思っていると、カルドサリ国王である響が女官長と共に部屋に入ってきた。
「王妃様。お初にお目に掛かります、カルドサリ国王のロッセル・カーランドと申します。この度は急な来訪にて、お迎えの準備も整わず申し訳ありません」
王妃は挨拶をする響の事をじっと見つめながら口を開く。
「突然きたのは私の方だから非礼に値しないわ。それより、貴方Lvが50とか舐めてるの? 人族は寿命が短いのでしょう? それじゃ、娘と釣り合わないじゃない」
「……はい?」
第一王妃が毒を盛った事に関し言及されると思っていた響が、王妃から予想外の言葉をかけられ、何を言われたのか分からずに一瞬ぽかんとした表情になる。
あぁ、そういえば母親は人物鑑定が出来るんだったな。
響のステータスを見たんだろう。
「あぁそれと、また娘が危険に晒されると困るから、国内の不穏分子は排除させてもらったわ」
当然のように言われた言葉に、響の顔が一瞬で引き締まる。
「それは一体、どういう事でしょうか?」
「忘れた訳じゃないでしょ? うちの息子達が交換条件に出したエルフが、この国にいる事を……」
確か諜報を担うマケイラ家の当主が、カルドサリ王国にいるんだったな。
昨日俺から連絡をもらった時点で情報を調べあげ、武を担うハーレイ家の当主にも指示を出したのか……。
王妃が用意周到過ぎる。
これって思い切り内政干渉だよな?
理由に思い当たった響の顔が、苦虫を噛み潰したような表情になる。
今回は後手に回ってしまったが、手をこまねいてばかりでもなかったんだろう。
それなりに動いていたにも拘らず、他国の王妃から既に排除済みだと言われれば良い気分はしない。
これに諸手を挙げて喜ぶようじゃ、王としては失格だ。
「ガーグ老」
「はい、王妃様ここに」
名を呼ばれたガーグ老が、『迷彩』を解いて姿を現した。
「これから、カーランド国王をLv100まで上げてきて頂戴。王宮も大分風通しが良くなっただろうから、暫く国王不在でも問題ない筈よ」
「はっ、畏まりました!」
「それは、幾ら何でも無理です!」
ガーグ老の返答に続き、響が王妃の提案に反対する。
「娘の命を危険に晒した事を、これで不問にすると言ってるのよ。精々、頑張って早くLvを上げる事ね。私は貴方がLv100になるまで残ります。自己申告に意味がない事は理解出来るでしょう? 国政に関しては何も心配いらないわ」
以上とばかりに王妃は言い切り、響を鋭く睨みつけた。
妻の母親にそう言われては、為す術もない。
自分の責任を重々感じている響は、それ以上意見する事なく肩を落としガーグ老に連れて行かれた。
これは……。
両頬を叩かれた方が、ましだったんじゃないだろうか?
その後、数か月――。
王宮内で響の姿を見る事はなく、俺は親友がいない王宮にいても退屈だったから、宮を出て王宮近くにある森へ引き籠る事にした。
森の中でなら世界樹の精霊王が結界を張ってくれるだろう。
俺自身ではなく、女官達にまた被害が出るのは絶対に避けたい。
第一王子を擁護する派閥も母親の手に依り殆ど粛清されているが、その数はゼロではないからな。
これでもし俺の産んだ子供が王子であったなら、何をされるか分からない。
お役目を果たして日本に帰る心算でいる俺には、子供に害が及ぶ事がないよう万全な状態で出産に臨む事が重要だ。
森で過ごすようになってから、お腹がどんどん大きくなる。
それと共に、俺の恐怖心も増していった。
男の俺に、ちゃんと子供を産む事が出来るんだろうか?
体は女性なので大丈夫だと思うが不安で堪らない。
響はLv上げの合間を縫っては、森へと顔を出しにきた。
会う度に、げっそりしているのはガーグ老達が無茶な攻略をさせている所為かも?
俺も身重の身じゃなければ、一緒にダンジョン攻略をしたい所だ。
エルフの国では冒険者になれず、ダンジョンに入る事は出来なかったからなぁ。
C級冒険者以上じゃないと、ダンジョンに入る事は不可能だった。
これは冒険者ギルドが定めた規定なので、王族であろうと例外は認められない。
カルドサリ王国でなら、お忍びで冒険者登録をしダンジョンを攻略出来ると思っていたのに……。
出産後、体が軽くなったら冒険者登録する心算でいる。
女官長を始め10人の女官達に赤子の世話を任せれば、数時間くらいは時間が取れるだろう。
子供が育つまで何年も掛かるから、子育ての傍ら響と一緒にダンジョン攻略をするのも悪くない。
母親は第二王妃の宮でマケイラ家の諜報員を動員し、カルドサリ王国の国政に関与していた。
もう乗っ取りに近いんじゃないか?
