自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第703話 迷宮都市 樹おじさんの衣装チェンジ&私の花嫁衣裳

 ガーグ老は大粒の涙を流し感極まったようで、まさに大号泣と言ってもいい。
 それほど女性化したいつきおじさんの姿は、ヒルダさんに似ているのだろう。
 この様子じゃ両頬の痛みは感じていないかも知れないけど、ここで私が治療するのは控えておこう。
 それにしても、ガーグ老達が着ている正装は男女差がないのか比較的ゆったりとした作りになっており、首元までを隠した肌を見せない物だった。
 足元までおおう白を基調としたマントには、銀と金の糸を使用した手の込んだ複雑な刺繍ししゅうが入っている。
 これがエルフの正装なのかしら?

「ガーグ老。女性化した樹おじさんは、私の代役で問題ないと思います。姿を確認したかったのですよね?」

「あぁ、そうであった。姫様の衣装を合わせると言って、女官長達が騒ぐものでな」

 女官長達? 宮廷魔術師である彼女達の事だろうか?
 姫様がカルドサリ王国に嫁いだ際、一緒に付いてきた方達ならヒルダさんを知っていてもおかしくない。
 するとリーダーの女性が女官長かしら?

「あの、衣装は既に今日購入してきましたけど……」

「それは多分、不要な物になるであろう」

 どういう意味か問い掛けようとした時、樹おじさんが女官長に手を引かれ工房内へ連れていかれた。
 お付きの女官達も後ろを付いていく。

「あ~、少し時間が掛かりそうだの。サラ……ちゃんに父親殿は、席に座って待つ方が良かろう」

「はい……」

 ガーグ老の提案に私は首をかしげ、アイテムBOXからテーブルと椅子を出し父と一緒に待つ事にした。

「樹おじさんの衣装は、どうやって準備したのかな? 女性化すると体型も変わるよね? それに女官長達? は男性姿のおじさんを見ていないから、身長も知らないと思うんだけどなぁ~」

「あぁそれは……幾つかサイズを用意していたんじゃないか? 樹は、そんなに背が高くないから大丈夫だろう」
 
 まぁハーフの父に比べたら、おじさんの身長は日本人の男性平均に近い。
 それでも女性よりは高いと思うよ?
 衣装合わせが長くなりそうなので、まだ昼食前だったのを思い出し料理しようと決めた。
 女官長達もいるから、簡単に作れる物がいいかな?
 『ミックスサンド』にしよう!
 『卵サンド』・『カツサンド』・『照り焼きチキンサンド』を組み合わせれば、量も足りるだろう。
 
 コカトリスの卵で大量の卵焼きを作り出す。
 分厚い方が食べ応えもありそうだし、使用するのは食パンでいい。
 揚げたてのカツはアイテムBOXに入っているから、後は『照り焼きチキン』だけ準備すれば済む。
 スープは久し振りに『コーンスープ』にしよう。
 農家のおじさんに作ってもらったとうもろこしが、まだ余っていたはず
 昼食を作り終える頃、着飾った樹おじさんが工房から出てきた。
 その姿を見てつい、「綺麗~!」と声を上げる。

 紫色の花嫁衣裳は、今のおじさんの瞳の色とピッタリ合っている。
 女性化し腰まで伸びた長い髪が複雑に結われ、その額には美しくカットされた宝石が掛けられていた。
 サイズも丁度良く、まるで事前にあつらえたかのよう。
 10代に見える私と比べ、30代の姿をしたおじさんは妖艶ようえんでさえあった。
 隣にいた父が、思わず腰を上げるくらい驚いている。
 出てくるのを待っていたガーグ老達は、おじさんの姿を目にし再び涙をこぼしていた。

「姫様は滅多に着飾らんかったでな。また、綺麗な姿を見られて儂は幸せだの……」

 樹おじさんに姫様を重ねているのか……。
 別人と知ってはいても、その姿を懐かしむ想いが強いのだろう。
 あぁ、これなら確かに今日購入した衣装は必要ないな。
 勿体もったいないから後で私の衣装と一緒に返品しておこう。
 大変満足そうな表情をした女官達とは違い、おじさんの方は疲れ切った顔で遠い目になっていたけどね。
 なんせ女性の花嫁姿は時間が掛かるのだ。
 きっと髪を複雑に編まれる間中、苦痛だったに違いない。
 それに、ほんのり化粧もされている。

「見た目、詐欺さぎだな」

 父が笑って感想を述べると、おじさんはムッとし肩を殴りつけていた。

「お前は、綺麗だと一言くらい言え!」

「それは知ってる。相変わらず、姿だけ・・・は美しいと思ってるよ」

 友人同士の親しい遣り取りに、すかさず女官長が口を挟んだ。

「イツキ殿。お口が悪うございます」

「あっ、すみません。まだ慣れなくて……」

 途端とたん、おじさんは怒られたように身をすくめる。

「サラ様は、どんな衣装をご用意されたのですか?」

 おっと、こっちにお鉢が回ってきたよ!
 
