自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
573 / 758
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第708話 旭 樹 再召喚 2 妻の残念な手料理&ティーナの事情説明

しおりを挟む
 夕食のメニューは、カレーと唐揚げに野菜サラダだった。
 この中で一番ましなのは野菜サラダだけか……、唐揚げは中まで火が入っているのを願おう。
 今日は市販のルーに何も足してないだろうか?

「あなたの好きなものにしたのよ~。皆も遠慮せず食べてね!」

 俺の好きなものというより、他の料理に比べたらましなのでカレーのリクエストが多いだけだ。

「頂きます」

 8年振りに妻の手料理を恐々こわごわ口へ入れると案の定、激甘カレーだった。
 隠し味がバッチリ分かるので、チョコレートを沢山たくさん入れたらしい。

「姿は変わっても、料理の味は同じなんだな……」

 目の前の可愛らしい少女が結花ゆかだと言われても、どこか半信半疑だった俺はカレーを食べて納得した。
 異世界人になっても、料理の腕は上達しなかったのか?
 食事の最中、沙良ちゃんが現在どう生活しているか教えてくれた。
 なんと皆で冒険者パーティーを組み、ダンジョンを攻略しているそうだ。
 ハイエルフの王族だった俺は冒険者になれず、ひびきと結婚し第二王妃になってからは妊娠が発覚。
 出産後は女官長達に子供を預け、冒険者をする心算つもりだったのを思い出す。

「冒険者! 俺も一緒にパーティーを組むよ! いや~、夢が叶った」

 再び異世界に召喚され冒険者が出来ると思うと、つい顔がほこんでしまう。

「じゃあ明日、冒険者登録に行きましょう。ダンジョンにはC級冒険者じゃないと入れないので、Lv上げもしないといけないですね」

「Lvなら……。あぁ、そうだな俺は0なのか……。武器や防具も購入する必要がありそうだ。結局、注文して一度も使用出来なかったなぁ……」

 ついLv上げの必要はないと言いそうになり口をつぐむ。
 俺は、この世界に初めて来た事になっているからな。
 日本に戻る前、響と一緒に冒険者をしようとドワーフの名匠めいしょうに注文した武器があったんだが……。
 あの爺さん、儂は引退しておるからと中々うなずかないから、最後は女の武器を使って篭絡ろうらくしたのに……。

 武器の引き渡し時、特別なお礼を約束したんだっけなぁ。
 ありゃ男のロマンだ! 嫌いなやつはいない。
 顔を柔らかいものに挟まれるのは、最高の気分になれる。
 あのドワーフの爺さんは、俺の武器を完成させてくれたのかね。
 手に入らないのが非常に残念だ。

「ホーム内の家は日本と同じなので、物は減ったりしませんよ?」

 沙良ちゃんが不思議そうに尋ねてくる。
 驚いた事に、今いる俺の家は彼女の能力であるホームの世界らしい。
 ホーム内では日本と同じ生活が送れるみたいだ。
 エルフが受ける精霊の加護より、断然こっちの方がいいじゃないか! 

「いや……。あれは、家に置いてなかったんだよ」  

 まだ受け取ってもいなかったから、カルドサリ王国の王都の外れにある森の家にもないだろう。
 でも最初に注文したバール氏の鍛えた剣は、森の家に置いてあるから折りを見て取りに行こう。
 あの当時、必死にLvを100まで上げていた響のお祝い用に槍も注文したんだが……。
 なんとか激甘カレーを完食し、非常に脂っこい唐揚げを食べ口直しに野菜サラダで一息吐くと、沙良ちゃんから1枚の封筒を渡された。
 なんでも、召喚された人間には3つの能力が与えられるらしい。
 俺は、何の能力かワクワクしながら封筒を開け手紙を読んでみた。
 
 うん、既に覚えた能力は消えないんだな。 
 肝心の増えた能力は、付与魔法・空間魔法に……。
 最後の性別変化って何だ!? まさか、また俺に子供を産ませる気じゃないだろうな?
 曾婆ひいばあちゃん、俺の役目はもう済んだと言ってくれ!
 内容を見て固まった俺の手元をのぞき込み、響が確認している。

「なっ、なかなか良い能力だと思うぞ」

「攻撃魔法がひとつもないし、最後のはいらね~よ。女になっても良い事なんかない!」

 お前の所為せいで痛い事ばっかりだったじゃね~か!
 俺は最後の能力は絶対使用しないと心に誓う。
 これじゃ、特典が1つ減り損した気分だ。
 帰り際、沙良ちゃんからそれぞれ召喚時に落ちていた封筒を渡された。
 同じパーティーを組むなら、皆の能力を把握しておいた方がいいだろう。
 俺はLv70だが、多分基礎値が120と一番多い。
 響はLvを100まで上げたが、基礎値は15とステータス値が低いから皆を守ってやらないと。

