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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第729話 旭 樹 再召喚 23 竜族の能力&魔力欠乏で倒れた娘
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桃を丸ごと2個食べ、追加で3個目に手を伸ばそうとしたら雫がぼそりと呟いた。
「それ王都で1個銀貨12枚(12万円)する桃だよ」
「銀貨12枚だと!?」
驚いて声を上げると、ダンジョン産の果物は迷宮都市のダンジョンにしか生らず、採取する冒険者も自分達のパーティーしかいないと教えてくれた。
その中でも特に毎日違う場所へランダムで生る果物は、賢也君でないと探せないらしい。
どうやらダンジョン産の桃は、かなり貴重な物のようだ。
俺は知った値段に尻込みし、3個目を食べるのは止めておく。
口の感覚が戻った所で、飛翔魔法練習中に見たセイさんへ違和感を覚えた。
何だ?
小骨が喉へ引っかかり取れないような気分になる。
竜族の彼が空を自由に飛べるのは当たり前だが……。
少し考え、そうじゃないと気付く。
彼は明日初めて武術稽古に参加するから、まだ飛翔魔法を習得していない筈だ。
「……記憶が戻ってるのか?」
これは響と確かめた方がいい。
俺は妻へ椎名家にいくと伝え家を出た。
バイクより飛翔魔法の方が速いか?
家は近所だから、そこまで遠くないけど気が急いていたため空を飛んでいく。
響は昼食を食べ終わった後で、食後のお茶を飲んでいる所だった。
さっき別れたばかりの俺が会いにきたから、何か話があるようだと気付いてくれる。
さりげなく俺と出掛けると美佐子さんに言い、2人で喫茶店へ入った。
コーヒーを2人分注文している響に向かって口を開く。
「セイさん、記憶が戻ってるんじゃないか?」
「一度、記憶が戻ったようだが世界樹の精霊王が再封印していたぞ?」
「でも、空を飛んでいたよな?」
「竜族だし、不思議じゃないだろう」
「まだ飛翔魔法を覚えてないのに?」
そこで漸く、俺の言いたい事に気付いたのか響の表情が驚いたものに変わる。
「確かに、まだガルム達へは会わせてないな……。どうやって空を飛んだんだ?」
「本人に確かめよう!」
「そうした方がいいな。聖は賢也達の家にいるだろう」
テーブルの上に出現したコーヒーを一気飲みし、今度は響の車で移動した。
住んでいるマンションへ着くと、部屋に向かいチャイムを鳴らす。
セイさんが応答したので中に入った。
「聖。正直に答えてほしい。お前、記憶が戻っているのか?」
響が前置きもせず単刀直入に真剣な顔で問い正す。
問われたセイさんは、きょとんとした顔をして言われた内容に心当たりがないようだ。
「えっと、日本人だった頃の記憶は覚えていますよ?」
「いや、そうじゃない。お前、さっき空を飛んでいただろう?」
「あぁ、すれ違いましたよね。息子さん達が飛翔魔法を覚えたのが羨ましくて、私も空が飛べたらいいなと思ったら飛べたんですよ! でもステータスへ飛翔魔法が表示されてないから、不思議に思っていた所です」
そう言いながら、にこにこ笑っている。
えっ、こいつは天然なのか?
普通、覚えてもいない魔法が使えたら、もっと動揺したりするだろう。
それに竜族は飛翔魔法で飛んでいるんじゃないらしい。
種族的に備わった能力があるようだ。
「じゃあ、記憶を思い出した訳じゃないんだな?」
響が確認のため念押しする。
「それは前世という意味ですか? 自分が歴史上の人物だったりしたら、面白そうですね」
う~ん。
これは俺の勘が外れたか……。
それとも俺達と違い、嘘が上手いのかどっちだ?
響を見ると首を横に振っているから、嘘をついてはいないみたいだ。
「変な事を聞いて悪かった。沙良は、もう戻っているか?」
「ええ、隣の部屋にいると思います。息子さん達は、病院へ勉強をしにいきましたよ」
「ありがとう」
用件を済ませた俺達は部屋を出ると、沙良ちゃんの家のチャイムを鳴らす。
少し待っても応答がなく、鍵が掛かっていない玄関のドアを開け部屋に入った。
するとシルバーが飛び出してくるなり響の服を咥え、リビングまで引っ張っていく。
従魔の行動に嫌な予感を覚えていたら、石化を完全に解除された竜の卵の傍に沙良ちゃんが倒れている!