「ええっと……。私の代わりに樹おじさんが花嫁役をするので、衣装は必要なくなりました」

「ですが、出席はされるのですよね?」

 それは考えていなかったなぁ。
 そもそも女性化した樹おじさんに、代役が務まると思っていなかったし……。
 父の方を見ると、どうするか悩んでいそうだ。
 狙われているのが私なら、結婚式自体出ない方がいい気もするけど……。
 自分の事だから、成り行きを見てみたい気持ちもある。
 
「大丈夫ですよ。私達がおそばについて、指一本触れさせませんから。それに……他の者もいるようです」
 
 女官長は一瞬、木の方に視線を向けてにっこりと笑う。
 妖精さん達?

「明日は目立たないよう、私達と同じ衣装にしましょう。ですが今日は、私どもの準備した衣装を着て下さいませんか?」
 
「えっ? 私が花嫁衣裳を着る必要は……」

 ないんですけどと続けようとする前に、周囲を女官達に囲まれ移動を余儀よぎなくされた。  
 後ろを振り返り父に助けを求めたら手をひらひらと振られ、行ってこいと合図される。
 樹おじさんは、何故なぜそんなに嬉しそうな顔をして送り出すの!?
 仕方なく工房内に付いていくと女官達から服を脱がされ、あれよあれよという間に着替えさせられた。
 
「サラ様は姫様より、お胸が大きいですわね。少しきついかも知れませんが……」

 着せられた衣装は樹おじさんと同じ物に見える。
 王宮で会った時、目測でサイズを確認し準備したのかしら?
 
「まだ幼いようですから、化粧は必要ないでしょう」

 幼くありませんけど!?
 リーシャは20歳だし、本当の年齢は56歳だ。
 異世界では身長が低い所為せいで、10代半ばにしか見えなくても……。 
 えぇ、残念ながら12歳から1cmも背が伸びていませんよ!
 その後、髪を編まれ終了するまで彼女達の笑顔が怖かった。
 工房から出ると、樹おじさんが走りながら近付いてくる。
 自分と同じ衣装を着た私を見るなり、抱き上げるので驚いてしまう。
 その状態で父の所まで歩き、

「娘が可愛い!」

 と大絶賛してくれた。
 
「あぁ、お前にそっくりだよ」

 父は、おじさんの言葉に苦笑しつつ言葉を返す。

「だよな!」

 周囲は、まるで微笑ましいものでも見るかのように穏やかな雰囲気ふんいきが流れていた。
 でも、このままおじさんの腕に抱き上げられている訳にはいかない。
 私はペシペシと肩を叩き、降ろしてくれるようお願いした。
 少し名残惜なごりおしそうな様子で、そっと地面に降ろされる。

 まだ自分の姿を見ていないから、姿見を出し確認してみよう。
 鏡へ映った姿に、どこか懐かしさを覚える。
 本当なら公爵令嬢であるリーシャは、毎日こんな衣装を着ていたんだろうか?
 普段、冒険者の服装をしている事が多い私は少し気恥ずかしい。

「どうかな?」

 父に尋ねると、

「あぁ、とても良く似合っているよ。俺の娘が世界で一番綺麗だ」

 少々、親馬鹿な発言が返ってきた。
 まぁ3割増しの表現だと思っておこう。
 ちょっと写真に残しておきたい気もするけど、この世界にはない器械だからあきらめるしかないか。

「皆さん、昼食を作ったので食べましょう!」

「まぁサラ様みずから、お作りになられたのですか?」

 女官長が驚きに目をみはっている。

「サラ……ちゃんは料理が得意でなぁ。毎週、儂らはご馳走ちそうしてもらっておるわ」

 胸を張り、ガーグ老が自慢気に話していた。
 準備した『ミックスサンド』を、今日は女官達がテーブルへ運んでくれる。
 三男のキースさんの出番はないようだ。
 業務用寸胴鍋に作った『コーンスープ』も、どこからか用意した陶器の器へよそっている。
 
 うん?
 なんだか、私達の器だけすごく豪華な感じの物になってる。
 あっ、でもスプーンは銀製だ。
 金のスプーンだったら、どうしようかと思ったよ。

「サラ様。見た事のない料理ですが、これはどうやって頂くのでしょう?」

「そのまま、手に持ち食べて下さい。ナイフやフォークを使用する必要はありませんよ」

「軽食なのですね? 分かりました。少し、お待ち下さい」

 ?
 女官長は、女官の1人がそれぞれ一口ずつ食べてからしばらく様子を見ている。
 味の確認をしたかったのだろうか?
 
「お待たせ致しました。ではサラ様の手料理を、ありがたく頂きます」

 大袈裟おおげさだなぁ~。
 ただの『サンドイッチ』と『コーンスープ』なのに……。
 黄色のスープが珍しかったのだろう。
 一番始めに『コーンスープ』を飲んで奇妙な表情になる。
 次に『カツサンド』へと手を伸ばし口に運ぶと、大きく目が見開かれた。

「これは……。料理長も再現出来ない味ですわね。姫様が食べたがっていたのは、このような物でしたか……」

 そう小さく呟き、樹おじさんの方を見ている。
 おじさんは女性に向かい、うんうんとうなずいていたけど……。
 同じ日本人として、同意しているのかしら?
 父は無言で食べていた。

「ガーグ老。美味しい料理を頂き、さぞかし満足だったのでしょうね。この私へ連絡を忘れるくらい」

 何やら言葉にとげがある……。
 言われたガーグ老がオロオロしている姿を、部下達は見ない振りをしていた。

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