自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第794話 エンハルト王国 アマンダさんからの依頼 12 魔族との契約 2

 翌日、日曜日。
 魔族の青年は大丈夫かと隣の部屋へ様子を見に行く。
 彼は滝のような汗を流し腹筋を続けていた。
 しかし、その1回もかなり辛そうで体が震えている。
 どうやら一晩中、筋トレをさせられていたみたい。
 
「ガーグ老。彼は、あと何回で今の契約が終るの?」 

 今にも息絶えそうな青年を見て、いつきおじさんが声を掛ける。
 
「うむ。女官達の依頼は最後の1人で、残りは10回くらいかの」

「そう。なら、頑張りなさい」

 おじさんからはげまされた青年は、嬉しそうに残り10回の腹筋をやりきった。
 その表情を見る限り、魅惑みわく魔法の効果は続いているらしい。
 一晩経っても効果が切れないとは……。
 
「全員と契約して魔力が相当増えたと思うけど、貴方の爵位は上がったかしら?」

「俺は男爵ですから子爵には、魔力が10,000必要です」

 男爵か、セイさんが予想していた爵位と同じだな。
 昨日、彼の父親が息子は初めて契約したような事を言っていた。
 生まれながらに男爵位を持っているなら、父親は相当位の高い魔族なんだろう。
 10,000だと、まだ沢山契約を交わす必要がありそうだ。

「貴方の名前を聞いてもいい?」

 これから長い付き合いになる。
 呼び名がなければ不便だろうと思い尋ねてみた。
 
「ギルフォードと呼んで下さい」

 聞いた私ではなく、青年が樹おじさんへ返事をする。
 魔族なのに、あまり種族的な特徴がない名前なんだなぁ。
 ここはやっぱり、分かりやすく悪魔的な呼び方がいい。

「ルシファーの方がいいと思う!」

「ルシファーって、またベタな名前を……」

 聞いた兄が私をあきれた表情で見る。
 悪魔のような種族なら、格好いい名前の方がよいでしょ?

「勝手に名前を変えるな! 俺には……」

 私が言った名前に憤慨ふんがいし怒ってみせる魔族の青年は、途中で言葉を詰まらせた。
 何かを見ているのか、じっと視線を正面に合わせ目を大きくみはる。

「馬鹿な……。ステータス表記が変化しているだと? 娘! 俺に何をした!?」

 えっ? もしかして従魔達のように、呼んだだけで名付けちゃった? うわ、私の能力がヤバイ!
 
「あら、娘の呼び方が気に入ったのね。じゃあ、これからはルシファーと名乗りなさいな。名前に負けないよう、強くなって」

 樹おじさんが、にっこり笑いフォローしてくれる。

「あっ、はい……」

 青年は顔を真っ赤にし、しどろもどろでうなずいた。
 よし! 名前を変えてしまった件は、これで有耶無耶うやむやになっただろう。
 魅惑魔法の効果が続いている間、樹おじさんに好かれようと魔族は言いなりだ。
 2人の遣り取りを聞いた兄が不思議そうな表情をして、私に視線を向ける。
 分からないというように、私は首をかしげてみせた。
 セイさんは平然として動じず、あかねは興味がないようだ。
 ガーグ老達や女官長達は、少し困った顔をしているみたいだけど……。
 この場で追及する心算つもりはなさそう。
 疲れ切っている魔族に、一度異界へ戻るよう樹おじさんが伝えた。
 召喚陣を描けば何処どこにいても呼び出せるから、その点は従魔より便利かも?
 青年は最後まで、おじさんに熱い視線を送り異界へ帰った。

 客室へ戻り少しして朝食の席に呼ばれる。
 侍従の案内について行くと、昨日とは別の広間へ通された。
 既に女王とヴィクターさんがいて、私達の姿を見るなり立ち上がる。

「王女様方、おはようございます。魔法陣の準備は出来ておりますから、食事が済み次第カルドサリ王国へお送りします」

 昨夜カルドサリ王国の宮廷魔術師と連絡を取ったのか、随分ずいぶん早い帰国になりそうだ。
 今回の依頼は非公式だから、私達もエンハルト王国を観光するわけにいかないし仕方ない。