 玄関まで見送りに出た俺は、我慢出来ずティーナを抱きしめた。
 あぁ、俺がお腹を痛めて産んだ娘が生きている。
 娘のしずくと再会した時とは違う、特別な気持ちがき起こった。
 これは父親と母親の違いだろうか?
 両方を経験した俺にしか分からない気持ちかも知れない。

「生きていてくれてありがとう」

 もっとずっと抱き締めていたかったが、それは彼女に不信感を与える事になる。
 そっと両腕を離し娘の姿を最後まで見続けた。
 一瞬だけ響と視線を交わす。
 詳しい事情は夜にと言っていたから、いつもの場所で待っていよう。

「あなた、今日は驚いたでしょ? 早く寝た方がいいんじゃない?」

 可愛らしい少女姿の妻にあなた・・・と言われると、ものすごく違和感があるんだが……。

「あぁ、悪いな結花ゆか。ちょっと、響と出掛けてくるよ。色々、聞きたい話もあるし」

「そう? なるべく早く帰ってきてね!」

 なんだか、非常に残念そうな口調が気になった。
 8年振りに会うから、少しでも俺と一緒にいたいんだろうか?

「いってくるよ。帰りが遅くなりそうなら、先に寝てくれ」

「分かったわ、いってらっしゃい」

 家を出ると本当に日本と同じ景色だ。
 ホーム内にいたら、異世界召喚されたと気付かないんじゃないか?
 ただ、こんな時間なのに通りを走る車は一台もなかった。
 人間も俺達しかいないらしい。
 待ち合わせ場所の居酒屋に入ると、客も店員の姿もないので不思議な感じがする。
 5分程待つと響が店に入ってきた。

「まずは、何か注文しよう」

 そう言って、テーブルの上にある電子メニューを取り何品か注文している。
 人がいないのに誰が作るんだ?
 疑問に思っていると、突然目の前にビールジョッキと料理が現れ驚く。
 まじか!?
 
「あ~、どこから話せばいい?」

「ティーナが沙良ちゃんだって理由を教えてくれ」

 俺は出てきたビールや料理に手もつけず、一番気になっている事を問いただす。

「そうだな……。俺達の娘のティーナは、世界樹の精霊王のもとで育てられたらしい。俺はまだこの世界にきて2ヶ月だが、その間に色々あり精霊王とも会っている。事情を聞いたらティーナは巫女姫で、ある存在に狙われているみたいだ。それで記憶を封印し、地球へ転生させたと言っていた。ちなみに、お前がこの世界で亡くなってから300年経っている」  

「巫女姫? 俺が産んだ娘は、てっきり【存在を秘匿ひとくされた御方】と呼ばれるエルフの守護神だと思っていたが……」

「あぁ、そういった存在でもあるようだぞ。ティーナは今、影衆達に守られている。お前より多い人数でな」

「じゃあ娘の生存は、本国に知られているのか……。なら、影衆の精鋭部隊『万象ばんしょう』が護衛に付いているんだろう。しかし、300年後なら当時の知り合いはいないだろうな……」

「いや、ガーグ老達は生きてる」

「はっ? もう1,000歳超えてるじゃないか! どれだけ、Lvを上げたんだか……」

「ヒルダに会いたがっているだろうが、今のお前の姿じゃなぁ」

「この姿で姫様呼びは勘弁してくれ。会う機会はあるのか?」

「毎週、娘達が武術稽古を受けてるよ」

「あぁぁ~。そりゃ嫌でも再会しそうだ」

 俺は、ずっと護衛をしてくれたガーグ老達がまだ生きていると知り嬉しい反面、過去がバレないか頭を抱える。
 あのご老人達に演技力を期待するのは無理だろう。
 彼らの本業は姿を隠し王族の護衛をする事だ。
 諜報ちょうほうになう一族とは、必要な能力が違い過ぎる。 

「一応ガーグ老に通じる念話の魔道具で、大袈裟おおげさにしないよう伝えておこう」

 そう言ってくれてもまったく安心出来ない。
 俺は大きな溜息を吐き、ようやく生ビールに口を付けた。

「娘の転生先が、父親のもとだったのは偶然か? 俺達はティーナだと知らず、沙良ちゃんの成長を見ていたんだな。お前の娘が俺の娘でもあった訳だ。育てる事は出来なかったが、ずっとそばにいたとは……。今は俺とそっくりになっているから心配だよな。300歳を過ぎているのに子供のままだし」

「分かっているだろうが、お前の娘だというのはまだ伏せておけよ。記憶が戻った時に話せばいい。それまで樹おじさん・・・・・のままでいろ。お前が母親だと知ったら沙良が混乱する」

「嘘も隠し事も苦手なのに……。響がフォローしろよ?」

「それは、俺も正直言って自信がない。もう既に、色々やらかしている気がするな……」

「駄目じゃん!」

 俺達は共通の秘密をバレないよう隠し通す必要がある。 
 あの一夜限りの過ちを、お互いの妻に暴露ばくろする訳にはいかない。
 久し振りに親友と会い、妻に早く帰ってきてねと言われていたのをすっかり忘れ、俺達は店で飲み明かしたのだった。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,587

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。