自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第537話 椎名 響 15 ガーグ老との再会 1

 翌日の早朝。
 全員で異世界にある沙良の家へ移転する。
 そこで妻がテイムしたシルバーウルフのボブを、しずくちゃんと結花ゆかさんへ紹介していた。
 結花さんはボブの名前に絶句していたようだが……。

 今日初めて、サラがテイムしたシルバーウルフと迷宮タイガーを見せてもらった。
 俺は毛色の違うシルバーウルフに首をかしげる。

「沙良、お前のテイムしたシルバーウルフは黄金色をしているようだが……。特殊個体なのか?」

「違うよ。シルバーは、お願いしたらゴールデン・・・・・ウルフに進化してくれたの! うちの子はすごく優秀なんだよ~」

「テイムした魔物が、ゴールデン・・・・・ウルフに進化しただと!?」

 沙良からの返事を聞き、思わず声を上げてしまった。
 従魔が進化するなんて聞いた事もないぞ?

「テイム魔法に、そんな事が可能なのか……?」

 それとも、魅了魔法でテイムされた従魔は違うのだろうか?
 あぁ、またひとつ厄介やっかい事の種が増えた気がする。
 昨日、何もないと言っていたが絶対違うな……。

 しばらくすると、沙良が経営している『肉うどん店』の従業員達がやってきた。
 母子で路上生活をしていた母親達を、住み込みで雇ったそうだ。
 異世界で主食を変更した料理店を出すとは……。
 娘は、かなりチャレンジャーだなぁ。

 他にも冒険者が出来なくなった高齢者を、『製麺店』の従業員とし雇っているらしい。 
 ダンジョンがある町では、どうしても魔物との戦闘で身体を欠損する冒険者が多く出る。
 俺が国王時代やれたのは、せいぜい教会に週1回の炊き出しを義務化させた事だけだった。

 娘は個人的に支援をほどこしていたのか……。
 その代わり孤児になった子供達は、教会の孤児院と領主へ支援するよう徹底させた。
 なのに……。
 その後、沙良の家を訪れた子供達の数は予想を大きく上回っており、俺の死後その政策が崩れたのを示していた。

「沙良、今はカルドサリ王国暦何年なんだ?」

「確か、カーランド王朝863年だったと思うよ」

「300年か……」

 それ程の月日が経っていたとは……。
 樹がティーナを産み、日本へ戻ってから300年。
 異世界と地球の時間のズレは今回もあるらしい。

 俺がこの世界からいなくなり150年も過ぎていれば、国王が何代も代わっているだろう。
 俺の政策は、後を継いだ弟の孫に受け継がれただろうか?
 せめて王領である王都だけは、王族からの支援が届いてほしい。
 この国の王であった俺が、結果を残せなかったのが悔やまれる。

 あれ程、領主達へ子供達は国の未来だと伝えておいたのにな。
 やはり貴族優位な体制は、150年後も変わらないのか……。
 ただ子供達の姿を見ると孤児にはとても思えない。
 全員が柄違いのポンチョを着て、首には暖かそうな物を巻き耳当てをしていたからだ。
 ダンジョンでの治療代を家の購入資金に充て、路上生活者の子供達に与えたらしい。

 沙良が俺達を紹介すると、子供達は行儀よく頭を下げ挨拶をしてくれた。
 顔色も良いし健康的に育っている。
 昔、俺が視察した孤児の姿とは大違いだった。
 これが、娘がした結果なら親として誇りに思う。

 沙良はうっかりした所や思い込みが激しく勘違いはなはだしいが、子供達が大好きだ。
 その割には、結婚しようとしなかったが……。
 誰か想いを寄せている人物でもいたのか?
 俺達の子供は茜以外、全員独身だ。

 いや賢也けんや尚人なおと君と結婚式を挙げたらしいが、あれはまぁ……。
 きっと双子達は雫ちゃんが忘れられないんだろう。
 召喚後に、どちらかと結婚してくれないものか。
 俺達は一体、孫をいつ抱けるんだろうなぁ。
 皆が若返ってしまったら、また先の話になるかも知れん。
 
 炊き出しの食事を終えた子供達の帰る姿を見送ると、家具職人の工房へ歩いて移動する。
 工房の門を開け中に入った瞬間、目に映った人物を見て俺は愕然がくぜんとなった。

「……家具職人は無理があるだろう」

 つい小さな声をこぼしてしまう程、衝撃を受ける。
 そこには300年前と何ひとつ変わらぬ姿をした、ガーグ老と影衆達がいた……。
 これはまずい!

