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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第700話 迷宮都市 『人魚姫』の演劇
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『白雪姫』の出演者が舞台袖に引っ込むと、緞帳が下がった。
15分休憩を挟んでから、次は『人魚姫』の披露が待っている。
アマンダさんは舞台が終わり満足そうに笑っていた。
それに対し、ナレーション担当のケンさんと私は放心状態だ。
何とか辻褄を合わせた内容にしたけど、原作を知っている人には微妙な劇だったと思う……。
そして今回出番がなくなった王子様役は、苦笑していた。
『シンデレラ』の時といい、アマンダさんは王子様と結婚する結末が嫌いなのかしら?
旭が主役の劇を見ようと、2階の部屋へ行き急いで着替える。
メンバーがいる席に着いた時、タイミング良くナレーションが始まった。
『遠い遠い海の底に人魚のお城があり、お城には王様と6人の人魚姫が住んでいました。この世界では、人魚姫は15歳になると海から出て人間の世界に行くことが出来るようになります。末の人魚姫は、お姉さん達が見てきた人間の世界の話を聞き、自分も人間の世界へ行くことを楽しみにしていました』
ここで緞帳が上がり、人魚姫姿の旭が登場する。
その衣装を見た冒険者達から驚きの声が上がった。
子供達は下半身が鱗に覆われた姿の人魚姫に興味津々なのか、食い入るように見つめている。
『ついに15歳を迎えた末の人魚姫が海の上に顔を出すと、そこには沢山の明かりをつけた船が浮かんでいます。船には王子様が乗っており、人魚姫は王子様をひと目見て恋をしました。その時、突然嵐が船を襲い、王子様は海へ落ちてしまいました。人魚姫は海に落ちた王子様を助けようと近付きます』
旭は飛翔魔法を少しだけ使用し、王子様役のダンクさんを助けるために移動する。
すると溺れている場面なのにダンクさんは目を開き、はっきりと自分に近付いてくる人魚姫を凝視していた。
あ~、人魚姫が助けるシーンが……。
王子様は自分を助けたのが、誰か分からない設定なのに!
人魚姫は溺れた様子がないダンクさんの方へ、恐る恐る近付いていく。
「もしかして俺を助けに来てくれたのか?」
そう人魚姫に声を掛ける王子様。
ここで、2人が出会ってしまった。
「……」
人魚姫は台本にない内容にパニックを起こし、何も言えないらしい。
「お前は海の魔物だろう? 人間を襲う生物だと思っていたが、美しい姿をした女だったとは……。話す事は出来ないのか?」
「……話せます」
「そうか、意思の疎通が可能なんだな。それより、若い女性がそんな姿を晒すものじゃない」
そう言って王子様は上着を脱ぎ、上半身裸同然に見える人魚姫へ着せた。
その瞬間、男性冒険者達の野太い悲鳴が上がる。
偽乳と分かっていても、見ていたかったのだろうか?
「お前、名前はあるのか?」
「……私は、人魚の姫です」
「では、人魚姫だな。皆が海に落ちた俺を心配しているだろうから、浜辺まで戻るよ。そこまで一緒に行かないか?」
「……ご一緒します」
人魚姫は、なんとか話を合わせようと王子様の提案に乗ったようだ。
『海の中で出会った2人は、浜辺まで仲良く戻ります。するとそこへ、どこからか娘がやって来たので、人魚姫は驚き海へ身を隠しました』
意識のない王子様を介抱する予定だったリリーさんが、既に目覚めているダンクさんを見て困惑している。
「あの、……王子様。大丈夫でしたか?」
「あぁ、俺は泳げるから問題ない。それより、海の中で美しい人魚姫に会ったよ」
どうして王子様が泳げる設定にした!
お陰で人形姫が助けるシーンが台無しだよ!
