自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
701 / 758
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第836話 シュウゲン 19 獣人国での武闘大会 2

しおりを挟む
 見ず知らずの男2人から突然の申し出を受け困惑していると、バールがすかさずさえぎった。

「口をつつしめ! 御前様ごぜんさまに奥義の披露をい願うとは、身の程をわきまえよ!」

 またバールの頭に血が上ったようじゃ。
 儂は、ただのしがない老人だというに大層な名で呼びおって……。
 まぁ見た目だけは美少年と言えるかも知れんがな。
 バールに一喝いっかつされた2人が、青ざめブルブル震えているではないか。
 それにしても、先程の言葉は言う相手を間違えておらんか?
 風槍の奥義など儂は知らんぞ?
 どうしたものかと困っているところ、こちらへ焦ったように飛翔してくる老人が見えた。
 背中から羽を生やしているので同じ鳥系種族だろう。
 儂らの前に舞い降りた瞬間、2人の男に対し手にした棒で頭を叩きゴン、ゴンと鈍い音が響く。
 
「大変申し訳ありません。私の不肖ふしょうの息子達が無理を申し上げました」

 老人はそう言って、息子2人の頭をがしっとつかみ頭を下げさせる。
 何やら謝罪されているようだが、理由がさっぱり分からんな。
 バールを見遣ると、彼は3人をねめつけるように見ていた。
 
白頭鷲はくとうわしの族長か、息子達へのしつけがなっておらんようだ」

 バールはまだ怒っているのか老人に向かい、きつい声で叱責しっせきする。
 バールと親の両方から説教された息子2人は、しゅんと項垂うなだれ涙目になってしまった。
 いまいち事態が飲み込めんが、演舞を中止するわけにもいかんだろう。
 特に被害を被ったのでないし、ここは大人の儂が一肌脱ぐか……。

「よいよい、風槍の奥義とやらは見せられんが、お主らに稽古を付けてやろう」

「それは……恐悦至極きょうえつしごくに存じます!」

 儂の返事に老人が感涙し、息子達の背を鼓舞こぶするようバシバシ叩く姿を見て、そんなに喜んでもらえるならと少しだけ欲を出した。

「分かっておろうが、労力に見合うものを……」

勿論もちろん、準備しておきます」

 男同士、視線を交わし意図を伝える。
 よしよし、これでバニーちゃんの接待を受けられるじゃろう。
 このまま階段を下り闘技場へ向かうのは時間が掛かると思い、黒曜こくようを呼び出し騎乗して闘技場の中央に立つと、場内から歓声がき起こった。
 観客席の声はよく聞き取れなかったが、盛んに『竜』と言う単語が飛び交っているのを耳にする。
 獣人であっても、体長8mある竜馬は見惚れる程に格好いいのだろうか?
 派手な登場の仕方をした甲斐かいがあったわ。
 これだけの衆人環視の前で腕を振るうのは初めての経験だな。
 大会に参加出来ず残念だと思っていたが、良い機会がめぐってきた。

 2人は槍を使うようなので、ここは儂も得物えものを合せるとしよう。
 1対2でも負けはせぬが、バールの槍を借りた方が良さそうじゃ。
 そばに控えているバールへ槍を所望し、その大きさと重さを手に馴染ませる。
 この大槍で全力を出せば問題なかろう。
 手にした大槍を頭上でくるりと一回転させ、穂先を上に向け一礼した。

「なんとっ! 風槍ではなく、属性違いの火槍を使われるのか!?」

 それを見た相手2人が驚いたように声を上げる。
 火槍とな? バールは火魔法を得意とする種族だから、使用する槍も属性が付加されておるのか……。
 構えも取らず固まっている2人にバールが鋭い視線を向けた途端とたんあわてて一礼し身構えた。

「始め!」

 バールの掛け声で仕合が始まり、最初は様子見をしようとこちらから打って出ず泰然たいぜんと構える。
 呼吸を合わせ同時に掛かってくる2人を左右にぎ払い、大きく後退したあと儂から動いた。
 まずは1人ずつ相手をするため後ろから回り込み、振り返ったところで足を払いバランスを崩させる。
 地に膝は突かなかったものの、相手は槍を支えに体勢を整えていたので、ここぞとばかりに槍を打ち絡め取った。
 これで1人は武器が使用出来なくなる。
 奪い取った武器を左手に右手には大槍を持ち、もう1人の方へ駆け出した。
 すれ違いざまに2本の槍を交差させ首を絞める技を繰り出すと、

「そこまで!」

 バールの試合終了を告げる声が響き渡った。
 ふむ、儂の勝ちじゃな。
 大口を叩き負けては恥をさらすところだったわい。
 場内から大会に優勝したと見紛みまごうばかりの拍手喝采かっさいが聞こえ、しばし勝者の余韻よいんに浸る。
 気分良く闘技場をあとにしようとした時、花束を持った2人の女性が子供の手を引き近付いてきた。

 おおっ、あれはまさしくバニーちゃんではないか!
 これは勝者へ花束とキッスのプレゼントがあるかと、期待に胸をふくらませて待機する。
 流石さすが、一族を率いる族長は準備が早いのう。
 儂の希望通りで嬉しい限りじゃ。
 わくわくしながら待っておると、女性2人が花束を子供に渡し手を離す。
 うんん? 子供達だけが儂の方へ向かって来るではないか?

御方様おかたさま。私たちのために技を披露して下さり、ありがとうございます!」

 頬を紅潮こうちょうさせ、一生懸命練習したと分かる台詞をそろって口にする姿は大層可愛らしいが……。
 儂は子供達から花束を受け取り、頭をでてやった。
 キラキラした目で見つめられても、これじゃない感が半端ない。
 おい爺さん、目と目で通じ合ったのではないのか?
 違うよな? この後に、バニーちゃんからキッスのご褒美が待っておるのじゃろう?
 そう信じて老人へ視線を送ると、こくりとうなずかれた。
 やはり次があると知り子供達が戻ってから女性達が来るのを待っていたのに、バールに手をつかまれ黒曜の背へ乗せられてしまった。
 
「シュウゲン様。さあ帰りましょう」

 ふわりと飛び立つ黒曜の上で、

「のおぉぉおお~!」

 儂のむなしい叫び声が空にき消える。
 眼下を見渡すと、受付場の前で絡んできた間抜け面の若者達と目が合った。
 うぅぅむ、今日のところは、あの者らに一泡吹かせた事で溜飲りゅういんを下げるとしよう。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、いいねやエールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,587

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。