産み月に近くなると、母親が腹の子を見て女の子だと教えてくれた。
それを聞いた響は大喜びし、まだ生まれてもいないのに名前を考え出す。
俺は体が重くて、それどころじゃない。
妊婦がこんなにしんどいとは……。
そうして、とうとう出産の日を迎える事になった。
破水から数時間。
陣痛の痛みに耐えていたが初産であるためか、かなり難産であるようだ。
なかなか赤子が産まれない事を、周囲の皆が心配している。
響も様子を見に何度もきたが、お前はお呼びじゃね~。
ひっひっふ~とか、隣で言われても怒りが増すだけだ!
段々体力も落ち、こりゃ駄目かも知れないとガーグ老を呼び寄せる。
今まで可愛がってきた白梟である『ポチ』と『タマ』の権限を移譲した。
テイムされた魔物は主人である俺が死ぬと、MPを確保する事が出来ず共に亡くなってしまうからだ。
それは可哀想だろう?
まぁ、ガーグ老もいい歳だから余り長く生きられないかもしれないが……。
それでも今、俺と一緒に死ぬよりはいい筈だよな。
人生最大の苦痛に耐え、なんとか無事出産を終えた。
もう鼻からスイカどころの騒ぎじゃない。
出産を経験した事のない人間には、その苦労が絶対理解出来ないだろう。
男は出産の痛みに耐えられないとよく聞くが、本当にその通りだった。
赤子の産声を聞き、ほっとした俺の意識がどんどん薄れていく……。
曾婆ちゃん、死ぬ事はないって嘘じゃね~か!
最後にそんな事を思いながら目を閉じる。
響が名付けたティーナの顔を一度くらい見ておきたかったな……。
ヒルダ・エスカレードとして、長かった300年の人生はそこで終わりを迎えた。
そして再び意識が浮上し目を開けると驚いた事に、そこは響の部屋で俺達は300年前と全く同じ姿勢で将棋を指していた。
部屋にあるカレンダーに目をやると日付も同じ。
まるで、とても長い白昼夢を見ていたようだ。
それは響も同じだったのか、顔に驚愕の表情が現れている。
俺と同様、カルドサリ国王としての記憶も残っているらしい。
俺は一番気になっていた事を響に尋ねる。
「ティーナは無事に育ったか?」
「……すまない。あの子は、神隠しに遭い育てる事が出来なかった」
「そうか……」
申し訳なさそうに言う響の事を非難する気にはなれなかった。
きっと俺の産んだ子は、【存在を秘匿された御方】だろう。
じゃなければ、お役目として巫女の曾婆ちゃんから宣託を受ける理由がない。
神隠しに遭ったというならば、世界樹の精霊王が保護しているのか……。
あのどこか浮世離れした精霊王に、子育てが出来るのか非常に心配だ。
他の精霊王達も見守ってくれると信じよう。
俺達は、この件について沈黙を守る事に決めた。
お互い妻には一生話せない秘密になる。
たとえ2人の間に子供が出来たと話をしても、信じないだろうけど……。
ちなみに俺が亡くなった後、響は人間として寿命を全うし180歳まで生きたらしい。
王妃に無理やりLv100まで上げさせられていたからなぁ。
それは奇しくも、俺が120歳で記憶が戻った後生きた180年と同じだった。
その日300年振りに再会した家族の顔を見て、俺は涙する事になる。
結花も尚人も泣き出した俺を不思議そうに見ていたが、構わない。
2人を抱き寄せ、幸せを噛み締めた。
その夜、久々である夫婦の行為に熱が入った事は言うまでもなく……。
やっぱり自分は男の方が良いと、再確認したのも事実だった。
あれは響が下手すぎたのか?
その後、椎名家と同じ歳の子供が出来たのも、まぁ偶然だったとしておこう。
-------------------------------------
お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
-------------------------------------
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!
akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。
そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。
※コメディ寄りです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
家ごと異世界ライフ
もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~
結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』
『小さいな』
『…やっと…逢えた』
『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』
『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』
地球とは別の世界、異世界“パレス”。
ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。
しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。
神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。
その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。
しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。
原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。
その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。
生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。
初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。
阿鼻叫喚のパレスの神界。
次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。
これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。
家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待!
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
小説家になろう様でも連載中です。
第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます!
よろしくお願い致します( . .)"
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、俺は必死についていった。
だけど、自分には何もできないと思っていた。
それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。
だけどある日、彼らは言った。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
そう思っていた。そのはずだった。
――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
「最強を目指すべくして生まれた存在」
「君と一緒に行かせてくれ。」
「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」
穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい――
◇小説家になろうでも同時連載中です◇