自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第531話 椎名 響 9 再び150年後の異世界へ

 その日。
 俺達は将棋の対局を中断し(もう俺の勝ちは見えていたが)、会いたくてたまらなかった家族のもとへ駆けつけた。
 休日だった事もあり、美佐子みさこ賢也けんや沙良さらあかねも家にいた。
 皆の顔を見た瞬間、自然と涙があふれだす。

 あぁ、俺の家族が生きて目の前にいる。
 それが、こんなにも幸せだと感じるなんて……。
 突然泣き出した俺を見て、沙良が目を丸くし走ってきた。

「お父さん、どうしたの? お腹が痛いの?」

 心配そうに聞いてくる娘に、安心させるため無理矢理笑顔を作る。

「大丈夫だよ。お前達が元気で嬉しいだけなんだ……」

 そう言うと、まだ幼い娘は首をこてんとかしげ不思議そうに見つめてくる。
 その仕草しぐさがとても愛しくて、俺は沙良を思い切り抱き締めた。
 少々大袈裟おおげさなその態度に妻はあきれ返り、さっさと部屋を出ていってしまったが……。

 夕食に食べた150年振りの妻の手料理は、涙が出るほど美味しかった。
 料理の味を沢山めると、妻は照れながらまた作るわねと笑う。
 俺は今まで妻が料理を作ってくれるのを当たり前だと思っていた。
 これからは、出来るだけ感謝の気持ちを伝えよう。

 夜は、かなり久し振りの行為で心配したが30歳の自分の体は問題なかったようだ。
 樹の時のような事にならず安心する。
 そういえば初めての時、美佐子はそれ程痛がらなかったが……。
 個人差があるんだろうか?

 異世界で180年生きた記憶を持ったまま30歳に若返り、最初は非常に苦労した。
 特に仕事はすっかり忘れていたため、最初から覚え直す羽目になる。
 同僚の名前すら覚えていなかった……。
 不審に思われないよう、かなり努力したが結構つらかったなぁ~。
 それは樹も同じで、あいつの場合は300年も王女生活だった所為せいか慣れるまで相当時間が掛かったらしい。

 それから俺達は、何があってもいいよう体を鍛えた。
 折角せっかくステータスの恩恵があるんだから、家族を守るためになんでもしよう。
 沙良は何度も誘拐されかけたし、この先不安は尽きない。
 それに、もしかしたらという思いもあった。
 一度あった事は二度目がある可能性もない訳じゃないしな……。

 日本に戻って3ヶ月後。
 お互い妻から妊娠の報告を受ける。
 これには少々笑ってしまった。
 時期も同じとは、俺達は相当溜まっていたんだろう。

 樹は自分が妊娠と出産を経験したからか、結花ゆかさんの世話を献身的に焼いていた。
 俺も出産を甘く見過ぎていたのを反省し、美佐子が食べたい物をなんでも買ってやる。
 それがたとえ季節外れの物であっても……。
 店を何軒も回り探し出した。

 その後、俺の妻は無事に双子の男の子を産んだ。
 樹の所は女の子だったようで、あいつは自分が産んだ娘の代わりにとても可愛がっている。
 沙良は、双子達に女の子の服を着せていた。
 茜が突然男の子のフリをし出したので、妹のように思っているんだろう。
 まぁ、まだ小さい内は問題ないか……。

 それが原因なのか、双子達は成長しても男の子には見えず心配だ。
 特に遥斗はるとの方は、電車で痴漢された事もある。
 いっそ茜と性別が逆なら良かったんだが……。

 樹の娘のしずくちゃんは、心臓に重大な欠陥があった。
 親戚が経営している優秀な心臓外科医がいる病院を紹介したが、彼女は18歳の若さで亡くなってしまう。
 傷心の親友には、更に辛い出来事が待っていた。
 長男の尚人なおと君が45歳で亡くなったのだ。
 2人の子供を亡くした結花さんの悲しみは深く、樹もまた喪失の痛みに耐える事になる。