「沙良!」
響が娘を抱き起こし声を掛けても目覚めない。
一体、何があったんだ!?
俺は心配で何度も声を掛け続ける。
「ティーナ、目を覚ましてくれ!」
外傷は特に見当たらず、出血している場所もないのに……。
意識が戻らないため不安が募る。
「もしかして……、魔力欠乏の状態か?」
竜の卵と娘を見て響が原因に思い当たったようだ。
あぁ、そうか……。
巫女姫は、あらゆる種族に魔力を分け与えられるんだったな。
娘はそうと知らず、石化を解除された竜の卵に魔力がなくなるまで与えたんだろう。
理由が分かりほっとしたものの、これは少し厄介な事態だ。
竜の卵を孵化させるには、魔力が必要になってくる。
その度に無防備な状態で昏倒するのは、どう考えても拙い。
「樹、沙良を見ていてくれ。俺は病院まで賢也達を迎えにいく」
「分かった。娘には俺が付いているから安心しろ」
響が部屋を出た後、そっと抱き上げベッドまで運ぶ。
魔力欠乏で昏倒したなら寝ている状態だ。
一晩経てば目が覚めるだろう。
眠っている彼女の顔を、こんなに近くで見るのは初めてだ。
まだ幼さを残した表情で、すやすやと寝息を立てている。
心配したシルバーがベッドの下で丸くなっていた。
30分後、響が息子達を連れ戻ってくる。
賢也君が沙良ちゃんの寝顔を覗き込み、ほっとした様子を見せた。
尚人は、本当に大丈夫かと賢也君に聞いている。
「後は俺達が傍に付いてるから、父さん達は帰っていい。沙良も、大人数でいられたら気が休まらないだろう」
そう言って、部屋から追い出された。
親の立つ瀬がない。
まぁ、子供の頃から妹の面倒を見ている賢也君に任せておけば問題ないか……。
次に同じような状態になっても、彼がほうっておかないだろう。
「俺達は帰ろう」
響にそう伝え自宅へ帰った。
竜の卵か……。
孵化するまで時間が掛かりそうだな。
魔力を与える度に娘が昏倒するなら、なるべく早く孵化してほしい。
あの卵は、竜と竜族どちらの物なんだ?
娘と一緒に転生した人物の可能性も捨てきれないが……。
なんにせよ、護衛達が全員集合するまでは何事もなく過ぎるのを願おう。
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お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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「それ王都で1個銀貨12枚(12万円)する桃だよ」
「銀貨12枚だと!?」
驚いて声を上げると、ダンジョン産の果物は迷宮都市のダンジョンにしか生らず、採取する冒険者も自分達のパーティーしかいないと教えてくれた。
その中でも特に毎日違う場所へランダムで生る果物は、賢也君でないと探せないらしい。
どうやらダンジョン産の桃は、かなり貴重な物のようだ。
俺は知った値段に尻込みし、3個目を食べるのは止めておく。
口の感覚が戻った所で、飛翔魔法練習中に見たセイさんへ違和感を覚えた。
何だ?
小骨が喉へ引っかかり取れないような気分になる。
竜族の彼が空を自由に飛べるのは当たり前だが……。
少し考え、そうじゃないと気付く。
彼は明日初めて武術稽古に参加するから、まだ飛翔魔法を習得していない筈だ。
「……記憶が戻ってるのか?」
これは響と確かめた方がいい。
俺は妻へ椎名家にいくと伝え家を出た。
バイクより飛翔魔法の方が速いか?
家は近所だから、そこまで遠くないけど気が急いていたため空を飛んでいく。
響は昼食を食べ終わった後で、食後のお茶を飲んでいる所だった。
さっき別れたばかりの俺が会いにきたから、何か話があるようだと気付いてくれる。
さりげなく俺と出掛けると美佐子さんに言い、2人で喫茶店へ入った。
コーヒーを2人分注文している響に向かって口を開く。
「セイさん、記憶が戻ってるんじゃないか?」
「一度、記憶が戻ったようだが世界樹の精霊王が再封印していたぞ?」
「でも、空を飛んでいたよな?」
「竜族だし、不思議じゃないだろう」
「まだ飛翔魔法を覚えてないのに?」
そこで漸く、俺の言いたい事に気付いたのか響の表情が驚いたものに変わる。
「確かに、まだガルム達へは会わせてないな……。どうやって空を飛んだんだ?」
「本人に確かめよう!」
「そうした方がいいな。聖は賢也達の家にいるだろう」
テーブルの上に出現したコーヒーを一気飲みし、今度は響の車で移動した。
住んでいるマンションへ着くと、部屋に向かいチャイムを鳴らす。
セイさんが応答したので中に入った。
「聖。正直に答えてほしい。お前、記憶が戻っているのか?」
響が前置きもせず単刀直入に真剣な顔で問い正す。
問われたセイさんは、きょとんとした顔をして言われた内容に心当たりがないようだ。
「えっと、日本人だった頃の記憶は覚えていますよ?」
「いや、そうじゃない。お前、さっき空を飛んでいただろう?」
「あぁ、すれ違いましたよね。息子さん達が飛翔魔法を覚えたのが羨ましくて、私も空が飛べたらいいなと思ったら飛べたんですよ! でもステータスへ飛翔魔法が表示されてないから、不思議に思っていた所です」
そう言いながら、にこにこ笑っている。
えっ、こいつは天然なのか?
