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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第706話 迷宮都市 偽花嫁の偽装結婚 3
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「あれは……。まさか麒麟!?」
近くにいた女官長が悲鳴のような声を上げると、女官達の間に緊迫した空気が走った。
麒麟? あの伝説上の生き物の事?
私は複数の動物が混ざっているような姿をしている騎獣を見て、キメラだと思ったんだけど……。
見た事のない魔物に乗り、かなりの速度で近付いてくる10騎に指示を与えている人物を探そうとマッピングを展開する。
残念ながら笛を持った該当者はなしか……。
どうやら、この麒麟という魔物はテイムされた従魔であるらしい。
10匹を今の私の魔力でテイムするのは難しいだろう。
見ただけで高位の魔物だと分かる。
1匹テイムするためには、相当な魔力が必要になりそうだ。
空を飛んでいる間にガーグ老達が魔法攻撃を仕掛けるかと思っていたら、何も行動を起こそうとしない。
おかしいなと思い、茜の方を見ると僅かに緊張した表情をしている。
これは……、今までの敵とは段違いの強さがあるのかも?
彼らは家の上空までくると、高度を下げ特に攻撃もせず庭へ降り立った。
騎乗していた従魔の背からひらりと着地し、先頭にいた男性がガーグ老の方へスタスタと歩みよる。
その男性達は、明らかにカルドサリ王国内の人間ではない特徴のある容姿をしていた。
また、アシュカナ帝国人の特徴とも合致しない。
体は全身痩躯で肌は赤銅色をしており、その顔には刺青が入っている。
着ているのは民族衣装なのか、こちらの世界の人とは違い肌の露出が多い。
一枚の貫頭衣を腰で縛っただけの、簡素な物だった。
肩口から切りそろえられ両腕が出ているし、膝上までしかないため素足が見えてしまっている。
この季節にそんな恰好をして、寒くないんだろうか?
男性はガーグ老の前まで堂々と来て、一礼し口を開いた。
「翁よ。私怨は一切ないが、花嫁を渡して頂こう」
「お主はケスラーの民であろう。何故、アシュカナ帝国側に付いておる」
ガーグ老は、この男性の出身を知っているのか訝し気に尋ねた。
「妹を攫われた。帝国の王が9番目の妻にしたい人物を連れてきたら、開放すると約束したのでな」
うん?
どうやら、複雑な事情があるらしい。
話が出来ると思ったのか、身代わり役の樹おじさんが横から口を挟む。
「私は今日、結婚式を挙げました。他の方に嫁ぐ気はありません。妹さんが大事なら、貴方達の手で救出すれば良いのでは? 世に名高い戦闘民族でしょう」
「私の一族はいきなり増えた魔物と交戦し皆、体に深い傷を負っている。現在救出に行けるのは、ここにいる者が全てだ。それでは助ける事が出来ぬ」
淡々と言葉を返す男性は逡巡した後で、おじさんへ視線を合わせ徐に両膝を突いた。
「どうか私と一緒に来てほしい」
人質にされた妹さんを助けるためだと事情は分かったけど、その代わり9番目の妻にされるのは割に合わないんだけど?