「分かりました。早急な手配、ありがとうございます」

 女王の言葉に樹おじさんが答え、毒見役の女官がそれぞれの料理を口にしたあとで食事を始める。
 玉ねぎ・人参・じゃが芋・チーズが入った大きな『キッシュ』、ニンニク・塩・胡椒こしょうが効いたステーキにスープ、デザートはウサギリンゴが添えられていた。
 この世界のパンが苦手だと知っているケンさんが、メニューを考慮してくれたのが分かる。
 出された料理を食べないのは失礼に当たるから、正直とても助かった。
 王族の前で残す事は出来ないからね。
 気になっていた質問をしよう。

「ヴィクターさんは、このまま国に残るんですか?」

 迷宮都市でクランリーダーをしているアマンダさんがいなくなったら、クランメンバーはどうなるのか心配になったのだ。

「いえ、私は迷宮都市に戻ります。継承権は放棄しているから国を離れても問題ないんですよ」

「でも、もう青龍の件は解決しましたよね?」

「私は冒険者の方が性に合っているようです」

 ヴィクターさんは女王と視線を交わして意志を伝える。

「役目を終えたら自由にしてもいいと言う約束ですから、貴方の好きになさい」

 第二王子なのに国を離れてもいいんだ……。
 まぁ12年も女装して辛い役目をしたんだから、それくらいご褒美ほうびがあって当然か。
 迷宮都市へ戻るなら、私達と一緒に帰るのかしら?
 またアマンダさんとして活動するかどうか、ここでは触れないでおこう。
 食事を済ませたあと、魔法陣のある部屋まで女王に見送られ、特産品の碧水晶をプレゼントされる。
 青龍が目覚め湧き水の量が戻った事で、碧水晶の品質も安定したそうだ。
 てのひらサイズの碧水晶は、とても綺麗でキラキラと輝いていた。
 値段は分からないけど相当高価な物に違いない。
 それを5個も貰っていいのかな?

 お礼を伝えて女王と別れ、魔法陣のある部屋へ入る。
 待機していた6人の魔術師達がヴィクターさんへ目礼し、呪文を唱え始めた。
 私達は床に描かれた魔法陣の上へ移動して、その時を待つ。
 5分後、女官長から「遅すぎます」とれた声を聞き魔術師達があせり出す。
 あ~、可哀想かわいそうなので大人しく待ってあげて下さい~。
 私の願いもむなしくれた女官長が片手を振り下ろした瞬間、カルドサリ王国へ移転してしまった。
 室内には発動前の魔法陣に現れた私達を、またかという目で見る宮廷魔術師達の姿がある。

「……魔術師長。エンハルト王国の方が驚かれます。少しは自重なさって下さい」

 6人のリーダーなのか、1人の宮廷魔術師が女官長の前へ進み出て進言した。
 
「私はもう魔術師長じゃありませんよ。たかが、移転陣を起動するために時間が掛かる方が悪いのです」

「はぁ……。魔術師長の座は空席のままです。お戻りになるのを、我ら一同お待ち申し上げております」

 そう女官長に告げ、深々と一礼した宮廷魔術師達は去っていく。
 やはり、突然10人も辞職したから彼らは困っているようだ。
 復帰する気はないのかな? カルドサリ王国が心配なんだけど……。
 本人達が決めた事に口を挟むのは難しい。
 今は、何をしているか気になりながらも王宮から出た。
 王都から迷宮都市まで、ヴィクターさん達と女官長達は再びワイバーンへ騎乗する。
 ガーグ老達はガルちゃん達に、私達はダイアンとアーサー達の背に乗り、迷宮都市の家へ帰ってきた。

 炊き出しは済んでいたようで庭に子供達の姿はない。
 今は子供達が1階で楽器の練習をしている頃だろう。
 ヴィクターさん達は、また明日と言い家から出て行ったので、月曜から冒険者活動を続けるらしい。
 彼は第二王子の身分を捨て、アマンダさんとなり冒険者をする生活を選んだようだ。
 王族は大変そうだから、自由に生きたいのかも知れないなぁ。
 ヒルダさんの所為せいで、女装をする羽目はめになるとは思わなかっただろうけど……。

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