自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
672 / 756
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第808話 迷宮都市 竜の卵の孵化

しおりを挟む
 日課である竜の卵に魔力を与えようと触れた瞬間、硬い殻が薄っすらと輝き出し、翡翠ひすい色と黄金色が混ざった表面の色が徐々に透明に変化していく。
 
「お兄ちゃん! もしかして、孵化ふかするのかな!?」

 竜の卵に起きた変化へ驚きの声を上げると、その場にいたセイさんが同意を示してくれた。

「沙良さんの与えた魔力が一定の条件を満たしたようですね。これから孵化が始まりますよ」

 私達は透明になった殻の中にいる子竜の姿を、固唾かたずを飲んで見守る。
 1mもある卵の中にいた竜の赤ちゃんは、透明になった殻を吸収して綺麗な翡翠色の姿を現した。
 てっきり鳥のように殻を割り出てくると思っていたんだけど……。
 卵の大きさの割に体長30cmくらいしかない小さな子竜は、目を開けると真っ先に私のもとへトコトコ歩いてくる。
 その姿が可愛くて、思わず両腕に抱きかかえ皆に見せて回り自慢した。

「無事に孵化して良かったな。このサイズなら、ホーム内でも飼えるだろう」

 兄がそう言いながら子竜の頭をでると、石化を解除した時の魔力を覚えているのか、自分からてのひらに頬を寄せ甘えた仕草しぐさをしてみせる。

「沙良ちゃん、俺にも抱かせて~」

 それを見た旭が抱きたいと言うのでそっと腕の中に渡すと、人間の赤ちゃんに接するよう優しく抱っこされた子竜が舌を出し腕をめていた。

「可愛いね~。風竜なら、早く飛べるのかな?」

「竜族の中では最速になりますよ。半日で別大陸へ行くのも可能になるでしょう」

 旭の質問にセイさんが答え、子竜をニコニコして見つめる。
 風竜かぁ~、名前はどうしよう? フウじゃ女の子っぽくないし……。

「決めた、貴女の名前はシーリーよ!」

 名前を呼ぶと子竜は嬉しそうに「キイ」と鳴き、旭の腕の中から飛んで私の両肩に足を載せ頭に寄りかかってきた。
 孵化したばかりでも、竜の赤ちゃんは飛べるらしい。
 
『お姉ちゃん、大好き! 素敵な名前をありがとう!』

 突然脳内に響いた声は、子竜の言葉だろうか? 兄達には聞こえなかったのか、驚いた様子がない
 確かめようとしたところ、シーリーが頭上でうとうとし出したため起こすのは可哀想かわいそうになり、寝室のベッドへ運ぶ事にした。
 竜の子供は魔力で育つから、そのまま一緒に寝ればいいよね? ベッドの上なら、昏倒しても問題ないし……。
 小さなシーリーを寝ている間に押しつぶしてしまわないか心配だけど寝相は悪くないし、あの子達も平気だったわと考えている間に魔力を吸収され意識を失った。

 翌日、火曜日。
 目覚めて直ぐシーリーの姿を探すと、お腹の上に丸まった状態で寝ていたから起こさないよう、静かにベッドの上へ移動させ部屋を出る。
 リビングには兄がいて、コーヒーを飲みながらTVのニュースを見ていた。

「お兄ちゃん、おはよう」

「おはよう、沙良。シーリーは寝ているのか?」

「子竜の間は寝ている時が多いのよ」

 そう口に出して不思議な感覚にとらわれる。
 竜の生態を知っているわけじゃないのに、何故なぜそんな事を思ったんだろう?