周囲は思いがけない成り行きに身動き出来ず、硬直状態が続いている。
「それは無理ね」
当然、おじさんの出した答えも決まっていた。
「そうだろうな……」
思った返事がもらえないと分かると、男性は即座に立ち上がり同時に花嫁の手をしっかりと掴む。
途端、ガーグ老の表情が気色ばんだ。
「儂の花嫁を強引に連れ去る心算か!」
「私に選択の余地はない。丁寧にお願いしても頷かないなら、無理にでも攫うのみ!」
ここにきて両者の間に戦闘が開始されようとしていた。
おじさんは男性に手を掴まれたまま引き寄せられ、腕の中にしっかりと囚われている。
ハラハラしながら見ていると、同じ一族出身の男性が進み出て交渉をした彼に耳打ちした。
すると突然おじさんは解放され、男性が周囲に鋭い視線を送る。
「花嫁衣装を着ているから、そなたが対象の人物だと思っていたが……。王が望んでいるのは10代の少女であった」
男性は吐き捨てるように言い、尚も視線を凝らし目的の人物を探そうとする。
その言葉を聞いたガーグ老が舌打ちし、「ゼン!」と長男の名前を呼ぶ。
すると一瞬にして、黒装束に身を包んだ妖精さん達が姿を現した。
普段は人前に出るのをよしとしない彼らが、両手に剣を携え身構える。
数は40以上もいて驚いた。
身代わりがバレた時点で、武闘派メンバーもじりじりと私の方へ動き出す。
女官達の体で隠され、外からは見えないと思うけど私は生きた心地がしない。
少しして、視線を彷徨わせていた男性が女官長達を注視した。
「そこか! 火の精霊よ、隠された者を炙りだせ!」
彼が口にした直後、人型をした人間ではない何者かが出現する。
全身を炎で包まれ筋骨隆々とした凄みのある3mの大男だった。
この人物が火の精霊なのだろうか?
『そりゃ無理だ。6人の精霊王の加護を受けている人物の結界は破れない』
『はっ? 6人の精霊王の加護だと!? そんな話は聞いてないぞ!』
『お前が連れ去ろうとしている人物は巫女姫だ。諦めろ』
『……帝国の王は命が惜しくないのか? 巫女姫を9番目の妻にしようとは、愚かにも程がある。エルフと協定を結んでいる獣人達が黙ってはおらんだろう。それにしても参ったな……。相手が至高の存在であるなら、うちの一族も手は出せない』
火の精霊と思われる大男とケスラーの民と呼ばれた男性が、私には理解不能な言語で会話をしている。
一体、何を話しているのかさっぱり分からない。
傍にいる女官達は2人の遣り取りを聞いて、少しだけ緊張を解いたように見える。
暫くすると出てきた時と同じように、火の精霊は忽然と消えた。
姿を消す前、私の方を見て投げキッスを送られたのは何だったのか……?
「大変失礼致しました。私は、事情を把握していなかったようです。こうなったら、一族総出で妹を救出に向かう他ありません。ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
急に態度を改め、ケスラーの民達が全員で深々と頭を下げる。
この短い間に何があったんだろう?
「あ~、代わりに俺を連れていくといい。ちょっと、こちらの事情もあるしな」
「いや、別人を連れていく訳には……」
「初見じゃ分からないだろう。問題ねぇよ」
花嫁役の演技を放棄した樹おじさんが、変な事を言っている。
「ちょっくら、アシュカナ帝国に行ってくる。響、お前も来るよな?」
「はぁ……仕方ない。一緒に行こう」
えっ、何がどうなってそんな決断を?
話の展開に付いていけない私達を置き去りに、2人は帰ろうとした彼らの麒麟へ飛び乗り空高く舞い上がった。
残された私達が呆気に取られ、ぽかんとしている間にみるみる遠ざかっていく。
その後を2匹の白梟が追った。
「こりゃいかん。姫様が暴走された。ゼン、サラ……ちゃんを頼むぞ!」
「はっ! ご武運を!」
次いでガーグ老達が5匹のガルちゃん達に2人乗りし、樹おじさんを慌てて追い駆ける。
えっと……。
身代わりの花嫁が、自分から攫われたみたいなんですけど!?
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読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
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どうやら、この麒麟という魔物はテイムされた従魔であるらしい。
10匹を今の私の魔力でテイムするのは難しいだろう。
見ただけで高位の魔物だと分かる。
1匹テイムするためには、相当な魔力が必要になりそうだ。
空を飛んでいる間にガーグ老達が魔法攻撃を仕掛けるかと思っていたら、何も行動を起こそうとしない。
おかしいなと思い、茜の方を見ると僅かに緊張した表情をしている。
これは……、今までの敵とは段違いの強さがあるのかも?