「そうですか……。でも異形の姿をした者は信用なりません。どうか、お忘れになって下さい」
リリーさんは、役柄的に王子様を落とす必要があるため必死だ。
「特に敵意は感じなかったが……。いつか、また会えるだろうか……?」
『娘と王子様が親し気に会話をしている姿を見て、人魚姫は自分も本当の人間になって王子様の近くにいたいと思うようになります。人魚姫は魔女の所へ行き、人間にしてほしいと頼みました。魔女は人魚姫の美しい声と引替えに、人間にすることを約束してくれます。しかし、魔女が出した条件はそれだけではなく、王子様が他の女性と結婚すると2度と人魚姫には戻れず海の泡になって消えてしまうとも言われました。人魚姫は全ての条件を吞み、人間になることを決めました。浜辺で人間になる薬を飲んだ人魚姫は、いつの間にか眠ってしまいます。暫くして目が覚めると、傍に王子様が立っていました。しかし、声を出したくても人魚姫は声が出せません』
「人魚姫、こんな所で寝ていたのか? それに、この足はどうしたんだ」
人魚姫は声が出せないため、首を横にふるふると振り王子様をじっと見つめた。
「何か事情があるようだな。その姿では海には戻れまい」
『王子様は何も話さない人魚姫を自分のお城まで連れて行き、人魚姫を妹のように可愛がりました』
「人魚姫、話は出来なくても文字は書けるだろう。この国の文字を覚え、何があったか教えてくれないか?」
筆談するのかよ!
それじゃ、話せない意味がなくなるじゃん!
『人魚姫は文字を覚え、魔女へ願い声と引替えに人間になった事を伝えます。それでも、王子様が他の女性と結婚すると海の泡になって消えてしまうのは内緒にしておきました。ある日人魚姫は、王子様から親し気に話していた娘と結婚することを聞かされました。王子様の結婚式が近付いたある夜、海にお姉さん達がナイフを持って現れます。お姉さん達は、このナイフで王子様の胸を刺して殺せば人魚姫は海の泡にならなくて済むと言いました。人魚姫はナイフを受け取り王子様が寝ている部屋へ忍び込み殺そうとしましたが……、人の気配を感じた王子様に見つかってしまいました』
「人魚姫、こんな夜中にどうした?」
うん?
どうにか原作通り話が進んでいたと思ったのに……。
声を掛けられた人魚姫が、びっくりし固まっている。
「その手に持っているナイフは……」
ナイフを見られた人魚姫が慌てて後ろに隠す。
「俺を殺しにきたのか? やはり、お前は魔物なんだな……」
人魚姫は勘違いされたと知り、首を大きく横に振り涙を零していた。
旭は内容が二転三転する劇に、ついていけないのか本当に泣いている。
見ている観客達は、そんな事とは知らずハラハラしているだろう。
そして意を決した人魚姫が、最後のシーンをやり遂げるために隠したナイフで自分の胸を一突きする。
それを見た王子様は自分の勘違いに気付き、今にも息耐えそうな人魚姫を抱き締めた。
「あぁ、そんな! 人魚姫、俺が悪かった。どうか死なないでくれ!」
『王子様の悲痛な叫びが城に響き渡りました。しかし人魚姫はその後、息を引き取り二度と目覚める事はなかったのです』
お終い。
子供達のすすり泣く声が聞こえてきた。
何だか原作より、最後が悲劇になっているような?
でも『白雪姫』よりは、改変されていないだろうか……。
出演者が全員舞台に上がると、大きな拍手が沸き起こる。
私は、何とか無事に終わった2つの劇にほっと安堵の息を吐いた。
毎回、冒険者達の劇は心臓に悪い。
着替え終わった旭が戻って来た。
その瞳は潤み、目元が赤くなっている。
兄が旭の肩を叩き、
「良く頑張ったな」
と労いの言葉を掛けた。
「お兄ちゃんの人魚姫、凄く良かったよ~。熱演だったね!」
雫ちゃんからの誉め言葉に旭は頬を染め、
「あっ、ありがとう」
と返事をする。
本人は熱演した心算はないだろうけどね。
私同様、舞台中はアドリブを熟すので必死だったに違いない。
昼食は皆と庭でバーベキューをし、劇の感想を言い合う子供達の姿を眺めた。
どちらの劇も好評のようで、楽しんだ様子が分かる。
お腹一杯食べた子供達にアメリカンチェリーを2個ずつ渡し見送った後、私達もホームへ帰った。
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お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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アマンダさんは舞台が終わり満足そうに笑っていた。
それに対し、ナレーション担当のケンさんと私は放心状態だ。
何とか辻褄を合わせた内容にしたけど、原作を知っている人には微妙な劇だったと思う……。
そして今回出番がなくなった王子様役は、苦笑していた。
『シンデレラ』の時といい、アマンダさんは王子様と結婚する結末が嫌いなのかしら?