 ここで、カルドサリ国王とバレたら一巻の終わりだ。
 長年、妻に秘密にしてきた事がバレてしまうじゃないか。
 俺は背中へ嫌な汗を大量にかきながら、娘とガーグ老の遣り取りを見守った。

「こんにちは。今日から私の両親と旭の2人も、よろしくお願いします」

「サラ……ちゃん、ようきたな。儂もご両親殿にお会いしたかった。ガーグと呼んで下され」

 俺は今の姿が別人であるから平静を装い、挨拶をしようと一歩前へ出た。
 口を開こうとした瞬間に、いつきの従魔であった白ふくろうの『ポチ』と『タマ』が空から滑空かっくうして俺の両肩に止まる。
 あぁ終わった……。

 ガーグ老へ権限を移譲された従魔達は、主人のLvに依存しテイム魔法も上がっているだろう。
 Lv70だった樹より、ガーグ老の方が確実にLvが高いはずだ。
 当然、念話も可能だから魔力を感じて俺を発見した2匹から報告が入っているに違いない。

「ぽ……っちゃりとした可愛い白ふくろうだな」

 俺は観念して、なつく2匹に声を掛けようとし途中で言葉を変える。
 危ない、つい名前を呼ぶ所だった。 

「姫様の剣を持って参れ!」 
 
 案の定、2匹から念話を受けたガーグ老が俺を確認しようと行動を始めたようだ。
 指示された影衆の1人が、工房へと駆け出していく。
 数分も待たず戻ってきた彼の手には、一振りの剣が収められている。
 それをガーグ老が受け取り、懐かしそうに口を開いた。

「この剣は、儂がお仕えしていた方の形見の品である。姫様がドワーフの名匠シュウゲンに打ってもらった物だ。父親殿は剣の腕に覚えがありそうだでな。帯剣しているなまくらでは、儂の剣と一合も保つまい。この剣を貸して進ぜようぞ。早速さっそくだが、手合わせ願おう!」

 樹の宝剣であった剣は、確か俺と同じバール氏の物であったが……。
 何故なぜ、シュウゲンの作に変わっているのか不思議だった。
 俺の反応を見るための嘘だろうか?
 しかし、ここは受けねば引くまい。
 俺は差し出された剣を受け取り、一応手加減してほしいと伝えた。

「ご老人。俺も本気で剣を振るうのは随分ずいぶん久し振りになる。どうか、お手柔らかに頼む」

「なに、謙遜けんそんするでない。見たところ腕は鈍っておらぬようだ」

 まぁ、言っても意味はなかったようだ。
 ガーグ老は、俺を見てニヤリと笑う。
 こりゃ完全にバレてるな。

 真剣を使用した仕合に表情を改め、渡された剣を一振りして感覚を確かめる。
 それは、樹の剣にしては少し重いような気がした。
 丁度、俺の愛剣に近い重さだ。

「それでは、お相手しましょう」

 口にするなり、ガーグ老へと足を踏み出す。
 その後、幾度も剣戟けんげきを交わしガーグ老は確信したようだ。
 剣術には癖が出るから仕方ない。
 俺の剣は、宰相の息子であった騎士団長から習ったものだからな。

 あの頃――。
 周囲に味方はおらず、唯一信頼出来るのは国をうれいていた宰相側の人間だけだった。
 あれから150年も経っていれば、知り合いは誰もいないと思っていたが……。

 まさかガーグ老他、影衆達が全員生きてカルドサリ王国にいるとは驚きだ。
 エルフは本当に長命な種族らしい。
 もう1,000歳を超えているんじゃないか?
 唐突に終わった仕合後、一礼し借りた剣を返そうとするとガーグ老が首を横に振る。

「いや、その剣は父親殿が持っていてくだされ。これから娘さんのために必要になるだろうて」

 あぁ、沙良の姿を見てヒルダの娘だと思い警護をしているんだな。
 これは後で話し合う必要がありそうだ。

「それはありがたい。購入した剣では、少々不安を覚えていた所だ」

 沙良が買ってくれた剣では、申し訳ないが俺の技量が充分に発揮されない。
 これから家族を守るためには、やはり自分に合った得物えものが必要だろう。
 俺はガーグ老の提案を素直に受け、樹の剣・・・だという形見を貸してもらう事にした。

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