彼らは家の上空までくると、高度を下げ特に攻撃もせず庭へ降り立った。
騎乗していた従魔の背からひらりと着地し、先頭にいた男性がガーグ老の方へスタスタと歩みよる。
その男性達は、明らかにカルドサリ王国内の人間ではない特徴のある容姿をしていた。
また、アシュカナ帝国人の特徴とも合致しない。
体は全身痩躯で肌は赤銅色をしており、その顔には刺青が入っている。
着ているのは民族衣装なのか、こちらの世界の人とは違い肌の露出が多い。
一枚の貫頭衣を腰で縛っただけの、簡素な物だった。
肩口から切りそろえられ両腕が出ているし、膝上までしかないため素足が見えてしまっている。
この季節にそんな恰好をして、寒くないんだろうか?
男性はガーグ老の前まで堂々と来て、一礼し口を開いた。
「翁よ。私怨は一切ないが、花嫁を渡して頂こう」
「お主はケスラーの民であろう。何故、アシュカナ帝国側に付いておる」
ガーグ老は、この男性の出身を知っているのか訝し気に尋ねた。
「妹を攫われた。帝国の王が9番目の妻にしたい人物を連れてきたら、開放すると約束したのでな」
うん?
どうやら、複雑な事情があるらしい。
話が出来ると思ったのか、身代わり役の樹おじさんが横から口を挟む。
「私は今日、結婚式を挙げました。他の方に嫁ぐ気はありません。妹さんが大事なら、貴方達の手で救出すれば良いのでは? 世に名高い戦闘民族でしょう」
「私の一族はいきなり増えた魔物と交戦し皆、体に深い傷を負っている。現在救出に行けるのは、ここにいる者が全てだ。それでは助ける事が出来ぬ」
淡々と言葉を返す男性は逡巡した後で、おじさんへ視線を合わせ徐に両膝を突いた。
「どうか私と一緒に来てほしい」
人質にされた妹さんを助けるためだと事情は分かったけど、その代わり9番目の妻にされるのは割に合わないんだけど?
周囲は思いがけない成り行きに身動き出来ず、硬直状態が続いている。
「それは無理ね」
当然、おじさんの出した答えも決まっていた。
「そうだろうな……」
思った返事がもらえないと分かると、男性は即座に立ち上がり同時に花嫁の手をしっかりと掴む。
途端、ガーグ老の表情が気色ばんだ。
「儂の花嫁を強引に連れ去る心算か!」
「私に選択の余地はない。丁寧にお願いしても頷かないなら、無理にでも攫うのみ!」
ここにきて両者の間に戦闘が開始されようとしていた。
おじさんは男性に手を掴まれたまま引き寄せられ、腕の中にしっかりと囚われている。
ハラハラしながら見ていると、同じ一族出身の男性が進み出て交渉をした彼に耳打ちした。
すると突然おじさんは解放され、男性が周囲に鋭い視線を送る。
「花嫁衣装を着ているから、そなたが対象の人物だと思っていたが……。王が望んでいるのは10代の少女であった」
男性は吐き捨てるように言い、尚も視線を凝らし目的の人物を探そうとする。
その言葉を聞いたガーグ老が舌打ちし、「ゼン!」と長男の名前を呼ぶ。
すると一瞬にして、黒装束に身を包んだ妖精さん達が姿を現した。
普段は人前に出るのをよしとしない彼らが、両手に剣を携え身構える。
数は40以上もいて驚いた。
身代わりがバレた時点で、武闘派メンバーもじりじりと私の方へ動き出す。
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少しして、視線を彷徨わせていた男性が女官長達を注視した。
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『そりゃ無理だ。6人の精霊王の加護を受けている人物の結界は破れない』
『はっ? 6人の精霊王の加護だと!? そんな話は聞いてないぞ!』
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花嫁役の演技を放棄した樹おじさんが、変な事を言っている。
「ちょっくら、アシュカナ帝国に行ってくる。響、お前も来るよな?」
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話の展開に付いていけない私達を置き去りに、2人は帰ろうとした彼らの麒麟へ飛び乗り空高く舞い上がった。
残された私達が呆気に取られ、ぽかんとしている間にみるみる遠ざかっていく。
その後を2匹の白梟が追った。
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