自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第831話 シュウゲン 14 鍛冶魔法の練習 1

 翌日。約束の時間10分前に鍛冶師ギルドの受付で待っていると、師匠が9時に現れた。
 今日こそは、鍛冶魔法を教えてくれるだろうと期待に胸をふくらませる。
 案内された部屋には、武器の材料となる鉱物が沢山見えてほっとした。
 弟子入りして3年――長かったの。
 ようやく鍛冶職人としての基礎を教えてくれる気になったようじゃ。

「シュウゲン、まずは私が武器を作製する過程をよく見ておくがいい」

 ガンツ師匠はそう言うと、鉄の塊を手にして契約精霊を呼び出した。
 出現した精霊は大柄な男性姿の炎をまとったイフリート。
 以前、精霊召喚の儀式で呼び出したものの、契約を断られた苦い記憶がよみがえる。
 火の精霊としては高位であるから、鍛冶職人を目指すなら是非ぜひ契約したい相手だ。
 既に師匠と契約を交わしているので、あの時に召喚されたイフリートとは別個体だろうが……。
 呼び出されたイフリートは契約者を確認し、次いでその場にいた儂ら2人に視線を向け固まった。
 何にそれほど驚いたのか、目が開きっぱなしになっている。

 師匠はそんなイフリートの態度を気に留めず、鉄の塊を渡し融かしてほしいとお願いしていた。
 契約者からの指示を受け、どこか挙動不審なイフリートが手から火を出すと、鉄が見る見るうちにどろりと融解していく。
 火の精霊と契約を結べない人間では、この鉄を溶かす作業だけでも大変だろうな。
 熱がこもる作業場では汗だくになり、長時間の滞在を強いられる。
 その点、ドワーフは契約精霊に頼めば一瞬で済むし、火の精霊の加護があるおかげで暑さには強い。
 液状になった鉄が、今度は剣の形へ変化していった。
 きっとこれは師匠が鍛冶魔法を使用して武器を成型したのだろう。
 剣を鍛える事もなく、全てが魔法で行えるなら鍛冶の技術は不要なのか?
 熱を帯び赤く染まっていた剣が冷却され、美しい銀色の表面をのぞかせる。

「シュウゲン。次は、お前の番だ」

 同じ鉄の塊を受け取り、バールへ渡した。
 特に何も言わずとも彼は自分の役目を心得、鉄をてのひらの上で融かし出す。
 火魔法を使った形跡がないんじゃが……、イフリートは火を出しておったがなぁ。
 融けた鉄の色も先程と違い白っぽい気がする。
 そんな事を考えながら、初めて鍛冶魔法を使ってみた。
 火竜は武器の形を正確に想像しながら唱えればいいと言っていたから、儂は剣をイメージした。
 融けた鉄が非常にゆっくりと剣の形へ変化を始める頃、くらりと眩暈めまいが起きる。
 しかし出来上がったのは、刃がないおもちゃのような剣だった。

「これが、お前の今の実力だ。武器を作製するには、魔力操作と鍛冶魔法のLvを上げる必要がある。ステータスで魔力を確認してみるといい。無駄に魔力を使い、ほとんど残っていないだろう」

 言われた通りステータスを開くと、MP値が1,512から112に減っていた。
 眩暈の原因は、魔力欠乏寸前だったかららしい。

「鍛冶魔法のLvが30を越えない限り、剣を作製するのは難しいぞ。解体ナイフが精々せいぜいといったところだな。今後は毎日、解体ナイフを作製しながら鍛冶魔法のLvを上げ魔力操作を習得せよ。鍛冶魔法のLvが30になり魔力操作を覚えるまで、鍛冶師ギルドに来る必要はない」

 最後にそう言葉を残し、師匠は自分が作製した剣を持ち部屋を出ていった。
 なんとまぁ、放任主義なじじいだな。
 一度手本を見せただけで、あとは自分でなんとかしろという事か……。
 練習にも付き合ってくれんとは、少しばかり冷たいのではないかの。
 もうちょっとこう、コツのようなものを教える気はないのか?
 試行錯誤を繰り返し、苦労して身に付けよと言わんばかりじゃ。
 しかし、この鍛冶魔法は魔力消費が半端ない。
 儂の鍛冶魔法Lvが低い所為せいもあろうが、剣を1本作製するだけで昏倒しそうになった。
 普段、魔物を倒すのに魔法は使用せぬから、こんなに減ったのは初めてだな。
 
 鍛冶師ギルドを出たあと冒険者ギルドでハイエーテルを数本購入し、その場で1本飲み干した。
 全回復とはいかないが半分まで値が戻る。
 今日はもう魔法を使用する事はないから、これで充分だろう。
 時間があるし、商業ギルドでワイバーンのうろこを換金しに行くか。
 バールが一緒では職員の油断を誘えないので、先に家へ帰ってもらった。
 3年前に家を借りて以来、用事のなかった商業ギルドの中に入り綺麗な受付嬢へ用件を伝える。
 やはり受付は若い女性がよいの~、鍛冶師ギルドはおっさんしかおらん。
 受付嬢の顔をながめながら待っていると、担当者がすっ飛んできた。

「ワイバーンの鱗を取引したいというのは……」

 いかにも曲者くせもの顔をした中年男性が、手を上げた儂の顔を見て笑顔になる。
 どうやら年若い少年と知り、簡単に交渉出来そうだと踏んだようだ。
 馬鹿め、儂は手強いぞ? 足元を見るようなら売りはせんからな。
 冒険者ギルドと違い、依頼価格の決まっていない商業ギルドで取引するのは損をする可能性もある。
 なるべく高く買い取ってくれるよう、こちらも本気でのぞもう。

 部屋を借りた時とは違い、連れて行かれた部屋は貴賓きひん室のようだった。
 良い気分にさせて上手く事を運ぶ心算つもりか? 鑑定持ちの儂に、その手は効かんわ。
 事前に調べたワイバーンの鱗は、ウィンドウォールの魔法が付与されており、大変貴重なものだと判明しておる。
 あのワイバーンは良い物をくれたようじゃ。 
 
「本日、担当させて頂きますヤトと申します」

「シュウゲンだ」

「ではシュウゲン様。早速さっそく、鱗を見せてもらえますか?」

 時間を無駄にしない商人らしい職員へ、マジックバッグから1枚の鱗を取り出してみせる。
 鱗を見た担当者の目付きが一瞬鋭く光り査定を始めた。

「大きな傷のない鱗ですね。内包されている魔力も多いようです。今回は金貨90枚で買い取りましょう」

「それじゃあ話にならん。取引は不成立だ」

「えっ!? 良いのですか? 金貨90枚ですよ?」

 この取引を逃すのは賢い選択ではないというように、男が金貨90枚だと強調してくる。  
 儂はニヤリと笑って、A級の鍛冶師ギルドカードを机の上に置く。
 見た目年齢から鍛冶師ギルドに登録しているとは思わず、担当者が絶句ぜっくした。
 この一手が功を成し、それからは儂の有利に交渉が進み最終的に金貨130枚で取引を終わらせた。
 担当者は苦い顔をしておったが、それでも利益が出るよう売ればよい。

 予想より高額で買い取ってもらえた事に満足し、家へ帰る道中、今日の材料に使うと思っていたワイバーンの鱗に関し、師匠が何も言わずにいたのを疑問に感じる。
 儂は何のために、ワイバーンの鱗を取りに行かされたのかの? ただの社会勉強か?
 相変わらず、何を考えているか分からぬ師匠の弟子になったのが悔やまれた。

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