自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第756話 旭 樹 再召喚 50 ケスラーの民 2

 天幕の中へ入ると、中央に負傷した中年男性が寝かされている。
 その人物の右半身には布が巻かれ片腕がなかった。
 そばにいる女性達は家族だろうか?
 皆、疲労の色が濃い。

「族長。ただいま戻りました」

 ハイドが声を掛けると、横になっていた男性が2人の女性に手伝うよう伝え上半身だけを起こした。
 息子の周囲にいる俺達へ気付き目を細めた後、突然大きく片目を見開くと大声を上げる。

「なんて事をしでかした! ハイエルフの王族をかどわかすとは、一族を滅ぼす心算つもりか! 帝国の王が望んだとしても、相手が分かった時点で何故なぜ引き返さぬ」

「……見ただけでは、分からなかった」

「愚か者! これほど美しい容姿をした紫眼の人族などおらんわ! お前の目は節穴か! あぁ、何と言ってびればよい。エルフの姫よ、愚息の見る目がないばかりに大変申し訳ない事をしてしまいました。直ぐに、お帰り下さい」

 族長は息子を一喝いっかつしたあと、俺に対し深く頭を下げる。

「あの……その件だけど、帝国の王が狙っている相手は娘の方なの。私は身代わりだから、気にしなくていいわ。こちらも少し事情があって、帝国に行く予定だったしね。それより、怪我の状態がひどいようだから先に治療しましょう。セイ、頼めるかしら?」

「はい、ヒルダ様」

 今にも土下座せんばかりの勢いだった族長を安心させ、再生治療をお願いする。
 するとセイは軽く手を上げ、一瞬にして失った片腕を再生した。
 族長の布が巻かれた右半身は、腕が再生された事で窮屈きゅうくつそうに見える。

「腕が……」

 状況を確認した女性達があわてて布を外すと、傷一つない右目が現れ失っていた右腕もちゃんとあった。

「その御方は、治癒術師であられるのか? 身体欠損を再生出来るとは驚きました。本当にありがたい。これで娘を救出に行けます」

 セイの姿は人間のままなので、聖竜だとは思わなかったんだろう。
 治癒術師と言われ微妙な顔をしている。
 隣にいたセキは、弟の顔をのぞき込み笑っていた。

「彼は、娘の契約竜である聖竜よ。魔力量は心配しなくていいから、怪我人を連れてきて」

「何と! 竜族の御方とは気付きませんで、失礼致しました。どうか、負傷した皆の者を助けて下さい」

 怪我が治った族長は、今度こそ本当に両膝を突き懇願こんがんする。
 俺はハイドに怪我人を天幕に運ぶよう伝え、隠形おんぎょうしているガーグ老と念話で話した。

『帝国人の気配はしますか?』

『この集落に見張りはおらんようだな。呪具を設置し、魔物をけしかけた事で戦力をいだとみたのだろうて』

『ケスラーの民の人数は、どれくらいかしら?』

およそ5,000人といったところかの。その内、戦闘力が高い男性は4,000人程おる』

 女性の出生率が低い種族なのか?
 4,000人も動けない状態なら、天幕に運ぶのは手間か……。

「セイ。思ったより、負傷している人数が多いみたい。全員を一気に治療出来る?」
  
 聖竜の能力が分からないため質問すると、セイは軽くうなずき天幕から出ていく。
 その後を俺も追い、どんな風に治療するのか見てみる事にした。
 天幕から出た途端、集落全体に光の雨が降り注ぎ、あちらこちらから驚きの声が上がる。
 
「傷が治った!?」

「おい、俺の足が生えてきた! どうなってるんだ!?」

 人々は天幕から出ると、お互いの姿を確認し合っていた。

「ヒルダ様。治療は完了しました」

「あっ、ありがとう」

 俺は、その効果の高さに唖然あぜんとなり魔力量を推し量る。
 MP値は100万を優に超えていそうだ。
 ステータスを尋ねるのは身内じゃない限り無理だろう。
 ましてや、プライドの高い竜族だ。
 かなり気になったが聞くのは我慢しよう。
 俺達は再び族長の天幕に戻り、治療が終わったと告げた。

 族長は涙を流しながら感謝の言葉を述べ、息子のハイドへ今から娘の救出に向かうと宣言する。
 いや、ちょっと待て!
 何の計画も立てず、アシュカナ帝国へ行く心算つもりか!?
 さらわれた娘が心配なのは分かるが、少しは勝つ算段をつけろよ。
 見かねたひびきが口を挟む。

「帝国の戦力はどれくらいだ。王がいる王宮に直接乗り込むには、結界が張られている上空からは難しいぞ」

「そうであったか……。帝国へは、行った事がないので分からぬ。結界とは、また厄介やっかいな……」

 俺は、それを聞いて頭が痛くなった。
 相手の戦力も知らず、王宮に張られた結界も考慮せず突っ込もうとするなんて自殺行為だ。
 
麒麟きりんに、結界を破るような特殊能力はありませんか?」

 聖獣なら結界を壊せるかもと思い口に出す。

「あぁ、可能です。精霊が張った結界でなければ、問題ありません」

 これにはハイドが答えてくれた。
 
「では襲撃は、上空からにしましょう。使役出来る麒麟の数を教えて下さい」

「4,000騎ほどおる。我が一族の男は、生まれた時から麒麟と共に成長するのでな」

 4,000騎なら、ガーグ老の見立てと同じか。
 そして、さらりと一族の秘密を言われたような気がするが……。
 その情報は教えて良いのか?
 4,000の騎獣は、大国でもそうそろえられる数じゃない。
 エルフ国の騎獣だって、2,000騎あるかどうかだ。
 カルドサリ王国なら500騎くらいのものだろう。

「他に、麒麟の能力はありますか?」

 騎獣を戦力に数えられるなら、こちらとしては助かる。

「使用出来るのは氷魔法と風魔法に火魔法です」

 それだけ使えるなら充分だ。
 火魔法は、セキの方が威力はありそうだが……。
 メテオとか上空から降らせられないかな?
 セイは聖魔法以外に攻撃魔法を持っているんだろうか?

 それからは本格的に帝国へ乗り込む戦略を相談し、こちらの戦力も明かした。
 夫の響と娘の契約竜2匹に、護衛の影衆10人を紹介する。
 竜族が1匹増え、迷彩めいさいを解いたガーグ老達に目を白黒させた族長は、連れてきた息子に向かって「よくやった」と肩を叩く。
 先程、大声で怒鳴り付けられたハイドは、父親をあきれ顔で見ていた。

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