自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第575話 世界樹の精霊王との邂逅 フェンリルの女王 2

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 世界樹の精霊王に、娘へ許嫁いいなずけを紹介したいと伝え呼び出してもらった。
 娘から産みの母親・・・・・には会いたくないと言われ、とても胸が痛む。
 育てられなかった私には、母親としての資格がない。
 あの子にとって、育ててくれた巫女姫が母親なのだろう。
 娘の言葉を聞き、精霊王は「困ったねぇ」とその場にいた私の方へ振り返る。
 私は静かに後退あとずさり、娘からは見えない位置へ移動した。

 今日の本題は、許嫁いいなずけを紹介する事だから娘と会えなくても構わない。
 兄妹達が厳選した立派なおすはハルクといい、つがいである娘を一生守ると誓ったそうだ。

「あ~、母親には会いたくないみたいだから、許嫁だけ紹介するよ」

 精霊王はそう言って、娘にハルクを紹介する。

「成長したと聞いたが、えらく小さいめすだな。その体で子供が産めるのか?」

 ハルクの第一声を聞き、頭が痛くなった。
 どうやら、この雄には教育的指導が必要らしい。
 初対面の許嫁から、あんまりな言葉を掛けられた娘は気分を害したのか、その後名前を尋ねられても応えず一言も話さなかった。
 ハルクはそんな娘の態度を意に介さず、また様子を見にくると言いその場を去る。
 確かに次代の許嫁に求められるのは、許嫁を守る強さだけどそればかりではない。

 相手に嫌われてしまったら、どうしようもないからだ。
 私はこの性格に難がありそうな雄に、女王として娘との接触は月に1度だけだと厳命した。
 毎日顔を見せにいけば、娘の態度はかたくなになってしまうかも知れない。
 本来であれば常に付き添い護衛をになう許嫁だけど、姿を見せず遠くから守るよう言い付けた。
 それと娘と仲良くなるには、会話が重要であると教えさとす。
 私の話を聞き、ハルクは考え込んだ後で大きくうなずいた。

 それからハルクは私の言葉を守り、月に一度だけ娘の前へ現れては30分程話をして帰るようになる。
 私はその姿を遠くから見ていたため、実際彼が何を話していたのか分からない。
 娘の様子を見る限りでは、2人の仲が進展しているようには見えなかった。
 これは前途多難だな……。
 どうやら初対面の印象が悪すぎたのか、娘は許嫁が気に入らないらしい。
 何か印象を変えるような出来事でもあれば違ってくるだろうか?

 そうして10年が過ぎたある日。
 独りで精霊の森から出た娘に、ジャッカルが襲い掛かった。
 フェンリルの個体として小さすぎる娘は、魔力を感知しない野生の動物に獲物と判断されてしまったようだ。
 直ぐにジャッカルを排除するべく駆け付けようとした瞬間、ハルクが娘の前におどり出て敵の首を刈り取った。

 あぁ、もうちゃんと娘にはその身をていし守ってくれる存在がいたのだった。
 許嫁となり役目を果たしているハルクは、私の目から見ても立派な体格をした雄である。
 兄妹が厳選した番は、強さも群を抜いていたようだ。
 まぁ、私の夫には負けるけどね。
 この一件があり、娘の態度は明らかに変化を見せた。
 毎回一方的に話をして帰るだけだった逢瀬おうせの時間に、会話が生まれたらしい。

 これで2人の仲も進展するだろう。
 娘は相変わらず小さな姿のままだけど、私が女王でいる期間はまだ数百年ある。
 その間に少しずつ成長していけば大丈夫だろう。
 許嫁との体格差は、人化してつがえば解消される問題だ。

 娘が200歳になった頃、世界樹の精霊王から巫女姫が転生する事を知らされる。
 そしてその護衛役に、娘が選ばれたと知り不安になった。
 200歳になっても、娘の姿は巫女姫にかかえられるくらい小さい。
 果たして護衛役が務まるだろうか?
 私は今こそ娘を育ててくれた巫女姫に恩を返す時だと思い、精霊王へ護衛役を受けたいと申し出る。

 いつか巫女姫の役に立ちたいとずっと願っていたのだ。
 この機会を逃す手はない。
 それに、もしかしたら転生先で娘を育てられるかも知れないという、わずかな希望もあった。
 私と一緒に夫と長男も巫女姫の護衛役を受けると言う。

「もうあちらの世界へ渡る枠が残っていないのだよ」

 私達の申し出に、精霊王が困ったような表情を見せた。

「それに君達は種族として強い個体だからね。転生にはかなりの代償が必要になるし、正直時間軸がズレる可能性が高いと思うけど……。それでも転生先に渡る覚悟はあるかい?」

 代償なら幾らでも払う。
 時間軸のズレはいかんともしがたいけれど、娘と一緒に転生出来るのを願おう。

「はい、全て承知の上です。どうかよろしくお願いします」

 私達が不在の間は、兄妹達が森をしっかりと治めてくれるだろう。

「じゃあ、どうなるか分からないけど送ってあげよう。良き人生を……」

 精霊王の声を最後に意識を失った。

 そうして再び、その精霊王の姿をベッドの上で横になり目の当たりにする。
 あぁ、確かに払った代償は高かった。
 同じ思いを2度も味わう事になるとは……。

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