「あぁ、成長が遅い種族だったな」

 兄は私の返事に納得したのか、再びTV画面へ視線を向けた。
 なんとなく何かを思い出しそうな感じがしてそわそわするなぁ。
 それはそうと、私の家へ泊まるようになってから兄は早起きだ。
 旭とセイさんと同じ部屋で寝るのは、落ち着かないんだろうか?
 朝食の準備を始めて10分後、あかねが起き出し隣に住む早崎さんを呼びにいく。
 セイさんと旭が起きる頃には、テーブルに完成した朝食が並んだ状態になっていた。

「頂きます!」

 皆が食事前の挨拶をして料理にはしをつけ出し、大皿へ盛った料理がみるみる間に減っていく。
 私以外はよく食べるので、早くしないとおかずが食べられてしまう。
 大家族あるあるのような食事風景だ。
 食後、異世界へ行く前に孵化したシーリーをメンバーに紹介すると、雫ちゃんが大喜びし「可愛い!」と連呼していた。
 シュウゲンさんは目を細め、「無事に孵化したようだな」と穏やかな笑顔を向ける。
 赤ちゃんの姿を見ると微笑ましくなるのは、人間の子供だけじゃない。
 母や雫ちゃんのお母さん、かなで伯父さんに樹おじさんもシーリーを見て笑みを浮かべていた。
 早崎さんはシーリーをのぞき込み、質問を投げ掛ける。

「竜の赤ちゃんは、こんなに小さいんですね。成長すると、どれくらいの大きさになるんでしょうか?」

「かなり大きくなると思うぞ。大体50mくらいか?」

 父が苦笑し、まるで見た事があるかのように答えた。  
 50m! そんなに大きくなるの!?

「お父さん、誰から聞いたの?」

「あ~、ガーグ老がそう言っていたんだ」

 エルフのガーグ老は竜を知っているのか……。
 シーリーがその大きさになるまで年月が掛かりそうだし、青龍以外の竜に私もいつか会いたいな。

「少しだけ儂にも抱かせてくれんかの」

 シュウゲンさんが目尻を下げ両手を広げると、まるで言葉が分かるかのようにシーリーが腕の中から飛び立ち祖父の胸へ飛び込んだ。

「おおっ、元気な子竜じゃ。うろこつやも良いし、沙良ちゃんの魔力を貰い安定しておるな」
 
 自分の孫が誕生したかのように可愛がるシュウゲンさんを見ると、なんとなくサヨさんを思い出した。
 竜の卵がかえった事をサヨさんにも知らせてあげよう。
 シーリーはシュウゲンさんの腕の中で小さな羽をパタパタと動かし、とても喜んでいるように見える。

 そのうち首をキョロキョロさせ何かを探す仕草しぐさをすると、見つからなかったのかガッカリした様子でシュゲンさんの胸をくちばしで何度もつついていた。
 筋肉質のドワーフである祖父にとって痛くはないのか、くすぐったそうにし笑っていたけどシーリーが何かを抗議しているように感じる。
 理由は分からないけど、不満に思っている事は確かだろう。
 
 昨日聞こえた言葉がシーリーのものなら、従魔達のように心の声が伝わるかしら?
 そう考えて口に出さず『どうしたの?』と聞いてみると、『お母さんがいない』と返事が返ってきた。
 お母さん? この子を産んだ母親の光竜を探していたのか……。
 摩天楼まてんろうのダンジョンで見つかった卵の両親は、流石さすがに探せないだろうなぁ。

 石化された状態だったし、今も生きてるかどうか分からない。
 出来れば親元に帰してあげたいけど、母親が生きていたとしても属性違いの竜には魔力を与えられず育てるのは難しい。
 自分で周囲の魔力を吸収出来るようになるまでは、私が育てるのが一番だろう。
 念話が通じると知りシーリーへ優しく語りかける。

『大丈夫よ。私が、お母さんになってあげる』

『お母さんは、お父さんの近くにいるから直ぐ会えると思う』

 予想外の答えが返ってきたため、思わず言葉に詰まってしまった。
 そもそも、シーリーがお父さんと呼ぶ存在はここにいない。
 ドワーフのシュウゲンさん以外は皆人間だ。
 まだ赤ちゃんだけど両親が分かるのかしら?

『そっ、そう。早く会えるといいわね』

 子竜を悲しませないよう話を合せ、ホーム内で留守番しているシュウゲンさんと母にシーリーの世話を任せて異世界へ移転した。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,575

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。