旭が主役の劇を見ようと、2階の部屋へ行き急いで着替える。
メンバーがいる席に着いた時、タイミング良くナレーションが始まった。
『遠い遠い海の底に人魚のお城があり、お城には王様と6人の人魚姫が住んでいました。この世界では、人魚姫は15歳になると海から出て人間の世界に行くことが出来るようになります。末の人魚姫は、お姉さん達が見てきた人間の世界の話を聞き、自分も人間の世界へ行くことを楽しみにしていました』
ここで緞帳が上がり、人魚姫姿の旭が登場する。
その衣装を見た冒険者達から驚きの声が上がった。
子供達は下半身が鱗に覆われた姿の人魚姫に興味津々なのか、食い入るように見つめている。
『ついに15歳を迎えた末の人魚姫が海の上に顔を出すと、そこには沢山の明かりをつけた船が浮かんでいます。船には王子様が乗っており、人魚姫は王子様をひと目見て恋をしました。その時、突然嵐が船を襲い、王子様は海へ落ちてしまいました。人魚姫は海に落ちた王子様を助けようと近付きます』
旭は飛翔魔法を少しだけ使用し、王子様役のダンクさんを助けるために移動する。
すると溺れている場面なのにダンクさんは目を開き、はっきりと自分に近付いてくる人魚姫を凝視していた。
あ~、人魚姫が助けるシーンが……。
王子様は自分を助けたのが、誰か分からない設定なのに!
人魚姫は溺れた様子がないダンクさんの方へ、恐る恐る近付いていく。
「もしかして俺を助けに来てくれたのか?」
そう人魚姫に声を掛ける王子様。
ここで、2人が出会ってしまった。
「……」
人魚姫は台本にない内容にパニックを起こし、何も言えないらしい。
「お前は海の魔物だろう? 人間を襲う生物だと思っていたが、美しい姿をした女だったとは……。話す事は出来ないのか?」
「……話せます」
「そうか、意思の疎通が可能なんだな。それより、若い女性がそんな姿を晒すものじゃない」
そう言って王子様は上着を脱ぎ、上半身裸同然に見える人魚姫へ着せた。
その瞬間、男性冒険者達の野太い悲鳴が上がる。
偽乳と分かっていても、見ていたかったのだろうか?
「お前、名前はあるのか?」
「……私は、人魚の姫です」
「では、人魚姫だな。皆が海に落ちた俺を心配しているだろうから、浜辺まで戻るよ。そこまで一緒に行かないか?」
「……ご一緒します」
人魚姫は、なんとか話を合わせようと王子様の提案に乗ったようだ。
『海の中で出会った2人は、浜辺まで仲良く戻ります。するとそこへ、どこからか娘がやって来たので、人魚姫は驚き海へ身を隠しました』
意識のない王子様を介抱する予定だったリリーさんが、既に目覚めているダンクさんを見て困惑している。
「あの、……王子様。大丈夫でしたか?」
「あぁ、俺は泳げるから問題ない。それより、海の中で美しい人魚姫に会ったよ」
どうして王子様が泳げる設定にした!
お陰で人形姫が助けるシーンが台無しだよ!