普通、覚えてもいない魔法が使えたら、もっと動揺したりするだろう。
それに竜族は飛翔魔法で飛んでいるんじゃないらしい。
種族的に備わった能力があるようだ。
「じゃあ、記憶を思い出した訳じゃないんだな?」
響が確認のため念押しする。
「それは前世という意味ですか? 自分が歴史上の人物だったりしたら、面白そうですね」
う~ん。
これは俺の勘が外れたか……。
それとも俺達と違い、嘘が上手いのかどっちだ?
響を見ると首を横に振っているから、嘘をついてはいないみたいだ。
「変な事を聞いて悪かった。沙良は、もう戻っているか?」
「ええ、隣の部屋にいると思います。息子さん達は、病院へ勉強をしにいきましたよ」
「ありがとう」
用件を済ませた俺達は部屋を出ると、沙良ちゃんの家のチャイムを鳴らす。
少し待っても応答がなく、鍵が掛かっていない玄関のドアを開け部屋に入った。
するとシルバーが飛び出してくるなり響の服を咥え、リビングまで引っ張っていく。
従魔の行動に嫌な予感を覚えていたら、石化を完全に解除された竜の卵の傍に沙良ちゃんが倒れている!
「沙良!」
響が娘を抱き起こし声を掛けても目覚めない。
一体、何があったんだ!?
俺は心配で何度も声を掛け続ける。
「ティーナ、目を覚ましてくれ!」
外傷は特に見当たらず、出血している場所もないのに……。
意識が戻らないため不安が募る。
「もしかして……、魔力欠乏の状態か?」
竜の卵と娘を見て響が原因に思い当たったようだ。
あぁ、そうか……。
巫女姫は、あらゆる種族に魔力を分け与えられるんだったな。
娘はそうと知らず、石化を解除された竜の卵に魔力がなくなるまで与えたんだろう。
理由が分かりほっとしたものの、これは少し厄介な事態だ。
竜の卵を孵化させるには、魔力が必要になってくる。
その度に無防備な状態で昏倒するのは、どう考えても拙い。
「樹、沙良を見ていてくれ。俺は病院まで賢也達を迎えにいく」
「分かった。娘には俺が付いているから安心しろ」
響が部屋を出た後、そっと抱き上げベッドまで運ぶ。
魔力欠乏で昏倒したなら寝ている状態だ。
一晩経てば目が覚めるだろう。
眠っている彼女の顔を、こんなに近くで見るのは初めてだ。
まだ幼さを残した表情で、すやすやと寝息を立てている。
心配したシルバーがベッドの下で丸くなっていた。
30分後、響が息子達を連れ戻ってくる。
賢也君が沙良ちゃんの寝顔を覗き込み、ほっとした様子を見せた。
尚人は、本当に大丈夫かと賢也君に聞いている。
「後は俺達が傍に付いてるから、父さん達は帰っていい。沙良も、大人数でいられたら気が休まらないだろう」
そう言って、部屋から追い出された。
親の立つ瀬がない。
まぁ、子供の頃から妹の面倒を見ている賢也君に任せておけば問題ないか……。
次に同じような状態になっても、彼がほうっておかないだろう。
「俺達は帰ろう」
響にそう伝え自宅へ帰った。
竜の卵か……。
孵化するまで時間が掛かりそうだな。
魔力を与える度に娘が昏倒するなら、なるべく早く孵化してほしい。
あの卵は、竜と竜族どちらの物なんだ?
娘と一緒に転生した人物の可能性も捨てきれないが……。
なんにせよ、護衛達が全員集合するまでは何事もなく過ぎるのを願おう。
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