 そんな俺にも不幸が訪れた。
 沙良が48歳の時、突然亡くなってしまったのだ。
 その半年後には賢也が行方不明となった。
 何故なぜ、こうも次々に……。

 しかも70歳の時、結花さんにまで先にかれた樹はすっかり傷心し元気を失くしていた。
 俺達は、よく似た経験が重なり過ぎている気がする。
 何か理由があるんじゃないのかと、つい疑ってしまうのも仕方ないだろう。

 沙良が亡くなり8年の時が過ぎた。
 いまだ行方不明の賢也は見付からない。
 俺達は生きていると信じ、失踪宣言は出さなかった。

 いつもと変わらぬ日の事だ。
 夕方の5時、俺達夫婦は自宅のリビングにいた。
 そろそろ夕食の準備をするために、妻が席を立った瞬間。
 突然、目の前が光りまぶしさに目を閉じる。
 再び目を開けると、家の中に複数の人間がいて驚いた。

 しかも目の前にいるのは……。
 異世界のヒルダにそっくりな少女だった。
 俺は、ずっと生きていてほしいと願っていた娘に会えた事で他は何も目に入らず、ただ彼女の方へ足を踏み出す。

「生きていたのか!?」

 一度も抱けなかった俺達の娘を、やっと抱き締められた。
 どうしてここに・・・いるのかなんて、どうでもいい!
 樹、お前の産んだ娘はちゃんと生きていたぞ!

「お父さん! 気付いてくれてありがとう! 会いたかったよ~」
 
 ティーナから嬉しそうに言われ抱き締め返された。
 うん?
 ちょっと待て。
 この子は、俺の顔を知らないはずだよな?
 
「……俺が分かるのか?」

 どうにもに落ちなくて、疑問を口にする。
 すると背後から妻に低い声で問われた。

「あなた。そのお嬢さんは、どなた?」

 するとティーナは妻へあり得ない発言をする。

「お母さん。私、別人になってるけど沙良だよ!」

 いやいや、お前はどう見てもヒルダにそっくりなティーナだろ?

「えっ? あの子は、8年前に亡くなっているわ。たちの悪い冗談を言わないで」

 案の定、妻はティーナの言葉を強く否定した。

「あ~、信じてもらえるように手紙を書いたから読んでほしい!」

 そこで彼女は俺から離れると、妻へ手紙を渡しにいった。
 何かがおかしいと思い振り返って2人の遣り取りを見ると、美佐子の姿が若くなっているじゃないか!?
 これは……。

 あわてて周囲を見渡すと、亡くなった尚人なおと君と行方不明だった長男の賢也けんやが若くなった姿を見付ける。
 他にも2人、知らない少女と老婦人の姿があった。
 一体、何が起きてるんだ??
 俺が混乱している間に妻は手紙を読み終わり、ティーナを抱き締める。 
 
「沙良……なのね。あなたは亡くなったものとばかり……。生きていてくれたなんて嬉しいわ!」

「お母さん、突然で驚いたよね。私も会えて嬉しい! 実はこの場にしずくちゃんと旭のお母さん、それにお婆ちゃんのサヨさんがいるんだよ? 事情を説明するから、まずはテーブル席に着いて話そう」
 
 妻がティーナを沙良だと認めたのも驚いたが、ティーナだと思っていた娘から聞かされた内容に唖然あぜんとなる。
 この場に、雫ちゃんと結花ゆかさんと妻の母親がいるというのだ。
 もう何が何だか分からない。
 俺達は沙良? から渡された何通もの手紙に目を通して、事態を把握する。

 その結果――。
 分かったのは、ティーナの体に娘の沙良が転移した事だった……。
 全く、意味不明だ。
 そして一番のショックは、俺が再びカルドサリ王国へ召喚された件である。
 またかよ!!
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