「そうですか……。でも異形の姿をした者は信用なりません。どうか、お忘れになって下さい」
リリーさんは、役柄的に王子様を落とす必要があるため必死だ。
「特に敵意は感じなかったが……。いつか、また会えるだろうか……?」
『娘と王子様が親し気に会話をしている姿を見て、人魚姫は自分も本当の人間になって王子様の近くにいたいと思うようになります。人魚姫は魔女の所へ行き、人間にしてほしいと頼みました。魔女は人魚姫の美しい声と引替えに、人間にすることを約束してくれます。しかし、魔女が出した条件はそれだけではなく、王子様が他の女性と結婚すると2度と人魚姫には戻れず海の泡になって消えてしまうとも言われました。人魚姫は全ての条件を吞み、人間になることを決めました。浜辺で人間になる薬を飲んだ人魚姫は、いつの間にか眠ってしまいます。暫くして目が覚めると、傍に王子様が立っていました。しかし、声を出したくても人魚姫は声が出せません』
「人魚姫、こんな所で寝ていたのか? それに、この足はどうしたんだ」
人魚姫は声が出せないため、首を横にふるふると振り王子様をじっと見つめた。
「何か事情があるようだな。その姿では海には戻れまい」
『王子様は何も話さない人魚姫を自分のお城まで連れて行き、人魚姫を妹のように可愛がりました』
「人魚姫、話は出来なくても文字は書けるだろう。この国の文字を覚え、何があったか教えてくれないか?」
筆談するのかよ!
それじゃ、話せない意味がなくなるじゃん!
『人魚姫は文字を覚え、魔女へ願い声と引替えに人間になった事を伝えます。それでも、王子様が他の女性と結婚すると海の泡になって消えてしまうのは内緒にしておきました。ある日人魚姫は、王子様から親し気に話していた娘と結婚することを聞かされました。王子様の結婚式が近付いたある夜、海にお姉さん達がナイフを持って現れます。お姉さん達は、このナイフで王子様の胸を刺して殺せば人魚姫は海の泡にならなくて済むと言いました。人魚姫はナイフを受け取り王子様が寝ている部屋へ忍び込み殺そうとしましたが……、人の気配を感じた王子様に見つかってしまいました』
「人魚姫、こんな夜中にどうした?」
うん?
どうにか原作通り話が進んでいたと思ったのに……。
声を掛けられた人魚姫が、びっくりし固まっている。
「その手に持っているナイフは……」
ナイフを見られた人魚姫が慌てて後ろに隠す。
「俺を殺しにきたのか? やはり、お前は魔物なんだな……」
人魚姫は勘違いされたと知り、首を大きく横に振り涙を零していた。
旭は内容が二転三転する劇に、ついていけないのか本当に泣いている。
見ている観客達は、そんな事とは知らずハラハラしているだろう。
そして意を決した人魚姫が、最後のシーンをやり遂げるために隠したナイフで自分の胸を一突きする。
それを見た王子様は自分の勘違いに気付き、今にも息耐えそうな人魚姫を抱き締めた。
「あぁ、そんな! 人魚姫、俺が悪かった。どうか死なないでくれ!」
『王子様の悲痛な叫びが城に響き渡りました。しかし人魚姫はその後、息を引き取り二度と目覚める事はなかったのです』
お終い。
子供達のすすり泣く声が聞こえてきた。
何だか原作より、最後が悲劇になっているような?
でも『白雪姫』よりは、改変されていないだろうか……。
出演者が全員舞台に上がると、大きな拍手が沸き起こる。
私は、何とか無事に終わった2つの劇にほっと安堵の息を吐いた。
毎回、冒険者達の劇は心臓に悪い。
着替え終わった旭が戻って来た。
その瞳は潤み、目元が赤くなっている。
兄が旭の肩を叩き、
「良く頑張ったな」
と労いの言葉を掛けた。
「お兄ちゃんの人魚姫、凄く良かったよ~。熱演だったね!」
雫ちゃんからの誉め言葉に旭は頬を染め、
「あっ、ありがとう」
と返事をする。
本人は熱演した心算はないだろうけどね。
私同様、舞台中はアドリブを熟すので必死だったに違いない。
昼食は皆と庭でバーベキューをし、劇の感想を言い合う子供達の姿を眺めた。
どちらの劇も好評のようで、楽しんだ様子が分かる。
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